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「それっぽく動くコード」がキャリアの成長を阻害する? 若手エンジニアが意識しておきたい、生成AIとの向き合い方

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「生成AIには、創造的なツールへのアクセスを民主化する力がある」

かつてOpenAIのCEO サム・アルトマンがそう語ったように、今や世界中で、誰もがスタートラインに立てるチャンスが広がっている。

専門的な知識がなくとも、アイデアを形にできるツールが次々と現れ、創造活動のハードルは劇的に下がった。そしてこの「民主化」の波は、ソフトウエア開発の現場にも確実に押し寄せている。

「もう誰でも開発できる」

そんな空気も漂い始めている今、その“手軽さ”の裏に潜む落とし穴に警鐘を鳴らしているのが、Google Cloud プレミア Sell パートナーとしてAI・クラウド活用を支援する、株式会社grasysの代表・長谷川祐介さんだ。

若手エンジニアは生成AIとどう向き合えばよいのか。開発現場で見えるリアルな課題と気付きを、長谷川さんに聞いた。

プロフィール画像

株式会社grasys
代表取締役
長谷川 祐介さん

20代でさまざまなシステム構築経験を積み、特にソーシャルゲームのシステム設計・運用を数多く手がける。2014年にgrasysを起業。「攻めのインフラ構築」をテーマに掲げ、製造業からIT企業まで多くのクライアントを抱える

ただ動くだけでは、システム開発とは言えない

ーー生成AIの登場によって「誰でもサービスを開発できる時代が来た」といった声を耳にする機会が増えています。実際の開発現場でも、その実感はありますか?

「誰でも開発できる」「経験がなくても大丈夫」というのは、正直まだそこまで来ていないという感覚です。

確かに、AIによるコード生成は便利ですし、ちょっとした処理ならすぐに動くコードを返してくれます。開発のハードルは明らかに下がっていますよね。

ただ、AIが出してくるコードって、問題なく動いていても、業務で求められる仕様を満たしていないことが多いんですよ。実際のプロジェクトでは、「これじゃあ足りないから、やり直し」というケースはよくあります。

コードとして「ただ動く」ことと、それが「仕様として成立する」ことは全く別物なんです。

grasys_長谷川さん_インタビューカット1

ーー「AIが出力したコード」が不十分だと感じるのは、どういう場面でしょうか?

プロダクト開発って、単に一つのファイルの中で完結するものではありません。フレームワーク全体を理解して、各ファイルがどこにどう影響するかを考える必要がある。

その中で、AIに「この一部を修正して」と頼んでも、全体の文脈を理解しているわけではないので、結果として整合性が取れなくなることは大いにあります。

見た目にはきれいに整ったコードでも、それが本当に仕様に沿っているのか、なぜその実装を選んだのか、将来の仕様変更にどう影響するのか。そうした判断と責任は、今もなお人間が担わなければなりません。

生成AIの力を借りれば、見かけ上の作った感は得られるでしょう。でも、思考のプロセスや構造への理解が伴っていなければ、それは一時的に動いているだけ。本質的な意味で、開発できているとは言えないんです。

ーー開発業務で生成AIを活用する際、具体的にはどのような課題を感じていますか?

現時点だと一番のポイントは、複雑な仕様をAIに伝えきれないことです。

条件がネストしていたり、いくつものコンポーネントにまたがるようなロジックになると、プロンプトだけでは表現しきれないんですよね。書ける人間であれば、「もうここは自分で書いた方が早い」と判断できますけど、そもそもコードを読み解く力がなければ、それすらできない。

それに、AIの出力を使い続けていくと、中身を理解せずに「ただ使う」状態に陥るリスクもある。

そうなると、いざ業務に適用しようとしたときに、「これってどう動いてるの?」という問いにすら答えられない。便利さの裏に、そういう危うさが潜んでいると思っています。

grasys_長谷川さん_インタビューカット2

生成AIは使い方次第。体験で終わるか、経験になるか

――AIとの協業がますます重要になっている時代ですが、若手エンジニアが生成AIを使う上で、問題視していることはありますか?

そうですね。一番気になるのは、「よく分からないまま使って、それで終わってしまう」ケースです。

というのも、現場のリーダー陣から、生成AIに頼りすぎて「中身を理解しないまま進んでしまう若手がいる」という声も出てきていて。実際にあったのが、コードレビューで「ここを直して」と伝えたのに、全然違う場所を「直したつもり」で返してきたというケースです。

おそらく本人は、AIに修正を投げて、出てきたコードをそのまま使ったんでしょう。でも、何が問題だったかを理解していなければ、そもそも「どこを直すべきか」すら判断できませんよね。

――きれいな出力ほど、それらしく見えてしまう怖さもありますね。

整ったコードが返ってくると、「ちゃんと直せた」と思い込んでしまうし、周囲もつい納得してしまう。でも、構造や意図の理解が抜けていれば、それは単なる「それっぽい体験」にすぎないんですよね。「経験」とは呼べません。

ここでいう「体験」と「経験」は、似て非なるものです。体験は、通り過ぎるだけの出来事。一方、経験とは、再現できる学びだと考えています。

なぜそうなったのかを理解し、自分の中に定着してこそ、初めて経験になる。だからこそ、便利なツールに頼りすぎて、その過程をすっ飛ばしてしまうのは本当に危うい。

以前なら試行錯誤しながら得ていた学びが、まるごと抜け落ちてしまう感覚といいますか……。

――作ってはいるけれど、身になってはいない、と?

