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VRだけじゃない!『オンライン・ファースト』要約で超スマート社会を実現する新しい技術を知ろう

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社会のオンライン化が急速に進んだことで、非効率な業務フローの見直しや遠隔コミュニケーションの可能性に注目が集まった。DXに携わるエンジニアも多いだろう。しかし、日本では旧来の業務をそのまま踏襲したオンライン化が主流となっており、本来のメリットを享受しきれないでいる。Withコロナの世界で真のオンライン化を進めるために、知っておきたいことをまとめた。

オンライン・ファースト書影

『オンライン・ファースト コロナ禍で進展した情報社会を元に戻さないために』

著者:東京大学情報理工学系研究科 (編)/出版社:東京大学出版会/定価:2,700円(税抜)/出版日:2020年12月18日

Book Review

コロナ禍で生活は大きく変化した。自由に移動できず、人とのつながりが制限されるなど、Withコロナの時代は快適ではない。しかし、社会のオンライン化が急速に進んだことで、非効率な業務フローの見直しや遠隔でのコミュニケーションの可能性に注目が集まった。

リモートワークへシフトする人が増えたことで、オンラインで行われる会議も急増した。オンライン会議では相手の視線やちょっとした仕草から読み取れるコミュニケーションのヒントが少なく、相手の存在を近くに感じることができないため、やりにくさもある。一方で、会議のための移動時間がないことから、効率的に商談を行える。さらに、画面上で資料の共有が手軽にできるなど、コミュニケーションがスムーズになるシーンもある。講義をオンライン化したある大学では、チャット機能を使ったことで学生からの質問が増え、教授と学生のコミュニケーションのハードルが低くなったことがわかったという。

オンライン化によるメリットを感じる一方で、電子データで送られた書類を印刷し、押印するといった非効率的な手続きを見直せていない企業も多いはずだ。サイバー空間を単なる情報伝達の手段としてのみ利用することは、真のオンライン化とはいえない。
情報社会への道は開かれている。よりよい社会へシフトするためには、社会のオンライン化によって生み出される新しい価値に気づき、その恩恵を享受する必要がある。本書は情報社会への大きな一歩を踏み出すための重要な指南書となるはずだ。

コロナが社会のスマート化を加速させた

超スマート社会への道

他人との距離を保つ必要があるコロナ禍において、社会活動の継続を可能としたのが情報通信技術だ。東日本大震災など、今までも多くの天災に対して重要な働きをしてきたが、今回の感染症対策において、特に大きな役割を果たした。

これからの情報社会の在り方として、「超スマート社会」(Society5.0)が挙げられる。時空間とサイバー空間が高度に融合した社会を指す。遠隔医療、介護ロボット、自動運転、安定したエネルギー供給と温暖化防止、防災システム、スマート工場、持続可能な産業社会、スムーズな行政サービスなどが具体的な応用例だ。単純なサービス提供にとどまらず、曖昧で抽象的な問い合わせに対して、決められた時間内に最良の回答を出すことがシステム側に求められる。

情報社会では全てのデータを等しく「数」(2進数)として扱うため、一つの情報ネットワークで多様な情報をやりとりすることができる。それは領域の越境を促し、行政、産業、教育、文化、娯楽の連携・一体化が進む。学問・文化では、理学、工学、農学、政治、経済、文学・文芸、哲学、エンタメなど、それぞれの分野を尊重しつつも越境の動きが広がっている。

このように、情報化は身近なところから人間社会の在り方を変革している。Amazonなどのネット通販や、YouTubeによる情報共有などにみられるように、世界のグローバル化を促すものでもあるのだ。

これからの情報教育

残念ながら、日本では旧来の業務をそのまま踏襲したオンライン化が主流だ。業務の効率化と高度化といった、本来のオンライン化の意味や目的を理解できていないためである。情報システムを導入する際は、非専門家であるユーザ側が情報システムに関するリテラシーを有していることが求められる。

情報教育は子どもだけでなく大人にも必要である。特に大人への教育はプライドの高さや忙しさなどが邪魔をするため、とても難しい。特別定額給付金をめぐる詐欺事件のように、情報教育を受けないと痛い目にあうという教訓が、大人に教育を促すきっかけとなりうる。

