キンドリルジャパン株式会社
執行役員/最高技術責任者(CTO)/最高情報セキュリティ責任者(CISO)
澤橋松王さん
1991年、日本アイ・ビー・エム株式会社に入社し、システム開発・運用プロジェクトをリード。17年よりインフラストラクチャー・サービス部門にてクラウド、コンテナ、SREなど、技術革新の展開をリードする。21年9月、キンドリルジャパン発足にあたり現職に就任
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技術の進歩に伴ってエンジニアに求められる要件も刻一刻と変化している。特にその変化が顕著なのが、インフラ領域だ。
ここ10数年でオンプレミスからクラウドへの移行が進み、障害対応も次々と自動化。「インフラエンジニアという職業は先細っていく」といった説を目にする機会も増えた。
「インフラエンジニアの消失」は極論としても、その役割が変わっていくのは一定の事実だろう。変化し続ける業界で常に求められる存在でいるためには、どうすべきなのか?
今回は、インフラ領域で活躍する2名の技術者への取材を実施した。
ITインフラサービス企業として世界最大級の規模を誇るキンドリルジャパン(以下、キンドリル)のCTO・澤橋松王さんと、国内有数のクラウドコンピューティング企業であるさくらインターネットの代表取締役社長・田中邦裕さん。
二人が考える「市場価値の高いインフラエンジニア」でい続けるための条件を聞く。
キンドリルジャパン株式会社
執行役員/最高技術責任者(CTO)/最高情報セキュリティ責任者(CISO)
澤橋松王さん
1991年、日本アイ・ビー・エム株式会社に入社し、システム開発・運用プロジェクトをリード。17年よりインフラストラクチャー・サービス部門にてクラウド、コンテナ、SREなど、技術革新の展開をリードする。21年9月、キンドリルジャパン発足にあたり現職に就任
さくらインターネット株式会社
代表取締役社長
田中邦裕さん(@kunihirotanaka)
1996年、舞鶴高専在学中にさくらインターネットを創業、レンタルサーバ事業を開始。99年、さくらインターネットを設立、代表取締役社長に就任。IPA未踏プロジェクトマネージャーやソフトウェア協会会長、日本データセンター協会理事長なども担う
——長らくインフラ領域で活躍してきたお二人から見て、インフラエンジニアを取り巻く環境はどのように変化していると感じますか?
澤橋:インフラエンジニアを取り巻く環境が大きく変わっていったのは、2010年頃。当時はオンプレミスからクラウドへの移行が進む過渡期で、仮想サーバを借りてChefやPuppet、Ansibleといった構成管理ツールで管理するような方法が普及していった時期でした。
そこからどんどんと自動化が進んでいって、インフラエンジニアに求められるスキルセットも変わっていった印象があります。
田中:私たちの製品で言えば、サーバ機器と回線をレンタルする『さくらの専用サーバ』がご好評をいただいていた時代ですね。
システムが大規模化していく中で、「サーバを1台ずつ手作業でセットアップするのはスケジュール的にも、予算的にも厳しい」という風潮が広がっていったことを記憶しています。そこからクラウドが主流になっていきました。
思い返してみると、10年でこんなにも環境が変わったのですね。
澤橋:流れの速さにはいつまでたっても驚かされますよね。
クラウド化や自動化の波がこれほどまでに速く押し寄せたのは、日本の経済成長が鈍り、多くの企業がコスト面にシビアにならざるを得なくなったことが要因の一つではないでしょうか。
システムの大規模化にともなって、管理すべきサーバの数は増える。しかし、人間が24時間365日休まずにシステムを見守る体制はコストが掛かりすぎる……。そんなのっぴきならない事情が技術の発展を促したのかな、と。
田中:そうですね。障害復旧などを除くと、今後は手動でオペレーションをする場面はごく限られたものになっていくでしょう。
ですから、インフラエンジニアとしてのキャリアパスを考えるなら、自動化を含めた上流工程に携わるエンジニアになっていくことが大切かなと思います。
ーーインフラエンジニアとして、常に求められる存在でいるために備えておくべき必須条件とは何だと思いますか?
澤橋:求められる存在でいるために備えておきたい要素として、まずは提案力をはじめとした「ビジネススキル」を挙げたいと思います。
ーー技術力ではなく、ビジネススキルですか?
