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IT大手→IT起業→自動運転ロボ『ラクロ』開発者になったエンジニアが挑む「超高齢化社会とロボの共生」

働き方

技術で社会課題解決に挑む姿をクローズアップ!

ロボティクス開発者の野望

少子高齢化による労働力不足、コロナ禍に深刻化する人々の孤独や、非接触需要の高まり。今、あらゆる社会課題の解決に活用される「ロボット」を開発する人たちの姿にフォーカス。どんな想いや技術で課題解決に向かうのか、未来を見据える彼らの「野望」を聞いてみた。

今回話を聞いたのは、ZMPで自動運転歩行速モビリティ®(自動運転一人乗りロボ)『RakuRo®(ラクロ®)』などの開発に携わる河村龍さん。

河村さんは、インターネット普及期にIT業界に就職、スマホアプリの興盛期にスタートアップを起業、そして近年注目高まるロボット業界で、社会の課題解決に取り組むロボット開発企業・ZMPに2020年に入社。以来、ゼネラルマネージャーとして、『ラクロ』や、ロボットプラットフォーム『ROBO-HI®(ロボハイ®)』の開発に携わっている。

長年、IT業界を渡り歩いてきた河村さんが、ロボット業界で新たなチャレンジに踏み切った原動力は何だったのか。河村さんが見据える未来と共に、語ってもらった。

株式会社ZMP ROBO-HI Devision General Manager  河村 龍さん

株式会社ZMP ROBO-HI Devision General Manager 河村 龍さん

ヤフー、バイドゥで検索エンジンや検索広告の開発に約10年携わった後、スマホのソーシャルアプリを提供するスタートアップを起業。2020年4月にZMPに入社

家庭内で直面した老老介護問題「これ、本気で何とかしないと」

――河村さんはもともと、ヤフー、バイドゥ、スタートアップ…とIT業界を渡り歩いていたんですよね。なぜロボット業界に?

はい、10年以上検索エンジンや検索広告の開発に携わった後、スマホアプリの事業を起業しました。当時はスマホのアプリ市場が盛り上がってきた頃で、新しい技術やビジネスが次々出てくるので、開発がとにかく面白くって。ただ次第に、スマホという小さなデバイスで実現できることに限界を感じるようになっていたんです。

そんなことをぼんやり考えていたときに、転職のきっかけになる出来事がありました。私には100歳近い祖母がいるんですが、70歳を超えた父が、祖母の手を引いて郵便局の階段を一歩ずつ上がっていく姿を見て。それがもう、とても大変そうで……いわゆる老老介護ですよね。そこで超高齢化社会を実感し、「これ、本気で何とかしないといけないんじゃないか」と思ったんです。

でも当時自分がやっていたスマホアプリでは、こうした社会問題を解決することは難しい。人を物理的に支援できるのは、やっぱりロボットだろうと思ったんです。

そんなときにたまたまZMPの代表谷口と話す機会があり、高齢者の安全な移動を実現する一人乗りロボ『ラクロ』の開発に力を入れていることを知りました。

株式会社ZMP ROBO-HI Devision General Manager  河村 龍さん

祖母のような人が必要としているのも、まさにこういうものではないかと。今後の超高齢化社会では車の免許を返納する人も増えるでしょうから、新たな移動の足は絶対に必要になります。ビジネスとしての可能性も感じましたし、ロボット技術で社会課題の解決を目指そうという会社の理念に強く共感して転職を決めました。

「誰でも気軽に安全に移動できる生活」を実現したい

――具体的に『ラクロ』では、どのように高齢化社会の課題を解決しようとしているのでしょうか?

高齢者が健康に過ごすには、定期的な外出が必要です。それを『ラクロ』によって、誰もが安心・安全に外出できる生活を実現しようとしています。『ラクロ』は運転不要な自動運転ロボットで、行き先を指定するだけで買い物や病院、図書館などに行くことができます。

自動運転ロボットで最も重要なのは、安全性です。『ラクロ』はAIを駆使して、歩行者や段差、信号を判断し、安全でスムーズな移動を実現します。同時に、ロボット管理のクラウドシステム『ROBO-HI』につなげて、走行状態を遠隔監視しているのも特長です。

私が主に担当しているのが、この『ROBO-HI』。ロボットはネットワークにつなげることで、できることが格段に増えるんですよ。

現在『ラクロ』は、個人で購入するのではなく、地域などで共有してもらう仕組みにしていますが、このシェアリングサービスも『ROBO-HI』が実現しています。また、今後ロボットが普及して、台数が増えてくると、ロボット同士が衝突こそしないものの、お見合いして動けなくなってしまうようなことは起こりえます。それを防ぐためにも、すべてのロボットのデータをクラウドへ集めて最適にコントロールする必要があるんです。

株式会社ZMP ROBO-HI Devision General Manager  河村 龍さん
――なるほど。前職とはガラリと仕事も変わったと思いますが、戸惑いはありませんでしたか?

