キャリア Vol.1137

リモート先進企業GMOが「チャット回数制限」など独自ルール設ける理由は? 稲守貴久さんに聞く、開発チームの生産性を上げるコミュニケーション

コロナ禍、エンジニア組織をはじめ、全社でのリモートワーク移行を早期かつ円滑に進めたGMOインターネットグループ。

新型コロナウイルス感染拡大の兆しが見え始めた1月末、業界内でもいち早く、全社で在宅勤務へ移行。東日本大震災を機に、大災害の発生や疫病の蔓延などの有事を想定して在宅勤務を含む震災訓練の実施や、マニュアルの作成などBCP計画の作成に取り組んできたことが、今回のスムーズな切り替えにつながった。

さらに、リモートワーク下における社内コミュニケーションのルールづくりにも意欲的に取り組んでいる。

例えば、同社の開発チームでは「チャットで同じ話題が5回続いたら、オンライン会議に切り替える」といったルールを設置。これには、エンジニアの仕事の生産性を上げ、認識齟齬をなくす狙いがあり、効果を上げているという。

リモートワークへの移行で、コミュニケーションに課題を抱える組織は多いが、エンジニアがチームで成果を上げるために気を付けるべきは何なのか。

GMOインターネット次世代システム研究室 兼 デベロッパーリレーションズチームの稲守貴久さんに、同社の取り組み事例と併せて聞いた。

プロフィール画像
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GMOインターネット株式会社
次世代システム研究室 兼 デベロッパーリレーションズチーム
稲守貴久さん 2006年、GMOインターネット入社。クリエーティブディレクターを担当。その後、GMOクリック証券でウェブマスターとして従事。10年より現職。グループ会社や新規事業の技術支援を行いながら、技術PRや新卒エンジニアの採用・育成なども手掛ける


東日本大震災をきっかけに、緊急事態への準備を進めてきた

新型コロナウイルスの感染拡大に備え、1月27日から国内上場企業の中でいち早く大規模な在宅勤務体制へ移行したGMOインターネットグループ。

5月末に緊急事態宣言が解除されてからは、週1日から3日を目安に在宅勤務体制を続けながら出社勤務を再開していたが、感染者が再び増加し始めたことを受けて、東京の拠点では7月15日から、大阪や福岡の拠点では同月28日から再び原則在宅勤務へと切り替えている。

このように状況の変化に合わせた迅速かつ柔軟な対応でリモートワークを展開しているGMO。同社のエンジニアもコロナ禍以降は在宅中心で仕事を進めてきた。だが稲守さんによれば、リモートワークになっても仕事に支障が出ることはなかったという。

「GMOでは2011年の東日本大震災をきっかけに『緊急事態下でもビジネスを止めることなく、お客さまにサービスを提供し続けるにはどうすればいいか』について社内で議論が始まり、BCP(事業継続計画)が作成されました。それにより、年に一度、震災訓練の一環として在宅勤務の訓練をするなどの備えをしてきたので、今回も特に問題なくリモートワークに全面移行できました。

もともとエンジニアは普段からニアショア開発やオフショア開発を行っているので、遠隔での共同作業に慣れています。福岡県北九州市にシステム開発や保守運用、SOC機能を担う中心拠点がある他、国内各地に開発拠点がありますし、私が所属する次世代システム研究室ではベトナムに3カ所あるラボと連携して研究開発やシステム開発を行っています。

ですから、例えば私が大阪に出張している時に、大阪と渋谷とホーチミンの3拠点をつないでリモートでミーティングをする、といったことは以前からよくありました。その意味では在宅勤務になってもエンジニアたちの基本的な働き方に変わりはないと思います」

GMO稲守貴久さん
※写真はイベント登壇時のもの

「タスクを属人化させない」開発チームの徹底したこだわり

とはいえエンジニアがチームでものづくりを進めるには、高度な情報共有や連携作業が必要となる場面も多い。

対面でのコミュニケーションができなくなることによって、これらの精度が下がり、ミスやエラーにつながりやすくなるリスクはないのだろうか。

「情報共有についても、コロナ禍以前からオンラインで完結できる仕組みをつくっていたので問題ありません。基本的にほぼ全てのサービス仕様がWikiなどのツールでドキュメント化され、対面でミーティングする時もみんながそれをオンライン上で見ながら進めていました。そのため、リモートになっても共有する情報の精度やレベルは変わりません。

さらに、リリースフローについても品質を担保する仕組みが以前から運用されているので、エンジニアがやるべきことはオンラインでもオフラインでも同じです」

もともと開発チームはミーティングの頻度が高く、在宅勤務になってからも毎朝10分から15分の「朝会」がリモートで開かれ、メンバーは困っていることがあればすぐ相談できる。その日にやるべきタスクも朝会で共有されるので、抜け漏れがあればそこでチェックできる。

“タスクを属人化させない”というのは、今の時代必須の考え方ではないでしょうか。弊社ではチームのタスクは管理ツールを使ってチケット化し、一覧できるようにしています。

例えばシステムの機能修正だったら、『HTML修正』『CSS修正』『PHP構文修正』などのタスクを一つ一つチケット化する。それを見ながら『CSS修正は今どうなってます?』という感じで、お互いに随時ステータスの確認をしています。手が空いたメンバーがいると『私、このチケットやります』と手を挙げてくれることも多いので助かりますね」