澤橋:一定の技術力があることは前提ではありますが、ビジネスでエンジニアリングに携わる以上、どこまでいってもお客さまあってこその営みになりますよね。
お客さまの要望を汲み取り、ニーズに合った企画を提案できるエンジニアであれば、時代が変わり、メインストリームの技術が移り変わっても「ビジネスパートナー」として求められる存在でいられるのではないでしょうか。
田中:ビジネススキルの文脈で言うと、コストマネジメントのスキルも推したいですね。というのも、システム開発で大切なのは品質・コスト・性能のバランスを探ることだからです。
無尽蔵にコストを掛けてもいいのであれば、ものすごく堅牢で、絶対に落ちないシステムを作ることも可能かもしれません。でも、その選択はあまり現実的ではありませんよね。
だからこそ、お客さまの要望を汲み取りつつも、技術の専門家として「このシステムはコストを掛けてでも冗長化して守った方がいい」「ここはコスト優先で設計しても問題ないのでは」と柔軟に提案できるエンジニアの存在が貴重なのです。
澤橋:提案の幅を広げていくためには、インフラ領域のことだけでなく、ソフトウェアの知識を付けておく必要がありますよね。インフラの知識はもちろんとして、それだけではお客さまのニーズを満たしきれないシーンも多いでしょうし。
田中:そう思います。常にアンテナを張って、世の中のベストプラクティスを自分の中に蓄積しておくことが大切になるでしょうね。
ーー身に付けるべき技術や知識は増え続けている、ということですね。
田中:ただ、一人で学ぶには限度があります。だからこそ、求められるエンジニアの必須条件の二つ目として「多数のコミュニティーに所属すること」を挙げたいですね。
田中:自分だけで実施できる試行回数はたかが知れています。「あの方法は良かった/避けた方がいい」という実践知識は、エンジニア同士でシェアされて広がっていくことが多いですよね。
そういった情報をいち早く入手できるのが、エンジニアのコミュニティーです。先程澤橋さんがおっしゃっていたようなソフトウェアの知識も、副次的に手に入りやすいのではないでしょうか。
澤橋:知識の獲得と同時に、コミュニティーに自ら還元していく姿勢も大切ですよね。
キンドリルでは社員がSocial Eminence(社会的な影響力)を高めることを重視しており、私自身も書籍の出版などを通してコミュニティーへの知識還元を目指しています。
このような動きをしていると、興味・関心の近い仲間がどんどんと集まってきて、おのずと技術力が引き上げられていくんです。
田中:単一のコミュニティーに依存していると、人生のリスクヘッジもできませんしね。複数のコミュニティーに所属することで、技術のみならずQOLの向上にもつながっていくと考えています。
ーーなるほど。息が長いエンジニアでいるためには、身を置く場所も考えていくべきなんですね。
澤橋:そうですね。もう一つ、求められるエンジニアへと成長していくための必須条件として挙げるとすれば、「大きな失敗経験を持つ」ことでしょうか。
澤橋:先ほどのコミュニティーの話はどちらかというとポジティブな学びについてでしたが、失敗というネガティブな出来事からしか得られない学びもあるはずです。
インフラエンジニアであれば、その最たるものが障害対応ではないかと。
田中:深く同意します。急いで現場に駆けつけなきゃいけないくらいの失敗の方が、経験として残りやすいですね。
澤橋:私も、お客さまにご迷惑をお掛けしてしまい、平謝りしながらトラブルシューティングをした経験があります。ただ、こうした失敗からは多くのことを学べますし、何より、仕事への姿勢が変わってくるはずです。
それに、必死でやっているとお客さまとの関係性も変わっていくんですよね。障害が復旧する頃には「頑張ってくれてありがとう」と感謝されることもありました。
ですからキンドリルのエンジニアたちにも、失敗を恐れ過ぎず果敢にチャレンジする姿勢を忘れないでほしいと思っています。
田中:保守的な選択をし続ければ仕事はスムーズに進むかもしれませんが、「小さい諦め」を続けていくと、いつか後悔する時がきますからね。
もちろん、お客さまにご迷惑を掛けたり、怒られたりすることを推奨するつもりはありませんが、失敗を恐れ過ぎるのも考えもの。起こってしまったものは仕方ない、自分がなんとかするんだという姿勢で臨むことで、失敗は貴重な学びの場に変わるのです。
——お伺いした条件はいずれも間接的に「技術力を高める」ことにつながるものである点が印象的でした。キンドリルとさくらインターネットでは、市場価値が高いエンジニアを育てるためにどのような取り組みをしていますか?
