この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!
「ボケ・ツッコミができるエンジニアに」SHE・CTO村下瑛が実践する“自由でカオス”なキャリア選択
累計会員数7万人超、日本最大級の女性向けキャリアスクール『SHElikes(シーライクス)』を運営するSHE株式会社(以下、SHE)。2022年10月には総額約18億円の資金調達を発表するなど、今後のさらなる成長が期待されるスタートアップだ。
SHEの事業をテクノロジーサイドからリードしてきたのが、CTOの村下 瑛さん。東京大学を卒業後、外資系の大手企業・Indeedに就職。アメリカ拠点でエンジニアリングマネジャーを経験してきた。
順風満帆。そんな言葉がしっくりくるようなキャリアを歩んでいた村下さんだが、新卒6年目にアメリカを離れ日本に帰国。そしてジョインしたのが、当時創業2年目のSHEだった。
なぜ大手企業で経験を積んだ彼は、スタートアップに働く環境を移したのか。村下さんのキャリア選択の軸から、これからの若手エンジニアに必要な視点やスキルを考えたい。
良いプロダクトを作るため、“最強のエンジニアリング”をぶつけ合う
女性向けキャリアスクール運営を軸に、働く女性のキャリア支援を行ってきたSHE。しかし、SHEが目指すのは単なる「女性向けキャリアスクール」ではないと村下さんは語る。
「2017年の創業以来、スクール事業に注力してきたSHEですが、『スクールだけ』で実現できることに限界を感じるようになってきたんです。
学ぶだけでなく、得た学びを生かして実際に働くことでこそキャリアは築かれていきます。ですが、スクール運営だけでは『学びの先』までサポートしきれない。
どれだけスキルを身に付けても、仕事に挑戦するためには多くのハードルが存在しているため、『実際の仕事には結び付びつけるのが難しかった』という声も耳にしてきました。
そこで、これからは『“学ぶ”と“働く”が循環するキャリアプラットフォーム』となることを目指したいと考えています。
SHEのプラットフォームを使い、スキルの習得から実務でのアウトプットまで、シームレスにつなげていくための構想を練っているところです」
このビジョンを実現するため、必要不可欠なのがテクノロジーの力だ。
「就職・転職活動で必要になるポートフォリオでは、クライアントワークの実績が評価されがち。しかし、『SHElikes』の受講生は未経験からのキャリアチェンジを目指す方も多いので、企業として実力を判断するのが難しいのも事実。
そこで、『SHElikes』のカリキュラムやコーチングの受講を通して身に付けたソフトスキルや、コミュニティーに対する貢献度など、言語化しづらいその人独自の強みを可視化することができれば、企業からの信頼獲得に効果を発揮するのでは、と考えたのです。
現在はSHEのプラットフォームに蓄積された受講データを分析し、どうやって信頼の可視化を実現しようかと試行錯誤しています」
村下さんがSHEのCTOに就任して、丸4年。ジョインした当初、村下さん以外のエンジニアは業務委託のメンバーのみだったが、2度にわたるサービスのフルリニューアル、カリキュラムの全面オンライン化、新事業の立ち上げといったハードな局面を乗り越え、怒涛のスピードで事業を拡大してきた。
資金調達を経てさらにアクセルを踏み、次なるステージへと挑戦していく今を「組織としての潮目」と表現した村下さんは、CTOとしての決意と期待をこう語った。
「『“学ぶ”と“働く”が循環するキャリアプラットフォーム』が実現すれば、社会のインフラの一つになり得ると考えています。
この壮大な構想を実現するためには、強い開発組織をつくる必要があることは間違いありません。これからの1年間で、エンジニアチームを倍の規模に拡大していく予定です。
自分が思う“最強のエンジニアリング”をぶつけ合いながら良いプロダクトを作り、事業価値の向上に直結させていく。エンジニアとして最高に面白い経験ができるに違いないと思います」
キャリアとは、自由でカオスなもの
東京大学を卒業し、Indeedへ新卒入社、そしてSHEへジョイン。村下さんの歩みの中で一貫しているのは、「データ活用」と「キャリア」という二つのキーワードだ。