本書で紹介される楠正憲CIO補佐官の『情報処理』への寄稿記事によると、システム構築の前に様式が定まっていることから、電子申請であっても紙の申請書と同様の項目で、印刷すれば郵送申請と同様に処理できるよう設計されていた。そのため、手作業による照合をなくすことができず、「10万円がなかなかもらえない」という事態が引き起こされた。

ほかにも、親子で楽しめるプログラミング教室は大人に教育を促すきっかけとなるだろう。既に情報教育のコンテンツも方法論も十分にある。これからは情報教育に人々を向かわせることが必要となってくる。

情報化の社会によるポジティブな動き

触れずに触り、操作できる世界

コロナ禍において、人間同士あるいは人間とモノとの物理的近接をできる限り避けるという考え方が定着した。それは、人々が現実とVR(Virtual Reality)の世界を行き来し、物理的な接触なしに触覚を再現できる、現実と同等以上のインタラクションが体験できるという情報化の発展を加速させるだろう。

エレベーターのボタンといった接触式インターフェースは、ウイルスの感染経路として意識されるようになった。たとえば、タッチパネルの視覚情報を空中映像で提示し、それに触れたときの触感を再現できれば、デバイスに直接触れずに操作が可能だ。空中で触覚を提示するインタラクション技術は「空中ハプティクス」と呼ばれ、情報理工学系研究科で生まれた技術である。

グローブ越しに触るなど、触り方に何らかの制約を加えれば、素手での感覚をある程度再現できる。触覚は、脳内において情動や精神の安定などを司る部位(島皮質)の近くで処理される。接触を疑似体験できるデバイスが普及すれば、子育て中のスキンシップやリラックスを促すマッサージへの活用が期待できる。

非接触インターフェースのニーズが高まると、新技術の推進が後押しされる。VRでの身体接触は、活用次第では効果的に人々を励ましたり、リラックスさせたりできると考えられる。日常の健康増進や生産性・モチベーション向上のための新しいチャンネルになるだろう。

広がるポスト身体社会への動き

現在のコンピュータに至る情報通信技術の発展、すなわち情報化は人間の知的生産能力の増強に寄与してきた。情報化の流れにおいては、生産性低下の要因となる身体を排除しようとする「脱身体化」が加速してきた。しかしコロナ禍を受け、VRなどの技術に見られるような、脱身体化したシステムに身体性を取り戻す「ポスト身体社会」のための技術が広がっている。

たとえば、新たな身体性として感覚能力や身体能力を強化した「超身体」、複数の人が一つの身体を操る「合体」などの実現に向けて、身体性への理解を深めつつ、基盤技術を構築するプロジェクトが進んでいる。そのうちの一つ、慶応義塾大学と共同開発した『Fusion』は、ユーザが背中に装着した軽量のロボットを通じて、遠隔地にいる指示者がユーザと視点や身体を共有しながら作業できるシステムである。密を避けての共同作業を可能にした。

また、情報技術が進展し、環境が変化したことで、今までの能力の考え方も変化している。オンライン講義中に匿名のコメントシステムを活用したことで、対面の講義よりも学生との活発な議論が展開された。学生のなかには、興味のある講義を複数、同時視聴している学生もいたという。コミュニケーション能力とは従来、主に対面での会話能力を指してきた。しかし情報空間でのコミュニケーション能力は、数々のオンラインツールを使いこなし、同時に多数の相手と重層的にやりとりするスキルを指すようになるのかもしれない。

【必読ポイント!】 情報社会を支える新しい技術

サイバーフィジカルアーキテクチャの実現に向けて

「サイバーフィジカルシステム」とは、サイバー空間(情報世界)とフィジカル空間(物理世界)が高度なインタラクションを行うシステムのことである。サイバー空間が飛躍的に成長したことで、大量の情報が世界を駆け巡るようになった。フィジカル空間においては、コロナ禍が発生し、外出自粛といった行動変容が引き起こされた。

ソーシャルディスタンスを確保するというフィジカル空間での制約により、サイバーフィジカルシステムへの移行は大きく進んだ。よりよい社会へと前進するためには、サイバー空間とフィジカル空間の概念的構造と機能的動作である、サイバーフィジカルアーキテクチャを検討し続ける必要がある。

