【2025年万博】「空飛ぶクルマ」の遊覧飛行、空飛ぶタクシーが登場? 大阪で生まれる次世代モビリティーの現在地/Hack Osaka 2022 レポート
2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)の開催に向けて、次世代モビリティーの実証実験が進む街、大阪。
2月10日に開催された、関西最大級のスタートアップの祭典『Hack Osaka 2022』には、大阪の地からイノベーションを起こそうとするスタートアップ企業が集結した。
『Hack Osaka 2022』の冒頭に行われたセッション「大阪から始まる次世代の移動 人がもっとつながる未来へ」では、空飛ぶクルマの開発などを手掛ける株式会社SkyDrive 取締役 COOの佐藤剛裕さんと、自動運転システムの開発を行う株式会社ティアフォー 取締役 COOの田中大輔さん、公益財団法人大阪産業局 IoT・RTビジネス推進部部長の手嶋耕平さんが登場。
SkyDriveとティアフォーの二社が進めている実証実験の結果や次世代モビリティー開発の未来についてビジョンが語られた。本記事では、その一部をご紹介しよう。
「2025年までに空飛ぶクルマを実用化」SkyDriveが目指す空の移動・物流革命
次世代モビリティーの開発が活発に進む大阪で、国産の「空飛ぶクルマ」や「物流ドローン」の開発で注目を集めているのがSkyDriveだ。
同社が開発する空飛ぶクルマとドローンは、「電動・垂直離着陸・自動運転」の三つの要素が肝。「誰もが手軽に空のモビリティーを活用できる未来」づくりに挑む。
SkyDriveが現在開発を進めている二人乗りの機体『SD-05』では、2025年の有人飛行で実用化を目指す。空からの眺望を楽しみながら移動し、渋滞や満員電車のストレスから開放される未来も近いかもしれない。
「空飛ぶクルマは、2016年にUber社がそのコンセプトをホワイトペーパーにまとめて公開したことをきっかけに、欧米をはじめ世界中で開発の熱量が上がっていきました。
地上と比べて空には新たな産業を創出する余地がある。モビリティー革命でそれを推進していきたいと考えています」(佐藤さん)
電動の空飛ぶクルマは、高価なエンジンを搭載する飛行機よりも安価に製造できるのが利点だ。言わずもがな、製造コストが低い分、販売価格も低く提供できる。
また、電動モーターはエンジンと比べて部品が少なくメンテナンスも容易。「騒音を抑えるのにも役立つ」と佐藤さんは解説する。
また、難しい操縦が求められる航空機と違い、ドローンの自動姿勢制御技術を用いることでパイロットになるためのハードルを下げることも可能だ。
「初期はパイロットが必要になりますが、将来的には、自動運転でのエアタクシー事業も視野に入れています。
目的地をセットすれば、運転手の操作なしに自動でそこまで連れていってくれるような空飛ぶタクシーを2030年以降に形にし、2040年くらいまでに台数を増やして社会で普及させたい。
初期の運賃は2万円くらいになる想定です。普及すれば、もっと価格は下げられるかもしれません」(佐藤さん)
その他、空飛ぶクルマをドクターヘリに代わるものとして活用するビジョンもあるという。
オープンソースの自動運転OS『Autoware』で業界に新風を吹き込むティアフォー
続いて、ティアフォーが開発するオープンソースの自動運転OS(基本ソフトウェア)『Autoware』について田中さんが紹介した。
『Autoware』は、LinuxとROSをベースとした自動運転システム用OS。LiDAR(Light Detection and Ranging)、カメラ、GNSS(全球測位衛星システム)などの環境センサーを利用して、自車位置や周囲物体を認識しながら、決められたルート上を自律走行できる。
同社創業者兼CTOの加藤真平さん(東京大学准教授)によれば、「『Autoware』が認識できる情報や判断力は、すでに人間を上回っている」という。
