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女優いとうまい子&AI研究者大澤正彦、「優しいロボット」開発の未来を語る【ウェビナーレポ】

働き方

非対面の接客や災害救助、高齢者介護など、あらゆる場面の活躍が期待される「ロボット」。その中でも、人を癒したり、コミュニケーションの相手になったりする「優しいロボット」の需要もますます高まっている。

そこでエンジニアtypeでは、10月21日(水)にロボット開発に関する1dayウェビナーを開催。前半のセッションでは、女優でありながら研究の道に進み、現在は医療・福祉ロボット開発を手掛けるいとうまい子さんと、“ドラえもんづくり”に挑むAI研究者・大澤正彦さんによるトークセッションを実施した。

テーマは「コロナ禍で注目『優しいロボット』の可能性」。「人に寄り添う」ロボット開発を行ういとうさんと大澤さん、二人の目指す未来の姿を語り合ってもらった。

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女優 株式会社エクサウィザーズ フェロー いとうまい子さん

1964年、愛知県出身。82年、『第1回ミスマガジン』でグランプリを獲得し、翌年アイドルデビュー。その後多くのドラマ・映画に出演。2010年に早稲田大学のeスクールに入学して以降、14年に早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程、16年に博士課程へと進学。現在は早稲田大学大学院博士課程で、東京大学と共同で老化学の研究に取り組んでいる。19年、AIベンチャーであるエクサウィザーズのフェローに就任した

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日本大学文理学部 次世代社会研究センター センター長 大澤正彦さん

2011年に東京工業大学附属科学技術高校 情報システム分野を首席で卒業。14年8月『全脳アーキテクチャ若手の会』、17年9月『認知科学若手の会』設立。20年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻 後期博士課程 修了。20年4月から日本大学文理学部情報科学科 助教、20年12月より日本大学文理学部 次世代社会研究センター センター長に就任。著書に『ドラえもんを本気でつくる』(PHP新書)

「ロボットだけどロボットじゃない」ものをつくりたい

――まずは、お二人が今どのようなロボットを開発されているのかを教えてください。

いとう:私は、そもそも予防医学を勉強しようと2010年に大学に再入学し、大学院の博士課程では抗老化学、バイオを専門に研究しています。

ロボット開発は、ひょんなことから修士時代にある企業にお声掛けいただきまして、高齢者のロコモティブ・シンドロームを予防するための家庭用ロボット『ロコピョン』を開発したのがきっかけ。

今は、AIベンチャーのエクサウィザーズと共同で、ロコピョンを家庭だけではなく、より大きな高齢者施設で活用するために改良しています。

ロコピョン

ロコピョン

具体的には、入所者の高齢者の方々にスクワットなどの運動を自然と促すようなロボットを目指しているのですが、実はロコピョンは「ロボットであってロボットではない」ようなものを構想しているんですよ。

大澤:「ロボットだけどロボットじゃない」とは、どういうことでしょうか?

いとう:ロボットを「形があって動くもの」に限定せず、例えば施設の中にシステムとして組み込まれているようなものであってもいいのではないかと考えているんです。

実際にスクワットを一緒にするような人型ロボットを開発すると、どうしても経年劣化で壊れやすい。そして、壊れたら、いずれ放置されてしまいます。

ですから、AIを利用してロボットを画面の中に入れ込むような、一般的にロボットと呼ばれる機械とは別のものを目指したいと考えているところです。

大澤:それは僕も大賛成です。僕は今、ロボットよりももう少し大きな概念で「エージェント」という言葉を使うようにしていて。CGキャラクターなど、いわゆるメカのロボットではないものであっても、広い意味で擬人化された人工物全般をエージェントという概念で捉えようとしているんですが、それと同じ考え方ですね。

いとう:そういうことです! これを大学院で発表したら、「これはビデオでいいんじゃない?」と言われたのですが、やっぱりそれではだめで。ロボットが自分たちと一緒の場にいる、「共存している感覚」が大事だと思うんですよ。

大澤:仰る通りで、僕らは「ソーシャル・プレゼンス(存在感)」という言葉を使いますが、その場にいると言う感覚はすごく大事です。ソーシャルプレゼンスがあってこそ生み出せる「場の共有感」はロボットにとってすごく大事だと思います。

いとう:ありがとうございます。大澤先生の専門は「ドラえもん」づくりですよね。なぜ、ドラえもんなのでしょう?

