「Tehuのトップクリエイター七番勝負」インタビュアー
Tehu氏
中学生の時に独学で開発したアプリ『健康計算機』が180万DLを突破したのを機に、TVなどで取り上げられ注目を浴びる。その後もスーパーIT高校生として多くのプロジェクトで開発やディレクションを担当する一方で、メディア出演や企画、執筆など幅広く活動。2013年10月に「プログラマー引退宣言」を行ったことでも話題を呼んだ。2014年4月より東京に拠点を移し、さらなる飛躍を目指す
「スーパーIT高校生」として注目されてきたTehu氏が今後の進路として選んだ、慶應義塾大学SFC環境情報学部への進学と、デジタルクリエイターへの道。この連載では、毎回Tehu氏が自ら会いたいとリクエストする先輩トップクリエイターと対談。クリエイティブの本質に迫る。
「Tehuのトップクリエイター七番勝負」インタビュアー
Tehu氏
中学生の時に独学で開発したアプリ『健康計算機』が180万DLを突破したのを機に、TVなどで取り上げられ注目を浴びる。その後もスーパーIT高校生として多くのプロジェクトで開発やディレクションを担当する一方で、メディア出演や企画、執筆など幅広く活動。2013年10月に「プログラマー引退宣言」を行ったことでも話題を呼んだ。2014年4月より東京に拠点を移し、さらなる飛躍を目指す
今回のゲスト
真鍋大度氏
株式会社ライゾマティクス取締役。Perfumeのインタラクティブ演出などを手掛けるメディアアーティストとして知られる。エンジニアリングを出自としながらも、テクノロジーを駆使ししたアート作品を数多く世に送り出す。Appleの30周年記念サイトでも取り上げられるなど、日本が世界に誇るトップクリエイターだ
連載第1回目のゲストは、Tehu氏が「今、一番憧れのクリエイター」として対談を熱望した真鍋大度氏。
真鍋氏は、デザインや工学、数学、建築など、多様なバックグラウンドを持つクリエイターが集まるライゾマティクスの一員として活動。プログラミングをベースに、Perfumeのステージ演出や広告プロモーション、インタラクティブアートなど幅広い分野で作品作りを行っている。
そんな真鍋氏の大ファンで、“パフュクラ(Perfumeファンの人たち)”でもあるTehu氏は、灘高校時代に文化祭などで真鍋氏の作品からインスピレーションを得た(本人は「猿真似」と言っている)ステージ演出を手掛けた経験を持つほど。
一方、真鍋氏は意外な形でTehu氏との接点を持っていた――。
真鍋 僕はFacebookで4人くらいしかフォローしていないんですけど、実はその内の1人がTehuさんなんです。
Tehu そうなんですよ! ある日突然真鍋さんからフォロー通知が来て、ビックリしました。どうしてフォローしてくれたんですか?
真鍋 注目株だからね(笑)。若い人は、最近スタートアップとかに行く人が多いじゃないですか。でもTehuさんは、「クリエイターになりたい」みたいなことを言ってて、この先どうなるのかと気になって。
Tehu うれしいです。今日はこうしてお話ができて、とても光栄です。
真鍋 こちらこそ、ありがとうございます。今日は、何でも聞いて下さい。
Tehu さっそくですが、僕が今日聞きたいのはズバリ、「メディアアーティスト」って何? ということです。真鍋さんは最近よく「メディアアーティスト」として紹介されていますが、そもそもメディアアートって何だろうと。
作品などの結果は目に見えるのでよく分かるのですが、過程としては何をしていて、どういう発想でモノづくりをしているのかが気になっています。
真鍋 僕は、モノづくりにはざっくり2つの種類があると思っているんです。1つは、広告やサービス、デザイン的な色合いが強い「問題解決型」、2つ目はアートやリサーチプロジェクトのような「問題提起型」のモノづくりです。
「問題提起型」の作品を作っている人がメディアアーティストである、と僕は感じているかもしれないですね。最近だと、ソーシャルハックをモチーフに活動しているJulian OliverやKyle McDonaldの作品は分かりやすい例ですね。
Julianは、電源タップにWi-Fi機器を仕込ませ、そのWi-Fiを経由したニュースサイトは全部改ざんされるという作品『Newstweek』で話題になりました。Wi-Fiという技術であったり、ネットメディアの危険性を、作品によって訴えているんです。
Tehu 面白いですね。真鍋さんも、何か問題提起をしたくて作品を作っているのですか?
