刻一刻と進む技術革新や、急激な社会環境の変化により、変革期を迎えているSIer。「SI崩壊説」なども謳われているが、それは本当か? 進化を続ける業界のリーディングカンパニーの取り組み事例や、識者の見解から、SIとSEの生存戦略を探っていく。
受託型から創発型へ。SI転換期を生き残るSE像を探る
思い込みという色眼鏡を外して、事実を見てみよう。
2017年2月、一般社団法人情報サービス産業協会が経済産業省の産業動態統計を基にまとめた「情報サービス業 売上高、従業者数の伸び率の年間推移(2006-2017)」によると、近年の日本の情報サービス産業は売上高・従業者数共に右肩上がりの成長を見せている。
リーマン・ショックや東日本大震災の影響により、2009年〜2011年にかけて売上高が対前年比でマイナスだったものの、2012年以降はプラスで推移。国内大手SIerの決算を見ても、売上高は概ね成長曲線を描いている。よくメディアを賑わす「SIer苦境説」は、少なくとも売上の面では間違いということになるだろう。
ただし、システム開発の現場に目を移すと、異なる事実が見えてくる。産業全体の売上が上昇傾向にある一方で、かつての稼ぎ頭だった業務システムの受託開発案件は縮小・淘汰されつつあるからだ。ICTビジネスにスピードと環境変化への柔軟性が求められるようになった結果、システムの「売り切り」と「保守・運用」で稼ぐビジネスモデルは遅かれ早かれ衰退すると指摘されている。
では、こうした状況下にあっても成長し続けているSIerが存在するのはなぜか? 拡大と衰退の境界線はどこにあるのだろうか? NTTデータのオープンイノベーション事業創発室室長である残間光太朗氏は、その境目を「創発型サービスの開発にどれだけコミットしているか」だと語る。その理由と、これらからのSIビジネスで求められるSE像を聞いた。
時代のニーズに即した「創発型サービス」の要諦
最初に、SI産業における「創発型サービス」と「受託型」システム開発の違いを説明しましょう。
前提として、近年のビジネスシーンでは何よりもスピードが求められます。ある統計によると、現在は10年前に比べてビジネスを創発し世に出すまでのコストが1000分の1に縮小されているそうです。その背景に、クラウドサービスやOSSの普及があるのは間違いありません。
テクノロジーがこうして“民主化”されると、当然、SIerに求められることも変わっていきます。大雑把に言えば、各所に散在するビジネスアイデアをつぶさに拾い上げながら、機を見て素早く事業化していく動きが求められる。従来の受託型システム開発がなくなるとは思いませんし、今も売上の多くを占めているのは事実ですが、時間をかけて要件定義し、仕様書通りにシステムを作るだけでは変化に適応できなくなったのです。
今、ユーザー企業がSIerに求めているのは、技術とビジネス創発、両方の知見です。この2つをもって、素早く新規ビジネスを生み出すお手伝いをする。私はこれを「創発型サービス」と呼んでおり、その手段の一つとして、近年はオープンイノベーション領域に携わってきました。
私が室長を務めるオープンイノベーション事業創発室が目指しているのは、新興ベンチャーが持つビジネスアイデアと、大企業の持つリソースを掛け合わせ、世界の新しいインフラのなるようなICTビジネスを生み出すことです。
NTTデータには、世界約50カ国・260拠点を通じて築いてきたグローバルなネットワークがあります。また、業界トップクラスの大企業や金融機関、公共機関を対象に、社会インフラを支える数々のICTプラットフォームを提供してきたという実績もある。そこで得たビジネス構築の知見を活かしながら、先鋭的なベンチャーと大企業を結び付け、最終的に数百億円規模のICTビジネスをいくつも生み出すのが目標です。
具体的には、毎月1度、東京の豊洲で開催しているマンスリーフォーラム「豊洲の港から」コミュニティでの議論、そして年2回、世界20都市で有望なベンチャーを集め選考会を行う「オープンイノベーションコンテスト」の開催を軸に活動を展開しています。
これらの取り組みから生まれたビジネスとして、2014年に実施した第1回目のコンテストに受賞したマネーフォワード(最優秀賞)やfreee(優秀賞)と共同検討し、NTTデータが開発した「ネットバンキングAPI」があります。約900の金融機関が採用する当社のオンラインバンキングプラットフォーム『Anser-ParaSOL®』と『Anser‐BizSOL®』にAPI連携機能を付加することで、FinTech事業者とのデータ連携をより簡単にできるようにしました。
