事情通・久松剛がいち早く考察
最近HOTな「あの話」の実態〝流しのEM〟として、複数企業の採用・組織・制度づくりに関わる久松 剛さんが、エンジニアの採用やキャリア、働き方に関するHOTなトピックスについて、独自の考察をもとに解説。仕事観やキャリア観のアップデートにつながるヒントをお届けしていきます!
事情通・久松剛がいち早く考察
最近HOTな「あの話」の実態〝流しのEM〟として、複数企業の採用・組織・制度づくりに関わる久松 剛さんが、エンジニアの採用やキャリア、働き方に関するHOTなトピックスについて、独自の考察をもとに解説。仕事観やキャリア観のアップデートにつながるヒントをお届けしていきます!
深刻なIT人材不足、歴史的円安、進まぬDX………IT業界をとりまく情勢の変化に合わせて、2024年の上半期からこの夏にかけて、エンジニア転職市場にも“変化”があった。そして残念ながら、その内容は決して明るいものばかりではない。
「カジュアル面談」が名ばかりの形式と化し、「出会えないスカウト」やSPAM化するスカウトの増加、さらには「エンジニアファースト」の崩壊など、求職者にとっても厳しい現実が見え隠れしている。
そこで今回は人気連載の番外編として、久松 剛さんに2024年上半期で気になった採用動向キーワードを五つピックアップしてもらい、そのキーワードにまつわる「ここ最近の変化」を聞いた。
博士(慶應SFC、IT)
合同会社エンジニアリングマネージメント社長
久松 剛さん(@makaibito)
2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。12年に予算都合で高学歴ワーキングプアとなり、ネットマーケティングに入社し、Omiai SRE・リクルーター・情シス部長などを担当。18年レバレジーズ入社。開発部長、レバテック技術顧問としてキャリアアドバイザー・エージェント教育を担当する。20年、受託開発企業に参画。22年2月より独立。レンタルEMとして日系大手企業、自社サービス、SIer、スタートアップ、人材系事業会社といった複数企業の採用・組織づくり・制度づくりなどに関わる
採用選考に入る前に社員と候補者がカジュアルに話をして、候補者に自社をアピールしたり、相互理解を深めることができる「カジュアル面談」。しかし、今、その良さが失われた「名ばかりカジュ面」が増え始めていると久松さんは語る。
例えば、応募前のはずなのに、いざカジュアル面談へ行ったら『志望理由は?』と選考が始まってしまったり、面談後になぜかお見送り連絡が来たりする企業が少なくありません。これでは候補者にとって違和感しかありません
こうした問題が起こる要因は複数あるが、特に人材紹介会社経由の採用をメインにしている企業はやってしまいがちだと話す。
人材紹介会社経由で面接に来る候補者には、人材紹介会社側から応募企業に関する説明をし、応募意志の確認をしてくれるのが一般的です。要はお膳立てされた候補者と面談するのになれてしまっていると、カジュアル面談で応募意思もない人に会った時にギャップを感じるわけです。
時にはカジュアル面談の本来の意味をはき違え、『応募書類も志望理由がないとはどういうことだ?!』と面接官が怒り始め、候補者も不快になって怒ります。
スカウトしたのなら声掛けをした責任を取ってカジュアル面談をすること。カジュアルにする気がないならスカウトの段階で「面接」と書くべきだと企業に対して警鐘を鳴らす。
スカウト媒体であろうがなかろうが、優秀な人材に出会うことが難しくなっている昨今、「スカウトメールの返信率が激減」していることに、採用に携わる多くの人が頭を悩ませている。そして返信率低下はスカウトメールの劣化にもつながっていると久松さんは指摘する。
そもそもスカウトは通常ルートでの採用が困難なポジションや、ハイクラス人材に対して実施されていました。現在で言うところのヘッドハンティングの位置づけですね。そこから徐々にキャズム越えし、メンバー層や第二新卒へとスカウト対象者が拡大。今となっては就活段階からスカウトが貰える状態です。
「5年ほど前まではスカウト返信率は10%が目安だったのが、今では2-3%というのが一つの目安になるほど低下してきている。クライアントワークであれば毎月0通か1通かというレベルの会社も多い。」と久松さんは語る。結果、何が起こり始めたかというと「返信率5%の時代ならば200通送りましょう」と配信通数を増やす打ち手を講じるように……
返信数を稼ぐためには返信率を鑑みて大量に送られなければならないという状態が引き起こり、結果としてスカウト内容の陳腐化を助長。ノルマを課されたスカウト担当者や役職者もまた、疲弊しています。
