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「自分を褒めてモチベート」「“やりたい”で仕事を選ぶ」NY在住フリーランスエンジニア・高木里穂さんの、すり減らない働き方

働き方

グラフで見る「パフォーマンスとコンディション」の関係性

“心・技・体”ベストバランス

エンジニアがいい仕事人生を歩むために、「心と体のコンディション」と「仕事のパフォーマンス」にはどんな相関関係があるのだろう? 高いパフォーマンスを発揮するエンジニアの経験談から「心・技術・体」のベストバランスを学ぶ!

仕事内容や働く時間を自分でコントロールしやすいフリーランスエンジニア。しかし自己管理の難易度が高く、働き詰めになってしまったり、生活リズムが崩れたりして疲れをため込んでしまう人も多い印象だ。

そこで話を聞いたのが、現在フリーランスエンジニアとして活躍する高木里穂さん(31歳)。

高木さんは楽天やVASILY、ZOZOテクノロジーズ(現ZOZO)に勤めたのち、結婚を機にフリーランスに転身。現在はアメリカに移住し、スタートアップ3社で開発を担うとともに、プログラミングスクールのメンターも務めているという。

精力的に働く彼女は、どのようにして自身のパフォーマンスとコンディションのバランスを保っているのだろうか?

プロフィール画像

フリーランスWebエンジニア 高木 里穂さん(@rllllho

2015年4月に楽天へ新卒入社。データ構築の運用方針の策定などに携わる。2016年6月にVASILYへ転職し、Webアプリケーションの開発に従事。19年8月、結婚を機に退職し、大阪へ移住、フリーランスエンジニアに。21年6月にアメリカに移住。現在、Webエンジニアとして3社の開発に携わる他、プログラミングスクールのメンターとしても活躍

エンジニアとして求めたのは「手触り感のある仕事」

高木さん

仕事のパフォーマンス(赤)と、心身のコンディション(水色)をグラフ化。高木さんは、全体的にパフォーマンスとコンディションが連動していることが分かる

――高木さんのこれまでのキャリアと、パフォーマンスとコンディションの変化について伺いたいです。

大学院を卒業後、楽天にエンジニアとして新卒入社しました。始めの頃は仕事を覚えるのに必死でしたが、しばらくするとパフォーマンスが出せるようになってきて。また、ワークライフバランスを重視する社風や、3食無料で利用できる社員食堂のおかげもあり、体のコンディションも整っていたように思います。

ただ、大きな会社だったこともあって、徐々に「歯車感」を感じるように……。もっと「これは自分が作った」と言えるような、手触り感のある仕事がしたいと思うようになり、スタートアップであるVASILYへ転職しました。

ただ、ここからがなかなか大変で……。

――転職後、パフォーマンスもコンディションもかなり落ちていますね。

そうなんです。転職後はWebアプリ開発のスキル不足を痛感する毎日でした。スタートアップということもあり、先輩たちは全力で走っている。なのに、自分はまだまだ貢献できていない……。そんなジレンマを感じていましたね。

当時は早くみんなに追いつこうと必死で、前職より残業も増えましたし、土日を使って勉強することも多くありました。でも、体力的に無理はしていたものの、心から「やりたい」と思うことをやれていた楽しさが大きかったので、メンタル的にはつらくはなかったです。

そうした努力も実って、転職後半年ぐらいからパフォーマンスやコンディションが上り調子になりました。

――パフォーマンス、コンディションともにピークを迎えた後、フリーランスに?

遠距離恋愛をしていたパートナーとの結婚が決まり、大阪に移住することになったんです。

リモートワークで働き続ける選択肢もあったのですが、熱量の高いメンバーが集まる会社で、自分一人だけリモートという働き方がなかなか想像できなくて。土地勘がない場所で転職先を探すのも難しそうと感じたので、最初は「とりあえず」という気持ちでフリーランスに挑戦することにしました。

でも、はじめは仕事の上手な選び方も分からない状態で。知り合いから紹介してもらった仕事の他に、仕事あっせんサービスなどを通じて依頼を受けていたのですが、以前のような「手触り感のある仕事」がなかなかできず……。

それに、地縁のない場所で周りに友だちがいなかったこともあり、コンディションもパフォーマンスも下がってしまいました。

高木さん

――不慣れなことが重なってしまったのですね。でも、その後はパフォーマンスもコンディションも右肩上がりです。

慣れもありますし、自分に合った仕事の選び方もできるようになったんです。友人がいない問題も、女性エンジニアのコミュニティーに参加するなどして、徐々に解決していきました。

去年(2021年)の6月には大阪からアメリカに移住したのですが、世界中の女性エンジニアが参加できるコミュニティー『Women Who Code』のニューヨーク支部に参加したことで、現地の知り合いもできたんですよ。

今はエンジニアとしてスタートアップ3社で働いています。時差こそありますが、ミーティングの時間さえ調整すれば、日本にいた頃と同じように働くことができています。やりがいを感じられる仕事ばかりで、パフォーマンスもコンディションもほぼ100%ですね。