また直近では、2018年8月に実施した第8回コンテストで最優秀企業に選出された日本のGlobal Mobility Service(GMS)とは、国内、グローバル両面で協業に向けたプロジェクトを進めているところです。
GMSは、「自動車ローンの返済次第でエンジンのOn/Off起動を制御できる」というIoT技術を活用し、毎日真面目に車を使って働いているのに与信審査が通らない人々に対して、自動車ローンを受けられるようにすると共に、毎日の走行情報をビックデータ分析し証明することで、新たな信用を創出するFintechサービスをフィリピンやカンボジア、インドネシアで大成功させています。
これにNTTデータの世界に拡がる決済ネットワークや顧客基盤をもとに更なる拡大を目指すことで、将来的にはモビリティに限らず、金融機関等が捕捉しきれない人々の行動に基づく信用を「見える化」する新しい信用プラットフォームが構築できると考えています。私達が目指す“世界を変える”ような、新しい事業の柱となりうるとみこんで、協業に取り組んでいます。
従来の受託型開発と最も違うのはゼロイチの感覚
ここまで、創発型サービスの一例として我々が行うオープンイノベーションの目的と実績を説明してきましたが、難しい点もたくさんあります。企業文化もスピード感もまるで違うベンチャーと大企業が手を携え、数百億円規模の新規ビジネス創発を目指すのは、そう簡単なことではなく、結果がすぐに出てくるものではないからです。
加えて、既存事業とはまったく異なる文脈から生まれたアイデアの中から、きちんと事業化まで育て上げるのは至難の業ですので、多産多死の構造を作らなくてはなりません。あくまでも私の肌感覚ですが、おそらく成功の確率は1割にも満たないのではないでしょうか。
そんな中で我々ができることは、ベンチャーが持つ技術やビジネスと、我々のソリューションやアイデアを掛け合わせた新しいビジネスモデルに対して、本気で協業したいと望むファーストユーザーを見つけ、それらにかかわる人たちがPoC疲れ(PoC=実証実験ばかり繰り返して事業化・収益化までに過剰な時間をかけること)に陥らないようにプロジェクトをリーンに進行すること。つまり、前述した「技術とビジネス」両方の知見をフル稼働させながら、検証と仮説を高速に回しながらビジネスを形にするチャレンジをし続けなければなりません。
これは従来、多くのSIerが手掛けてきた受託型のシステム開発にはなかった難しさといえます。一番の違いは、私たち自身もリスクを取って「0→1」(ゼロイチ)でビジネスをつくり上げる感覚でしょう。
これまでのSIerの主力事業は、企業や社会のインフラを支えるシステムを提供してお客さまの成長を後押しすることでした。端的に言えば、お客さまの事業の「1→10」(イチジュウ)、「10→100」(ジュウヒャク)フェーズをお手伝いするためのシステム開発を得意としていたわけです。
しかし、FinTechやIoT(モノのインターネット)、デジタルトランスフォーメーションなど、システム開発そのものが新規事業の創発に直結する分野が伸びている今、SIerも0→1でビジネスをつくり上げるお手伝いができなければ存在価値を失ってしまいます。
我々が提供しているオープンイノベーションの取り組みも、この0→1の仕事をやり切れるかどうかが成否を分けるのです。
今、SEに必要なのは「声」を上げ自らが動く事
SIerを取り巻く環境が変わっている以上、そこで働くSEが描くキャリアもひと昔前とはまったく違うものになるのは確かでしょう。お客さまの意を汲みながら1→10、10→100の仕事をやってきたSEが、突然0→1をリードしろと言われても無理なのではないか? そう思われる方もいるかもしれません。
ただ、私は十分に適応できると考えています。
SEの中には、その優秀さゆえに、大規模な受託開発プロジェクトでお客さまの窓口を任されている人たちが大勢います。そこでは、お客様に言われたことをやるだけではなく、お客様にこれからのビジネスを提案していく優れたビジネス感覚と、それらを実現に導く高度なシステム設計能力が欠かせません。それに、こうした重要なポジションを任される人たちは、変化する顧客ニーズに対応していく力も備えているはずです。
これらの能力は、0→1を行う創発型サービスでも必要不可欠なもの。ですから私は、現在与えられているロール(役割)がたまたま受託開発だというだけで、彼らにも創発型サービスのプロジェクトを引っ張るポテンシャルは十分にあると見ています。