大澤:物心付いたときには「ドラえもんをつくりたい」と考えていたので、きっかけは自分でもよく覚えていないんですよ(笑)

僕がつくったロボットは、『ミニドラ』というドラえもんに出てくるキャラクターをモデルにしています。『ミニドラ』は小さなドラえもんで「ドラドラ」くらいしか話せないのですが、ちゃんとコミュニケーションがとれる。まずはそういうロボットをつくってみました。

ロコピョン

『ミニドラ』をモデルにしたロボット

この「ドラドラ」しか言わないロボットと人間がしりとりをするという実験をしたことがあります。例えば、人が「りんご」と言うと、ロボットは「ドララ」と返します。すると、人は「ゴリラって言った? なら次はラッパ」などと勝手に解釈して、しりとりが続くんです。

このようにロボット自身に曖昧性を持たせることで、人間の想像力を引き出してコミュニケーションがうまくいくわけです。だから、「ドラドラ」しかしゃべらないロボットでも、1時間以上コミュニケーションが続くということが分かってきました。

さらには、自閉症のお子さんもこのロボットとたくさんコミュニケーションをとってくれたことがあって、自然言語に頼らなくても人の心と心のインタラクションを実現できるという手応えを感じています。

これらの実験は、ドラえもんの実現に向けた本質的な一歩を踏み出せているのではないかと思っています。

「人との関わり」を技術で解決できないか

――お二人は「人に寄りそう優しいロボット」の開発を目指していらっしゃいますが、そこに期待されるのは何だとお考えですか?

大澤:技術の進歩は加速していて、人間は1日24時間という時間をどんどん効率的に使えるようになっていますよね。ですが、「人との関わり」にまつわることは、そうした技術で解決できていないように思うんです。

メールができて連絡が容易になったり、移動手段が発達して早く会いにいけるようになったりということはありますが、子どもと遊びながら愛情を育むのに前は1時間かけていたのが30分でできるようになった、ということはないわけです。

もちろん人間関係をつくるのに時間を掛けるのは悪いことではないし、効率化することがすべて良いわけではありません。ただ、そうした「人との関わり」が効率化されないがゆえに、例えば介護士さんや保育士さんといった「人に関わる仕事」をされている方の負担が大きくなっている部分もあると思うんです。

その結果、今の社会では、人に向き合うことが一部の人に押し付けられるような状況に向かいつつあるのではないかと危惧しています。

ロコピョン

そこを技術を通して何とか解決することはできないか。そう考えた時に、それができるのは「ドラえもん」なのではないかと。ドラえもんは技術の結晶のようなロボットですが、のび太という一人の人間にとことん向き合ってくれて、そのおかげでのび太は人として成長していくわけですから。

ロボットが人に対してできることというと、お世話をする労働力や娯楽や癒しを与えるエンターテインメントという側面で語られることが多いですが、僕はそうではなく「優しさ」によって人を救う可能性があると思います。その鍵となるのが、やはりドラえもんとのび太の関係性にあるのではないでしょうか。

いとう:大澤先生のドラえもんって、お腹のポケットから「どこでもドア」を出してくれるようなロボットなのかと思っていたのですが、そうではなくて、もっと心の触れ合いという部分でのドラえもん、ということなんですね。

大澤:もちろん、ドラえもんがどこでもドアを出してくれるところも大好きですが、自分の手にはどうしても負えなくて。でもそういう機能を開発してくれる仲間がいるので、僕は安心して「心の部分」を担当できていますね。

いとう:なるほど。とっても素敵な考えだと思います!

私は先ほども申し上げたように、介護施設にいる高齢者の方のためのロボット開発をしているのですが、やっぱり現状のロボットというのは全然人に優しくないんですよ。

例えば入所者の方をお風呂に入れるのにも、ベッドから起こして、お風呂まで移動して、湯船に入れるという工程があります。これをロボットでやろうとした場合、一つ一つの動作に対してすべて違うロボットが必要です。

もちろん介護される方が一人で使えるわけではなく、それを使うために別に人が必要になりますし、メンテナンスする専門家もいる。これではなかなか普及しないわけです。

ですから、介護が必要な高齢者の方たちが声をかければ、その人たちがやってほしいように動けるようなロボットが理想的。それを開発できれば、ロボットが本当に暮らしの中に溶け込むものになるのではないかと考えていますね。

究極的にはロボットだと意識しなくてもいいくらいのものが「優しいロボット」なのではないかと思っています。

「開発者の価値観」を押し付けないことが大事

――お二人が構想されているロボットで実現したい世界観があると思いますが、そのために研究者・開発者として心掛けていることはありますか?

