『エンジニアtype』がお送りする、クリスマス特別企画。
登場するのは澤円さんと、アジア唯一のグリーンランド国際サンタクロース協会公認サンタクロースアジア代表のパラダイス山元さん。
日本のキリストこと澤さんと本物のサンタクロースを会わせたら、どんな化学反応が起きるのか……? そんな純粋な興味から始まった本企画、取材が始まると意外にも「エンジニアにはサンタマインドが必要」という結論に。
エンジニアとサンタクロースの思わぬ共通点とは一体……?
公認サンタクロース、20年前の『エンジニアtype』に登場していた
サンタさん
実は私、20年前に雑誌だった頃の『エンジニアtype』に出たことがあるんですよ。
サンタさん
サンタになったばかりの頃ですね。何がきっかけだったのか、なぜ取り上げていただいたのか、全然覚えていないですけど。
サンタさん
澤さんは、サンタさんやクリスマスの思い出はありますか?
澤さん
子どもの頃はプレゼントをもらっていましたし、サンタさんのことは信じていましたね。
両親は戦前に広島で生まれた人間で、原爆で何もかもを失った体験がありました。
澤さん
物がある幸せを身に染みて理解している人だったから、僕は子どもの頃から物質的には恵まれた中で育てられたと思います。
その中でも、やはりクリスマスは楽しみなイベントでした。
澤さん
存在は知っていましたけど、パラダイスさんの絵本『サンタさんみっけ!』(YAMAVICO HAUS)で、初めてサンタクロースになるための試験があることを知りました。
それも、かなり真剣にやっていますよね。
サンタさん
そう、真剣なんです。
120キロ以上という体重規定があったり、クッキーをたくさん食べさせられたり、プレゼントが入った袋を持って全力ダッシュしたり。
澤さん
僕、そういうのが大好きなんですよ。ばかにする人もいるでしょうけど、それを真剣にやるすばらしさは人間ならではのもの。
絵本を拝見して、「公認サンタ、めっちゃいいじゃん」って思いました。
澤さん
まさに、山口周さんの名フレーズ「役に立つより意味がある」ですよね。
何かの役に立つことをサンタクロースに期待する人はほぼいないじゃないですか。
「煙突に詳しいんだから煙突掃除してよ」なんて誰も言わないわけで。
澤さん
「サンタはクリスマスに来るもの」というのが世界の共通認識になっているから、それ以外の時期にサンタさんが来ないことも当たり前のようにみんなが受け止めている。
それだけサンタクロースは「意味」が強い存在なのだと思います。
サンタ会議の議題「インターネット社会におけるサンタクロース」
澤さん
年に1回「世界サンタクロース会議」があると聞きました。会議ではどんな話をするんですか?
サンタさん
いろいろありますが、『エンジニアtype』っぽい話をすると「日本のゲームをクリスマスプレゼントにしてもいいのか」が議題になったことがありましたね。
サンタさん
「日本ではこんなものを子どもへのプレゼントにしているのか」と、当時の議長だったカナダのサンタから見せられたのは、子ども向けにしては刺激的なパッケージのゲームでした。
サンタさん
そんなのどうすることもできないよと思って反論せずにいたら、だんだん僕が悪い感じになっちゃって。
要するに、「パラダイス山元が公認サンタクロースとして日本にいるんだから、プレゼントの供給元へクリスマスにふさわしい商品をつくるよう啓発しなさい」と。
議長サンタからは「日本が世界に変なものをバラまきすぎている!」みたいなことまで言われちゃいました。
サンタさん
あとは「インターネット社会におけるサンタクロース」が議題になったこともありました。
サンタさん
実は、公認サンタクロースのホームページって存在しないんです。
過去には用意したこともあったんですけど、「サンタさんはもっとミステリアスな存在であるべきだ」という意見がサンタ会議で出たから、閉じちゃいました。
サンタさん
最近だと、アプリを作る話も出たんですよ。
クリスマスは「サンタさんに手紙を書いて、プレゼントが来るまでいい子でいる」イベントであり、アプリは関係ないという結論になってしまいましたけどね。
そういうテクノロジーを生かす案は若いサンタから上がりますが、現状は年配のサンタから反対されることが多いです。
澤さん
アプリでいうと、サンタさんが今どこにいるのか分かるアプリが毎年話題になりますよね。
