今年イギリス最大の若者向け科学技術コンテストで優勝した18歳の高校生、菅野楓さんが、7月から開催されている『BIT VALLEY 2021 』の第2回「#02 Hello, tech! 『触れて、学んで、楽しむ』」に登壇。
「【キッズプログラマーの8年後】小4で元素図鑑アプリを作った私が、UK Young Engineer of the Year 2021を受賞するまで」の講演を行った。
これまでにも「U-22プログラミングコンテスト」やアジアのアプリ開発コンテストで受賞するなど華々しい経歴をいくつも収めており、将来の活躍も期待される彼女だが、10歳でプログラミングを始めてからどのようにしてここまでの成長を遂げたのだろうか。
菅野楓さん
2013年、10歳でTech Kids Schoolに入学し、「サイバーエージェントキッズプログラマー奨学金」初代特待生としてプログラミングを学ぶ。同年にアプリ「元素図鑑」が当時小学生初となる史上最年少で「U-22プログラミングコンテスト」入賞(W受賞)。17年、同コンテストで経済産業大臣賞受賞。同年、未踏ジュニアスーパークリエーターに認定。18年、孫正義育英財団1期生に採択。コンピューティング・スカラシップでイギリス留学。19年、アジアのアプリ開発コンテスト「AppJamming Summit」日本代表選手として出場し、中学生部門2位とMostCreative賞のW受賞。20年、パックツアーコンサルティングシステムの開発が、未踏IT人材発掘・育成事業に採択される。グローバルサイエンスキャンパス(GSC)全国受講生研究発表会で優秀賞受賞。21年、イギリス最大の若者向け科学技術コンテスト「The Big Bang Competition 」で優勝(UK Young Engineer of the Year 2021)。自然言語処理などの技術を活用し、言語や文学、旅行など興味分野への研究を続ける
小中学校時代に学んだプログラミングの前提知識
小学校4年生の時に1期生としてTech Kids Schoolに入学し、プログラミングを学び始めました。教室にはカラフルなテーブルが並んでおり、外国人風のニックネームが書かれたネームプレートを胸に付けたメンターや校長が、各テーブルを回りながら私たちに声を掛けてくれたのをよく覚えています。
いくつかのコースの中でも私はオブジェクティブ仕様を学ぶコースを選択。最初の作品として『元素図鑑』というアプリを開発しました。元素の情報を見られることに加え、パズルやかるたといったゲームを通して元素を覚えられるというものです。
元素図鑑
元素を分かりやすく解説した化学アプリ。元素記号をタップすると、元素番号や解説、元素ゆるキャラなどが表示され、一目で元素の特性が分かる。周期表を埋める「元素パズル」や、場所を当てる「元素カルタ」などのゲームも
>>https://techkidsschool.jp/school/archivements/suganokaede/
せっかく作ったのでこれを「U-22 プログラミング・コンテスト」に応募したところ、大会史上初、小学生での入賞をしました。賞品でプログラミングができるドローンをいただいたのですが、これまではアプリ開発しかしていなかったので、プログラミングでできることはまだまだあるのだ と、世界の広がりを感じましたね。
その後もスクールを通じて歴史アプリや気象アプリなど、5、6種類のアプリを開発。PHPを勉強してWebサービスも作り始めました。
Weathetrix(ウェザトリクス)
全世界の天気や気温、湿度、降水量、日の出、日の入り、服装指数、体感温度などが分かる気象アプリ
>>https://techkidsschool.jp/school/archivements/suganokaede/
中学生になると、独創的アイデアと卓越した技術を持つ小中高生クリエーターを対象にした支援プログラム「未踏ジュニア」に参加し、形態素解析を使った映画脚本の感情分析を行いました。
また、香港のプログラミング教室「First Code Academy」が主催する、アジアの子どもたちを対象としたアプリ開発コンテスト「AppJamming Summit」に日本代表選手として出場。海外のレストランで出てくるメニュー表のメニュー名をスマートフォンで撮影すると、それがどんな料理なのかが写真で表示されるというAndroidアプリを開発し、決勝では初めて英語でのプレゼンテーションにも挑戦しました。
小中学校での経験を振り返り、プログラミングにまつわる学びがいくつもありました。
一つは「物事は因果関係の集まりであり、必ず言語化できること 」。そして、「コンピューターにその因果関係を理解させることによって、さまざまな問題解決ができること 」です。例えば私は数学の計算が苦手ですが、処理をコンピューターにアウトソースすることによって、そんな私でも難しい問題が簡単に解けるようになります。
また、もう一つはスクールや多くのプログラミングコンテストでは、技術力そのものを競うのではなく、生活で起こる課題や社会問題を解決するアイデアが重要視されている ということ。
テックキッズスクールでもプロジェクトは必ず「課題を設定する→解決方法を考える→手順を言語化する→開発して試す→修正する→結果をプレゼンする」というサイクルで進めます。知識量や手法だけではなく、解決するためのアプローチ方法を妄想し、手を動かしたり、足で情報を稼いだりすることが大切なのだと知ることができました。
イギリス最大の科学技術コンテストで優勝
ここ2年ほどは、旅行サービスの開発を継続しています。きっかけは、未踏ジュニアの運営母体である独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が主催・実施する「2020年度未踏IT人材発掘・育成事業」にサービス提案を提出したところ、採択されたことです。
