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「忙しいのに手応えがない」マネジャーに知ってほしい、エネルギー管理の重要性【岩瀬義昌】

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マネジャーになった途端、プレイヤー時代に培ってきた経験や自信が通用しなくなったーーそんな感覚に陥っている人はいないだろうか。

忙しさは増しているのに、成果が出ている実感がない。多くのタスクをこなしているはずなのに、達成感が得られない。その違和感はじわじわと心身を削り、やがて「自分は役に立っていないのでは」という錯覚を引き起こす。

そうなる前に知っておいてほしいのが、エネルギー管理の重要性だ。

タスク管理でも時間管理でもなく、自身の「エネルギー」というリソースの使い方こそが、マネジャーには欠かせないと、書籍『エンジニアリングリーダー  技術組織を育てるリーダーシップとセルフマネジメント』(オライリー・ジャパン)では語られている。

今回は同書の訳者であり、エンジニアリングマネジャーとして長く現場に立ってきた岩瀬義昌さんに、マネジャーのエネルギー管理について詳しく聞いた。

プロフィール画像

『Generative AI プロジェクト』リードエンジニア | エバンジェリスト
ポッドキャスト『fukabori.fm』運営者
岩瀬義昌さん(@iwashi86

東京大学大学院修士課程修了後、2009年にNTT東日本に入社。大規模IP電話システムの開発などに従事したのち、内製、アジャイル開発に携わりたいという思いから14年にNTTコミュニケーションズSkyWay開発チームに転籍する。20年には組織改善に尽力すべく、ヒューマンリソース部に異動。22年からは再び開発部に戻り、全社のアジャイル開発・プロダクトマネジメントを支援。現在は、同社のイノベーションセンター テクノロジー部門 でGenerative AI PJリーダーとして活躍。『エンジニアのためのドキュメントライティング』(日本能率協会マネジメントセンター)『エレガントパズル エンジニアのマネジメントという難問にあなたはどう立ち向かうのか』(日経BP)など、数多くの技術書の翻訳に携わる。エンジニアに人気のポッドキャスト『fukabori.fm』を運営

プレイヤーの延長線では、マネジャーの役割は果たせない

ーーまず前提として、岩瀬さんは「マネジャーの役割」とは何だと考えていますか?

書籍の言葉を借りると、マネジャーの役割は大きく四つに整理できます。

①方向性を示す
②フィードバックの提供
③実践的な手助け
④サポート(感情面を含む)

※『エンジニアリングリーダー 技術組織を育てるリーダーシップとセルフマネジメント』より

中でも一番難易度が高いのが「方向性を示す」ことだと思います。

与えられたゴールに向けて専門スキルを使って進めていくのがプレイヤーの役割だとすれば、「そもそもどこに向かうのか」を決めるところからスタートするのがマネジャー。会社から抽象度の高い課題を与えられることも少なくありません。

採用を強化するのか、今のメンバーのまま継続していくのか、プロダクトをどう成長させるのか……あらゆる手段を考える必要がありますし、常に自分の意見やスタンスが求められます。僕自身、いまだに苦労しているところです。

ーープレイヤーとして優秀なエンジニアが、マネジャーとしては苦戦するというケースをよく耳にするのですが、その原因は「役割の違い」にありそうですね。

そうですね。プレイヤー時代と同じノリで乗り切ろうとすると、遅かれ早かれ必ず限界がくると思います。

プレイヤーの場合、「最悪、自分が頑張ればどうにかなる」というスタンスで仕事を進めがちですよね。最終的には自分の「時間」を使って解決しようという考えです。

ですが、マネジャーだとそうはいかない。自分でやった方が早いから……と手を動かし続けていると、どこかのタイミングでそれが破綻して「人に任せないと回らない」状態になります。

この「自分でやっちゃう病」は、マネジャーになってから苦労するアンチパターンの一つですね。

ーー回らない状態になった結果、「自分はマネジャーとして役に立っていない」と感じてしまうマネジャーも多そうです。

プレイヤーは目の前のタスクを片付けることで価値を出せますが、マネジャーはチームが成果を出せる状態をつくることが価値です。なので、自分でやっちゃう病にハマったままプレイヤーの延長として頑張ってしまうと、手応えのなさを感じるかもしれません。

ただ、本来マネジャーは「自分がいなくてもチームが機能する」のが理想だと思うんですよね。

急な体調不良や長期休暇などで1週間程度不在にしても、チームが何事もなく自走できていたら、最初に上げた四つの役割を果たせていると言っても良いでしょう。これは「自分はいなくてもいいのでは」ではなく、「自分がちゃんと機能している証拠」です。

また、マネジャーとプレイヤーではフィードバックが返ってくる速さが大きく違うので、それも「役に立っていない」と感じてしまう要因の一つだと思います。

ーーフィードバックが返ってくる速さ?

プレイヤーの場合、コードを書けばすぐにコンパイラがエラーを返してくれるし、レビューでもコメントがもらえる。やったことに対する反応がすぐに返ってくる環境です。

一方で、マネジャーが向き合うのは「組織」や「人」なので、数カ月から数年単位でようやく変化が見えてくる。極端な話、成果が出る頃には自分がその会社にいない可能性だってあるわけです。この「時間の違い」は理解しておいた方が良いですね。

タスクの多さ以上に厄介な「精神的な負担」の重さ

ーー書籍『エンジニアリングリーダー』の中では、マネジャーには「エネルギー管理」が必要であると強調されていました。なぜでしょうか?