ITとロボットは一見するとまったく違う業界に見えるのですが、使うデバイスがスマホかロボットかの違いくらいで、実はやってることはそう変わりません

私はもともと大規模なウェブサービスに携わることが多かったので、たくさんのモノをつなげて、データを共有して、サービスを提供するという感覚は、『ROBO-HI』も基本的に同じ。今の開発にもこういったIT業界での経験が活きていますし、これまでになかった新しいものを普及させるという意味では、スタートアップでの感覚とも似ていますね。

ただ、スマホのアプリと比べると、ハードウエア、クラウドとエッジの切り分けなど考慮すべきことが多く、部門横断でチームワークを発揮しながらプロジェクトを進めていかなければなりません。実験段階では、『ラクロ』がうんともすんとも言わなくなってしまうこともあり、スマホアプリの開発より難易度は高く感じますね。ただ、だからこその面白さも感じています。

――今後は『ラクロ』『ROBO-HI』を使ってどんなことを実現していきたいと考えていますか?

『ラクロ』のようなライフロボットが街の人たちに受け入れられて、生活圏で活躍できるような社会をつくりたいと考えています。

『ラクロ』は表情が豊かなロボットで、すれ違う人に笑顔でアイコンタクトをしたり、挨拶をしたりする機能があるのですが、それも人と共生するため。新しいものなので最初は「何だろう?」と警戒されるかもしれませんが、そこで楽しいコミュニケーションがとれたら、街の人に受け入れられて、利用も促進されます。今は動物公園などで子どもたちに利用してもらう実証実験もしているのですが、とても人気者なんですよ。

普及のためには利便性をもっと高めないといけません。今は事前予約が必要で、行き先として指定できる場所も限られていますが、好きなときにパッと乗れて、好きな場所へ行けるような気軽さがあるといいですよね。

こういったサービスの実現には、もちろん地域の皆さまのご協力が必要になりますが、社会のニーズは高まっていて追い風を感じます。

ラクロのような自動運転の一人乗りロボット自体が世の中にまだ少ないですし、それをシェアリングサービスで地域の役に立てようとしている例は世界的にもない。だからこそ、私たちが先駆者になれるといいなと思っています。

「できることが格段に広がっていく」姿に感動

――IT業界もとても刺激的な環境だったと思いますが、ロボット開発ならではの醍醐味はどこに感じていますか?
株式会社ZMP ROBO-HI Devision General Manager  河村 龍さん

ロボットは「できることが格段に広がっていく」感覚が、エンジニアにとって大きな醍醐味だと思います。

人を物理的にサポートしたり、モノを運んだり、実際の生活圏の中で動き回ることができるのは、ロボットだからこそ。なので『ラクロ』が街中で動いているのを見るのは、手塩にかけて育てたわが子の活躍を見るような感覚です。狭い道をちゃんと通り抜けたり、エレベーターに乗ったり、できることが増えるごとに感動しますね。

それと、実際にお客さまが目の前にいてサービスが成立している様子を見られることもとても新鮮です。スマホアプリの開発ではスマホの向こう側にいるユーザーが見えることはほとんどありませんでしたから。『ラクロ』に乗っている高齢者の方が、自然に笑顔になるのを見ると、やってよかったと思うし、今後さらに発展させていこうという気持ちが強まります。

――とても素敵なお話です。「今後の発展」という言葉が出ましたが、河村さんは今後どんな目標を持っていますか?

『ラクロ』をはじめとする生活圏で活躍するライフロボットの普及をけん引し、社会課題を解決していきたいという思いが一番強いです。IT業界にいたときは、新しいサービスやビジネスの可能性に着目しがちだったのですが、キャリアを重ねたこともあり少し視点が変わったかもしれません。

ロボット業界というのは、ダイレクトに社会課題の解決に携われる業界。その時々で社会に求められるものを最新のテクノロジーや手法を使って実現していきたいですね。

今は、これまでになかったものを普及させようとしているので、答えのない道を試行錯誤しながら進んでいる感じがあります。実はこの状態って、2000年前後のインターネット普及し始めた頃にすごく似ているなと思っていて。あの時のように、これから盛り上がっていく空気を感じていますね。だからこそ、まだ種まき段階の今から関われば、3年後や5年後にはものすごく面白いことができるはず。そう思って毎日ワクワクしながら働いています。

ロボットは“未来”です。最初はロボットとITサービスの関係性について理解しにくいかもしれませんが、私の場合は、スマートフォンやPCというデバイスにサービスを提供してきたので、そのデバイスをロボットに置き換えて想像してみることから始めました。そうすると、あれもできる、これもできると夢が膨らみました。

同じような感覚になった方にはぜひ気軽に声をかけてもらいたいですね。真っ白なキャンバスに、一緒に未来を描きましょう!

取材・文/古屋江美子

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