この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!
「逆張りの先に勝機が見えた」電動キックボードのシェアサービスLuup岡田直道の“本気のやりたい”追求するブレない生き方
“街じゅうを「駅前化」するインフラをつくる”をミッションに、電動キックボードをはじめとしたマイクロモビリティのシェアリングサービスを展開する株式会社Luup。
電動・小型・一人乗りのモビリティはCO2削減にも効果的であることから、ESG(環境・社会・ガバナンス)文脈からも期待を寄せられ、現在では東京・大阪・横浜・京都・仙台で展開し、約46億円の資金調達に成功している。
このシェアサービスの開発・運営を行っているのがLuupであり、Luupの共同創業者かつ最高技術責任者(CTO)を務めるのが岡田直道さんだ。
岡田さんは東大工学部在籍中から複数社でアプリ開発を手掛け、大学院在籍中にLuupを創業した。
彼らが選んだ電動マイクロモビリティのビジネスは、初期投資や在庫が発生する上に、街でのポート設置、公道を走るための法規制対応、関係省庁や自治体との連携も必須になる。自社で完結するものではないからこそ、リリースまでには数々の困難があったに違いない。
岡田さんは、どうしてあえて「険しいプロダクトづくり」の道を選び、サービス化まで推進していくことができたのだろうか。
ほかのスタートアップが選ばない道に「あえて挑む」ことが、むしろ勝機だと思った
「子どもの頃からパソコンが好きで、プログラミングに親しんでいた」という岡田さん。大学進学後は、リクルートライフスタイルやSansanなどの大手IT企業でアプリケーションエンジニアとして働いていた。
しかし、いざ就職活動の時期を迎えた時、「自分が本当にやりたいことは何かと思い悩んだ」と当時を振り返る。
「大学院の卒業が近づいた頃には、アプリエンジニアとして就職活動もしました。ただ、同じタイミングで(Luup CEOである)岡井と『いつか自分たちの手で社会課題を解決して、人類を前進させるような事業をやってみたいよね』と話していて、ブレスト感覚でアイデアを出していたんです」
話を重ねるうちに、「ソフトウエアやデータの力で、人々の生活のあり方を効率的に変えていきたい」という思いが自分のコアにあることが分かった。
「4~5年くらい前は『先進的な技術を使って、まったく新しいビジネスを生み出そう』というスタンスのスタートアップが多かったと思います。かつ、初期投資が少なく、思い立てば比較的すぐに始められるようなWeb完結のサービスを選択する企業が次々に生まれていました。
だから、そこをあえて逆張りでいくと面白そうだなと思ったんです。他のスタートアップが選ばなそうな規制産業の領域に、若いメンバーで脳みそに汗をかきながら突っ走れば、何か面白いことができるんじゃないかとワクワクして。アイデアもモチベーションもあり、実際にそれを作るスキルもあるなら、まずは一回作ってみようかと話が進み、そのまま起業する道を選びました」
実は、創業当初は主婦や元介護士がスポットで家庭の介護活動をお手伝いする「介護士版Uber」に取り組んでいたという。
「ただ、依頼された人が個人宅に出向くとなると、電車移動の時間や費用がかかる。特に東京のような都市部だと、距離的には近くても、何度か電車を乗り換えないといけない場所も多いですよね。
それがコストとして負担になることが事業に取り組む中で分かり、その根底にある『移動の課題を解決するサービス』をつくれば、あらゆるビジネスがその上で新しく成立するんじゃないかという話になって。これが『LUUP』の構想につながるきっかけになりました」
失敗しても価値になる。その確信が「想定外のハードル」をも乗り越えさせてくれた
そうしてマイクロモビリティの普及を胸に本格的に動き始めた岡田さんだったが、その道のりは決して平坦ではなかった。その証拠に、スタートアップとしてはめずらしくサービスローンチまで約2年という期間を要している。
電動アシスト自転車(事業開始当初は小型電動キックボードではなく、電動アシスト自転車から始まっている)という性質上、車両・サービスの安全性の検証と、業界全体のイメージ向上のための広報活動も必要になるなど、いわゆるエンジニアリング以外の仕事も山積していた。
そんな中で岡田さんがローンチまでこぎつけられたのは「社会を一段階、便利にしたかったからだ」と話す。
「現物を用意するプロダクトを選んだ時点で、初期投資がかさんだり、ある程度時間が必要なことは想定済みでしたから、不安や焦りはありませんでした。
