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「ロボットを人類最後の発明に」殺菌灯搭載ロボ開発者が捨てた“創り手のエゴ”【スマートロボティクス】

働き方

技術で社会課題解決に挑む姿をクローズアップ!

ロボティクス開発者の野望

少子高齢化による労働力不足、コロナ禍に深刻化する人々の孤独や、非接触需要の高まり。今、あらゆる社会課題の解決に活用される「ロボット」を開発する人たちの姿にフォーカス。どんな想いや技術で課題解決に向かうのか、未来を見据える彼らの「野望」を聞いてみた。

2016年の創業以来、農家の人手不足を解消する「ミニトマト収穫ロボット」や、リモートで会話やモノの運搬ができる「テレワークロボット」など、さまざまな社会課題を解決するロボット開発にチャレンジしてきたロボット企業・スマートロボティクス。

最近では、病院や商業施設向けに遠隔操作型の「殺菌灯搭載ロボット」を開発し話題を呼んでいる。

同製品を開発した同社CTOの服部秀男さんと、開発部長の松田啓明さんは、これらのロボットを通じてどんな世界を実現したいのか。これからの野望について聞いた。

スマートロボティクス
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株式会社スマートロボティクス 取締役CTO 服部秀男さん

金沢工業大学でロボカッププロジェクトに参画し、人工知能の機能を競い合うヒューマノイドリーグの世界大会に出場。スタートアップ企業でウェブシステムや電子機器の開発に従事し、新日本工業で新規事業を立ち上げ。ジャパンロボットスクールを自ら立ち上げた後、スマートロボティクスの創業メンバーとして取締役として関わる

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開発部長 松田啓明さん

大学時代から移動ロボット、ロボットアームなどを手掛ける研究室に所属し、卒業後はライフロボティクスで設計業務に従事。その後スマートロボティクスへ入社

「ロボットを生かしきれない」社会を変えたい

── そもそも「殺菌灯搭載ロボット」は、どのような経緯で開発されたのでしょうか?

服部:もともと僕たちは、顧客の要望に応じた自走式ロボット、ドローンなどさまざまなロボットを開発していました。ところが昨年のコロナ禍で、新規の案件がストップしてしまったんですよ。ピンチではありましたが、これは僕たちがこれまで培ってきた技術力を社会に還元するチャンスだと感じました。

そこでまず開発したのが、遠隔操作で動く「テレワークロボット」です。これは、リモートでの運搬や見回り、会話を実現するロボット。人の立ち入りが規制されている場所や遠く離れた場所でも現地に行くことなく、手軽に見回ることができます。

── まさに今必要とされているロボットですね。

服部: ええ。その後に「テレワークロボット」の機能に加えて、「殺菌灯(紫外線照射ランプ)」を搭載したのが「殺菌灯搭載ロボット」です。セットアップが不要なので、届いてすぐに安全に除菌をすることができます。

これが今、一番求められている「社会課題解決のかたち」だと考えました。それと、僕たちはこれらのロボットを使って、もう一つ解決したい課題があるんです。

── もう一つの課題?

服部:「便利なロボットはたくさんあるのに、導入する側の心理的ハードルが高くて使ってもらえない」ことがロボット業界の課題だと考えているんです。ロボットはいろいろな課題を解決するツールであることは間違いないのに、生かしきれていないなと。

その原因は、大規模な設備投資や、複雑なセットアップが必要であるなど、とにかく「導入が難しそう」なところです。

だから、ロボットをもっと普段使いしてもらうために、複雑な操作や設定が不要で、スマホやPCブラウザで、ゲーム感覚で操作できるロボットを作らなければと考えていました。

── 一般のユーザーや企業にとって 「ロボットを使ってもらう」までに壁があるということですね。

服部:はい。そこで当社の製品がユーザーの「初めてのロボット」のハードルを劇的に下げていきたいと思っています。

テストを何度も繰り返し、狭い場所でも自律走行が可能に

── 具体的に「殺菌灯搭載ロボット」ではどんなことができるんでしょうか?

服部:主に病院で使われる想定で、一般病棟は操作者がロボットについて歩きながら除菌作業を行い、感染リスクの高い重症者病棟や発熱外来ではロボットだけ危険エリアに入って除菌作業を行います。

通常、重症者病棟や発熱外来では防護服を着用しなければなりませんが、このロボットがあれば作業者の感染リスクや負担を軽減することができるんです。

── コロナ禍では、医療従事者がロボットを利用するシミュレーションはなかなかできなかったのではないでしょうか。

松田:そうなんです。なので、まずは仮説や想像から始めました。「医療現場ではきっとこういうふうに使うだろう」「病院の中は、こんなふうになっているかな」という感じで。

病院はもともとロボットが走行するための施設ではないので、広い通路が用意されているわけではありません。精密機器も多いでしょうし、せわしなく働く看護師さんや点滴台を押しながら歩いている患者さんが行き交っているはず。