チャットコミュニケーションに独自のルール設ける理由

すでにコロナ禍以前からリモートワークが特別なものではなくなっていたGMOだが、在宅勤務が本格化してからは、お互いに離れた場所にいても円滑にコミュニケーションをとるためのルールや仕組みづくりがさらに進んだ。

「遠隔での仕事に慣れているとはいえ、直接顔を合わせる機会は減ったわけですからコミュニケーションの総量は減ります。今年1月に全社的な在宅勤務が始まって1カ月後に社内アンケートを行ったところ、やはりコミュニケーション不足を心配する声が上がってきました。この課題をできるだけ解消するため、部門やチームごとにコミュニケーションの取り方を試行錯誤しながら、それぞれの組織に合ったルールづくりをしています」

例えばGMOインターネットのシステム本部では、「同じ話題で5回以上チャットが続いたら、ビデオ会議システムに切り替える」という独自のルールを定めている。

「チャットには会話の内容が明文化されるメリットがありますが、その一方で文字だけの会話は齟齬が生じやすいというデメリットもあります。そもそもリアルな会話でも、話が食い違うことってよくありますよね。ラフに作ればいいという意味で『これ、ちょっと作っておいて』と頼んだら、相手は3日間かけて作り込んでしまうとか。

対面でも言葉の誤解は生じるわけで、チャットのみならなおさら齟齬が起きやすい。特に細かいやりとりをする場合は延々とチャットするより、一度ビデオ会議システムにつないでお互いの顔を見て話しながら、同時に議事録をメモで残して共有する方が確実です。

そもそも“ちょっと”といった曖昧な言い方が誤解を生むので、私はいつもメンバーたちに必ず数字で伝えるようにと話しています。『ちょっと作っておいて』ではなく、『30分でラフに作ってみて』と伝える。こうした小さな積み重ねが重要だと思っています」

GMO稲守貴久さん
※写真はイベント登壇時のもの

なおビデオ会議システムでコミュニケーションする時は、画面越しでも必ず相手の目を見て話すことをルールにしているそうだ。このようにコミュニケーションの密度を高める工夫があるからこそ、リモートワークが円滑に回るのだろう。

また、稲守さんはリモートワーク中のチャットコミュニケーションにおいて「若手は待ちの姿勢ではいけない」と話す。

「そもそも先輩や上司が“若手が発言しやすい雰囲気”をつくってあげるというのは大前提なのですが、若手の皆さんも空気を読まずにチャットすべきだとも思っています。エンジニアだと特にチャットで明文化するコミュニケーションの方が得意という人が多いはずなので、自分の考えやアイデアはどんどん発信していきましょう」

実際は、「コミュニケーション貯金」を切り崩しているだけかもしれない

また稲守さんのチームでは、リモートでの雑談を促進する場を積極的につくっている。ビデオ会議システム上に「ランチミーティング」「お茶会」などの部屋をつくり、メンバーが集まって会話を楽しむ仕組みだ。

「みんなでご飯を食べたりお茶を飲んだりしながら、仕事の話をすることもあれば、プライベートの話になったりもする。対面での会話がなかなかできない今、リモートで集まって雑談する場はとても大切です。私は雑談が無駄だとは全く思わないし、むしろお互いの人となりを知って交流を深めるための大事な時間だと考えています。他の部門でも、毎朝ラジオ体操をする部屋や金曜の夜にゲーム大会をする部屋などがつくられています。

もともとGMOでは、毎週金曜の夜、社内にある食堂とカフェ機能を備えたコミュニケーションスペースに従業員が自由に集まって、お酒を飲みながらコミュニケーションできるバータイムが設けられていました。私もそこでいろいろな部門の人と話す機会があり、そこでの会話から『今度一緒にこんなことをやってみましょう』と新しい仕事の話につながることも多かった。リモートでの雑談もそんなふうに機能したらいいなと思っています」

GMO稲守貴久さん
コロナ禍以前のコミュニケーションスペースでのバータイムの様子

他社から見ればうらやましいほどリモートワークが順調に機能しているGMOだが、課題が全くないわけではないと稲守さんは話す。

「私たちは今、“コミュニケーション貯金”を切り崩しているのかもしれない。これまで顔を合わせて仕事をしながら蓄積してきた信頼関係があるから目の前ではうまくいっているように見えるが、その貯金がなくなった時にどうなるか。これは長期的に見て大きな課題になる可能性があると考えています。

加えて、そもそもコミュニケーション貯金がない新卒のメンバーはどうするか。新卒研修もリモートだったので、今年入社したメンバーは現時点でまだ一度も全員が同じ場所に集まったことがない。やはりメンバーたちも不安はあるだろうと思います。今年はインターンシップもオンラインで実施する予定ですが、本来なら学生が会社へ来て雰囲気を知ることが大事なのに、オンラインだけでいいのかという点も今悩んでいます。だから私としては順調どころか、むしろ課題しかない(笑)

それでも新型コロナウイルスの状況が今後どうなるかは分かりませんし、弊社ではこの状況が最低でも2年は続くだろうという経営判断のもと、長い戦いをどう生き抜いていくかを試行錯誤しているところです。私たちの仕事は品質の良いサービスをできるだけ早く提供してお客さまに笑顔になってもらうことであり、情報のドキュメント化や、5回連続のチャット回数の制限などのルールはあくまでその手段でしかない。仕事のやり方がオンラインだろうとオフラインだろうと、大事なことは目の前の仕事の先にいるお客さまのために何をすべきかを考えることではないでしょうか」

取材・文/塚田有香 写真提供/GMOインターネット株式会社

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