事情通・久松剛が読み解く!
エンジニア転職の「勝ち筋」「どの会社を選ぶべきか」「今、動くべきか待つべきか」エンジニアの転職は、情報の読み方ひとつで結果が大きく変わります。本連載では話題の採用ニュースや業界動向を題材に、エンジニア組織と転職市場の“裏側”を熟知する久松 剛さんが、転職時に意識しておきたいポイントを独自の考察をもとに解説します。
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事情通・久松剛が読み解く!
エンジニア転職の「勝ち筋」「どの会社を選ぶべきか」「今、動くべきか待つべきか」エンジニアの転職は、情報の読み方ひとつで結果が大きく変わります。本連載では話題の採用ニュースや業界動向を題材に、エンジニア組織と転職市場の“裏側”を熟知する久松 剛さんが、転職時に意識しておきたいポイントを独自の考察をもとに解説します。
一昔前と比べるとブラックSESの数は減ったと思いますが、残念ながらまだまだあります。
特に最近は、完全未経験・微経験の採用を行うIT企業がめっきり少なくなりました。そんな中「サンクコストを忘れられない層」が、ブラックSESに引っかかってしまうケースが目立っています。
「プログラミングスクールに何十万円も課金してしまった」
「エンジニアの勉強に半年も時間を溶かしてしまった」
そのコストを取り返そうと必死になるあまり、条件を下げまくって応募してしまう。その結果「大外れ」を引いてしまう人が後を絶ちません。
実際に昨年お会いした元エンジニアの方は、新卒から数年間壮絶な生活を送っていました。
定時で帰れるのは週に1日だけ。週3日は会社に泊まり込み、残りの週2日は終電で最寄りのターミナル駅まで行き、そこから3時間歩いて帰宅する。
これを何年も続け、「社会的な生活が送れていない」と気づいて辞めたそうです。令和の今になっても、会社に椅子を並べて寝るような現場は実在するんです。
今、避けるべきブラックSESは大きく分けて二つ。「ITの仕事はあるけれど環境が超過酷」という典型的なものと「ITの仕事がそもそもないタイプ」です。
この二つの地雷を回避し、エンジニアとして生き残るために。2026年の今だからこそ気をつけるべき「ブラックSESのアンチパターン」を10個挙げました。
これから転職を考えている人は、自分の受けている会社がこれに当てはまっていないか、チェックリストとして使ってみてください。
博士(慶應SFC、IT)
合同会社エンジニアリングマネージメント社長
久松 剛さん(@makaibito)
2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。12年に予算都合で高学歴ワーキングプアとなり、ネットマーケティングに入社し、Omiai SRE・リクルーター・情シス部長などを担当。18年レバレジーズ入社。開発部長、レバテック技術顧問としてキャリアアドバイザー・エージェント教育を担当する。20年、受託開発企業に参画。22年2月より独立。レンタルEMとして日系大手企業、自社サービス、SIer、スタートアップ、人材系事業会社といった複数企業の採用・組織づくり・制度づくりなどに関わる傍ら、ITエンジニアや学生からのキャリア相談を受け付けている
求人を探している段階や、面接に行く前に気づけるポイントがあります。もしこれらに当てはまるなら、応募ボタンを押す前に一度立ち止まってください。
ここ数年、「SESは簡単に儲かる」という情報商材や書籍を真に受けて起業した会社が急増しています。下記のようなイメージの広告を、私も見かけたことがあります。
「SESは儲かる」と煽るWeb広告のイメージ(編集部がGeminiで作成)
また昨年にはSES起業をテーマにした書籍が刊行されましたが、「主婦でも始められる」などと謳っていました。それが、次の本です。
求人サイトで「設立数年」「社員数名〜十数名」の会社を見つけたら、応募ボタンを押す前に必ず社長の経歴を調べてください。もし社長が他業界出身でITのバックグラウンドが全くない場合、警戒が必要です。
こういう経営者は、IT業界への思い入れもなければ、エンジニアへのリスペクトもありません。本音は「会社を大きく見せて売り飛ばして、自分がFIREするための資金が欲しいだけ」だったりします。
SES企業が大手コンサルなどにM&Aされる際、「●月●日時点での正社員数」をもとに売却金額が決まるケースがあります。その頭数を揃えるために、「7月1日までに入社してくれれば、うちは自動的に●●(某大手コンサル)になるのでお得ですよ」なんていう、訳の分からない口説き文句で採用をかける会社もあるようです。
