グラフで見る「パフォーマンスとコンディション」の関係性
“心・技・体”ベストバランスエンジニアがいい仕事人生を歩むために、「心と体のコンディション」と「仕事のパフォーマンス」にはどんな相関関係があるのだろう? 高いパフォーマンスを発揮するエンジニアの経験談から「心・技術・体」のベストバランスを学ぶ!
グラフで見る「パフォーマンスとコンディション」の関係性
“心・技・体”ベストバランスエンジニアがいい仕事人生を歩むために、「心と体のコンディション」と「仕事のパフォーマンス」にはどんな相関関係があるのだろう? 高いパフォーマンスを発揮するエンジニアの経験談から「心・技術・体」のベストバランスを学ぶ!
本特集で取り上げる一人目は、藤本真樹さん。ソフトウェアエンジニアとしてキャリアを積み、2005年からは16年以上にわたりグリーのCTOを務めている。
藤本さんは現在42歳。世間一般に40代というと、「若い頃よりも体力がなくなり無理がきかなくなってきた」というようなことが聞こえ始める年代だが、彼はCTOとしてパフォーマンスを発揮し続けるためにどんなことを意識しているのだろうか?
――これまでのパフォーマンスとコンディションの変化をグラフで示していただきましたが……。パフォーマンスの自己評価が低いですね?
いやあ、これまでの人生で、仕事で「いいパフォーマンスを出せた」と思えたことはそんなにないんですよ。40%くらいで一定かなあと。
今振り返れば「あの時もっとああすることができたんじゃないか」と思うことばかりだし、エンジニアとしてもCTOとしても、自分よりすごい人はいくらでもいると思うし。
もちろんプロダクトをリリースしたタイミングとか、アウトプットが大きいタイミングはその時々でありますけど、それも日々の積み重ねがあってこそですからね。
「パフォーマンス」という意味では、20代のころから今までほぼほぼ一定なのかなと思います。
――なるほど。心身のコンディションは下がり調子なんですか?
新卒の時が90%くらいだとしたら、今は60~70%くらいでしょうか。シンプルに、かつ一般的に、年を取るとコンディションって落ちるじゃないですか。
若いころはそれこそ、あれもこれもとやりたいことが山ほどあったり、やらなきゃいけないこと、身に付けなければいけない知識もたくさんあったりして、睡眠時間を削ってがむしゃらに働いていました。
でも、年齢を重ねるほどに体力が落ちていることは実感していて、明らかに疲れやすくなるし徹夜もつらくなる。体調も崩しやすくなってきています。
これは体だけじゃなく、メンタルのコンディションも同様です。基本的には年を重ねるほど良い状態に持っていくのが難しくなると思っていて。
集中力も落ちるし、物事への好奇心やモチベーションも、意識しないと下がっていってしまうんじゃないかなと。もちろん個人差はあるとは思いますけどね。
――コンディションが年齢とともに落ちていると自覚されているにも関わらず、パフォーマンスをキープできているのはなぜなのでしょうか。
「常に一定のパフォーマンスを出す」ことを意識している点は大きいかもしれません。
例えばプロスポーツ選手だったらきっと、やる気が出ない日も手を抜かないだろうし、常に高いパフォーマンスを発揮できるよう意識しますよね。
エンジニアもお金をもらってプロフェッショナルとして働くからには、どんな状態であっても常に一定以上のパフォーマンスを出すのが基本だと思っています。
それから、「人間は年を取るとコンディションが落ちる=パフォーマンスも落ちやすくなる」ことをまずは認識すべきかなと思います。
それを踏まえて、「自分はどういう人間か」というのを認識した上で、そこに頭を使ってパフォーマンスを落とさないようにするための工夫をいかにやっていくかだと思ってます。
――具体的に、パフォーマンスを落とさないようにする工夫はどうされているんですか?
体調を崩さないようにするという意味では、とりあえず毎日体重を量るようにしています。
昨年はリングフィット アドベンチャーをずっとやっていました。リモートが増えて運動量が減ったのもあるし、健康診断の結果を見て「ヤバい」と焦って。数値が改善したので、最近はさぼってしまっていますが。
あとは例えばですが、徹夜するかどうかの判断も以前よりシビアになりました。やろうと思えばできますけど、翌日のパフォーマンスロスが大きいので。
キリが良いところまで終わらせなくても、あえて中途半端に終わらせておくことで翌日スムーズに仕事に入れるメリットもありますし。もちろん急ぎの仕事は別ですけどね。
メンタル面で言うと、僕自身は対人ストレスがすごく苦手でして。人間関係でトラブルがあると頭がそればかりになってしまうので、多少我慢をしても、極力人と揉めるような状況をつくらないようにしています。
もちろんこれは人によるので、逆に我慢しない方がハッピーな人もいるはず。年齢を重ねると、どういう対応方法が自分にベストなのか、だんだん分かってきますよね。
それから、健全なメンタルをキープするには、ある程度「仕事は仕事」という割り切りも大事かもしれません。
IT企業なら、時にはセキュリティのインシデントなども起き得るわけですが、起きてしまったらそれはそれとしてやるべきことをやり、それでもどうしようもなければ謝るしかない。
降格などをせざるを得ないこともあるかもしれないけど、でもそれだけのことで、今までの知識や経験がなくなるわけではないから、そうなったら開き直って再スタートすればいい。そう思うようにしています。
――コンディションをキープするために、いろんなことを意識されているのですね。
やっぱりコンディションが良くないと仕事に集中できないですからね。
まあ、年齢とともに体調コントロールを考えなきゃいけなくなったのは、仕事をする上ではある種時間のロスですが、仕方ないです。
――仕事の選び方などは変化しましたか?