とはいえ、社会実装する上での法令対応は想定以上に大変で。サービスローンチ前の半年間は、自治体や大学の協力を得て、全国約30カ所の私有地で実証実験を行いながら、地元の関係者に説明してまわりました。
乗り方の説明をはじめ、時には警察の協力も得ながら危険運転抑止のアナウンスや業界全体の安全意識向上に向けたブランディングも同時並行で進めていきました。
また、将来的には障がいのある方や高齢者にも使っていただき、移動で感じる不便さをなくしていきたいと思っているのでさまざまな方に試乗してもらい、意見をもらっては改善してを繰り返していました。結果、2年間で電動キックボードの車両だけでもアップデートは11回を超えました。
ここまで折れずに続けてこられたのは、やっぱり『移動を便利にしたい』という強いビジョンがあったからだと思います。
あとは、そのビジョンに共感して集まってくれた優秀な仲間が一緒だったことと、『万が一、ここで失敗しても挑戦によって得られる経験の価値は大きい』と自分なりに確信できていたことも大きかった。
例えば、ハードウエアとアプリを連携させたものづくり経験をはじめ、渉外活動や自治体や関係省庁の要望に合わせて2週間でアプリを作り替えるような経験も、なかなか得られるものではありません。たとえ結果に結びつかなくとも、他社では得られない貴重な経験が得られるだろうと信じられたんです」
「本当にやりたいことは何か」ブレないキャリア選択をするために必要なこと
社会課題を解決するものをつくりたい……そう心に決め、動き出したはいいけれど、思うように進まなかったとき、当初の熱量が保ちづらいという人は少なくないだろう。
岡田さんが一貫して熱量を持続できているように、幾多の壁も超えられるブレないビジョンを持てているかどうかを事前に見極めるコツはあるのだろうか。
「社会課題を解決、というと大層な話に聞こえますが、どんなサービスやシステムであっても、作り手である限り、『誰かに使ってほしい』という気持ちは抱くはずです。
そう考えると、広い意味での社会貢献あるいは社会課題解決への意識はエンジニアなら誰しもが持っているのでは、と思います」
だからこそ、社会課題の解決が「一番優先したいこと」なのかどうかは見極めた方がいいと続ける。
「エンジニアがプロダクト作りで感じるやりがいは、私が思うに三つのパターンに分けられます。一つが『コードを書いていること自体や正確に動作することがうれしい』という気持ち。
二つ目が『社会にイノベーションを起こせて嬉しい』という一番遠距離の気持ち。そして、両者の中間にあるのが『ユーザーの役に立てて、喜んでもらえてうれしい』という気持ちです。
自分が『うれしい』と感じる瞬間はどこにあるのか。例えば『コード』に喜びを感じるのであれば、極端に言うとサービスの種類はそこまで大事じゃないわけですよね。
それならば、例えばさまざまなサービスを手掛けるメガベンチャーに就職して、大規模なシステムや最先端の技術に触れさせてもらう方が幸福度は上がるでしょう。
一方で『社会変革』に関心があるなら、大きな企業では意思決定に時間がかかり、満足度が下がるかもしれない。それならばスタートアップでチャレンジしてみよう……こんなふうに、自分のやりがいがどこにあるのかを正しく把握しておくことで、キャリア選択がブレなくなると思うんです」
岡田さんはさらに、「エンジニアとして成長するには、長いエンジニアライフの中で一度はエンジニアリングに没頭する期間があった方がいい」と付け加える。
「もし、自分のやりがいがどこにあるのかが見えていないのであれば、形にこだわらず、とにかく手を動かすこと。そこで時間を忘れて技術に打ち込むことで一通りのことができるようになるはずです。そうすればその後、何かやりたいことができた時にキャリア選択がかなりスムーズになりますから」
学生時代からアプリ開発に打ち込み、試行錯誤を重ねながら成長を続けてきた岡田さん。今後は「『LUUP』の事業を加速させ、描いていた社会を実現するために、僕自身がエンジニアとして成長するだけでなく、組織も成長させていきたい」と話す。
「エンジニアの視点を生かしながらチームメンバーがもっと生産性高くものづくりに打ち込める環境づくりに力を入れていきたいです。
特に組織が拡大しても意思決定のスピードや柔軟性は落としたくないですね。プロダクト志向が強いメンバーが集まり、『この会社なら自由にチャレンジできる』と思えるチームをつくって、『LUUP』を社会インフラとして根付くようなサービスにしていきたいです」
取材・文/夏野かおる 編集/大室倫子・玉城智子(ともに編集部) 撮影/桑原美樹
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