マネジャーの仕事は単に時間をかければ終わるものばかりではなく、エネルギーの消耗が激しいタスクがかなりの割合で含まれているからです。

例えば、週の初めに「今週はこれを全部やるぞ」とToDoを洗い出したはずなのに、なぜか2〜3週間ずっと残り続けるタスクがある、なんて経験はありませんか? 時間的には終えられたはずなのに。

タスク管理

ーー身に覚えがあります……。

それは、本音ではあまりやりたくないタスクだったり、精神的な負荷が大きいタスクだったりすることが多いんです。

僕の場合だと、契約書を読み込んで事務処理を進めるようなタスクがそれ。こうした仕事は、時間を確保するだけでは全く進まなくて、「そこに取り組めるだけのエネルギーを残しておく」という別軸のリソース管理が必要になります。

マネジャーがゴールを達成する過程には、面白くないけれど避けて通れないタスクが必ず含まれます。そうしたタスクに正面から向き合う上では、大きなエネルギーが要るのです。

ーーエネルギー管理の重要性は理解できたのですが、一方で「マネジャーには多少の無理がつきもの」という空気もある気がします。

日本では、マネジャーに対して「何でも解決できるスーパーマン」のようなイメージを持ちがちなのかもしれませんね。

できる人ががむしゃらに働いて全部片づける……という時代があったのも事実ですが、表ではあまり言わないだけで、多くのマネジャーが苦労を経験しているはずです。なので社内外のコミュニティーで「正直な話、しんどくなかったですか?」と聞いてみると、本音が返ってくることが多いと思いますよ。

マネジャーのセルフマネジメントは、巡り巡ってチームに影響する

ーーマネジャーはついセルフマネジメントを後回しにしてしまいがちな印象があるのですが、ここだけは気を付けた方がいい、というポイントはありますか?

自分がバーンアウト(燃え尽き症候群)になる手前のサインを知っておくことが大切です。

僕の場合は、限界が近づくと身体に反応が出るんです。すると「あ、そろそろ危ないな」と気付けるので、そのタイミングで必ず休むようにしています。

急に食欲が落ちたり、逆に食べ過ぎたり、寝つきが悪くなったりと、サインは人それぞれ違うはずです。自分特有のサインを見極めて早めに休むことは、結果的にチームのためにもなりますからね。

ーーセルフマネジメントもチーム運営に欠かせない要素の一つである、と。

そうですね。チームという観点で言うと、僕は一緒に働くメンバーに向けて「自分の取扱説明書」を作って公開しています

内容は、仕事に取り組む際の傾向や得意・不得意、好きなコミュニケーションスタイルなど。「9〜16時は集中して働いている」「この時間帯は育児のため完全オフ」といった稼働時間の詳細や、通勤時間や子どもの人数、休みの日の過ごし方や趣味といったプライベートな情報も記載しています。

これを開示しておくことで、「この時間は稼働していないんだな」と周囲が理解できるようになり、不在時に細かく説明する必要もないですし、「なんで今いないの?」という不信感も生まれにくくなります。また、チームのコミュニケーションコストが下がります。

自分の状態や価値観を言葉にして周りと共有しておくことで、自分がもっともパフォーマンスを発揮しやすい状態を、意識的につくりやすくなると感じています。最近では同じような取扱説明書を作るメンバーも出てきて、チームでの仕事が進めやすくなっている感覚がありますね。

ーーチームに良い影響が出ているのが実感できると、「役に立っていない」という無力感を感じることもなくなりそうですね。

マネジャーの評価は、チームや組織全体の評価とほぼイコールですからね。

評価や達成感を得られるまでに時間はかかりますが、メンバーが成長していく姿を間近で見られる喜びも含めて、プレイヤー時代とはまた違う種類の達成感があります。サービスに関しても、リリースし、ユーザーからのフィードバックをもとに改善を重ね、最終的に事業の利益や価値につなげていくところまでがマネジャーの成果です。

こうしたスケールの大きなやりがいを長く楽しみ続けるためにも、自己犠牲ではなくエネルギー管理に目を向ける発想の転換が必要なんだと思います。

取材・文/福永太郎 編集/秋元 祐香里(編集部)

書籍情報

『エンジニアリングリーダー 技術組織を育てるリーダーシップとセルフマネジメント』

書籍『エンジニアリングリーダー』

優秀なエンジニアが必ずしも優れたリーダーになれるわけではなく、試行錯誤と努力が必要です。本書は、その険しい道のりを支える実践ガイドです。

まず、自分が仕事で何を大切にし、どこへ向かうかを明確にし、キャリアの方向を自分で決められるようになる方法を示します。そして、セルフマネジメントによって新人マネージャーが陥りやすい失敗を避ける具体策を紹介します。

また、チームが拡大しても成果を維持できるよう、業務フローや役割を見直し、状況に合わせて改善を重ねる実践例を解説します。さらに、チームが生み出す価値と、その基盤となるミッションや価値観を言語化し、メンバー全員が同じ目標に向かえるようにする方法を取り上げます。

豊富な事例とフレームワークを通じて、持続的に成果を生むチームづくりを後押しする一冊です。

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