さらに厄介なのが、最近目立つ小規模なSES同士の「悪魔合体」です。
社長が会社を売り飛ばそうとしても、社員10〜20名程度の規模では買い手がつきません。そこで、M&Aのマッチングサイトにいる同じような小規模SESたちが集まって合併し、見かけの人数だけを増やそうとする動きがあります。集合することによってバックオフィスや営業機能を統合できる側面はあるため、多少の利益改善は見込めます。
最近合併したばかりだったり、沿革が不自然だったりする場合は要注意です。中身を開けてみると、IT案件なんてほとんど持っていなくて、コールセンターや家電量販店の業務ばかり……というケースが非常に多い。
IT業界に明るくない社長が「儲かるらしい」と聞いて始めただけの会社に入ると、いつまで経ってもコールセンターから抜け出せない地獄を見ることになります。
これは「高還元SES」を謳う企業でも、普通のSESでも両方あり得る話ですが、とにかく社長の金遣いが荒い会社は避けた方がいいでしょう。
社長のSNS投稿が派手な食事や高級車ばかりで、オフィス訪問をしたらなぜか高級車が置いてあって「あ、これ社長のです……」みたいなケースです。
私が見た数年前の例では、SES事業でエンジニアが稼いだ利益を、全て社長の趣味である新規事業(大赤字)の研究開発費に突っ込んでいたため、稼ぎ頭のSES社員の給与は一切上がらなかった……なんて会社もありました。
また、オフィスが不相応に豪華なのも要注意です。SESというビジネスモデル上、自社オフィスが豪華である必要は本来ありません。
「オフィス見学に行ったらすごく綺麗で感動した!」なんてほだされて帰ってくる人もいますが、それらの調度品や家賃はあなたたちの給与から引かれたコストで賄われていることを心得ましょう。
固定費削減という名目はありますが、「登記簿上の住所に行っても誰もいない」「面接は常にカフェやホテルのラウンジ」という企業は危ないです。
バーチャルオフィスにすることによって固定費が下げられるというのは事実です。しかし私自身バーチャルオフィスを利用しているのでよく分かるのですが、メガバンクでの契約なども一苦労するほど社会的信用はありません。
中には同一の経営者が複数法人を同一のバーチャルオフィスに登記しているケースもあります。何かトラブルがあった際に、速やかに使い分けられるようにする悪しきテクニックの一つです。
昨年これが訴訟に発展し、東京高等裁判所が経営者らに計768万円を支払うよう命じました。そのスキームは下記のようなものです。
「未経験歓迎」求人で釣り、スキルが足りない人材については自社の数十万円のプログラミングスクールに契約させる。そこでプログラミングの勉強をさせるかと思いきや、経歴の盛り方と営業の仕方を教えられ、そこから経験・スキルを盛った状態で無賃で営業させるんです。
入場先が決まっても、スキルがないので大体の場合は耐えきれずに辞めるわけですが、「スクール代を返してください」と伝えても「それはできない。似たケースの裁判で他に負けた企業があるから、訴えても無駄」と言われる。泣く泣く諦めて、ついにはIT業界から離れてしまう……。
実際には、そんな裁判はありません。嘘っぱちです。SESの暗部を凝縮したような手口ですが、実態がない会社はいざトラブルになったときに連絡がつかなくなる「飛び」のリスクが高い。君子危うきに近寄らず、です。
私の見解ですが、口コミサイトのスコアが「2点台以下」の会社は、慢性的な長時間労働やハラスメントなど何らかの問題を抱えている可能性が高いです。なお「1点台」は論外と言って差し支えないでしょう。
一方で、逆に警戒すべきなのが「直近の投稿だけ星5つで埋め尽くされている」ケース。これは会社主導でサクラ投稿をしているか、外部の口コミコンサルを入れて社員にブーストをかけている可能性があります。
そもそも口コミサイトは、気になる企業の情報が見られることへの引き換え条件で「現職のことを書く。書けば1カ月無料」みたいなサービスが主流。すでに転職を考えている、現職への気持ちが離れてしまっている状態ですから、会社への不満や悪口といったネガティブな口コミになりがちです。
2点台は注意、3点台なら普通の会社。4点以上はめちゃくちゃ良い会社か「何か工作をやってる会社」と判断するのが賢明ですね。
選考が進み、いざ入社という段階になっても気は抜けません。書類手続きを面倒くさがる方も一定いますが、ここで確認をおろそかにすると、取り返しのつかない最悪の事態になりかねません。
