業界の変革を狙う『DELISH KITCHEN』エブリーの“リテールメディア”への挑戦「レシピ動画サービスの域を超えた、唯一無二の存在へ」
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レシピ動画サービスの先駆け的な存在である『DELISH KITCHEN』。競合企業がこぞって類似サービスをリリースし、個人でもSNSで料理動画を共有できるようになって久しい今、DELISH KITCHENを運営する株式会社エブリーは新たな局面を迎えている。
「レシピ動画サービスの域を超え、小売業=リテールメディア・リテールDX支援に注力する」
そう明かすのは、エブリーのCTOである今井啓介さんと、リテールメディアを推進するチームでリーダーを務める池 友太さん。エブリーの挑戦について、詳しく聞いた。
課題の大きさ=可能性の大きさ。新たな領域に注目したわけ
2016年9月のリリース以来、『DELISH KITCHEN』のアプリダウンロード数は2500万件を超えている。調理手順を理解しやすい動画コンテンツは、料理の初心者から上級者まで幅広い層に受け入れられ、根強いファンを持つ。
会社の看板ともいえる“メインプロダクト”を持つエブリーがリテールメディアへの事業拡大に踏み切ったのには、明確な理由があると今井さんは説明した。
「今、Cookie関連の規制などで広告業界が下火になりつつあると言われています。広告を含むデータビジネスで成長するためには、ファーストパーティーデータの自社保有が鍵となる。その点、DELISH KITCHENでは独自のファーストパーティーデータを保有しているというアドバンテージがありました。それに加えてオフラインのデータを取得・活用することができれば、唯一無二の食のプラットフォームが構築できると考えていたのです」(今井さん)
そんな中、米国では「リテールメディア」の注目が高まっていた。
リテールメディアとは、小売店が独自に持つ広告媒体。ECサイトやアプリ上での広告展開はもちろんのこと、店頭のサイネージ上での広告配信もその一種だ。消費者に直接接点を持ち、かつ購買に近いタイミングでアプローチできることから、リテールメディアは「広告業界の第3の波」として期待されている。
リテール領域での事業に注力しない手はない。エブリーがそう考えたのは、既存事業との相性の良さがあったからだった。
「エブリーでは以前から、買い物中の献立の悩みを解決するため料理動画を流すデジタルサイネージを店頭に展開していました。すでに顧客は約150社、導入店舗数は約3000店舗に上り、サイネージの台数は7000台を超えています。この利点が活かせるはずだと思ったことが、リテール事業を推し進めた最大の理由です」(今井さん)
加えてエブリーは、サイネージ配置事業を通じて、小売業界が抱える深刻な課題にも気付いていた。それは、業界全体のDXの遅れだ。
データは豊富に集まっているのに、それを活用しきれていなかったり、ベンダーにシステム開発を依存してきた結果、システム間の連携がうまくできなかったり。本来であれば店頭のPOSデータで収集したデータをネットスーパーの運営に活かすこともできるはずなのに、そこまで手が回っていない事業者がまだまだ多いという。
しかし今井さんたちは、こうした市場にこそチャンスがあると考えた。
「課題が多いということは、それだけポテンシャルがあるということです。小売業界の中でスーパーの国内市場規模は約20兆円。DXが進めば市場規模がさらに拡大するのはもちろんのこと、その支援を行うことで僕ら自身も大きな成長を実現できると考えました」(今井)
オンライン×オフラインのサービスで唯一無二の存在へ
エブリーのリテール事業の柱は大きく三つだ。
一つ目は、デジタルサイネージで店頭の販売促進を行う「ストアDX」。二つ目は、生鮮食品のECを展開する「ネットスーパー」。そして三つ目は、クーポン配信やポイントカードのアプリ化などを支援する「小売アプリ」。これらの事業を総称して「retail HUB」と呼んでいる。
以前から行っていたデジタルサイネージを用いたストアDXに加えて二つの柱を設けたのは、消費者の「食」に関わる体験により幅広くアプローチするためだ。デジタルサイネージが消費者に接触できるポイントは店舗に限られるが、ネットスーパーやアプリを展開すれば、今店頭にいない消費者にもアプローチできる。
retail HUBの立ち上げにより、エブリーは唯一無二のポジションを確立しつつある。