そうですね。熟練度があまり必要のない単純な仕事で比べると、20年前の自分よりも今の自分の方がパフォーマンスが劣ると思うんですよね。
だから、経験や知見を活かしてより効率よく仕事をするか、いかに上手に頭を使って仕事をするかを考えなければいけないし、シンプルに言えば「長い経験や学びを活かさないと価値が出せない仕事をやる」という意識はしています。
それでいうと、例えば経営ってイテレーションのサイクルが長いしオプションも無限にあるので、経験や学びを活かしながら戦いやすい部類に入るのかなとは思いますね。
楽しさだけで考えたら、プログラミングしている方が絶対楽しいとは思うけど。
――それはつまり、年を取るとプログラミングでは勝負できないということでしょうか。
いえ、僕の場合は「より成果を出せる場所」という意味でCTOを選んでいますが、「年を取るとプログラミングでハイパフォーマンスを出せない」というのとは全く違う話かなと思っています。
たしかに同じものを作るにあたって、かけられる時間が減ったり、場合によっては若いころよりも時間はかかったりするかもしれないですけど、それもなまじ経験がある分、いろいろ考えながら作ってしまうからかなと。
でも、昔より手戻りの少ない「良いコード」を書けるようにはなっていると思うんですよ。さっきの話でいうと、プログラミングは「単純な仕事」には当てはまらないということです。
それに今は、僕が若いころよりもソフトウエアエンジニアリングが成熟してきていて、より貪欲に勉強したり、うまく頭を使わなければいけなかったりする領域の割合や重要度が高まっていると思うんです。
なので、40歳、50歳になってもプログラマーとして戦っていくことは十分可能。というより、それが当たり前なんだと思います。
――藤本さんはCTOとしてさまざまなエンジニアを見られている立場かと思いますが、仕事でパフォーマンスを発揮するために、エンジニア一人一人が意識すると良いことはありますか?
社内のエンジニアを見ていても感じることですが、やっぱり楽しくできる仕事をしてほしいなと思いますね。イヤイヤ働くとメンタルにくるし、するとパフォーマンスも出しにくくなってくる。楽しい仕事の方が成果も出せるはずですから。
もちろん、いくらプログラミングが好きでも、時にはわけが分からないバグで1日中悩むこともあったりして、人によっては全部が楽しい瞬間ばかりではないと思うけど。それでも基本的にワクワクして、テンションが上がるような方向へ進むのは大事だなと思います。
もし今の仕事に納得がいってなかったり、本当に悩んでいたりするのなら、自分だけで閉じずに誰かに相談するといいんではないでしょうか。
ネガティブになったときも、人と話すことで視点や思考が変わることもあると思います。それでもどうにもならないようなときは環境を変えてもいいんじゃないかな。あんまり気軽に言うのは良くないかもしれないけど。
だから会社の外に、いろいろ話せるコミュニケーショングループや自分の居場所を持っておくことは大事かなと。話す相手は家族でも趣味のつながりでも、エンジニアの勉強会でも何でもいい。
今はいろいろなカテゴリのDiscordサーバーもあるし、マルチプレイゲームでグダグダ話したっていいし。僕はゲームもよくやるし、今は社外のCTOの知り合いと話すのもすごく大切な時間です。
あと、若いころってつい無理をしがちじゃないですか。プログラミングって明確な正解がないから、エンジニアとしてはやろうとすればどこまでも突き詰められる。あまりに熱中していると、コンディションの自己管理も難しいですよね。
でも、仕事にどっぷりつかるっていう経験って人生の中でなかなかできることじゃないから、悪くないとも思うんです。もちろん体に気を付けるのが前提になりますけど。
そういう経験っていうのも、「そうしたい」と思っているならば、できるうちにしておくというのは全然いいことなのではないかと思います。
取材・文/古屋江美子 撮影/吉永和久 編集/河西ことみ(編集部)
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