この未踏事業のテーマは「情報科学による社会問題の解決」。開発を進める過程で感じたのは、システムそのものよりも、「どうやってそれを社会実装するか 」の重要性です。1人でデータとアルゴリズムにひたすら向き合うというより、関係者の立場と利害関係を考慮して、それを世に出すまでの計画を考える必要がありました。
また昨年は、国立研究開発法人科学技術振興機構によるグローバルサイエンスキャンパスにも参加。これは、科学技術振興機構と全国の大学や研究機関が科学技術人材を育成するために、高校生に研究プログラムを提示する活動です。
私が参加したのは情報科学分野のプログラムで、自然言語処理について大学教授の方々からアドバイスをいただきました。大学生にならないと会えないような研究者の方のお話を直に聞けたのは大変貴重でしたし、情報科学という学問の領域について、より理解を深めることができましたね。
今年は私の研究の成果をイギリス最大の18歳以下向け科学技術コンテスト「The Big Bang Competition 」で発表し、優勝してUK young enginner of the year 2021に選ばれました。これは世界最大級の科学コンテストISEF(アイセフ)のイギリス代表を選ぶ予選でもあったのですが、コロナの影響で世界大会への出場がかなわなかったのは残念です。
ちなみに、コンテストの結果発表が行われた日は、国際的な女性エンジニアの日(International Women in Engineering Day)でもあり、BBCのラジオ番組『Woman’s Hour 』の取材も受けました。世界的な番組に取り上げられたことをきっかけに、理系の女性が少ないのは日本だけの問題ではない ことを実感しました。
日本とイギリスの経験で学んだ感情に向き合う重要性
コンテスト向けの開発をしていた期間と同時期にイギリスの高校に留学し、私の生活は大きく変化しました。留学期間を通して、以前よりも自分を客観視できるようになったと感じます。
現在在籍しているラグビースクールは、ロンドンから電車で1時間ほどのラグビーという街にあるパブリック・スクール。その名の通り、スポーツのラグビーが発祥した地にあり、ハリーポッターにも登場する全寮制のシステムを最初に採用した学校です。
世界中から集まったさまざまな人種の生徒が共同生活を送っており、まさに多様性を肌で感じる毎日です。
イギリスは、先進国の中でも先駆けてコンピューティングを必修科目に取り入れた国でもあり、コンピューターサイエンスは、数学や物理と同じような科目の一つになっています。
イギリスの教育システムは日本よりも早い時期に専門領域を絞り込むのが特徴で、履修科目の数は中学で8〜10科目、高校では3、4科目。科目の成績が大学入試に直接影響するので、生徒は自分の得意科目を選択するようになり、必然的にその科目が得意な人ばかりが集まります。
高校のうちに大学教養科目程度までを学び、大学入学後に専門科目の教育がスタートするという合理的な仕組みになっており、大学まで幅広い教養を学ぶ日本の教育とは大きく異なるのです。
コンピューターサイエンスの授業では高校の最終学年でオリジナルサービスを一つ開発し、詳細なドキュメントと共に提出することが義務付けられていますが、学習過程で「サービスの開発における利害関係者の設定 」という項目があるのが面白いポイントです。
コンピューターサイエンスは暮らしや社会の課題を解決するためのもの。そのため、最初から利害関係者を考慮に入れて開発すること が重要視されているのです。
これまでのプログラミングやイギリスでの学びを通して感じるのは、問題解決には技術の革新性だけでなく、いろいろな生活者の生々しい感情に向き合っていく必要があるということ。
プログラミング言語はこの世界のさまざまな事象を表現できますが、感情を表現することはありません。感情を排除することは物事を正確に捉えることができる一方で、自然言語で意思を伝達する私たちの行動の動機になるのは、主に感情です。
だからこそ、問題解決には感情を排除した合理的な手法も、感情によって人々の共感を得ることも同じように必要 だと思っています。今後は、情報科学に限らず、広い視野で学びを深めていきたいです。
文/小林香織
アーカイブ
VIDEO
『BIT VALLEY 2021』概要
イベント名※全7回で開催
BIT VALLEY 2021 ~変わる働き方とカルチャー、変えるテクノロジー~
<各回タイトル(予定)>
#01 Local × Startup 『街とStartup』
#02 Hello, Tech! 『触れて、学んで、楽しむ』
#03 Welcome to New World 『テクノロジーが叶える新しい世界』
#04 Power of Digital 『最新DX事情 〜デジタルの力でより豊かに〜』
#05 Tour of Work From Anywhere 『WFAの可能性を探る』
#06 Build Another Career 『副業・兼業でキャリアを広げる』
#07 Guide to Work From Anywhere 『WFA環境の整え方』
※#05~#07の実施内容は、決定次第随時お知らせいたします。
・開催期間:2021年7月〜11月(予定)
・開催場所:オンライン(LIVE配信)
・対象:テクノロジーによる社会の変化に関心のある方
・参加費:無料 ※参加登録が必要です
主催
BIT VALLEY運営委員会
(株式会社ミクシィ、株式会社サイバーエージェント、
株式会社ディー・エヌ・エー、GMOインターネット株式会社)
後援
東京都、渋谷区
特別協力
東急株式会社、青山学院
・イベントURL:https://2021.bit-valley.jp/
・Twitter:https://twitter.com/bitvalley_jp
・ハッシュタグ:#bitvalley2021