田中:さくらインターネットでは、オンラインでの勉強会を活発に実施しています。時には外部講師を招きつつ、エンジニアがスキルを向上させる機会を提供しています。
また、「DX Journey」という非エンジニア職を含む全社員を対象とした教育プログラムも設けています。「Slackbotを作る」といった分かりやすい課題などが設定されているプログラムで、全社員のITリテラシーを向上させる狙いがあります。
エンジニアにとって、非エンジニア職のITリテラシーの低さはストレスになりやすいものです。簡単な課題は自分で解決してもらえるようになればエンジニアの業務負荷が下がりますし、エンジニアがどのような仕事に取り組んでいるのかを理解してもらえる効果もあります。結果的に、エンジニアが自身の仕事に集中し、スキルアップしやすい環境ができあがっていくのです。
澤橋:キンドリルの場合は、研修制度はもちろんのこと、無数ともいえるプロジェクトと関われる業界の幅広さが最大の成長機会になっています。
エンジニアが「次はこういうチャレンジをしたい」と考えた時に、社内にそのチャレンジができるプロジェクトがなければ、自ら顧客を開拓するか、転職するかしかありませんよね。もちろんそれもキャリア形成の手段ではありますが、必ずしも成功するとは限らず、リスクも大きいでしょう。
その点、キンドリルはITインフラサービス企業として世界最大級の規模であるため、関わりのない業界の方が少ないのではないかと思えるほどに、幅広いプロジェクトがあります。外資ならではの風土も相まって、「やりたい」と手を挙げればチャンスを掴めるはずです。
逆に、「このプロジェクトは合わない」と意思表示すれば、驚くようなスピードでアサイン先を変更してもらえることも。先ほど田中さんがおっしゃった通り、ストレスのある環境ではエンジニアの生産性が上がりませんからね。
澤橋:キンドリルでは、未知のチャレンジを目の前にしたとき、まず「やってみよう」と思えるエンジニアになってほしいと思っています。
例えば機械学習などは、これまでにチャレンジした経験がない人も多いはずです。それでも、上司から「こういうプロジェクトがあるのだけれど、どう?」と打診されて、「とりあえずやってみます」と言える人には、変化の時代を生き抜く力を感じます。
結果的にうまくいかなかったとしても、ノータッチを貫く人と比較すれば、成長速度はずっと速いはず。そのためにも、チャレンジの機会を豊富に提供していきたいですね。
——最後に、インフラ領域をけん引しているお二人の「インフラエンジニア」という仕事に対する思いを聞かせてください。
田中:今日は「市場価値の高いインフラエンジニアの条件」というテーマでお話ししましたが、必ずしも市場価値の高さだけが人生の幸福につながるとも考えていません。大切なのは、自分自身の納得感だからです。
一口にインフラエンジニアと言っても、どこに働きがいを求めるかは人それぞれ。業界の流れは参考にしつつも、最終的には「自分はどうなりたいのか」のビジョンを大切にし、実現していってほしいなと思います。
澤橋:私は、一言で言えば、インフラエンジニアを「かっこいい仕事」にしていきたいんです。
少し前のイメージですと、インフラエンジニアは24時間365日、真っ黒な画面とにらめっこするきつい仕事……と思われがちでした。
でも、今では大部分が自動化されて、問題が表面化する前に解決されるようになってきています。今後はさらに、そうした自動処理を設計するためのデータ分析こそがインフラエンジニアの仕事、と言われるようになるかもしれない。そうなれば、インフラエンジニアはシステムの上流を担うプロになるはずです。
そんな未来が想像にたやすいくらいインフラエンジニアの実態が大きく変わってきていることをもっと広く知ってもらえたらと思いますし、キンドリルも、インフラエンジニアの魅力を精力的に発信していきたいと考えています。社会を支える「縁の下の力持ち」として励んでいきたいですね。
>>キンドリルジャパンの採用情報を見る
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取材・文/夏野かおる 撮影/吉永和久 編集/秋元祐香里(編集部)
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