夢があるし、国がどういう順番で並んでいるのか、時差によって各国のクリスマスがいつ訪れるのか、世界のことも知れる。
面白いなと思います。
サンタさん
テクノロジーの発達によってサンタの存在やクリスマスの意義が発展する可能性は大いにあって、実際に変化もあります。
例えば昨年、サンタさんとお話ができるサービスがタカラトミーの公式『LINE』でリリースされました。
自動応答メッセージを活用し、サンタさんが質問に答えてくれるんです。
サンタさん
子どもたちがただググるのでなく、こういうサービスを通じてサンタさんに気になることが聞けるようになった。
それは一つの教育的啓蒙に値するような気がしますね。
サンタさん
もはや昔のように「木のおもちゃをサンタさんがハンマーで作っている」みたいな絵本の風景がありえないのは周知の事実で、子どもたちもそこは理解しているんですよね。
サンタさん、絶対に一人でゲーム機なんか組み立てられないですし。
サンタさん
要するに、昔のサンタさんは製造メーカーのエンジニアだったけど、今は流通側に役割が変わってしまったんです。
とはいえサンタクロースの存在はロボットに変えられない。
そういう意味では、テクノロジーが進化するほどアナログになっていく部分もあるなと感じています。
サンタクロースとプレゼンテーションは相性がいい?
サンタさん
ここに来て、サンタにもプレゼン能力が問われているんですよ。
コロナ禍でサンタ会議はオンラインになったのですが、サンタさんたちはオンライン会議に慣れていなくて。
サンタさん
ツールを使いこなせないから、会議が始まるまでに1時間くらいかかっちゃう。
年配のサンタも多いので、まだまだ慣れるのには時間がかかりそうです。プレゼンの神様から何かアドバイスはありますか?
澤さん
よくお伝えしているのは、「正しいことを語ろうとしなくていい」ということ。
情報が正確であることはプレゼンにおいてそれほど重要じゃないと、少なくとも僕は思っているんです。
澤さん
「正しいことを言わなければいけない」というのは呪いのようなもので、その呪いにかかっちゃうと調べ物が終わらないんですよ。
世の中は矛盾しているんだから、それを前提にすればいい。
サンタさん
正しいことばかり言っていても面白くないですもんね。
特にサンタは夢を持たせるのが役割ですから。
澤さん
そのときに大切なのは、主語を自分にすることです。
プレゼンテーションの全ては「私はこうなるといいと思います」という未来の話。
プレゼンテーションからエーションをとったら「プレゼント」であり、プレゼンテーションは相手に贈り物を届けるのと同じこと。
絶対にサンタさんと相性はいいはずですよ。
澤さん
ほとんどの人は相手の喜ぶ顔が見たくて何をプレゼントしようか考えますよね。
そこには自分と相手の関係性とコンテキストがあって、それによって最適なプレゼントが決まってくる。
それを考えるのは楽しい作業じゃないですか。
そう考えるとプレゼンテーションへの考え方は変わるんじゃないかな。
サンタさん
サンタクロースとプレゼンテーションの相性が良いなんて、新発見です。
いや〜面白い。
クリスマスは「自分の仕事で人を幸せにできている?」を振り返る日
澤さん
エンジニアが正しく動くものを作る理由もまた、その先にいる誰かを幸せにするためです。
「これをインプリしたらきっとあの人の仕事が楽になる」「これをアップデートしたらチームメンバーの作業効率が上がって早く帰れるようになる」といったことを想像しながら、そのために仕事をしているわけですから。
澤さん
まさにそうです。
ただ、エンジニアはサンタさんと比べると、「ありがとう」をなかなか言ってもらえません。
IT部門の人に「メールが届きません」といった問い合わせをした経験はほとんどの人にあると思いますが、「今日もメールがきちんと届きました。ありがとう」と連絡したことがある人はほぼいないですよね。
澤さん
特に日本の場合、その傾向が強い気がします。
欧米社会だとエンジニアはスターだけど、日本では作業者になってしまいやすい。
そこはちょっと残念ですね。
サンタさん
大人も子どもも、みんながサンタさんのような気持ちで生きれば、もう少しいい社会になるんじゃないかなと思っているんです。
そうやってみんながハッピーになってほしい。“サンタDNA”を広めたいなと思います。
澤さん