はい。しかも最近は、AIとだけ対話をして仕事が進んでしまうことも多くて。「こういう意図で書いたけど、どう思いますか?」といった、人との対話の中で生まれる気付きが、失われつつある気がします。

もちろんAIとの協業は大事なのですが、僕が危惧しているのは、若手エンジニアが「できているつもり」のまま数年が過ぎてしまうことです。

コードはなんとなく書けている、仕事も一応こなせている。でもいざ、自分が主担当として判断や責任を求められる場面になると、何もできない。

本人は「誰かがなんとかしてくれる」と思っていて、結果的にまたAIに聞く。だけど、そのAIが正しいとは限らないし、最終的に誰にも信頼されない人になってしまうんじゃないかという不安があります。

grasys_長谷川さん_インタビューカット3

――では、生成AIを若手が“正しく”使うには、どんな姿勢が求められるのでしょうか?

まず大前提として、出てきた結果を「そのまま使わない」ことですね。

動くコードが返ってきたとしても、それが本当に妥当かどうかを一度立ち止まって考える。特に「コマンドを一発で動かせるスクリプト」や「セットアップ済みのコード」なんかは便利なんですけど、中身が分かっていないと、後から困ることになる。

「実行すれば何かが起こる」けれど、「それがなぜ起きるのか」を自分の言葉で説明できないようであれば、それは使えているとは言えないと思います。

――使い方そのものというより、「どう向き合うか」の問題でもありますね。

結局のところ、生成AIはそのままでは良い先生にはなれないんですよね。

優秀な相棒ではあるけど、「学ばせてくれる存在」ではない。学びに変えられるかどうかは、あくまで自分の構え次第です。

僕はAIを「思考を深めるための相手」として使ってほしいと思っていて、そのためにも「問いを持って臨む」ことがすごく大事。

出てきた情報に自分なりの解釈を加えて、納得できるかどうか。そのプロセスこそが、AIと協働する上で一番重要なポイントなんじゃないかと感じています。
 


プロフィール画像

grasysが実践する、AIと共に学ぶチームづくり

株式会社grasys
Bizdev Division Tech Section Chief
渡邉さん(写真左)| 西野さん(写真右) 


――grasysとしては生成AIをどのように位置付けているのでしょうか?
西野:基本的には、使うこと自体に制限は設けていません。むしろ「使っていいのかどうか」を悩むより、「どう使って何を得るか」を重視してほしいというスタンスです。

ただし、出てきたものをそのまま信じて丸投げするような使い方には注意が必要。出力結果を利用する責任はあくまでも人間側にあるというのは、メンバー全員に伝えています。

――AIに頼りすぎず、自ら考えるエンジニアに育ってもらうために、具体的にどんな指導や仕組みを設けていますか?
渡邉:「判断する機会を奪わないこと」です。AIに任せて完結してしまうと、どこかで「自分は考えなくていい」と思ってしまいがちになってしまうので。

なのでメンバーには、「その出力でOKだと思った理由を、きちんと自分の言葉で説明する」ことを呼びかけています。確認の場を用意するというよりも、自然に「これってどうですかね?」と話せる空気作りを心がけているイメージです。

西野:加えて、AIに業務の一部を委ねる以上、セキュリティーや知識の扱い方にも慎重さが求められます。実際に業務に使う前提でAIに質問を投げるときに、意図せず機密性の高い内容が含まれてしまうリスクがある。そこを判断するのはAIではなくて、自分たちです。

「これは聞いていいのか?」「これはどこまで開示できる内容か?」という意識を持たずに使い続けてしまうと、結果的に事故につながる可能性があるので、「AIに入力する前に、まず自分が咀嚼する」というクセを地道に作っていくことが必要ですね。

――使わせるというより、考えながら使える人を育てる。
西野:まさにそうです。AIを使うことでアウトプットの速度が上がるのは確かなんですが、それを自分の糧に変えられるかどうかは、使った後の過ごし方にかかっていると思います。

AIを活用しながらも、判断力や学びを手放さないチームを作っていきたいです。それが、今後ますます加速する技術の中で、長く力を発揮していくために欠かせないことだと思っています。

渡邉:僕自身もまだまだ成長途中ですし、AIの使い方についても日々試行錯誤しています。でもだからこそ、メンバーと一緒に「どう使えばちゃんと力になるのか」を考え続けたいと思っています。

AIに任せるだけじゃなく、自分で考える習慣を忘れない。そういう姿勢を、チーム全体で育てていきたいです。

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撮影/赤松洋太 取材・文/今中康達(編集部)

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