今、受託開発に携わっているSEの皆さんは、まず1→10や10→100のプロジェクトを「やり切った」と思えるくらいまで没頭してみてください。そして一定のレベルまで受託開発をやり切ったと思ったら、自ら声を挙げ「創発型サービスに挑戦したい」と口に出してみましょう。
最近はどのSIerも現状を打開しようと新規ビジネスの創発に必死ですから、そのようなポジションは必ずあるはずです。公募制度がある会社なら、それに挑戦してみてもいいでしょう。実は私自身、若手時代にNTTデータの社内公募制に手を挙げ、以来ずっと新規事業開発の世界でキャリアを積んできました。
人によっては、これまでアサインされてきたプロジェクトの内容により、本当はやりたいのだけれども0→1で求められる幅広い技術やビジネス創発知識を習得できていないと悩むこともあるかもしれません。が、そこは心配無用です。特定の技術分野をきちんと学び、専門性を高め、お客様と真剣に対峙したSEであれば、その知識や経験を「縦軸」にして他の技術分野やビジネス創発=横軸となるスキルも必ずキャッチアップできます。
もちろん、やったことのないことへのチャレンジになりますから、3年くらいはとても苦労すると思います。しかし、創発型ビジネスへ向かうために最も大切なことは、”やりたい””変わりたい””成長したい”というパッションです。成功の確率が1割あるかないか? という0→1の繰り返しでも折れない”パッション”。これを持てるかどうかは”チャレンジしたい心”の有無にかかわるので、逆に言えば「チャレンジしたい心さえあれば新しいスキルもキャッチアップできるし、心折れずに楽しめる」のだと思います。
そしてもう1つ大切なのは、”会社は1人から変えられる”ということです。自分の会社には、ビジネス創発をしていこうというような部署はない、という方もたくさんおられるでしょう。
もし、そのような部署がなかったとしたら、あなた自身が幹部に提案をしてビジネス創発をする部署を創ってください。自分は偉くはないから、そんなことはできないと、皆んな思い込んでいるのではないでしょうか?
実は会社は1人から変えられます。私自身、このオープンイノベーション事業創発室を立ち上げた時は、何度も提案をし跳ね返され、形を変えながら最初は小さな活動から始めさせて頂き、徐々に社内に仲間が増え、お客様からも支持を頂くようになり、ここまで活動が育ってきました。もちろん、応援してくれた上司や幹部の皆さんがいたからこそ出来たことですが、最初に自分自身が変えたい、このままではこの会社自身が危険になるという危機感と、自分自身から溢れ出るパッションがあったからこそ、そのような提案をし続けることが出来たんだと思います。
最近のエンジニアの中には、大企業を辞めてベンチャーやコンサルなどへ転職する方も増えてきています。それも一つの選択肢だと思いますが、今いる企業を自らが動いて大きく変えていくという選択肢は、非常に魅力的な選択肢ではないかとおもいます。何故ならそのうねりが顕在化してきた時に、やがては日本全体の構造を変えていく力になり、世界に負けない日本の力として、大きく発揮されていくことになるだろうと思うからです。
我々が世界20都市でコンテストを行っている理由は、世界には各々の国々に固有の課題があり、ベンチャー企業はその課題を解決するエッジの立ったサービスを世界中で創発しています。そしてその中から世界を劇的に変え、世界のSDGsを達成するサービスが、誰もが気づかない辺境からこそ、生まれ出ると思っているからです。
それらを、大企業にいる我々がいち早く捉え、様々なインフラやベンチャー企業同士をさらに掛け合わせる事で、世界を変える新しいインフラサービスが生みだすことができると信じています。我々は大企業の立場から世界を変えるインパクトのある仕事が出来るものと思っています。
もし、私の話に感化されたというSEの方がいたら、我々とともに辺境に自らが足を運びジョインし、そこに身を置く逸材を巻き込みながら、イノベーションを起こす仕事にぜひ携わってほしい。私は、その一つである創発型サービスが、いずれSIビジネスの主流になっていくと信じています。
合言葉は、”さあ、ともに世界を変えていこう”です。

【特集記事一覧】
・【エンジニア100人 意識調査】「これからSI業界で働きたい」人が半数以上! その理由とは……?
・受託型から創発型へ。SI転換期を生き残るSE像を探る【NTTデータ】
・SEに問われる「脱・受託思考」必要なアクションは何?【SI3社座談会】
・coming soon!
取材・文/武田敏則(グレタケ) 構成・編集/伊藤健吾 撮影/竹井俊晴
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