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W杯生中継プロジェクトを乗り越えた『ABEMA』CTO西尾亮太が語る、10年先も成長を続けられるエンジニアの条件

働き方

熱い展開の連続に日本中が沸いた、2022年の「FIFA ワールドカップ カタール 2022」(以下、W杯)。その熱狂に一役買ったのが、新しい未来のテレビ『ABEMA』だ。

ABEMA

昨年開催されたW杯の全64試合を無料生中継した『ABEMA』では、1週間の視聴者数が3000万を突破するなど、過去最高を記録した。

「W杯のリアルタイム配信は『将来的にやりたい』とは思っていたけれど、技術的な難易度が非常に高く、まさかこんなに早く『ABEMA』で実現できるとは思っていませんでした」

そう話すのは、AbemaTVでCTOを務める西尾亮太さん。「思ったより早く」やってきたこの一大プロジェクトを、『ABEMA』の開発チームはなぜ乗りこえられたのか。

西尾さんが手掛けてきた開発組織づくりと、エンジニア育成のビジョンについて聞いた。

ABEMA

株式会社AbemaTV
CTO
西尾亮太さん

2011年に株式会社サイバーエージェントに入社。Amebaスマートフォンプラットフォーム基盤、ゲーム向けリアルタイム通信基盤の開発を経て、16年に『ABEMA』の立ち上げに参画。18年より株式会社AbemaTVでCTOを務める

『ABEMA』の成長を支えるのは、「コト」に向かうエンジニア組織

—— 昨年末のW杯全試合生中継は、『ABEMA』にとって一大プロジェクトだったと思います。今振り返ってみて、特に印象的な取り組みは何でしたか?

西尾:配信中に高負荷がかかることを想定した障害対策に加え、W杯配信のための新機能開発、試合後のダイジェスト版制作など、新しい取り組みを同時に進めたことですね。

新しい機能の開発でいうと、試合データ(試合情報・選手情報など)の表示やコメント機能、数台のカメラから好きなアングルで視聴できるマルチアングル映像などを今回の中継に合わせて新たに追加しました。

さらに、VODで展開するハイライト映像も、これまで以上のスピード感、高品質の映像クオリティーで届けられるように、ワークフローの再設計から行っています。

ーー 新機能開発や障害対策などさまざまな取り組みが同時進行する一大プロジェクト。なぜ、『ABEMA』の開発チームはこの状況を乗り越えられたのでしょうか?

西尾:準備に約半年、配信期間も約1カ月あり大変な状況ではありましたが、エンジニアにとっても一生に一度経験できるかどうかの仕事だったので、そもそも熱量高く取り組めたというのはあると思います。

ただ、私が2018年にCTOに就任して以降、それぞれのエンジニアが成すべき「コト」に向かえる組織づくりをしてきたことが、今回の成果につながっている部分はあるかもしれません。

ーー「コト」に向かう組織ですか?

西尾:はい。もともと、『ABEMA』が開局したばかりの頃は、担当するシステムごとにチームが分かれていたんです。

例えば、iOSチーム、Androidチーム、Webチーム、バックエンドチームというふうに、「どのシステムを担当するか」で組織が縦割りになっていました。

ただ、こうした組織体制にすることで、エンジニアの考え方が部分最適になってしまったり、サービスやプロジェクトの全体を見渡せなくなったり、何のためにこの仕事をするのかという本来目を向けるべきものを見失いやすくなっていました。

例えば、バックエンドチームなら、向かうミッションが「バックエンドを落とさないこと」になってしまい、その先にあるユーザー体験にまで思い至らなくなっていた。そこで、チーム編成をがらりと変えたんです。

現在われわれのエンジニア組織は、コンテンツ配信チーム、コンテンツエンジニアリングチーム、ストリーミングチームといったように、「ユーザーにどのような体験を届けるか」をベースにチームを構成しています。

そうすることで、エンジニア各自のミッションが分かりやすくなり、一人一人が自走できるようになっただけでなく、サービスをより良くするために必要な技術を各チームで発展させていけるようになりました。

ーーミッションが明確だと、仕事に対する熱量も高まりやすくなりますよね。

西尾:まさにそうですね。エンジニアが熱量をもって成すべきことに取り組むことが、僕らが目指す「新しい未来のテレビ」の実現につながっていると思います。

10年先も進化し続けるエンジニアと、挫折するエンジニアの差

ーー コトに向かうエンジニアを増やすために、まずはチーム編成など環境面を変えることに取り組んできたということですが、西尾さんがエンジニア育成の面で力を入れているのはどんなポイントですか?

西尾:大前提、僕自身は「技術を使って何かを成したい人」と仕事がしたいと思っています。

「技術は手段だから目的にしちゃいけない」みたいな話ってよくあると思うんですけど、それともまたニュアンスがちょっと違って説明が難しいんですけど……。

僕がイメージしているいいエンジニアというのは、「技術を正しく手段として使うために、技術をちゃんと手に持ってる人」なんです。その上で、どうしても達成したい「何か」を持っているような。

そういう人にはすごい熱量、パワーがありますから。『ABEMA』のエンジニアたちにも「技術を正しく手段として使うために、技術をちゃんと手に持ってる人」を目指してもらいたい。

ーーそう考えるようになった理由は?

西尾:明確にきっかけがあるわけではないんですが、前職にいた頃も、サイバーエージェントで働き始めてからも、途中で伸びなくなってしまうエンジニアや、道半ばで挫折してしまうエンジニアを数々見てきました。

そういう人たちと、10年先まで進化して伸び続けていく人の違いは何か。そう考えたときにたどりついたのが、結局のところ、コトを成すための熱量を持っている人かどうかということだったんです。

そして、コトを成すには、技術を正しく手段として使うことができることが必要。それでいて、技術をなめていないことが大事だなと思いますね。

ーー10年進化し続けるエンジニアでいるために、エンジニア自身ができることは?

西尾:そうですね、まずは自分の仕事に線引きをしないことでしょうか。何か成し遂げたいことがあるときって、「自分はここだけやっていればいい」とはならないはず。

逆に「自分の領域はここまでだ」って決めてしまっているときは、視野も広がらないし、成すべきことに向かえなくなってしまうと思うんですよね。

そして、そもそも自分がすごい熱量をもって取り組めることがない場合にも、今いる場所にとどまっているだけではきっとそういうものは見つからない。

一度、自分で決めた仕事の境界線をとっぱらっていろいろなことにチャレンジしてみると、熱を注げる何かが見つかるかもしれません。

——今後『ABEMA』で挑戦していきたいことは?

西尾:昨年はW杯全試合の生配信という大きなプロジェクトを乗り越えられて、一仕事終えた感じはしますが、『ABEMA』の挑戦はまだまだこれからだと思っています。

今回のW杯を機に新しくユーザーになってくださったお客さまをどうつなぎとめていくのか。今後も、『ABEMA』のコンテンツを楽しんでいただくには何が必要なのか。『ABEMA』のシステムが本来どうあるべきかというところも含め、改めて考えていくフェーズだと思っています。

容易ではないことですが、「新しい未来のテレビ」の発展に向けて、着実にステップアップしていけたらと思います。

取材・文/夏野かおる 編集/栗原千明(編集部)

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