いとう:私は、機械の操作方法をまったく知らないようなお年寄りの方でも、そのロボットが前を通れば自然とやりたいことができるようなものを開発したいと思っています。

ロボットを通して、周りの人たちとつながりを持てたり、ゲーム性を持たせて楽しく関われるようになったりできるといいですね。

いとうまい子

大澤:ロボットが社会に入り込んでくると、専門家でない一般の方は期待と同時に、「職を奪われるのではないか」など不安を持つこともあると思います。実際その通りで、ロボットが活躍することで良い未来も悪い未来も訪れる可能性がある。

そういうことをちゃんと開示して、広くみんなで考えていけるような旗振りをするのも、ロボットやAI開発者の役割ではないかと考えています。

また僕の場合は、ロボット開発者というより「ドラえもん研究者」として心掛けていることがあって、それが「誰のドラえもん観も否定しない」という鉄の掟です。

この20年近く、ドラえもんの定義って何だろうって考えてきて、最近「みんながドラえもんだと認めてくれるものが、ドラえもんである」ということに行きついたんです。

つまり、ロボットの専門家が「ドラえもんとはこういうものである」と勝手にリリースするのではなく、みんなが「ドラえもんが持っていたらいいなと思う要素」は何かを第一に置くということ。

いとう:「誰のドラえもん観も否定しない」というのは具体的にどういうことなんでしょうか?

大澤:例えばいとうさんは、ドラえもんの頭って固いと思いますか? やわらかいと思いますか?

いとう:えっ? やわらかい、かな……?

大澤:そうですね。どつかれたりすると、頭がぐにゃっと曲がりますから、きっとやわらかい。でも、映画などでは「最後の武器だ」とドラえもんが石頭で戦う場面も出てきます。

いとう:じゃあ、片栗粉みたいなものかも。普段はやわらかいけど、何か力を入れたり熱を加えたりすると固まる、とか。

大澤:こういうお話のように、ドラえもんの頭がやわらかいと思う人も、かたいと思う人もいる。だから、僕がドラえもんはこういうものだと提示するのではなく、「こんなのドラえもんじゃない」って思われないことに向けて頑張るわけです。

いとう:なるほど!(笑)

大澤:僕のつくったミニドラをイメージしたロボットも、見た目は真っ白ののっぺらぼうなんですよ。もちろん顔を描いてドラえもんにもっと似せることはできるけど、それをすればするほど、逆に差異が見えてきて、「これはドラえもんじゃない」という拒否感につながってしまうのではないかと思うんです。

むしろ白いまま、曖昧性を持ったままにしておく方が、見る人が自分の「ドラえもん」を投影しやすいのではないか、と。

つまり、僕のつくりたいロボットは、「ドラえもんありき」というよりは、それに「関わる人ありき」なんです。結果的にできたロボットが、漫画のままのドラえもんの姿かどうかは分かりません。それを受け入れる社会が求めるものに応じた形になっているはずですし、そうであることが大事だと考えています。

そういう意味で、いとうさんのされていることは本当に素晴らしいなと思っているんですよ。ロボットをつくるのは研究室にこもってやっているだけではだめで、やっぱり社会とつながって、使う人のことを考えることが大事だと思うので。

いとう:そのように言っていただけると、とってもうれしいです。私はこういう立場ですから、いわゆる本職の研究者の方たちより一般の人に近い立場でお話しすることができると思ってやっているので。

大澤:いとうさんのように「社会とロボットをつなぐ人」がいてくれるからこそ、これから社会と一緒にロボットをアップデートしていけるんだと思います。僕も、実は前に出るのは苦手だけれど、そうなりたいなと考えているところです。

いとう:ぜひ大澤先生とも、何かご一緒できたらうれしいですね! これからがとても楽しみです。

――今後、お二人のコラボが見られるかもしれませんね。 お二人とも、本日はありがとうございました!

文/高田秀樹

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