村下さんのエンジニアとしてのキャリアのスタートは、AIの技術と出会った東京大学在学時にさかのぼる。
大量のデータがあれば、人間には難しい複雑な判断や、世にあるあらゆる課題の解決をプログラムが実行できるーーそんなAIの世界にのめり込むのに時間は掛からなかった。
その後、村下さんがファーストキャリアに選んだのは、世界最大級の求人検索エンジンを運営するIndeedだった。
Indeedでの村下さんのミッションは、およそ1億人の検索ログをもとにしたデータの活用によって、人材と企業のマッチングを最適化すること。「大学で学んだAIの技術を活用できる事業と規模感が魅力的だった」と当時を振り返る。
「タクシードライバーからプロダクトマネジャーまで、世のありとあらゆる仕事が『What(職種)』と『Where(勤務地)』の二つの条件だけで検索できる。Indeedの求人検索エンジンはシンプルで面白いプロダクトだと感じていました。
さらに、Indeedはあらゆる意思決定を、ABテストの結果に基づくデータをもとに行っていくんです。データ活用のスキルを生かせる仕事がしたいと考えていた私にとって、うってつけの職場でした」
いくつかのチームで経験を重ね、5年目にはアメリカ拠点へ異動。多国籍なチームでマネジメントを担当するなど、エンジニアとして順調にキャリアを築いていた村下さん。「刺激的で楽しい仕事ばかりだった」と笑顔で言う。
しかし、ある「違和感」が次第にふくらんでいった。
「Indeedのビジネスモデルは、徹底した効率性と合理性に基づいています。『求人情報が掲載されてから、最短の時間で求職者とマッチングさせる』ことがエンジニアに課せられたミッションでした。
ですが本来、人のキャリアというものはそんなにシンプルではない。
語学力もなかった私がアメリカで働くことになったように、これまでとは全く異なる新しいことに挑戦する機会が訪れたり、自分でも説明がつかないような選択をしてみたり、偶発的な出来事で広げていくものだと思うんです。
そう考えた時、私が作っているプロダクトで全ての人を幸せにしているのだろうか、という疑問が生まれました。
データに基づいた意思決定は、シンプルで効率的です。ですが、もっと自由でカオスなキャリアがあってもいい。
そのために、人のキャリアの可能性を広げられるサービスやプロダクト開発に携わりたいという思いが芽生えました」
村下さんにSHEからの誘いがきたのは、ちょうどその時だった。
当時のSHEは設立からわずか2年の創業期。「自分らしい生き方とは何か」という問いに真摯に向き合う誠実な企業姿勢に共感したという。
「ミッションや事業内容に共感したからこそ、技術面で貢献したいと思いました。
先ほどお話ししたように、Indeedには『What(職種)』と『Where(勤務地)』、たった二つのテキストボックスだけで世の中のあらゆる仕事が検索できる仕組みがあった。
そのシンプルで秀逸な仕組みは魅力的でしたが、そろそろ自分で仕組み作りから手掛けてみたかったんです」
外資系大手企業での高い報酬や、グローバルな人材との共働、テクノロジーの先進国・アメリカでの永住権の取得……約束された成功を一度手放して選んだ、スタートアップへのジョイン。
まさに「自由でカオスなキャリア選択」を体現した瞬間だった。
「前職の待遇や環境には恵まれていましたが、努力すればきっと取り戻せる。ですが、これから事業を軌道に乗せていくタイミングのスタートアップにCTOとしてジョインできるチャンスは限られています。
そう思うと、キャリアの選択に迷いはありませんでした」
時に批判的にツッコみ、時に無邪気にボケてプロダクトを育てていく
国内外の大規模なエンジニアリングチームで活躍し、マネジメントからCTOまでテクニカル領域のさまざまなロールを経験してきた村下さん。
彼が思う「これからの時代に長く活躍できるエンジニアの条件」は、「“ボケ”と“ツッコミ”ができるエンジニアであること」だという。
「ツッコミとは、『批判的な視点』を持つことです。
エンジニアは専門職として、常に『良く』作ることを求められています。そのために、批判的な視点で自分のスキルや実装を眺め、常に良く作ることを模索していくことが大事です。