真鍋 僕の場合、メッセージ性は弱くて、日常の中の小さな気付きがきっかけで作っていることが多いかもしれないですね。
例えば、最近の作品だと『rate』があります。
この球体にはLEDライトが仕込まれていて、肉眼で見ると真っ白な照明に見えるんです。でも、iPhoneのカメラで撮影すると、縞模様が出てくる。LEDライトは単色ですが、数千~数十万フレームで超高速で点滅しているから、シャッターが上から下に切れるまでの間にいろんな色をセンサでキャプチャできるんですね。
点滅の周波数とシャッターが下りるスピードを同期させると、さらに面白い現象が起きる。「ローリングシャッター現象」と呼ばれるものですが、それを使った作品です。
Tehu 理論的には当たり前と言えば確かに当たり前ですが、思い付きませんでした。不思議な感覚です。
真鍋 人間の目で見ているものと、機械がとらえているものは違う、ということを実体験で感じてもらうために作ったと言えるのかな。一見すると風船が光っているように見えるのと、映像で観てもらうことができないのが難点です(笑)。
似た様な作品だと『fade out』がありますね。
こっちは、築光塗料を含むシートに紫外線レーザーを使ってポートレートを描く作品です。徐々に光が暗くなっていく現象を利用するとグラデーションが作れるのですが、このころはカメラの前に立つと映像が反応するとか、似た体験の展示が多くなっていて。僕の尊敬するメディアアーティストの方が、それに対して苦言を呈していたこともあり、違った形のインタラクションを考えていたところ、偶然に思い付いた作品です。
作ってみて気付いたのですが、ある瞬間を境に、でたらめなグラフィックが肖像に見えてくる瞬間があって。そこが面白いところですね。
この2つは、(Perfumeプロジェクトも共にしているライゾマの)石橋素さんと作ったものですが、『rate』は秒間数十万フレ、『fadeout』は1枚の写真を作るのに約1分かかるので1/60フレ。結果論ですが、時間軸に着目したとも言えますね。
Tehu なるほど。
真鍋 他の例を出すと、やくしまるえつこの『BODYHACK』というサイト。こちらは、やくしまるえつこに生体センサを取り付けて生活してもらい、データをストリームするというものです。サイトに行くと、脳波、眼電位、喉の筋電位、心拍、瞬きのデータを使ったグラフィックを楽しむことができます。
Tehu すごいライフハックですね!
真鍋 やくしまるは「ストーキングサイト」と言ってました。例えば夜中の2時に心拍数がどんどん上がって行ったら、ユーザーはいろんなことを想像しますよね(笑)。
3年前の作品ですが、徐々にウエアラブルデバイスが一般化されて来たので、生体データのプライバシー、匿名性、著作権などを考えるきっかけをこの作品で生み出したいなと。これに関しては、きちんと問題提起したつもりです。
アートのジャンルによっては、クラフトはまったくなしで「問題を表現しておしまい」みたいなものもあるけれど、テクノロジーを使ってプロトタイプを作って実際に試せるのが、メディアアートの特徴的なところかもしれないですね。
Tehu 確かに、こうして実際に作っちゃうっていうのは面白いですね。問題提起だけでなく、解決までできる可能性がある。
真鍋 問題解決まで至ればそれに越したことはないし、そうでなくても、何かしら作ってみて考えるということに意味があると思っています。
顔に電流を流す作品も、スマイルシャッターの精度から疑問が生じて笑顔とは何か、笑顔を認識する方法はカメラ以外にないのかというところから始まり、ジェームズランゲ説として有名な「楽しいから笑うのか、笑うから楽しいのか」というところに辿り着きました。電極を利用して、僕が笑うとそれと連動して他人も笑うようにしたときに、表情だけでなく、感情もコピーできるのか?出来るとしたら感情っていったい何なのっていう疑問ですよね。
このプロジェクト自体は照岡さんという研究者の監修の元に行ってますが、作品発表したいというよりも自分自身が知りたいという欲求でやっていた感じですね。
これをアートとするかどうかは、見た人に委ねています。僕は「自分の作品はアートだ」と声高に叫ぶつもりはないし、いろんな見方があっていいと思うんです。リサーチプロジェクトとして受け止めてくれる人もいるし、単なるギャグ映像だと思ってくれる人もいますが、それでいいんです。
Tehu 今までの話を聞いていて思ったんですが、僕は完全に「問題解決型」のモノづくりが中心ですね。問題提起として作品を作るという考えは、今まであまり持ってなかったので新鮮でした。
真鍋さんは作品を作る時、アイデア先行タイプですか? それとも技術から構想を練るタイプですか?