「内定」と言わず、入場する現場(案件)が決まってから初めて入社手続きをするケースですね。内定を出してしまうと雇用契約が発生し給与支払いの義務が生じるため、あえて内定と言わずにギリギリまで無職の状態を強いるのです。
これは人材界隈では「案件採用」と呼ばれ、営業期間に賃金が発生しません。自社の社員を紹介するわけではなく、雇用契約前の部外者を企業に紹介することになるため、偽装請負や職業安定法に抵触する可能性もあります。
過去に私が見たひどいケースでは、50~60代のベテランエンジニアがこの罠にかかっていました。
面接に「合格」はしたものの、なかなか案件が決まらずに入社日が決まらない。無職なのでこのままでは生活ができないが、かといって正社員になれるチャンスを逃したくない。
そこで、数ヶ月単位の短期フリーランス案件を探し食いつなごうとするものの、スキルレベルが高くなかったので案件が一向に見つからない。そのため、また別のフリーランスエージェントに無限に登録していく……。まさにたらい回し地獄です。
内定通知と連動する話ですが、入社前に詳細な契約条件を書面で提示しない企業は危険です。SES企業の場合は「待機時(案件と案件の間)の給与」を特に確認すべきでしょう。
私のもとに相談に来た方で、「高還元SES」に入社したものの、案件が途切れた瞬間にクビになったという人がいました。「労働条件通知書はありますか?」と聞くと、「なんですかそれ?」と。どうやら内定時に書面を確認しておらず、口約束や簡易的な通知だけで入社してしまっていたそうです。
企業側としては、エンジニアが稼働していない待機期間の給与は1円も払いたくないのが本音です。だからこそ、ここをあやふやにして黙って済ませようとする会社が存在します。
契約書や労働条件通知書に「待機時の給与保証」が明記されているか。これは自分の生活を守るための命綱だと思って、必ず確認してください。
未経験採用でよくある罠です。「研修費は無料」と謳いつつ、「2年以内に退職した場合は研修費●●万円を一括返済すること」といった誓約書を入社時に書かせるパターンですね。
研修を教育のためではなく、エンジニアを辞めさせないための「足かせ」として設定している。わざわざこうした企業を選ぶ必要はありません。
研修費用関連で言うと、「消費者金融」を使わせた手口が最近話題になりました。「このスクールに通えば将来月300万稼げる」などと持ちかけ、100万円以上する高額な提携スクールの契約を結ばせ、その場で審査の緩い消費者金融に申し込みをさせる事例が確認されています。
またそこまでいかなくとも、研修の中身が伴っていないケースも多々あります。
「研修制度あり」と言われて入社したのに、実際は教材を渡されて「あとは自分でやっておいて」と放置されるだけ。実質的には自習と変わらない環境で、時間と労力だけを搾取されるリスクが高いので要注意です。
「未経験歓迎」や「高還元」といった甘い言葉の裏側には、構造的な無理が生じているケースが多々あります。ここでは、ビジネスモデル自体が破綻しているSESの特徴を挙げます。
最近、SNSなどで「還元率80%」を謳う企業を見かけますが、はっきり言います。普通のSES企業で還元率80%はありえません。
実際に【従業員30名・1人あたりの販管費月8万円・待機率0%(全員稼働)】というモデルケースを作成してSES企業の経営シミュレーションを行った結果、衝撃的な数字が出ました。
かなり甘めの前提条件でプロットしたものですが、この条件でさえ「還元率80%」を実現しようとすると、社員の平均年収が「約900万円」を超えない限り会社は赤字になります。
これには、日本の社会保険料の仕組みが関係しています。社会保険料は、年収約780万円までは給与額に応じて直線的に上がっていきますが、780万円を超えると上限に達し固定額になります。
つまり、年収が高い人がいればいるほど、企業側が負担する社会保険料の割合が下がって楽になるんです。逆に言うと、年収400万〜500万円の層を集めて「還元率80%」を真面目にやると、社会保険料の負担比率が重すぎて、会社は即座に赤字に転落します。
では、少し下げて「還元率75%」なら現実的なのか? これについても検証しましたが、かなり危険な綱渡り状態です。
仮に平均年収550万円だとして、全員が稼働している(待機率0%)ならギリギリ黒字です。しかし、たった「5%」の待機が発生しただけで、経営が怪しくなります。5%の待機率があっても耐えられるようにするには、やはり平均年収800万円クラスの集団でなければなりません。
なお、シミュレーション上では販管費を「月5万円」まで切り詰めれば、還元率75%でもグラフ上は成立します。ただ、社員30人で1人5万円ということは、会社全体の運営費が月150万円です。