一方でボケとは、『先入観を捨てて新しい方向性を試していく』ことを意味します。
『この機能、実はなくてもいいんじゃないかな』とか、『こういう風に実装してみた方が“面白い”んじゃないかな』とか。技術動向が非常に激しい昨今において、現状のベストプラクティスの外を見ていく能力が大切だと感じています。
このボケとツッコミの両輪が回っているエンジニアは強いな、という印象ですね。最新の技術トレンドをきちんと理解して、秩序あるスピーディーな開発を進行しつつ、常にそこからはみ出た視点も持っている。そして何より、楽しそうに仕事していることが理想的です」
技術力に裏打ちされた鋭い視点を持ち、良いモノ作りを行う。既成概念を取り払い、大胆にプロダクトを見直す。納得感はあれど、日常の開発業務の中で磨いていくイメージがつかない人もいるだろう。
村下さん自身は、このスキルをいかにして培ってきたのだろうか。
「前職のIndeedの場合、施策の効果測定をしてからでないと機能追加や改修のGOが出ないんです。
経営陣も交えて、ABテストの結果をうのみにせず、時に批判的に見ながら議論を重ね、意思決定をしていきます。『なんか良さそうだからやる』ではなく、ファクトに基づいて実行する企業風土の中で“ツッコミ”スキルが上がりました。
また、Indeedは大企業でしたが、会社全体に社員のチャレンジを推奨するカルチャーがありました。
例えば、通常業務を行う中で『もっと効率化できないかな』と思うタスクがあったら自発的にライブラリを開発して全社に公開したり、既存の仕組みがあっても新しい方法をトライしてみたり。それが“ボケ”の上達につながっていったように思います」
Indeedで身に付けてきたこれらのスキルは、SHEにジョインしてからさらに磨きが掛かっている。
「代表の福田(恵里)は、徹底的にユーザーファーストで意思決定を行うんですよ。
顧客に真摯に向き合った結果、今のプロダクトで課題が解消できないのであれば、どんなに居心地の良いプロダクトやサービスであっても一から作り直す決断ができる人です。
大変な場面もありますが、それこそが健全なモノ作りの姿勢だと思っています。本当に価値があるものを作っている自負があるので、エンジニアとしてもやりがいがありますね。
それに、意思決定が可変である前提で開発を行うので、プロダクト自体も打たれ強くなるんです。どんな方向性の変動があっても対応できるよう、プランB・Cまで想定した設計にしておく。エンジニアとしても『不確実性への向き合い方』が鍛えられますね」
最後に、エンジニアとして「人のキャリア」と向き合い続けてきた村下さんは、「エンジニアのキャリア」について次のように語った。
「キャリア選択に悩むエンジニアは多いかと思いますが、あまり先読みしなくていいと思います。
『マネジャーになるか、プレーヤーとして技術を極めるか』といった選択肢に縛られてしまうと、選んだらもう戻れなくなってしまう気がして大胆な挑戦がしづらくなる。キャリアはグラデーションで描いていくものだと考えてみるといいかもしれませんね。
例えば、普段の役割をちょっとだけはみ出してメンバーと1on1をしてみるとか、『まずは半年』と期間を決めて新しいことにチャレンジしてみるとか。
そうやって役割を少しずつずらしていくうちに、いつの間にか自分でも想像していなかったようなキャリアが広がっているはずです。私自身もそうでしたから。
そして、キャリアを築く上で何よりも大切なのは、自分で意思決定することです。
SHEにジョインして実感しましたが、キャリアに絶対的な正解はありません。もし今も大企業に在籍していて、会社の意思決定に従いながらうまくやっていたとしても、その“正解”がずっと通用するとは限りませんからね。
だからこそ、なるべく若手のうち、キャリアの早い段階から自分で意思決定をして、その結果の責任をとるような経験をしておけるといいと思います」
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撮影/桑原美樹 取材・文/安心院彩
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