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吉野家“空飛ぶ牛丼”を実現したドローン開発者が見据える「買い物革命」の未来

働き方

技術で社会課題解決に挑む姿をクローズアップ!

ロボティクス開発者の野望

少子高齢化による労働力不足、コロナ禍に深刻化する人々の孤独や、非接触需要の高まり。今、あらゆる社会課題の解決に活用される「ロボット」を開発する人たちの姿にフォーカス。どんな想いや技術で課題解決に向かうのか、未来を見据える彼らの「野望」を聞いてみた。

吉野家の牛丼が空を飛ぶ」――そんなニュースが大きな話題になったのは、2021年6月のこと。仕掛けたのは、吉野家、出前館、そしてドローン開発を担うエアロネクストだ。

エアロネクストは、出前館のアプリで注文された吉野家の牛丼弁当を、横須賀市立市民病院の医療従事者にオンデマンドでドローン配送する実証実験に成功。翌月には、同社がドローン配送の社会実装を進める山梨県小菅村でのドローン配送100回達成を記念し、住民に吉野家の牛丼が配られた。

エアロネクスト

ドローン等を活用した「空の産業革命」は、世界的に急拡大している物流業界に大きな変化を与えるといわれている。“空飛ぶ牛丼”を裏側で支えたエアロネクストのエンジニア、大河内さんは、ドローン開発を通してどんな未来をつくろうとしているのか。大河内さんの野望に迫った。

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株式会社エアロネクスト技術部 シニアエンジニア 大河内雅喜さん

東北大学で航空宇宙工学を専攻。同大学院でドローンに興味を持ち、回転翼を研究。卒業後はANAに入社し、ジェットエンジンの整備管理に従事した。不動産会社の営業を経て、ドローン開発のベンチャー企業を友人と共に起業。2017年、株式会社エアロネクストに入社。現在は物流ドローンの、主に機体制御を担当している

諦めきれなかった、ドローンへの道

――“空飛ぶ牛丼”のニュースにはとてもワクワクさせられました。大河内さん自身は、ドローンを使ってどんな課題を解決したいと考えているのでしょうか。

エアロネクストでは数年前までいろいろな用途の試作機を作っていましたが、約2年前からは「物流用途に特化した専用ドローン」の開発にかじを切りました。

物流ドローンによる配送サービスは、山間部や離島などでの買い物難民・買い物弱者の問題解決につながると考えています。

山梨県の小菅村とは、ドローン配送の社会実装に向けて連携協定を締結しました。山あいの集落なので、短い距離の移動にも、ぐねぐねした山道を通ったり、川を渡ったりして時間がかかってしまう。ですが、ドローンなら直線でパッと飛ばせるんですよね。こうした地域ではドローンの有用性が高まります。

エアロネクスト

また危険地域や、一般の人は立ち入れない場所に届けられるのも、物流ドローンの特長です。横須賀市で行った”空飛ぶ牛丼”の実証実験は、医療従事者への温かいランチを配送するのが目的でしたが、今後はニーズの高い医薬品の配送などへも応用していけると考えています。

――コロナ禍でそのニーズはとても高いでしょうね。そもそも、大河内さんはなぜドローン開発の道に進んだのでしょうか?

実はもともとは宇宙に興味があって、大学では航空宇宙工学を専攻していました。ただ、その先の仕事を具体的に考えた時、宇宙の仕事は僕にとって少しタイムスパンが長すぎる気がしたんです。

もちろん、仕事の成果は未来の人類に役立ちますが、例えば火星に人類が住むのはまだしばらく先の話。それよりはもう少し身近で成果が目に見えやすい航空工学に引かれました。

そもそも飛行機って、揚力で空を飛んでいますよね。地球にしかない空気を利用した仕組みで飛ぶって、単純に考えてすごくないですか? そんな好奇心から、大学では飛行機の翼(よく)の研究をメインにしていました。

翼の仕組みが理解できてきた頃、ちょうどドローンがクローズアップされ始めて。一方向にしか進めない飛行機と違って、360度さまざまな方向に進めるドローンにワクワクしましたし、大きな可能性を感じました。そこから「ドローンを意識したプロペラの回転翼」という新たな研究することになったんです。

大学院卒業後は、ANAでジェットエンジンの整備や管理をしたり、視野を広げるために不動産営業なんかもやってみたりしたのですが、やっぱり私はドローンがやりたい。そう思って、友人とドローンの開発会社を立ち上げました。

起業した会社は縮小してしまいましたが、その縁でエアロネクストと出会い、4~5年前から開発を手伝うようになったんです。

物流ドローンを「当たり前の選択肢」にしたい

エアロネクスト
――ドローンの中でも「物流専用」にしようと思ったのは、なぜでしょう。

開発当初、ドローンの用途は「点検用」がメジャーでした。橋梁(きょうりょう)や煙突の点検は人がやるよりもドローンのほうが圧倒的に早く、費用対効果も分かりやすいですから。