サイバーフィジカルアーキテクチャの実現に向けて、まず求められるのは情報技術の現状と今後の進展の正しい理解である。すべての人が、サイバーフィジカルシステムがもたらす新たな価値に気づける社会になっている必要があるのだ。

続いて必要なのは、いつでも信頼して使えるインフラとしてのサイバー空間の実現だ。ネットワーク回線速度は運任せではなく、電気や水道などのように高い信頼性に基づくべきだ。また、ネットワーク上での漏洩を避けるため、機密情報は印刷して倉庫にしまうといったやり方では、サイバーフィジカルシステムが機能しない。セキュリティをいかに担保していくか、重要な課題である。

ポストコロナを支えるAI技術

Edge AI(端末機器組込み人工知能処理)やロボットへの人工知能応用が盛んに研究されるなか、実世界の融合と人間性の尊重は重要な課題である。バイアス等が懸念される人工知能のシステム判断を人間が認識し、信頼できるものとすることが重要とされ、XAI(eXplainable AI:説明可能AI)の研究も進められている。

内閣府が作成し、OECDやG20での合意に反映された「人間中心のAI社会原則」では、(1)人間の尊厳が尊重される社会(Dignity)、(2)多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会(Diversity&Inclusion)、(3)持続性ある社会(Sustainability)の三つの価値を理念として掲げた。その実現を追求する社会を構築すべきとしている。
人工知能やロボットの技術を活用すれば身体的、精神的にハンデを負った人々などの社会活動を支援できるため、社会のオンライン化はバリアフリーを一層普及させるだろう。

さらに、社会的合意形成のための人工知能研究も進んでいる。膨大かつ多様な意見とその文脈・背景情報を突き合わせることで合意形成に至るプロセスを支援できるかもしれない。近い将来、投票や代表民主制を超えた、より理想的な意思決定の方式が構築できるかもしれない。

VRで実現される新しいコミュニケーション

VRとは、オリジナルではないが、機能としての本質が同一であるような環境を、ユーザの感覚受容器や脳を刺激することで作り出す情報技術である。コロナ禍で広く使われるようになったビデオチャットは、バーチャルにメイクをした顔が表示されるシステムが開発されるなど、現実を超えた対話もできるようになった。

一方、対人コミュニケーションにおけるソーシャルタッチには、利他的な行動・判断の促進や、ストレス低下や共感の誘発といった効果がある。こうした効果を得るには、ビデオチャットのコミュニケーションだけでは不十分だといわれる。

遠隔のコミュニケーションに身体性を取り入れる動きの一つが、テレプレゼンス、テレイグジスタンスにおけるロボットアバタ(代理身体)の活用だ。VR環境では、自身の身体の代わりとして自由に選んだアバタでのコミュニケーションができる。自身と異なる特性を持つアバタを操る際には、見た目の変化がコミュニケーション様式を変化させるというプロテウス効果が現れることもある。たとえば、魅力的な容姿のアバタを用いることで、コミュニケーションが普段よりも積極的になるといった変化だ。

アバタがもたらすそうしたコミュニケーションの特徴を活かす取り組みも増えてきた。家庭内暴力の加害者に被害者視点で体験をさせ、被害者の感情を読み取る能力を正常に近づけるといった、プログラムへの活用も検討されている。

遠隔コミュニケーションを支えるアウェアネス

一方、テレワークが進んでいる業種においては、同じオフィスで働いていれば偶然起こるようなカジュアルな会話が減り、孤独や不安を感じる人が増えるという問題が生じた。オンライン会議の連続に疲労を感じている人も多く、「Zoom疲れ(Zoom fatigue)」も指摘されている。

カジュアルな遠隔コミュニケーションを促進するうえで重要となるのは、「アウェアネス(awareness)」という考え方だ。ふとしたきっかけで他人の存在や行動に気づける行為である。適切にアウェアネスが支援されていれば、カジュアルな対話を目的としたコミュニケーションが自然と行える可能性がある。身に着けたデバイスの振動や香りを相互に伝え合う、食事をしているという情報だけを伝え合う――。そうした些細なやり取りを通じて気持ちのつながりを支援できると主張する研究もある。

著者情報

東京大学情報理工学系研究科

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