サンタクロースはハッピーになるための一つの象徴であり、マインドセットですからね。
日本の問題は、物質的な欲求を満たすために「サンタクロース」というキーワードが頑張り過ぎてしまっているところにある気がします。
サンタをマインドセットだと考えると、本当は1年中その意識を持っていていいんですよ。
澤さん
でも、それだと飽きちゃうし存在感も薄まっちゃうから、クリスマスというイベントで「サンタ」を通じて、そのマインドセットを思い出したりアップデートしたりできるといいですよね。
サンタさん
エンジニアの皆さんにとって、クリスマスが「自分は普段の仕事でちゃんとプレゼントを贈れているだろうか」という振り返りの機会になるわけですね。
うれしい話だな。
あと実は、公認サンタクロースの中にはエンジニアの人も結構いるんですよ。
サンタさん
エンジニアは場所を問わず仕事がしやすい職種ですし、公認サンタクロースは新しいサンタさんを大募集中です。
澤さん
これはエンジニアtypeで募集するしかないですね(笑)
サンタさん
エンジニア系サンタクロースはこれから必要になってくると思うんですよ。
サンタの存在意義が変わる今、技術力を生かしてサンタが人々に与える夢を大きくするチャンスは絶対にあります。
世の中で消滅しかけている商売はいろいろあるけど、その中でサンタは指折りの絶滅危惧種。
夢を壊すのではなく、新たな形に膨らませる人たちがどんどん公認サンタクロースになってくれたらいいなと願っています。
株式会社圓窓 代表取締役
澤 円さん(@madoka510)
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフトに転職、2020年8月に退職し、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。武蔵野大学専任教員。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。 著書:『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界№1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」 』(プレジデント社)/『「疑う」から始める。これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉(アスコム社)/『「やめる」という選択』(日経BP社) Voicyチャンネル:澤円の深夜の福音ラジオ オンラインサロン:自分コンテンツ化 プロジェクトルーム
グリーンランド国際サンタクロース協会公認サンタクロースアジア代表
パラダイス山元さん(@mambon)
1962年、札幌市生まれ。富士重工業(SUBARU)のカーデザイナーを経て、『東京パノラママンボボーイズ』を結成、ミュージシャンとしてメジャーデビュー。98年、日本人として初めてグリーンランド国際サンタクロース協会公認サンタクロースとなる。その他、会員制餃子の店『蔓餃苑』苑主、入浴剤ソムリエ、マン盆栽家元など、活動は多岐にわたる。 著書に『パラダイス山元の飛行機の乗り方』『パラダイス山元の飛行機のある暮らし』『なぜデキる男とモテる女は飛行機に乗るのか?』(ともにダイヤモンド・ビッグ社) 、『餃子の創り方』(光文社)、『うまい餃子』(宝島社)、『読む餃子』(新潮文庫)、『GYOZA』英語版(タトル出版)、『マン盆栽の超情景』(誠文堂新光社)など。最新著書は絵本『サンタさんみっけ!』(YAMAVICO HAUS)
書籍情報
絵本『サンタさんみっけ!』(出版社/YAMAVICO HAUS)作/パラダイス山元、 絵/ソリマチアキラ
夏休み、家族旅行で空港にやってきたあーちゃんは、サンタさんを見つけます。クリスマスにプレゼントをお願いするために、あとを追いかけて飛行機に乗りこみます。
たどり着いた先は、デンマーク コペンハーゲンでした。アメリカ、カナダ、ドイツ、スウェーデン……世界中からサンタさんが大集合!体重測定をしたり、煙突をのぼったり、山盛りのクッキーを食べたりと公認サンタクロースになるための試験がはじまります。
あーちゃんもサンタさんになれるのでしょうか。日本の公認サンタクロースと一緒に描いた冒険ストーリーの絵本です。
>>詳細はこちら
取材・文・編集/天野夏海 撮影/赤松洋太