「例えば、『Autoware』は交差点を渡っている人がその場に何人いるのか、その付近に車は何台あるのか、近くを通った車は時速何キロで走っているのか、こうした情報を正確かつ瞬時に理解した上で運転に反映させることができます」(加藤さん)
さらに、『Autoware』のオープンソースは名古屋大学、長崎大学、産業技術総合研究所による共同成果の一部として、自動運転の研究開発用途に無償で公開されている。
加藤さんは「国内全体で、自動運転技術の開発を加速させることが狙いだ」と話す。
「労働人口の減少、超高齢化社会の到来により、日本社会に新しいモビリティーが必要とされていることは明らかだ」と田中さんは続ける。
「自動運転の開発には莫大なコストがかかりますから、業界のプレーヤーが協力し合い、一緒にイノベーションを起こしていくことが必要不可欠です。
かねてから、伝統的な大企業が縦割りで運営してきた自動車業界の景色を、そろそろ変えてもいいのではないか。スタートアップ企業、大学などで連携し、業界に新しい風を吹かせたい」(田中さん)
万博会場では空飛ぶクルマの遊覧飛行、会場までのエアタクシーも
2025年の大阪・関西万博では『未来社会の実験場』をコンセプトに、モビリティー分野のさまざまな実証実験が披露される予定だ。
「SkyDriveでは、実際にわれわれが開発する空飛ぶクルマに乗ってもらいたいと思っています。現在検討しているのは、万博会場内での遊覧飛行体験、万博会場へ行くエアタクシーサービスの二つです」(佐藤さん)
空飛ぶクルマの実用化のハードルとなっているのが、「型式認証の取得(※)」だと佐藤さんは言う。
(※)最低限度の法規・技術要件・安全性を満たした製品に与えられる認証
空飛ぶクルマの型式認証は前例がないため、国土交通省などと認証に向けた新基準を定める必要があるのだ。
「基準を定め、安全性を証明し、現在ある実用化のハードルを一つ一つクリアしていくのが課題です」(佐藤さん)
一方のティアフォーは、万博開催中は会場内外の人・モノの輸送を担うという。
「会場内での輸送は、自動運転車によるパビリオン間の人の輸送です。また、夜間には、物資搬入やゴミ回収など会場整備に自動運転車を活用します。
また、会場の外では、新大阪駅や関西国際空港と万博会場の移動で自動運転車を走らせる想定です。ぜひたくさんの方に乗っていただきたいですね」(田中さん)
ただ、ティアフォーの取り組みにも課題はある。自動運転車が走行するルートや、車両・運行スケジュールを独自に決めることはできない。そのため、大阪メトログループと慎重に議論を進めているところだという。
住む場所をもっと自由に。移動は「移動以上」のものへ
SkyDriveやティアフォーの取り組みを見るに、モビリティー革命はまさにすぐそこまで来ている。では、その先にある未来の社会とは一体どんなものなのだろうか。
SkyDrive佐藤さんは、「人が住む場所の選択肢がよりいっそう広がる」と話す。
「空の移動がもっと身近なものになれば、これまでは交通の便が悪くて住めなかったような場所にも住めるようになりますよね。
また、空を使えば直線距離の移動が可能なので、目的地までの移動時間も短縮できる。好きな場所で、時間を有効に使って暮らす、豊かな毎日を実現することにつながるのでは」(佐藤さん)
「自動運転車の中では、あらゆるエンターテインメントを楽しめるようになると思います。移動がただの移動ではなくなり、『楽しむ時間』になる日は近いですね」(田中さん)
万博を3年後に控えた大阪・関西は、近未来モビリティーが続々と生まれるテクノロジーの聖地へ。
モビリティー分野の開発に携わりたいエンジニアにとっては、ますます魅力的な場所へと進化を遂げそうだ。業界に新たな風を吹き込むスタートアップ企業の動向に、今後も注目していきたい。
登壇者プロフィール
取材・文/小田切 淳
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