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「キャリアを自由に選べる時代」にエンジニアが忘れてはいけない”選択的停滞”の心構え

働き方

    予期せぬ停滞?意図した休憩?

    男性エンジニア、「キャリアの踊り場」を行く

    多様なキャリアの選択肢が取れる時代になったとは言え、常に新しい技術を学び続けなければならないエンジニアにとって、「キャリアの一時離脱」は勇気がいるもの。 しかし、どんなキャリアになったとしても、そこにはいろいろな“やりよう”があるはず。 さまざまな「一時離脱、停滞期(=キャリアの踊り場)」を経験したエンジニアの事例から、前向きにキャリアを選択していくヒントを探る。

    AI、Fintech、DXと、さまざまなトレンドが相次ぎ生まれる中で、ITエンジニアは今、完全に「売り手市場」の状態にある。やり方次第で、自分の望むキャリアを築きやすい状況にあると言えるのではないだろうか。

    ライフステージに合わせて働くペースを変えたり、休職や退職をして「学び直し」や「やりたいこと探し」をしたりする人の事例も、SNSなどを通じて見掛けるようになっている。

    そんな“自由な時代”に、自分らしいキャリアを築ける人とそうでない人の違いはどこにあるのだろうか。ミドルキャリアのITエンジニアを始め、多くのビジネスパーソンのキャリアコンサルティングを行ってきた後藤和弥さんに聞いた。

    プロフィール画像

    株式会社キャリアデザインセンター
    type転職エージェント ミドル 企画部部長
    後藤和弥さん

    新卒で入社した求人情報誌営業職を2年で飽き、人材紹介会社立ち上げに参画。人材派遣会社支店長、人事責任者を経て現職に転職。2021年3月までキャリアアドバイザーの統括を務め、同年4月からハイクラス領域専任となる。社内屈指の相談実績を誇り、業界・職種を問わず幅広い分野の転職アドバイスと、面接対策で高い評価と実績がある。経営・組織運営、採用等マネジメント実務の豊富な経験を活かし、ハイクラス人材の経歴評価や面接アドバイスを得意とする。転職者自身の「面接戦闘力」をUPさせることがポリシー

    そもそも本当に自由な時代なのか

    ──エンジニアにとって「キャリアを選べる時代」になったと言われますが、本当でしょうか?

    まず「選べる」以前に「選ばざるを得ない」側面があると思います。

    いわゆる男女平等を求める機運が高まったことにより、男性であっても育児や介護に参加するのは当たり前の時代になりました。以前であれば、ライフイベントによって働き方を見直すことを迫られていたのは、主に女性でした。それが今では、男性であっても同様に働き方を見直す必要が出てきています。

    一方でもちろん、そうした必要に合わせて働き方を「選べる」時代になってきているという側面もあります。たとえば、男性の育休制度を設ける企業も増えてきていますよね。

    育休座談会の紹介画像

    育休取得経験のある3人の男性エンジニアによる座談会は「子育てあるある」トークで盛り上がった「MTGより娘とのお風呂を優先」「みんなもっと休もう」育休が変えたエンジニアたちの価値観

    加えて、新型コロナウイルス感染症という「外圧」により、テレワークが一般的になった影響も小さくないでしょう。

    これまでは、仮にテレワークという制度はあったとしても、「会社に来ないで本当に仕事ができるのか?」という懐疑的な視線が根強く残っていました。それが今回の強制的なステイホーム期間を経たことで、「仕事をするのに必ずしも職場に集まる必要はない」という認識が、会社や個人の間で共有されることになった。これにより、取り得る働き方やキャリアの自由度は格段に上がりました。

    ──たしかに、コロナで働き方の“常識”が大きく変わりましたよね。

    しかし、自由度が上がるということは、それだけ一人一人が主体的に考えなければならないことが増えるということでもあります。

    もともと「いいキャリア」というのは人それぞれであって、これという「正解」は存在しないもの。ですが、現実的に取り得る選択肢が増えたことで「自分にとっての理想のキャリアとは何か」「どうすれば理想のキャリアを築けるか」といったことと、真剣に向き合う必要性が増していると言えるでしょう。

