株式会社UNCORD
代表取締役
横井裕也さん
2015年名城大学卒業後、エバーグリーン州立大学へ語学留学。16年、愛知県のシステム開発会社へ入社。その後23年に株式会社UNCORDを設立
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「高還元」「案件選択制」「フルリモート」。 エンジニアにとって魅力的に映るキーワードを掲げるSES企業は、ここ数年で急増した。
しかし、そうした甘い言葉の裏側で、長すぎる待機や一方的な契約解除、キャリアの断絶といったリスクにさらされるエンジニアが後を絶たない。その背景には、「SESは儲かる」といった情報を真に受けて起業した“社員数名の新興SES”の急増が挙げられる。
「還元率80%なんて出していたら、本来は事業として成り立たないはずなんです」
そう語るのは、自身もエンジニア出身であり、SES事業をメインに手掛ける株式会社UNCORDの代表取締役・横井裕也さんだ。横井さんは、同時期に生まれた多くのSES企業や経営者と接する中で、エンジニアを「使い捨て」にするような経営実態を何度も目の当たりにしてきたという。
業界の再編が進む今、SESで働くエンジニアは何を基準に会社を選ぶべきなのか。横井さんの実体験を手掛かりに、優良SESを見抜く視点を探っていこう。
株式会社UNCORD
代表取締役
横井裕也さん
2015年名城大学卒業後、エバーグリーン州立大学へ語学留学。16年、愛知県のシステム開発会社へ入社。その後23年に株式会社UNCORDを設立
ーー単刀直入にお聞きしますが、「新興SES」の経営者の一人として、ご自身が最近の業界に対して「これは危ないな」と感じる事例はありますか?
一番「それ、やばいな」と感じているのが、最近の流行り言葉でもある「高還元」と「案件選択制」を無責任に掲げている会社ですね。特に、還元率80%とか90%といった数字を出している会社には違和感しかありません。
経営者の視点から言わせてもらうと、8割以上もエンジニアに還元していたら、事業としては成り立たないはずなんです。
会社としてエンジニアを雇用する以上、営業活動や組織の基盤、教育体制を作るためのコストがかかりますよね。還元率8割ということは、そうした「会社として本来やるべきサポートや投資」に充てるためのコストを、ほぼほぼカットして給与に回しているということです。
そうなるとどうなるか。エンジニアの懐に入るお金は一時的に増えますが、会社からのサポートは「ゼロ」になります。
ーー具体的に、エンジニア側にはどのようなリスクが生じるのでしょうか。
一番のリスクは、案件が途切れた瞬間に雇用まで切られることです。
通常、まともな会社であれば、仕事がない待機期間であっても会社が蓄えていたお金から給料や休業手当を支払って雇用を維持します。しかし、8割から9割近い還元率のSESの場合、その原資を持っていないケースが多い。なぜなら、彼らは「エンジニアを守るためのコスト」を極限まで削っているからです。
本来、会社が利益の一部を確保するのは、以下のような「未来や万が一」に備えるためです。
●新しい設備投資や教育への投資
●業務効率を上げるための最新AIツールの導入
●景気が悪くなった時に社員を守るための「バッファ(クッション)」
高還元SESは、これらを全て無駄な出費と捉えているため、会社としての貯金がありません。だからこそ、案件が終了して売上が止まれば、待機期間中の給与なんて払えるわけがなく、即座に解雇せざるを得ないのです。
実際、「契約社員として雇用契約を結んでいたので、案件終了と同時に契約も終わりです」とあっさり切られるケースが結構あります。でもそれって、もう「社員」じゃないですよね? 実態は、リスクだけを負わされた個人事業主と変わりません。
ーー「高還元」という言葉で人を集めているものの、実態はフリーランスに近い扱いを受けている、と。
さらに悪質なのが、その「高還元」という甘い言葉を使って、未経験者を大量採用しているケースです。
業界のことを何も知らない人たちに、「まずはIT業界の入り口として、キッティング(PCのセットアップ等)から始めたらいいよ」と誘い込む。でも、キッティングと開発は別物ですし、入り口もへったくれもないんですよね。
そうやって大量に採用して、開発とはほど遠い雑用案件で塩漬けにしてしまう。会社側は薄利多売で回せば利益が出ますが、エンジニアは開発スキルが身に付かないので、いつまで経っても単価が上がらない。気付いた時には年齢だけ重ねていて、キャリアが詰んでしまう……という話はよく聞きます。
未経験者の「分からない」という弱みに付け込んで、甘い蜜で誘って使い潰す。これはもう、詐欺じゃないかとすら思いますね。
ーーですが、ある程度経験のあるエンジニアにとって、「案件選択制」という言葉は魅力的ではありませんか?