現在は生成AIの力も相まって、さらにスカウトが増発されやすい土壌になっている。0.1%でも反応してくれるのであれば1000通単位で送って母集団形成をしようという状況の中、「その光景はもはやスカウトというよりフィッシング詐欺」と憂う。
企業からするとやりたいことは『採用』であり、スカウト送信やカジュアル面談がしたいわけではありません。今一度スカウトメールの立ち位置と顧客貢献、介在価値について考えてはいかがでしょうか。
IT求人に並ぶ「案件選べます」「勤務地も要望に添えます」「給与UPお約束」などの甘い言葉の数々。いわゆる“エンジニアファースト”な求人にあふれていた時代に終止符が打たれようとしている。
ついこの間まで、エンジニアの獲得競争は熾烈だったため企業は「迷ったら採用する」ケースが少なからずありました。「うちは他社より気持ちよく働けますよ」という建付けでエンジニアファーストを謳うことで一人でも多くのエンジニアを採用しようとした企業が多くありました。
それでどうなったかというと、「絶対リモートがいい」「フレックスじゃないと嫌」「地方在住だから月1出社も無理」と案件を断る利己的なエンジニアが出てきたわけです。結果、うまく事業や組織が回らず、エンジニアファーストを撤回したい企業が出てきたというのが現在です。
とはいっても、国内のIT人材不足は依然として深刻な問題だ。エンジニアファーストを「撤回」してしまったら、採用も立ち行かなくなるのではないだろうか?
実際、エンジニアの有効求人倍率は3.5倍と比較的高い水準で推移しているが、「ふたを開けてみると『いい人がいれば採用したい=いなければ採用しない』という温度感の低い求人案件も多くある」と久松さんは語る。
最近、転職相談にこられるエンジニアの皆さんには、プロジェクトや部署異動によってある程度不満が解消されそうなのであれば、転職を急ぐべきではないと伝えています。
久松さんが転職をすすめない理由とは? 楽観視できない今後、エンジニアはどのようにキャリアを築くべきか? その答えはぜひ記事「年収550~800万円台の「転職上手」なエンジニアほど危うい時代に?【久松剛解説】」で確かめてほしい。
2018年頃のプログラミングスクール全盛期から、2022年のエンジニアバブル終盤にかけて他職種からのエンジニア職へ転身された方がたくさん登場し、活躍していました。
しかし、今こんな先輩たちのキャリアの作り方を真似しようとすると「痛い目にあう」と久松さん。
2021年を頂点にプログラマ採用が激化していた頃は、コンサル、スタートアップなどは特に正社員採用人数を追っていたため、選考ハードルが非常に低く設定されていました。現在ではこうした数を集める採用が減少しています。
また、生成AIの進化により、これまで「未経験者にお願いできるように1から10までかみ砕いて渡していたタスク」については生成AIに任せた方がいいという判断へと変わりつつあります。
2022年以前はコロナ禍の金余り現象により、スタートアップ投資は活況でした。そのためスタートアップ各社は事業を進めるために高めの給与提示による採用合戦がありました。
特にスタートアップ投資と人材紹介をセットで行っている企業などでは提示年収も上がりやすい傾向にあったが、現在は様相が一変。
近年エンジニア採用数を競っていた外資IT企業や国内メガベンチャーはもちろん、VCから巨額の資金を集める気鋭のスタートアップも軒並み採用数を減らしており、採用基準が厳しくなってきています。
また、「スタートアップはあくまでもまだ見ぬ新しい価値を生むことがコンセプトであり、そこに共感した人たちの投資によって成り立っている特殊な業界です」と久松さんは続ける。
スタートアップにあるものはコンセプトと熱狂です。スタートアップに転職したい!と思う方はその熱狂を抱く一方で、きちんと経済や経営、投資、法律に関する興味がないとマネーゲームに巻き込まれて終了してしまうだけ。ぜひ深く理解した上で選んでください。
今回は2024年前半に現れてきた「五つの変化」を久松さんの見解からまとめてみた。エンジニア採用に関わるリーダー層や経営層、人事界隈の方もぜひ参考にしてみてほしい。
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【エンジニアtype公式X】@Etype_mag
文/エンジニアtype編集部
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