    特にエンジニアに関していえば、大手のSIやITコンサルなどが主流だった時代は、開発手法としてはウォーターフォール型が一般的でした。その中には、プロダクトマネジャー、設計、開発、プログラミングという明確な役割分担があり、エンジニアがどういう階段を登ってキャリアを築いていくか、という道筋も明確でした。

    けれども、アジャイル型の開発やクラウドの利用が一般的になったことにより、その常識は崩れました。エンジニアのキャリアパスは以前よりはるかに多様化していて、描きにくくなったことは間違いありません。

    「正解」のない時代に大切なこと

    ──そんな正解のない時代に、いいキャリアを築くために必要なことは?

    自分にとって何が大事か、すなわち自分の価値観を見極めることです。その際に考えるべきポイントは、たとえば以下のようなことが挙げられます。

    ・自分の興味(没頭できること、チャレンジしたいこと)
    ・収入
    ・労働時間
    ・勤務地
    ・家族の状況

    気を付けなければならないのは、自分の希望すべてを満たすような選択肢は普通はないということ。自分にとって何が大事かを考えることは「自分は何を捨てられるか」を考えることでもあるのです。

    例えば、沖縄などの自然豊かな環境で暮らすことが大事なのであれば、収入はある程度捨てても構わないと割り切る必要があるかもしれません。

    もちろん、その価値基準はライフステージによっても変わってきますから、継続的に見直す必要もあります。介護で実家に帰る必要が出てくれば、勤務地の条件の重要度が上がってくる。職場の環境が原因で病気になったのであれば、そこから離れることが最重要になる、といった具合です。

    ──その時々で、自分にとっての最善は何かを考える必要がある。

    そういうことです。要は、自分が納得できればいいんですよ。逆に言えば、間違ってもメディアスターやSNSに踊らされてはいけません。

    この『エンジニアtype』がまさにそうですが(笑)、メディアはスター経営者やスターエンジニアを華々しく取り上げるじゃないですか。そこから学ぶのはいいけれど、彼らを目指そうと思ってはダメ。

    例えばサッカーの本田圭佑さん。彼のように夢を抱き、何でも目標から逆算して生きる姿はとてもカッコいいとは思いますが、「そうでなきゃカッコ悪い」とは私は思いません。全ての皆さんが仕事において、彼のような存在を目指す必要はありません。「本田選手は本田選手、自分は自分」でいい。そうでなきゃいけない、という唯一の姿なんてものはないんです。

    あるいは、情報が溢れる時代であるだけに、SNSやブログなどで言われていることを鵜呑みにしないことも大切です。

    転職相談に訪れる人の中に、「自社サービスの方がSESよりもやりがいがある」なんてブログを見て、自分も自社サービスをやりたいということを仰る人がいます。いくつもの自社サービスを持っている大企業ならいいですが、事業の柱が一つしかない会社だと、それがコケたら会社ごとコケてしまう。そこには相当なリスクがあることも引き受けなければいけません。

    突然、会社が潰れて放り出されるなんてことも当たり前にあり得る時代です。自分のキャリアを会社に預けていては、そこで詰んでしまう。自分のキャリアは、あくまで自分の価値観に照らして考えるべきだということです。

    アメリカで無職にの紹介画像

    ある日突然、支社のクローズを告げられ、広いアメリカの地に一人放り出されることになったエンジニアの経験談。ある日突然アメリカで無職に…米Amazon本社のPMに「空白の6カ月」が教えてくれたもの

    休職して「学び直し」はアリかナシか

    ──IT技術の急激な進化もあって、一度実務から離れて、大学などで学び直そうという動きも増えています。

    育児や介護などの理由以外に、学び直しのために働き方を見直す人もたしかに出てきていますね。「人生100年時代」に長期的な視点でキャリアを築いていくには、学び直しはとても重要です。大学や大学院に入り直すというのも、とても有意義だと思います。

    その際は、時代が移り変わっても廃れない、なるべく上位の概念を学ぶべきです。

    ──上位の概念?

