今後の成長に期待が膨らむネオジェネレーションなスタートアップをエンジニアtype編集部がピックアップ。各社が手掛ける事業の「発想」「技術」「チーム」にフォーカスし、サービスグロースのヒントを学ぶ!
給与は言い値、意思決定者は選挙で決める。Web3企業Gaudiyの急成長を支える「DAO×実験文化」
エンタメ×ブロックチェーンで「ファン国家」を実現する——。そんなミッションのもと、急成長を遂げているWeb3企業がある。
NFT、DID(分散型ID)などのブロックチェーン技術を活用し、ファンの熱量を最大化するWeb3時代のファンプラットフォーム『Gaudiy Fanlink』を提供する株式会社Gaudiyだ。
代表取締役CEOの石川裕也さんがGaudiyを立ち上げたのは、2018年5月。創業当初はWeb3の概念自体がまだ浸透しておらず、サービス導入を検討してくれる企業も少なかった。
しかし、この1年で同社を取り巻く環境は一変。国内外でWeb3への注目が高まり、22年8月にはシリーズB総額34億円の資金調達を完了。
サンリオ、集英社、バンダイナムコなどの大手企業とのパートナーシップ提携を続々と発表し、世界展開も視野に入れた開発に取り組む。
また、石川さんとエンジニアの勝又拓真さんによれば、「Gaudiyの成長の裏側にはエンジニアが開発にフルコミットできる環境がある」という。
エンジニアが開発に集中し、高い生産性をあげられる組織は一体どのようにつくられているのだろうか。Web3企業ならではの取り組みについて、二人に話を聞いた。
株式会社Gaudiy 代表取締役
石川裕也さん(@yuya_gaudiy)
1994年、東京生まれ。19歳でAI関連企業を創業のち売却。2017年にブロックチェーンに出会い、その翌年、Gaudiyを創業。個人ではガンダムメタバースやLINE Pay、毎日新聞などでブロックチェーン関連の技術顧問なども兼任。20年には慶大教授・坂井氏らとブロックチェーンに関する論文も発表。22年5月と8月に実施したシリーズBで総額34億円を調達
バックエンドエンジニア
勝又拓真さん
大学院卒業後、2017年にヤフー株式会社に入社。バックエンドエンジニアとして『Yahoo! JAPAN』のトップページのレコメンドAPIの開発に携わる。当時からブロックチェーンの思想や将来性に興味を持ち、副業をきっかけに19年にGaudiy入社。現在は、コミュニティアプリのバックエンド開発や、ブロックチェーン周りのアーキテクチャ設計、開発など幅広く担当
創業3年目にして「ようやく時代が追い付いてきた」
——Gaudiyは今年シリーズBで総額34億円を調達するなど、国内のWeb3企業の中でも特に注目を集める存在になりましたよね。創業から5年を振り返って、ここまでの歩みはスムーズでしたか?
石川:いえ、今もスムーズとは思っていませんが、18年の創業当初は僕たちのサービスを使ってくれるクライアントが全然増えなかったので、Gaudiy自体のファンコミュニティーも運営しながらサービス改善を続けていました。
——今や数々の大手企業との提携を発表していますよね。転機は何だったのでしょうか?
石川:考えられる要因は二つあります。一つは、プロダクト自体が成長したこと。そしてもう一つは、時代が追いついたことです。
Gaudiyを創業したころ、僕が持っていたのは「ブロックチェーンの技術はすごい、必ずパラダイムシフトを起こすはずだ」という予感だけでした。
Dapps(自律分散型アプリケーション)によってカルト的な価値共創となめらかな価値分配が実現される——。そんなワクワクする世界にコミットしたい一心でGaudiyを立ち上げたんです。
ところが先述したとおり、当時はまだ早すぎて、どこも使ってくれませんでした(笑)
勝又:でも、だからこそじっくりとプロダクトを作り込めた面もありましたよね。
この1年で一気に注目していただけるようになって「プロダクトをもっと良くしなければ」というプレッシャーもますます感じるようになりましたが、立ち上がりまでがある程度ゆっくりだったのはよかったのかもしれません。
——『Gaudiy Fanlink』の開発を進めるにあたって、特に難しい点は?
勝又:単にコミュニティー機能をつくるだけではだめで、コンテンツの販売やライブ配信など、クライアントが求める機能をふんだんに盛り込んだ“スーパーアプリ”として開発しなければいけないところですね。
しかも、多くのクライアントから期待を寄せられている以上、各機能には高いクオリティーが求められます。
順調にいっているように見える今もなおハードな状況であることは変わりませんが、それでも働きがいがあるのは、Gaudiyという組織の生産性がものすごく高いから。
余計なストレスに悩まされずに開発に集中できる組織だから、プロダクトにフルコミットできている感覚があるんですよね。
「DAO」と「実験文化」が生み出す高い生産性が急成長を後押し
——余計なストレスがない、というのは?
