株式会社ミマキエンジニアリング
取締役技術本部長
古平武史さん
1999年に新卒入社。開発職としてHW部門にて回路設計や製品開発に従事。JVシリーズ等を担当後、部門長、統括部長を経て2020年8月から現取締役
【PR】 働き方
「世界初」や「業界初」の革新的な製品を数多く生み出し、「水と空気以外なら何にでもプリントできる」を掲げるミマキエンジニアリング。単なる“印刷機メーカー”にとどまらず、水質汚染や大量廃棄などの社会課題に対しても、独自の技術で挑んでいるという。
一体、どのような取り組みで持続可能な社会の実現に貢献しているのか。イノベーション創出の秘訣を技術開発本部長の古平武史さんに伺った。
株式会社ミマキエンジニアリング
取締役技術本部長
古平武史さん
1999年に新卒入社。開発職としてHW部門にて回路設計や製品開発に従事。JVシリーズ等を担当後、部門長、統括部長を経て2020年8月から現取締役
ーーミマキエンジニアリング(以下、ミマキ)は「環境に優しいプリント技術」を次々に生み出してきたとお聞きしました。いつ頃から環境配慮型の製品開発に取り組むようになったのですか。
当社は業界に先駆けて、環境に優しい技術であるデジタルインクジェットプリンタの開発に取り組んできました。1996年には、世界で初めて1メートルを超えるサイズの大判プリントが可能なインクジェットプリンタを開発しています。
それまでプリントに使われていたアナログ印刷は、実は環境負荷の大きい技術でした。本や新聞を印刷するところを想像すると分かりやすいと思いますが、従来のアナログプリントは文字や画像をかたどった「版」を用いるため、印刷後に版や周辺機材を洗浄する必要があり、汚水の排出によって水質汚染につながる懸念がありました。
一方、デジタルプリントは版を使わずデータから直接印刷できるので、印刷後の版洗浄は不要です。また版を製作する時間もかからないので、納期が短縮されて製造工程におけるエネルギー消費やCO2排出量の軽減にもつながります。
ミマキはいち早くこの技術の有益性に着目し、デジタルインクジェットプリンタの開発を推進したのです。
ーー現在のように社会全体で環境意識が高まる以前から、いち早くサステナビリティーに関する課題に取り組んできたのですね。
はい。その後もミマキは社会のニーズに応えて「世界初」や「業界初」の製品を次々と世に送り出しています。2002年には、それまで使われていた水性インクに替わり、有機溶剤と呼ばれる成分で印刷するプリンタを開発しました。
この製品の最大の特徴は、色が安定すること。水性インクによる印刷物は日光に当たると短期間で色褪せてしまうのが課題でしたが、有機溶剤プリンタなら少なくとも3年は発色が保たれます。
翌03年には、やはり世界初となるUV硬化ホワイトインクを搭載したプリンタを開発しました。例えばプラスチックや金属でできた看板に写真をプリントする場合、従来のプリンタは下の素材の色が透けてきれいに発色しませんでしたが、この白インクを塗ってから有機溶剤でプリントすれば、指定の色を忠実に再現できます。
ーーそれは画期的ですね。
この「有機溶剤+UVインク」の技術により、ミマキは「産業用プリンタ」という新たな市場を創出しました。
皆さんが職場や家庭で使うプリンタは紙にしか印刷できませんが、当社の製品はプラスチックや金属、ガラス、木材など多種多様な素材にプリントできる。「水と空気以外なら何にでもプリントできる」が当社の開発目標です。
しかも太陽光や雨雪などの屋外環境にも強い技術を生み出したことで、大型広告看板や案内標識から、自動車やバス、家電製品まで、デジタルインクジェットプリンタの用途は一気に拡大しました。同時期に布に印刷できるプリンタも開発し、衣料品やファブリックにもミマキのデジタルプリント技術が使われるようになりました。
現在のミマキは「サイングラフィックス(広告・看板)」「インダストリアルプロダクツ(工業製品)」「テキスタイル&アパレル(衣料品・布地)」の3分野を柱に、産業用プリンタ業界で独自の地位を築いています。
ーーなぜミマキは「世界初」や「業界初」の画期的な製品を次々と開発できるのでしょうか。
当社が開発・製造・販売・保守サービスを一貫して行う「開発型企業」だからです。営業やアフターサービスの担当者がお客さまからいただいたご要望や市場のニーズを、迅速かつダイレクトに開発部門にフィードバックできるのが強みです。