ここから家賃を払い、経営層や営業、バックオフィスの給与を払う……どう考えても現実的ではありません。「150万円で何ができる?」という話です。
経営視点で見る限り、会社として健全に運営でき、かつ若手の育成(=即戦力ではない期間のコスト負担)もできる限界ラインは「還元率72〜73%」でしょう。これを超えて「還元率80%」を謳っている会社は、以下のどちらかです。
・平均年収900万超えのスーパーエンジニア集団(ごく稀に存在します)
・計算式をごまかしている
多くの場合は後者です。会社負担分の社会保険料や福利厚生費、ひどい場合はオフィスの家賃までを「君たちへの還元だ」と言い張って計算式にぶち込んでいる。
数字のマジックに騙されず、還元率の計算式に何が含まれているのか、必ず確認してください。
独自のパイプや役員の人脈がなく、案件をSES企業同士で回し合っているだけの企業です。まともなSESであれば、例えばエンジニア出身の役員がいて、そこ経由で直接仕事を引いてくるとか、社長自ら泥臭く営業して太い客を掴んでいるものです。
しかし、そういった「太客」がいない会社はどうやって仕事を探しているのか。SESの営業担当者が集まるメーリングリストや、LINEのオープンチャットです。
そこで「こんな案件あります」と流れてきた情報を、右から左へ別のリストに流す。これを無限に繰り返した結果、5次請け、6次請けといった多重下請け構造が誕生します。
ここで行き交う案件情報は、まさに貧しさのループです。
「月単価30〜40万円で人いませんか?」みたいな話が飛び交っていたり、ひどいものだと「アンテナのついた車で北海道内をぐるぐる回って、電波強度を調べる仕事。夫婦での参加もOK!」なんていう募集が「エンジニア募集」として流れてきたこともありました。
商流が深すぎる会社にいると、こういった謎の案件に放り込まれ、マージンを抜かれ続けて給与も上がらないという泥沼にハマります。
「最初は社会人マナー研修も兼ねて」などの口実で、家電量販店の携帯販売やコールセンター、工場のライン工などに配属されるパターンです。
なぜエンジニアとして採用されたのに、そんな現場に行かされるのか。理由は単純で、その会社がITの案件を持っていないからです。
特に、前述した、IT業界に疎い新興SES同士が合併した会社でこのケースが多発しています。彼らは営業力がなく、誰でも入れるようなテクニカルサポートや販売員の枠しか持っていません。
ここでの落とし文句は「未経験だから、まずは現場の空気になれよう」ですが、一度入ってしまうと抜け出せません。開発の実務経験が積めないまま歳だけをとり、エンジニアとしてのキャリアが一切積み上がらないまま塩漬けにされます。
いつまで経ってもコールセンターから出られない、いわゆる「キャリアの死」を迎えるリスクが最も高い。少なくともSystem Engineering Serviceとは言い難いです。
ここまで、避けるべきSESの特徴を10個挙げてきました。
「そこまでしてSESを選ぶべきなのか……」と感じた人もいるかもしれません。正直な話、受託開発やSIerを選ぶ選択の方が、理想の給与やキャリアを掴む近道なケースも多いでしょう。
それでもSESを選択肢の一つにするのなら、正しい情報の取捨選択を徹底してください。怪しいインフルエンサーや、甘い言葉だけを並べる一部のキャリアアドバイザーに惑わされてはいけません。
もし年齢的にまだ若いのであれば、今からでも専門学校や大学に入り直して、体系的な知識を身につけるのも一つの正解です。遠回りに見えて、結局はそれが市場価値を高める一番確実な方法だったりします。
「勉強会やセミナーに出てリファラル(社員紹介)の繋がりを作るなど、自分の足を使って信頼できる情報を集めるのも良いと思います」
一つポジティブな話をすると、最近はSaaS企業などで「FDE(Forward Deployed Engineer:導入コンサルタント的なエンジニア)」の需要が高まっています。自社プロダクトを持っている事業会社のエンジニアは「客先常駐」を嫌がる傾向がありますが、SESでクライアントワークに慣れている人なら、その耐性を武器に事業会社へ飛び込めるチャンスがあると言えそうです。
2026年、SES業界の「二極化」はいよいよ決定的になります。
まっとうな企業でキャリアを積むか、ブラックな環境で搾取され続けて業界から退場するか。 今回挙げた10のリストを参考に、ぜひ生き残るための選択をしてください。
編集/今中康達(編集部)
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