確かに「自由に選べる」というのは聞こえが良いですよね。ただ、僕が問題視しているのは、エンジニアが案件選びの決定権を完全に握ってしまっているパターンです。
正直に言うと、他社さんとやり取りをしていて「お宅の営業は何のためにいるんですか?」と感じることもあって……。
例えば、僕たちの会社がプロジェクトに参画してくれるパートナーさんを探していて、ある会社から提案をもらったとします。スキル的にも申し分なく、こちらとしては「ぜひお願いしたい」とオファーを出しても、その直前で「エンジニアが嫌だと言っているので見送ります」と返ってくるんです。
理由を聞いても、「本人がその工程はやりたくないと言っている」「その業界(ドメイン)は興味がないらしい」とか、まるでゲームのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)みたいに伝言してくるだけなんですよ。
ーーエンジニアの意向を尊重しているようにも見えますが、何が問題なのでしょうか。
もちろん、明確なキャリアの軸があって、「将来こうなりたいから、この経験は不要だ」という判断ができるなら良いんです。でも実際は、単なる「好き嫌い」で判断しているケースが非常に多い。
「不動産系のシステムはなんとなく嫌だ」とか「テスト工程が混ざるのは面倒だ」とか。でも、そこを避けることが本当にキャリアのためになるのかというと、むしろ自分の首を絞めているケースが少なくありません。
仕事はお金をもらって価値を提供する場であって、趣味ではありません。「わがままで選びたいなら、趣味で開発していればいいじゃん」と思ってしまうんですよね。
ーー確かに、目の前の「やりやすさ」だけで選んでしまうと、長期的なキャリアにはつながらないかもしれません。
本来、営業の役割はエンジニアのキャリアを俯瞰して、「君の目指す場所に行くには、今は少し泥臭いけどこの経験が必要だ」と導くことでもあるはずです。
それなのに、会社が「案件選択制」を売りにしすぎて、エンジニアのご機嫌伺いに終始してしまう。その結果、営業が必死に探してきた「キャリアアップにつながる案件」さえも、エンジニアの気まぐれで断られてしまう。
これでは会社もエンジニアも、誰も得をしない状況になってしまいます。
ーー「自由」という言葉の裏で、本来あるべきキャリア形成の視点が抜け落ちてしまっていると言えそうです。
自分自身で市場価値を正しく把握して、戦略的に案件を選べる人はそう多くありません。そんな中で 「高還元」や「案件選択制」といったモデルは、エンジニアに全ての責任を丸投げしているようにも見えます。
「君たちの好きにしていいよ、でも売れなくなったら知らないよ」と。それは会社として、あまりに無責任ではないでしょうか。
ーー横井さんが考える、会社として健全に運営でき、かつエンジニアにも報いることができる「適正な還元率」はどのくらいなのでしょうか?
僕の感覚では、全社員を平均して「70%から、いっても80%くらい」が限界のラインだと考えています。
もちろん、会社を立ち上げる時に「全社員一律高還元」という制度にする選択肢もありました。でも、あえてそれは選びませんでした。先ほどお話しした通り、会社として必要な機能が麻痺してしまうリスクが見えていたからです。
UNCORDでは、一律にするのではなく、スキルや役割に応じて還元率に幅を持たせる「ハイブリッド型」を採用しています。
例えば、まだ経験が浅くサポートが必要なメンバーの場合、誰かが教育やフォローに労力を割かなければなりません。会社としてのコストがかかる分、還元率は65%程度に設定します。
逆に、そのメンバーをサポートする側のリーダーや、一人で現場をコントロールできるようなスキルの高い人は、会社への貢献度も高いため80%以上の還元率にする。そうやってメリハリをつけるのが、組織として一番フェアな形だと思うんです。
ーー会社に残る利益が20〜30%あると、「会社が抜きすぎだ」と感じるエンジニアもいるかもしれません。この残りの部分は、何に使われるべきだとお考えですか?
もちろん採用費などの経費もありますが、僕は「営業への投資」にしっかりと使うべきだと思っています。
優秀な営業には、それ相応のインセンティブを払うべきですし、事務作業をサポートするバックオフィスも必要です。それに営業が良い仕事をすることで、結果的に得をするのはエンジニアですからね。
エンジニアが一人でどれだけ技術を磨いても、商流の深い案件しか持っていない会社にいたら、単価は上がりません。
営業が強いモチベーションを持って動き、元請けやメーカーといった「商流の浅い」高単価な案件を獲得してくる。そうすれば、エンジニアの単価も自然と上がり、結果として給与も増える。営業とエンジニアは対立するものではなく、お互いがプロとして役割を果たすことでWin-Winになる関係であるべきです。
「金だけの施策」で釣るのではなく、営業もエンジニアも、双方が高いパフォーマンスを発揮できる環境を作ること。それが本来あるべき「SES」の姿ではないでしょうか。
ーーそのような会社を見極めるには、面接や求人情報のどこを見れば良いのでしょうか。
一番分かりやすいのは、その会社の経営層や面接官が「技術を知っているかどうか」ですね。当たり前のようでいて、ここが抜けている会社が意外と多いんです。
「SESはサービス業だ」と割り切って、技術への理解がないまま数字だけでビジネスをしている経営者もいます。そういう会社に入ってしまうと、エンジニアは単なる「商材」として扱われ、キャリアなんて二の次になってしまいます。
だから面接では、「社長や役員はエンジニア出身ですか?」「技術の現場を知っていますか?」と確認してみるのが良いと思います。 もしそこで答えが曖昧だったり、技術へのリスペクトが感じられない場合は要注意です。
たとえその場の条件が良くても、長期的にエンジニアとして成長できる環境ではない可能性が高いですから。
撮影/桑原美樹 取材・文/今中康達(編集部)
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