真鍋 どっちの場合もありますけど、自分のプロジェクトだと、新しい技術を使って開発者たちが思い付かなかった使い方を見つけたいというのも多いですね。それから、自分の中に問題解決の際に必要となるいろんなテクノロジーの駒を持っておきたいというのも大きいので、だいたい片っ端から使ってみます。
Tehu 技術は使ってみないと分からないですからね。
真鍋 以前、アディダス・ジャパンの依頼で『Impposible Wall』というテニスの壁打ちゲームの開発を石橋さん、堀尾寛太君、僕と2bitで作ったんです。そのゲームでは、壁のどこにボールが当たったかを計測する必要がありました。1つのマイクを壁に設置して、ボールが壁に当たった時だけ画像解析をするようなシステムなんですが、その時は太陽光が厳しい環境でえらい苦労しました。
でも、最近知ったマイクアレイを使った音響解析技術を用いれば、設置も簡単だし、太陽光の下でも使うことができる。このように、技術の組み合わせによっては、不可能なことも可能になる。
だから、問題解決するにしたって、いろんな技術を知っておいて損はないと思うんですよね。センサ系は特に面白いなと思います。
Tehu 真鍋さんって、思い付いたことは最先端技術で全部実現させているように見えるんですけど、技術的に不可能だっていうこともあるんですか?
真鍋 作ってみたものの完成しないというのはよくありますよ。ただ、自分でアイディアを出す場合は、技術的に絶対に不可能なアイディアは出て来ないですね。設計を含めてアイディアだと思っているので。
Tehu 真鍋さん自身もコードを書かれたりするんですか?
真鍋 基本的には僕自身もコードは書きますよ。ただ、得意でないことも多いですし、専門的なところはそれぞれのプロフェッショナルに助けらてもらいながら作っています。チームでモノづくりした方が、効率的だし、楽しいですよ。
Tehu そもそも真鍋さんの仕事のモチベーションって何なのでしょうか?
真鍋 今はおかげさまで、楽しいプロジェクトにばかりかかわらせてもらっています。Perfumeの演出サポートしかり、「これでテンション上がらない奴いるの?」ってプロジェクトばかりなので。
モチベーションがどうとか贅沢なこと言えないですが、新しいことをやり続ける、というのはシンプルにモチベーションを保てる気がします。Tehuさんはどうですか?
Tehu 僕は2カ月に1回ぐらい、やりたいことのモチベーションが切り替わるんです。コードとか関係のないプロジェクトで、プロデューサー的役割として動く2カ月間。家にこもって、自分の好きなものを作るために、コードを書いたりIllustratorを触ったりという2カ月間を繰り返しています。
でも、自分でコード書いて作ったものって、けっこうお蔵入りになることが多くて……。
真鍋 それはもったいないので、是非公開して欲しいですね。興味津々ですよ。メディアアーティストの中でも自分でコードを書かない人もいますし、プログラミングがあまり関係のない作品もたくさんあります。
例えばThe Yes Menというアーティスト。イラク戦争が終わったという偽物のニューヨーク・タイムズを配って話題を呼びました。その作品はコードとは無縁ですらね。彼らってメディアアーティストなの? って思うかもしれないですが、彼らが『The New York Times Special Edition』をメディアアートのコンペであるArs Electronica PrixのHybrid Art部門に応募をして、優秀賞を受賞しているというのが興味深いところなんですよね。
彼ら自身がメディアアート作品として評価してもらいたいということなのかな。
Tehu そうなってくると、分かりかけていたメディアアートというものが、またちょっと分からなくなってきました(笑)。今のThe Yes Menの例でいくと、配ったのが新聞=メディアだからメディアアートになるっていうことなんでしょうか?