そこで、自社のオフィス内で何度もロボットを走らせ、繰り返しシミュレーションを行いました。オフィスの中って、意外と通路がせまかったり、椅子が密接していたりするんですよね。人間にとっては気にならない環境でも、ロボットにとってはありえないくらい複雑な動作なんです。

そこで制御システムを調整してみたり、ロボットのサイズや車輪構成を変更したりして、円滑な走行ができるロボットへとチューニングしていきました。

開発当初は、ロボットが暴走して止まらなくなり、気持ちが折れそうになったことも度々ありました。ただテストを重ねるうちに次第に精度が高まってくるので、何度も何度もテストをして。当社ではこういった「現場を想定したシミュレーション」はとことんやる方針なんですよ。

服部:以前「ミニトマト収穫ロボット」を作っていた時は、オフィスの中に櫓(やぐら)を組んでトマトを苗ごと買ってきて、育てるところから始めましたからね……。トマト作り、めっちゃ難しかったです(笑)

スマートロボティクス
──ロボット開発のはずが、トマト作りまで自分たちで!

松田:当社の開発基本理念が「現場で使えるものを作れ」なんですよ。だから「誰が・いつ・どのように」使うかを強く意識するために、リアルなシミュレーションは欠かせません。

そうしていると、機能が多ければいいわけではないことなど、本質的なUI/UXが感覚的に分かってくるんですよ。

「殺菌灯ロボット」の場合は、忙しい医療関係者が使うわけですから、すぐロボットを操作できるような使用感やUIにするよう細心の注意を払いました。

例えば、ロボットの操縦用のジョイスティックは、操作に慣れていない初心者の方が誤操作しないようにジョイスティックの割り当てを工夫したり、万が一人やモノにぶつかりそうになってもセンサーで止まるようになっていたりします。

他にも、現場での利用シーンを見ていると、手でロボットを押すといったこともあるんですね。それって、最初は想定していませんでしたが、1分1秒を争う医療現場では起こり得ることです。だから「現場で押しやすい」ようにハンドルを取り付けたり、次期モデルでは機体を大幅に軽量化するなどして対応しました。

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服部:あくまでも一般論ですが、エンジニアってどうしても自分の手元の範囲だけで開発してしまいがち。でも、それでは実際に使う人の気持ちが分かりません。

だから、現場に通うことはもちろんですし、できるだけ技術のことを分からない営業担当などにも触ってもらって、エンジニアには伝わるけれど非エンジニアには伝わらない説明になっていないかなど、フィードバックしてもらうことも大切にしています。

「ロボット業界は今、iPhone登場前夜」新しいスタンダードをつくりたい

──「使われるものを作る」はとても大切な視点ですね。お二人は、ロボット開発に携わる醍醐味は何だと感じていますか?

松田:実際に使ってもらえているところを見られるのは大きなやりがいです。

これはあくまでも個人の意見なんですが、僕はロボットを「人類最後の発明品」にしたいんですよ。面倒くさいことは全部ロボットにやってもらいたい。究極的には、人間がやるべき労働や芸術活動は人間が行い、反乱されない限りその他の労働はロボットにやってもらいたいと思っています。

だからこそ今のフェーズでは、エンジニアとしてのエゴは全部捨てて「本当に使ってもらえるロボットは何なのか」を考えることが大事です。だから僕にとっては「殺菌灯搭載ロボット」は感慨深いプロダクト。ちゃんと医療機関に使っていただけて、現場で毎日使ってもらえているというのがとてもうれしいですね。

服部:ロボット開発の醍醐味は、システム全体を多岐にわたって構成できることだと思います。機械や電気・電子工学だけではなく、ソフトウエアの制御やUI/UX設計、ディープラーニングなどのトレンドの技術にも挑戦し続けなければなりません。その全てがうまく連携し、無駄のない最適な構成にできたときは、大きな達成感があります。

──ハードの知識だけではなく、ソフトウエアの知見も必要なんですね。今後はIT系エンジニアもロボット開発に携わるチャンスが増えていくのでしょうか?

服部:そう思いますよ! ロボットをつくる人はたくさんいますが、それを社会に広めていける人ってなかなかいないので、さまざまな役割を持つエンジニアの人が集まるといいなと思います。

松田:Web系のPM、BizDevをしていた方なども活躍できますよね。あと、今のロボット業界って「iPhone登場前夜」みたいな状態なんですよ。

各メーカーがいろいろな機体をつくって、それぞれの思う最高のロボットをつくっている。でも、世の中がどんなロボットを必要としているのか「正解」を出した企業はまだないんです。

iPhoneのような、ロボット業界における「世の中みんなが求めるロボットのスタンダード」を誰もがつくりたいと狙っている状態。今最もアツい業界だと思うので、これからチャレンジするのはかなり楽しいと思いますよ。

取材・文/石川香苗子

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