    単純な技術のキャッチアップのように、他の多くのエンジニアがやっているのと同じことに時間を注いでも、意味がありません。

    今は「DXの時代」と言われますが、要はテクノロジーやデータを使ってビジネスをどのように変えていくかを考えることが大切で、不足しているのはその分野のエンジニアなんです。学び直しをするのであれば、こうした「上位概念」に関する学習ができる環境に身を置くことが重要だと思います。

    技術トレンドの変化は速いですが、本質的なことを学べば、そこは恐れる必要はありません。一方で気を付けないといけないのは、学び直しが「逃げ」の口実になっていないか、ということです。

    ──逃げの口実、ですか。

    キャリアの自由度が上がったといっても、あれもこれもとつまみ食いのように転職を繰り返していたら、実績にもスキルアップにもつながりません。それと同じで、学び直しが「今向き合うべき仕事から離れたいことの隠れ蓑になっていないか」ということは、ぜひ考えてほしいと思います。

    現場から離れることには、当然リスクもあります。今は夜間の社会人大学もありますから、「それって本当に仕事をやめなければできないの?」ということを考えてからでも、遅くはありません。

    思い切って休むことでキャリアを俯瞰する手も

    ──転職と一緒で、目の前の現実から逃げてばかりではダメということですね。

    その通りです。とはいえ、私は「逃げる」ことを全否定しているわけではありません。逆に、逃げることが有効なケースもあります。

    たとえば、うつ病などで苦しいのであれば、そこで頑張る必要はありません。「会社に貢献できないのなら、いさぎよく辞めよう」なんて思う必要もないです。そういう場合には、休職その他の会社の制度をちゃんと行使して、どんどん「逃げる」べき。

    無理をして頑張っても長期的に見ればマイナスしかありません。まずはしっかりと治すことが大切。これは、家族の介護などの場合も同様です。

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    適応障害で2カ月半の休職。一度は立ち止まったエンジニアが「よろず屋フリーランス」になれたわけでは、「限界まで我慢しない」ことの大切さが語られた

    そうやってひと休みしたことが、自分のキャリアを俯瞰して見ることになり、その先のキャリアにつながる可能性もあります。落ち着いてきたタイミングで、できた時間を学び直しに使うのも、次のステップに進むためには有効でしょう。もちろん、大学などへ行かずとも自分でできる資格取得の勉強なんかでも構いません。

    「精神的に疲れたな」と感じているなら、一度「バカンス」を挟んで、その間に次の会社を探すという選択肢だってあるのです。

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    「自分探し」で仕事辞めるってアリ? 7年さまよい続けたエンジニアはインタビューで、「エンジニアを長く続ける上で、絶対に必要な期間だった」と振り返る

    ──最後に、「とはいえ、キャリアの停滞はやっぱり不安」と感じてしまう場合、どう考えたらよいでしょうか?

    私が以前お会いしたエンジニアの方は、あるアパレル大手企業のITサービスを担当している優秀な方でしたが、自ら退職してベンチャーへ移る決断をされました。大企業ならではの、新しいことに挑戦しにくいところに不満を感じたから、というのがその理由でした。

    そのことにより、給与面は大きく下がったわけです。はたから見れば、それはキャリアの停滞に見えるかもしれません。ですが、彼は自らの価値観に照らした時に必要なことだと考えて、決断したのでしょう。

    自分の選んだ「踊り場」が、その後の自分の人生にどんな影響をもたらすかは、もちろん蓋を開けてみなければ分からないところはあります。人生にとって何が正解かは分かりませんから。

    ですが、その彼のように、瞬間瞬間で自分にとって本当に大切なものは何かと考え、それを主体的に掴み取りにいく。そういう生き方は幸せだと言っていいのではないかと思います。

    取材・文/高田秀樹 企画・編集/根本愛美(編集部)

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