真鍋 僕の考えでいくと、メディアでも、テクノロジーの使われ方でも、どんなテーマであれ「裏側を暴いているかどうか」とか「新しい視点を見つけているか」がキーポイントになると思います。
極端な例ですが、『WikiLeaks』のJulien Assangne。彼は内部告発を行う報道、閲覧の自由を求めるネット活動家として知られていると思いますが、2006年ごろ、先ほどのArs Electronicaのフェスティバルに招待されて講演をしていました。
だから、彼がやっていたことはメディアアートに関係する活動として評価されていた、もしくは関係があると思われていたということですよね。
メディアアートというとセンサを使って音や映像をコントロールしているインタラクティブなものばかりだと思うかもしれないですが、実際に海外のフェスとかで展示されているものは、そういう作品ばっかりでもなく、かなり幅広いです。
極端な例ばかり上げてしまったので、もっと全体的に知りたければ、坂根厳夫先生が書いている『メディア・アート創世記』を読むと良いかもしれません。プログラミングやコンピュータの仕組みを何となく知っていると楽しめる作品も多いですね。アンディ・ウォーホールの未発表作品を復元して話題の作家Cory Arcangelの作品とかは、いろいろ知っていた方が味わい深い気がします。
Tehu プログラミングを知らない人は本当に多いです。
真鍋 Tehuさんはプログラミングを教えることに興味はありますか? 最近、プログラミングを知らない人から魔法使い扱いされることが多くて、「みんなもっとプログラミングのこと知ればいいのに」と思うことが多いんです。
Tehu ありますよ。実際、中高生向けにプログラミングを教える活動を行う『Life is Tech!』ではアンバサダーをやらせてもらっています。多くの若い人にプログラミングの楽しさをもっと伝えたいなと。
個人でも、多くの人にプログラミングの楽しさを伝える活動を行ったりしています。実はその一環で、真鍋さんが制作した『Perfume Official Global Site』のモーションキャプチャーデータを使って、子どもたちにプログラミングをさせたことがあるんです。
基礎的なプログラミングをかじった子どもたちばかりだったので、2〜3時間で音楽を流したり、色を変えたりとか、それぞれ自分たちの作品を作っていました。そうした活動を通じて、モノづくりの楽しさに気付く人が1人でも増えてほしいですね。
真鍋 僕も大学生には教える機会があるんですけど、3Dグラフィックス系や解析系のプログラミングをやろうとしても、かなり厳しい状況に陥っている人が多いんです。どういう人かというと、早い段階で数学を断念していたり、苦手意識を持ってしまっている人。
そういう人がいるのは、日本の一般的な高校で、数学の面白さを教えることを重要視していないのが原因だと思うんです。役に立つって言っても、金利の話をしても興味湧かないですよね。例えば、ライブの演出とか、プレステとかのゲームで数学が活かされている、という動機付けをうまくやることが必要なのかなと。
Tehu 灘高校は、逆にそういうことから教える高校でした。先生がPSPの『モンスターハンター』をみんなに見せて、「背景がぐるぐる回っているのはコンピュータに計算させているからです」って説明して。あ、数学ってこういうところで活きてるんだっていうことが、すごく分かりやすかったんです。
真鍋 素晴らしいなぁ。将来的にプログラミングを仕事で使わないにせよ、そういう経験を高校生までにできるのは、すごく良いことだと思う。
最近、僕の周りで流行っているのが、「黄色いひよこを青くして売るな」っていう言葉で。自戒を込めている部分もあるのですが、プログラミングやメディアアートの作品を知らない人に対しては、大したことのないものをすごそうに見せて売ることができてしまいますからね。
cinderやopenFrameworksのexampleをちょこっと書き換えて、中身を変えただけのものをパッケージ化して売っていたりするんですよ。ライセンス的にOKだとしても、アートとか表現としてそれをやっては絶対にダメだと思うんです。
Tehu 「表現」でやったら危ないですよね。でも、今年の春に進学したSFCの生徒でも、プログラミングを知らない人が95%。残りの5%は逆に初歩的な授業は受ける必要もないくらい詳しく知っている。それぐらい、プログラミングの周知度って「格差」があるんです。
そんな中で、プログラミングを知っている側の僕は、このままTech系にいくのか、アート系にいくのか。ビジネスっていう選択肢もあって、ちょっと悩んでいるところはあります。
よく、「Tehuはいつ起業するの?」って言われるんですけど、それだけがゴールじゃないですからね。
真鍋 最初にも言ったけど、どういう方向に行くかっていうのは楽しみですね。5年後には、僕の仕事は全部取られているかもしれないし(笑)。
Tehu まさか(笑)。ちなみに今は、画像処理の勉強していますけど、難しいですね。授業では、ライブラリを使って、それ以外の深い部分に関しては、線形代数とかの論文を読みあさっている段階です。
そういった技術の勉強から、ビジネスの勉強とか、プロジェクトに企画として入ったりと、今はいろいろやってます。テクノロジーもゴリゴリやりたいし、表現もしたいし……。
真鍋 忙しいね(笑)。
Tehu でも、今一番やりたいのは、フィードバックがダイレクトにもらえること。ライブ感があって、お客さんも分かりやすく盛り上がれるような演出とかをやりたいですね。
真鍋 うん、分かります。あの快感はたまらないですよ。
Tehu そうですよね! そういうことをやっていきたいなぁ。
真鍋 アイドルとかのプロデュースとかもできそうですよね。分析力もあるし。SFCだったらカワイイ子がいっぱいいるだろうし、ぜひアイドルのプロデュースを頑張ってください。
Tehu そういう結論ですか(笑)。本日は貴重なお話をいろいろ聞けて、刺激になりました!ありがとうございました。
真鍋 こちらこそ。今度ぜひ、何か一緒にやりましょう。
取材・文/長瀬光弘(東京ピストル) 撮影/竹井俊晴
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