プリンタメーカーの多くは販売や保守を代理店に委託していますが、当社は国内外に営業拠点を構え、自社の社員がお客様に直接対応する体制をとっています。国内では北海道から沖縄まで17拠点を持ち、全都道府県に2時間以内でアクセスできる地域密着型の営業・保守サービスを展開しています。
ですから当社の営業や保守担当者はエンドユーザーと日々接しながら、「こんな機能が欲しい」「こんな課題があって困っている」といった生の声をお聞きして開発部門へ伝え、製品開発に反映できる。
既存商品の改良であれば、フィードバックをもらってから3カ月で対応するケースもあります。これは開発から保守まで一貫して手掛ける当社だからこそのスピード感であり、競合他社には真似できないと自負しています。
ーー市場のニーズや課題をいち早く把握できるのは大きなアドバンテージになりますね。
加えて開発への積極的な投資がイノベーション創出につながっています。当社は毎年の売上高の7~8%を開発に投資し、人材についても社員の約4割が開発に従事しています。これは同業他社や他産業のメーカーと比較してもかなり高い数字です。
ミマキは常に「新しさと違い」を市場に提供するイノベーターを目指しており、多くのリソースを開発に投じることで、革新的な技術や他社にはない製品を生み出していく戦略です。
ーーいち早くニーズを把握し、リソースを投じたとしても、実際に製品として形にする技術力がなければイノベーションは生み出せません。どのような開発体制によって、ものづくりのレベルを高めているのですか。
当社では常に複数の製品開発プロジェクトが走っており、一つのプロジェクトを5名から7名の少数精鋭で構成するのが特徴です。小規模なチームで素早くPDCAを回しながら、たくさんのチャレンジを重ねることで、毎年8〜10製品をリリースしています。
産業用プリンタを開発するには、さまざまな分野の技術者が必要です。当社の場合、機械の設計を手掛ける「メカ開発」、電気回路やハーネス設計を担当する「ハードウエア開発」、組み込みやアプリの「ソフトウエア開発」の技術者が集まって一つのプロジェクトを組成します。
ーーそれぞれの技術者が最大限に力を発揮し、組織全体で開発力を高めていくために工夫されていることはありますか。
日本の製造業はマネジメント層の平均年齢が高めですが、ミマキでは若手を積極的にリーダーに抜擢しています。チャレンジ精神のある若い人材がチームを率いることで、失敗を恐れず新しいことに挑戦できる組織風土につながっています。
技術本部長である私は44歳ですが、日系メーカーの本部長クラスとしてはかなり若い世代に入ります。私のもとでプロジェクト統括マネジャーを担う者も同世代ですし、その部下に当たる部長職は30代が中心です。
もともとミマキには、「自分がやりたい」と手を挙げた人間にはどんどんやらせてみるカルチャーがあります。なかには「やってみたらうまくいかなかった」ということもありますが、その経験を糧に自分を磨き、再び挑戦したいという意欲を示した人には二度目や三度目のチャンスも与えられます。こうした環境が失敗を恐れず挑戦できる人材と組織が育つ要因になっていると感じます。
ーー環境に優しいデジタルインクジェットプリンタの用途が広がったということは、ミマキが持続可能な社会の実現に向けて貢献できる機会も増えたということですか。
その通りです。冒頭でデジタルプリントが水質汚染の解消につながる技術であることを紹介しましたが、それ以外にもさまざまな面で環境負荷を減らす効果があります。
版を使わないデジタルプリントは「必要なときに必要な分だけ」をプリントできるため、「今すぐサンプルを1個だけ作りたい」といったニーズにも対応できます。よって製品を多めに作ってストックしておく必要もなく、在庫ロスや売れ残りの廃棄を抑制できます。
また従来のアナログプリントを使った製品は、生産コストの低い海外で生産し、消費地へ輸出するケースが多かったのに対し、版の洗浄や保管のための設備や倉庫が不要なデジタルプリントなら、都市部の店舗など省スペースな設備でも生産できるため、輸送時にかかるCO2排出量の削減にもつながります。
なかでも当社がサステナビリティーの観点から、近年特に力を入れているのが「テキスタイル&アパレル」です。実はファッションやアパレルなどのテキスタイル産業は、石油産業に次ぐ「世界で第2位の汚染産業」*と言われています。
ーー“汚染産業”ですか?