石川:Gaudiy自体がDAO(分散型自律組織)であることが、ストレスを排除して生産性高く働ける組織を支えていると考えています。
僕はGaudiyを創業した当初から「限りなくフラットな組織」にしたいと考えていたんですよ。例えば、役職もなければ責任者も置かない。それぞれの人が「自分の領域」を決めず、できることを何でもやってみようよ、というスタンスでやってきた。
なぜかというと、役職や担当領域を決めた瞬間、それ以外の仕事に対する拒否感が強くなりますし、「このボール(タスク)は自分のものじゃない」という意識が生まれますからね。
すると、「この仕事誰がやるの?」みたいな押し付け合いが始まったりして、余計なことに悩むことになります。せっかくワクワクするプロダクトを開発するのに、わずらわしい分業意識は必要ないと思ったんですね。
それで、まさにWeb3的な組織として走り出したのですが、それがプロダクトの性質にうまくハマって。メンバーのモチベーションが総じて高かったこともあり、管理者がマネジメントをせずとも生産性が高い状態が保たれていました。
——少数精鋭だからこその、理想的な体制ですね。
石川:ええ。Gaudiyでは定期的に外部のエンジニアに社内エンジニアの1on1を依頼していますが、彼らからも「こんなに全員のモチベーションが高い組織は見たことがない」と驚かれます。
ただ、組織の状況やフェーズが変われば、これまでうまくいっていた組織運営のあり方が通用するとは限りません。
それでまさに先日、組織体制を変更して、意思決定者を置く運用方法に変えていくことにしたんです。
とはいえDAOならではの民主性も失いたくなかったので、誰が意思決定者を担うかは投票で決めることにしました。
ーー意思決定者には誰でもなれるのでしょうか?
石川:そうです。例えば、「このプロジェクトは、この人がチームを引っ張っていくべきだ」とみんなから認められれば、どんな人でも意思決定者に選ばれます。
これができるのは、Gaudiyの組織が小さなフィーチャーチームから成る自律分散型組織だからです。
従来型のトップダウンな組織では、上への忖度が働いて意思決定がゆがめられたり、単純に意思決定のスピードが鈍ってしまったりしますよね。
そこでGaudiyでは、民主的に選ばれたリーダーのもと、各チームが自律的に動くことで意思決定のスピードを上げようとしているんです。
そうすれば、開発の生産性も上がっていくはずだという仮説を検証していくわけですね。
勝又:ちなみに、選挙で選ばれるのはCEOも例外ではありません。会社の代表としてふさわしくないと判断されればCEOを解任される可能性もあります。
石川:つまり、僕が無能だと判断されればCEOを降ろされるということです(笑)
——徹底していますね。あえてお聞きしますが、本当に民主的な制度として機能するでしょうか。また別の問題が出てくる可能性もあるのでは?
石川:その場合は、すぐやめます。これはいわば「実験」の一環ですから。
——「実験」ですか?
石川:はい。僕たちはGaudiyを「実験組織」と定義し、他の組織ではなかなか挑戦できない会社運営やチーム運営に次々とチャレンジしてきました。
例えば、Gaudiyには給与査定の考え方はなく、報酬は言い値で決まります。なぜなら、査定や評価といった指標を置くと、各メンバーが評価者の方向を向いて働くようになるからです。
ーー確かに、会社からの納得のいかない評価は、余計なストレスになりますよね。
石川:そうなんです。そんなことでエンジニアのモチベーションが下がるのは好ましくないので、「自分が納得できる金額を言ってください」と言っていて。
「子どもを授かったから、もうちょっと欲しい」みたいなのも全然OKですよ、というふうにしました。
——挑戦的ですね。給与言い値制もうまく機能していますか?
石川:はい、今のところは。
あと他にも、水曜日の午前中は休みで、午後は勉強してもいいし、寝ていてもいいし、自分のために使っていいよというルールをつくったこともありました。実質、週休3日制のようなものですね。
石川:ただ、結論からいうとこれはうまくいかなかったんです。それで今は「自己研鑽したり、社内のメンバーと議論をしたりする時間にあてること」というルールに変更しました。こんなふうに、失敗を踏まえて制度を微調整することもあります。
世界の期待を一身に背負い、日本のIPビジネスを強みに勝ち上がっていく
——プロダクトにおいても、組織運営においても挑戦を続けるGaudiyの今後の課題は?
勝又:スケーラビリティーと実験文化の両立ですね。
『Gaudiy Fanlink』をより多くの企業に使っていただくためには、ユーザーが増えた時の負荷に耐えられるような強いプロダクトを作ることが求められます。
勝又:プロダクトの影響範囲が大きくなればなるほど、おのずと組織規模も拡大していくと思いますが、それによってGaudiyの実験文化が薄まったり、損なわれたりするようなことは避けたい。
例えば、新しい技術を検討するとして、意思決定に1カ月や2カ月かかるようでは、実験のサイクルがうまく回りません。
組織規模の拡大とともに増大しがちな「タイムパフォーマンスの悪さ」をどう解決し、グローバル市場を見据えていくのか。それが、次に取り組むべき課題だと認識しています。
石川:Gaudiyの評価額はますます高くなり続けていて、海外の企業からも注目していただけるようになりました。
それは、われわれの組織やプロダクトへの期待値でもあると思いますが、根本にあるのは、日本のエンタメ業界への期待でもあると思っています。グローバル市場において、日本のIPビジネスは本当に強いですから。
だから僕らは、これまでにパートナーシップを結んだエンタメ企業の皆さんとのシナジーで世界中に熱狂を生み出していきたい。
そして、世界を舞台に戦うなら、これまで通りではいけないし、普通の戦い方をしていてはだめ。他の会社では絶対に真似できないようなチャレンジをして、失敗経験すらも僕らの存在価値に変えていく……。それこそが、Gaudiyが目指す「実験組織」のあり方です。
文/夏野かおる 勝又さん撮影/赤松洋太 石川さん写真/Gaudiy提供 取材・構成/栗原千明(編集部)
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