ただ、もうその分野はレッドオーシャンの状態。一方、物流ドローンは、個人的にはまだブルーオーシャンかなという印象でした。ならば、物流用途に合わせたハードウエアとしてのドローンを極めたいと考えたんです。

物流ドローンは、A地点からB地点へ直線的にモノを運ぶのが主な役割なので、巡行時の性能が最も重要です。巡行時にいかに空気抵抗を少なくして、スピードを出せるようにし、燃費を向上させられるか。見た目のかっこよさなどではなく、性能の最適化をとことん追求しました。

ドローンは進行方向に機体フレームが少し傾くのですが、荷物も傾いてしまうと牛丼の汁もこぼれてしまいます。それを防ぐために、動作に応じて重心位置を最適化する「4D GRAVITY®」という独自の技術を搭載しています。

私自身は機体制御全般を担当しているのですが、フライトテストをして設定をチューニングしたり、バグを改修したり、ログを見て全般的な機体の性能評価をしたり。人員が少ないのでやることは多いですね。

エアロネクスト

4D GRAVITY®搭載360°VR撮影ドローン

――物流ドローンを一般化できたら、どんな未来が実現できると思いますか。

まずは先述の通り、買い物難民の問題を解決できますね。小菅村のような地方の山間部での取り組みは今後のベースモデルになるでしょう。これは反響もよく、すでにいくつかの自治体とも話を進めているところです。

また、それと同時に物流ドローンは、買い物の新たな楽しさや選択肢を提供できるとも思っています。

地方に住む人は、近所に店がなくても「週末にイオンでまとめ買いするから別に大丈夫」といって、不便を感じていない人が案外多い。でもドローン配送サービスのチラシなどを見て、目新しいものを、新しい買い方で手に入れることができるようになれば、生活に新たな楽しみが生まれる可能性もありますよね。

そして、今後は物流の最適化がもっと進むといいなとも思います。陸路と比較して空路の方が効率的な山間部などでは空路を選ぶ、というように、物流の一つの手段としてドローンを当たり前の選択肢にしたいです。

エアロネクスト
――その実現のために、今足りないものは?

量産化の体制ですね。最終的にはドローン物流の常時運用を目指していますから、今はいろいろな会社と連携しながら量産化を進めている段階です。

実はこれまで、ドローンって一台一台ハンドメイドだったんですよ。カーボンを切ったり、3Dプリンターでパーツを打ち出したり、というレベルで試行錯誤しながら日々調整していて。しかし量産化となると、細かな仕様をきっちり詰めていく必要があるので、なかなか大変だなと考えています。

空を飛べない人間が「モノを飛ばせる」から面白い

エアロネクスト
――大河内さんが感じる「ドローン開発の面白さ」とは何ですか?

「空を飛ぶ」って人間にはできないことだからこそ、技術でそれを解決するのが面白いんですよ。自分の手で作ったものを、自分の手で空に飛ばせるのは、本当にやりがいを感じます。無事に飛ばせた瞬間もうれしいんですが、その前段階で、いろいろなバグがあって、その原因を追究して、対応して直せたときもやりがいを感じるんです。

“空飛ぶ牛丼”も、配達成功のシーンが数々のメディアで取り上げられましたけど、裏側には本当にいろいろな苦労があって。特に、初めてのフライトコントローラーを使ったので調整も大変でした。後から思い出すのは当日の成功シーンより、苦悩しながらバグを直し、調整を重ねた準備の日々の方ですね。

ただ、苦しむ日も多いけれど、私自身は今すごく充実しているんですよ。自分が楽しいと思えることを、自分がやりたいと思うようにやれている実感があるので。人生で今が一番、仕事が楽しいです

エアロネクスト
――人生で一番! すてきですね。今後はどのような目標を掲げているのでしょうか?

近い将来の話でいうと、VTOL(垂直着陸機)を作ってみたいです。アフリカではユニコーン企業が血液検体を数百キロ運ぶなどして成功しています。狭い日本の国土では使えるシーンは限られますが、VTOLにしかできないこともあると思うので。

長期的なキャリアプランというのは、正直あんまり考えていません。人生って、予想の斜め上をいくような展開が多い気がしていて。どんな波にも乗れるように、自分の技術は磨いておきたいと思っていますが、可能性を限定したくないんですよね。

強いていうなら、ぶっ飛んだものを作りたい。やっぱり今あるものをコピーするだけじゃあ、つまらないじゃないですか。いつかは他の人が作っていない、全く新しいものを作りたいですね。

取材・文/古屋江美子

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