はい。そう呼ばれる理由は主に三つあります。一つ目は水質汚染。テキスタイル産業が1年間に排出する工業廃水は世界全体の20%に当たる92兆リットルで、ジーンズを1本作るのに 7500リットル*もの水を使います。二つ目は、CO2排出量が毎年12億トンに上ること。そして三つ目が廃棄の多さです。
1年間に廃棄される繊維製品は9200万トンで、これは生産量の80%*に相当します。しかもそのうち14%は未使用の衣類で、7枚に1枚は一度も着られることなく捨てられる計算になります。さらに布製品は種類の異なる繊維や素材が混ざり合っているため再利用が難しく、リサイクル生地として使われるのは生産量の1%未満に留まります。
ーーそれほど多くの布製品が捨てられているとは知りませんでした。
このような現状がある以上、ミマキはテキスタイルプリンタのメーカーとして繊維産業の持続化を推進する責任があると考え、現在もさまざまなサステナブル製品の開発に取り組んでいます。
なかでも注力しているのが、使用済みポリエステル製品の再利用を可能にする「ネオクロマト・プロセス」という最新技術です。当社が開発した専用の液体を生地に塗布して熱を加えると、生地が脱色されて真っ白になり、同じ生地に別のデザインをプリントして繰り返し使うことができます。
すでに脱色用の液体は完成しているので、今年度内に脱色の作業を自動化する機械を開発して、本格的に市場に投入する計画です。ポリエステルは世界の繊維生産量のうち6割を占めており、焼却処分すると大量のCO2が発生するため、リユースが可能になれば環境負荷を大きく減らせる可能性があります。私たちの試算では、ネオクロマト・プロセスの活用により、世界の繊維製品の廃棄量を最大で95%削減できると見込んでいます。
ーー95%も! 実現すれば社会的なインパクトは大きいですね。具体的にはどのような場面での活用が考えられますか。
例えばコンビニの店頭で見かけるのぼり旗もポリエステル製で、新商品の発売やキャンペーンのたびに差し替えるため、大量の生地が廃棄されています。大手コンビニチェーン3社だけで国内に約5万店舗あるので、ミマキの技術を導入すれば相当量のCO2削減につながるはずです。
あるいは化学繊維を使った衣料品を大量生産している世界的なファストファッションブランドに採用されれば、リユースの取り組みをグローバル市場に広げていくことも可能です。
サステナブルな取り組みに関心を持つ企業にネオクロマト・プロセスのメリットを幅広く伝え、より多くのお客さまに導入していただくことが今後の目標です。
ーーすでに独自の地位を築いているミマキですが、今後はどのような戦略でさらなる成長を目指しますか。
当社は中長期ビジョンとして売上高1000億円の達成を掲げており、現在は800億円に到達する目前まで来ています。目標達成に向けてあと20%の成長を実現するには、やはりテキスタイル領域でいかにイノベーションを創出できるかが鍵を握ります。
サイングラフィックスやインダストリアルプロダクツの領域はすでにデジタル化が進んでいますが、衣料品や布製品については現在も手作業によるアナログな生産手法が主流で、デジタル化されているのは業界全体の10%以下と言われます。裏を返せば、それだけ大きな伸びしろがあるわけです。
ミマキの開発力でデジタル化と自動化を推進し、環境に優しい製品を多くのお客さまにお届けできれば、サステナブルな社会の実現に寄与できます。成長分野でクリエイティブな仕事ができて、しかも世の中をよりよくするために貢献できる。それがミマキでものづくりに取り組む魅力です。
>>>ミマキエンジニアリングの中途採用情報はこちらから
取材・文/塚田有香 編集/玉城智子(編集部)
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