やりたい仕事にはコンディションもパフォーマンスもついてくる

――改めてグラフを見ると、高木さんの場合、コンディションとパフォーマンスはほぼ連動しているんですね。

特にフリーランスになってからの方が顕著なのですが、私はやりたいことしかやれないタイプ。モチベーションが低い状態が続くと高いパフォーマンスを出すのが難しいんです。それが、精神的なコンディションにも影響してしまうのかなと。

例えば、フリーランスになって最初の頃に受けていた仕事は、要件定義がガチっとされていて、仕様書通りに作ることを求められるものが多かったんですよね。だから「自分が作っている感覚」が得られず、仕事に対するモチベーションもパフォーマンスも下がってしまっていました。

でももっと過去を振り返ってみると、私がやりがいを感じていたのは企画段階から関わって、本当に納得できたものを世に出せた時だなと気付いて。

それからは、Twitterやnoteでの自己発信に力を入れて、SNS経由で仕事を募集するスタイルに切り変えました。事前にDMや面談で「こういう関わり方がしたい」と意向を伝えてすり合わせ、深いところから携われるような仕事を選んで受けるようにしたんです。

そうしたことで、やりがいを得られる仕事に関わりやすくなり、心身のコンディションもパフォーマンスも上がったように思います。

――やりたいことをやってこそ、パフォーマンスが発揮できる点には納得です。でも、世の中には自分がやりたいことが分からない人も多い気がします。

その場合は、「やりたくないこと」を一つの指標にしてみるのはおすすめかもしれません。やりたいことはパッと答えられなくても、やりたくないことは思い浮かぶという人は多いはず。そこから一つずつ精査してみると、見えてくるものがあるのではないでしょうか。

あとは、「やりたい」と「やるべき」を混同しないことも大事だなと思っています。

私自身、少し前に「将来的に出産して働ける時間が短くなるかもしれないから、今のうちにマネジメントも覚えた方がいいかもしれない」と考えたことがあったんです。でも実際はなかなか気が進まなくて。よくよく考えると、マネジメントは「やりたいこと」じゃなくて、「やるべき」だと感じたことだったんですよね。

アメリカで活躍している女性を見渡すと、「やるべき」に縛られず、「やりたいこと」を全取りしようとしている人が多いんですよ。ベビーシッターや「ドゥーラ」という産後サービスが普及しているので、産後もバリバリ働きたい人は、そういうサポートを受けながら自分のやりたいことを貫いているんです。

私もそうやって外部の力をうまく使えば、無理してマネジメントスキルを身に付けなくても、やりたい仕事と子育ての両立ができそうだなと思うようになりました。

高木さん

うまくいかなくても、「ナイストライ!」

――仕事の選び方以外に、コンディションやパフォーマンスを保つために、ヘルスケアやメンタルケアの面で心掛けていることはありますか?

私は睡眠と食事をおろそかにすると、集中力が途切れやすくなったり、ネガティブ思考に陥りやすくなったりする傾向があるんですよ。なので、そうならないようには意識していますね。最も忙しかった時でも毎日7~8時間は寝るようにしていましたし、食事もなるべく忘れないように気を付けていました。

また、フリーランスになってからは定期的にカウンセリングやコーチングを受けるようにしています。

フリーで仕事をしていると、1on1や同僚に相談する機会がなかなか取れないので、ネガティブな思考のループに入りやすいし、キャパシティー以上に仕事をやり過ぎていても気付きにくいんですよね。だから定期的に他人に関わってもらうことで、自分を客観的に見ることが大切だなと。

それからもう一つ。何かチャレンジをしてうまくいかなかったことがあったときに、「失敗しちゃった、ダメだった」と思うのではなく、「ナイストライ!」と自分に言ってあげることを心掛けています。

例えばアメリカに来て最初のころ、スタバで「Water(水)」をくださいと言ったつもりだったのに、「Mocha(モカ)」が出てきたことがあったんです。正直ちょっと落ち込みかけたけど、慣れない土地や言葉でも、勇気を持って注文することができた。それだけでえらいことだと思うので、「ナイストライ!」って。

――「ナイストライ」。素敵ですね。

今、私はエンジニアの仕事とは別にプログラミングスクールでメンターをしているのですが、生徒の皆さんは仕事などで忙しい中、全く知らない新しいことを学んでいるわけで、中にはメンタルに影響が出てしまう人もいるんです。「思ったように成長できない」「あの人はできているのに、どうして自分はできないんだろう」って。

ネガティブ思考に陥りやすいのは人間の本能でもあるので、仕方ないとは思います。でも、プログラミングという新しいことに挑戦しようとしているだけで、素晴らしいと思うんですよね。コンフォートゾーンに居続けることもできるのに、そこから飛び出そうと努力をしている。それだけで100点じゃないですか。

だから、パフォーマンスがうまく出せずに落ち込んでいる人がもしいたら、「またできなかった」と落ち込み過ぎず、心の中で自分に「ナイストライ」と投げ掛けてみてほしいです。

そうやって、自分のチャレンジをポジティブに認めてあげるだけでも、心がすり減りにくくなると思うんですよね。

取材・文/古屋江美子 編集/河西ことみ(編集部)

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