「『DELISH KITCHEN』をはじめとするオンラインメディアと、デジタルサイネージなどのオフラインメディア。小売領域でその両方を大規模に展開している企業は、国内では僕らだけだと自負しています。
オンラインとオフラインで得たデータを掛け合わせて強いAIを生み出し、それをプロダクトに搭載できるようになる日も近いかもしれません」(今井さん)
大きな裁量のもと、技術選定や意思決定に挑戦できる環境がある
動画サービスから小売のDX支援へ。一見、toCからtoBへの大きな方針転換にも見えるが、彼らの認識は少し違うようだ。
「僕らの根底には『最終顧客(消費者)の行動を変えたい』という思いがあります。そのため、単なるBtoBではなく、BtoBtoCの事業を展開しているという認識です」(今井さん)
そう語った上で、今井さんは「BtoBtoCの事業」の代表格とも言えるネットスーパー事業を立ち上げた当時のエピソードを一つ明かしてくれた。
「ネットスーパー事業を立ち上げる際に、事業提携先からの事業承継も行いました。それに伴ってシステムの継承も発生しましたが、正直苦労しましたね(笑)。世の中のシステムの中には、局所最適化されているために新しい技術をすぐに取り込めない状態になってしまっているものが多くあるのですが、継承したシステムがまさにそうだったんです。
ですが私たちは、データがシームレスにつながり、活用できる基盤を作りたかった。そのため、レガシーな言語で開発されていたそれを一部Go言語に書き直した結果、メンテナンス性や拡張性の高いシステムへと変えることに成功しました」
絶えず変化し続けるニーズに技術も追従できるようアジリティーの高い開発基盤の整備に注力しているretail HUB事業。「決して派手な仕事ではないかもしれませんが、長期的には必ずアジリティーに生きてくる施策を打っています」と今井さんは強調する。
「retail HUB事業では、SaaSのように一方的なシステムでは意味がありません。1社1社異なる課題を解決していく必要がありますし、スピードも求められます。
そのため、クライアントの本質的な課題の理解と事業推進を両軸で進められるスキルや、そういったクライアントワークの経験を持つエンジニアを積極的にアサインしているところです。
また、各チームに裁量を持って取り組んでもらうことで、スピードも上げていくように工夫しています。このような環境に身を置くことで、エンジニア自身の成長の後押しにもつながっていくのです」(今井さん)
今まさに新しいステージへと踏み出しつつあるエブリー。ここで経験を積む醍醐味を、エンジニアたちはどう感じているのだろうか。異なる業界からジョインした池さんに聞いた。
「前職の企業で働いていた頃は、自分の意思決定に自信が持てませんでした。それは携わってきた技術領域が狭く、ビジネス理解も足りていなかったからだと思います。でもエブリーに入社してから、自分が携われる技術領域も、ビジネスへの理解も、どんどん変わっていったんです」(池さん)
技術領域を広げ、ビジネス理解を深める。そんな理想を、池さんはどのように実現していったのか。
池さんは前職ではモバイル関連の開発を手がけていた。しかし、エブリーへの入社後はバックエンドの開発にも関わるようになったという。
「エブリーではバックエンドエンジニアに任される裁量がとても大きいです。サーバーサイドからインフラ構築、システム監視などの多岐にわたる経験を積む中で、システム開発の全体を見る目が養われました。また、retail HUB事業に携わるようになってから初めて触れた言語がいくつもあります。Goもその一つです」(池さん)
池さんが自身の成長を感じているのは技術面だけではない。マインド面でも大きな変化があったと明かす。
「自ら事業を推進していくんだ、という意識が高まりました。エブリーは、エンジニアが企画から携わったり、ビジネスを理解した上で意思決定を行うカルチャーがあります。『プロダクトやビジネスの価値を最大化するためには、何をするべきか』を、エンジニアの視点から考えられるようになりました」(池さん)
自ら周りを巻き込み、自走することが事業の推進につながる。それはエンジニアとして非常にやりがいを感じられる環境だと、池さんは笑顔を見せた。
今後の成長が期待されるリテール領域に、先んじて一歩踏み出したエブリー。彼らは私たち消費者の暮らしをどのように変えてくれるのだろうか。彼らの新たな挑戦は、今ここから始まろうとしている。
取材・文/一本麻衣 撮影/吉永和久 編集/秋元 祐香里(編集部)
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