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「ビジネス創出は起業家だけの特権じゃない」0→1が得意なエンジニアが持つ“ハッカー精神”の大切さ/ソンムー×ばんくし【聴くエンジニアtype Vol.39】

働き方

エンジニアtypeが運営する音声コンテンツ『聴くエンジニアtype』の内容を書き起こし! さまざまな領域で活躍するエンジニアやCTO、テクノロジーに関わる人々へのインタビューを通じて、エンジニアとして成長していくための秘訣を探っていきます。
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テクノロジーの進歩とこれまで活躍してきたエンジニアたちの功績により、エンジニアという職業は「社会にとって欠かせない存在」として認識されるようになった。

しかし、株式会社ヘンリーでVPoEを務めるソンムーこと松本雅幸さんは「エンジニアの役割が画一化され、キャリアが先細っていくのでは」と危惧していると語る。そこで需要なキーワードとなるのが、「ハッカー精神」だという。

今回もばんくしさんMCのもと、ソンムーさんが考えるエンジニアのキャリアについて深掘りしていく。

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【ゲスト】
株式会社ヘンリー VPoE
松木雅幸(ソンムー)さん(@songmu

大学で中国語と機械翻訳を学び、語学学校でのシステム担当兼営業、印刷系SIerでの金融系Webシステムや物流システムの開発、ソーシャルゲーム開発のリードエンジニア、エンジニア向けSaaSのプロダクトマネージャー、IoTや電力事業スタートアップのCTO、外資スタートアップのICなどを経て現職。 現在はヘンリーで電子カルテやレセプトコンピュータなど医療DXに関わるシステム開発に従事している

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【MC】
エムスリー株式会社 VPoE
河合俊典(ばんくし)さん(@vaaaaanquish

Sansan株式会社、Yahoo! JAPAN、エムスリー株式会社の機械学習エンジニア、チームリーダーの経験を経てCADDiにジョイン。AI LabにてTech Leadとしてチーム立ち上げ、マネジメント、MLOpsやチームの環境整備、プロダクト開発を行う。2023年5月よりエムスリー株式会社3代目VPoEに就任。業務の傍ら、趣味開発チームBolder’sの企画、運営、開発者としての参加や、XGBoostやLightGBMなど機械学習関連OSSのRust wrapperメンテナ等の活動を行っている

「ハッカー精神」を持つエンジニアを排除する雰囲気に危機感がある

ばんくし:前回も少し触れましたが、ソンムーさんが以前書かれた「ハッカーの呪いと共に生きる」について聞かせてください。

あの記事を要約すると「エンジニアの役割が画一化されてしまうことで、エンジニアの立場が悪化することを危惧している」という内容だと理解しているんですが、あっていますか?

ソンムー:それも論点の一つです。悪化するというより、「先細っていく」と言った方がイメージに近いですね。

エンジニアの良さって、アイデアさえあればどんどん新しいものを生み出せるところにあると思っているのですが、今は既存のアイデアに対していかに良いエンジニアリングをするかという点にフォーカスされてきている気がするんです。

もちろんそれも大切なんだけど、自分の力でビジネスや社会に価値を提供できるというところを忘れないようにしないと、エンジニアがどんどん代替可能な部品化していって、面白みが失われてしまうんじゃないかと危惧しています。

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ばんくし:SNSでこの記事の反応を見ると「エンジニアの世界にエリート層が参入するようになったら、エンジニアの新しい生き方が生まれるのでは」という意見がありました。

ソンムー:優秀な人が参入してくるのは、良いことですよね。僕自身、優秀な若者と働くと楽しいし、自分の成長にもつながっていると感じます。

ただ、エンジニアの世界にエリート層が参入してくるようになった結果、お行儀の良い人しか受け入れられない雰囲気が出てきた気がするんです。

業界としては健全で、それによって間口が広がるのはいいこと。だけど、これまで業界にイノベーションを起こしてきた0→1が得意なエンジニア……つまり「ハッカー精神」があるエンジニアを排除する雰囲気を感じるんですよね。

ばんくし:それは私も感じています。ハッカー精神のあるエンジニアには露悪的な面があるかもしれませんが、それは革新的なものを生み出すうえで必要な要素ですよね。

ソンムー:今って0→1のフェーズは起業家が担っていて、エンジニアは1→10の段階で大量投下されることが多いじゃないですか。だから0→1が得意なエンジニアはちょっと変な人扱いされたり、チームにフィットしなくて排除されたりしがちなのかな、と思うんです。

でも、そもそもエンジニアは自分でサービスを作れる存在なわけですし、0→1が得意なエンジニアがいても良いはずなんですよね。0→1が得意なエンジニアも1→10が得意なエンジニアも、お互いの特性を認め合わないと、どちらかの特性の人しか生き残れない……という構図になってしまうから。

これも実にハッカーの露悪的な部分が表現されている話だなあと思うのですが、Perlの生みの親であるラリー・ウォールは、ハッカー精神を持ったプログラマーの三大美徳として「無精・短気・傲慢」を挙げています。

ただ、この言葉の裏側には「無精であるために労力をいとわない」「短気はプログラムを書く原動力になる」「傲慢は誰にもケチをつけられないようなプログラムを書く努力につながる」という意味が込められているんですよね。

僕も「自分の力が世界に影響を及ぼせる」という傲慢さは常に持っておきたいと思っています。

ばんくし:既存のフレームワークにこだわらず、「ゼロから作り出してやる」という精神って、ものすごい情熱や熱量が必要になりますもんね。その熱量が異能と見なされて排除されたら、クリエーティブやイノベーションが生まれなくなっていく……というのは、とても納得感があります。

聴くエンジニアtype

ソンムー:若いうちって、視野が狭いぶんまっすぐ突き進める面もあるじゃないですか。「フレームワークに依存したくない」と、全部自分で作りたくなるのもその一つ。

まあ大体失敗するんですけど、そのときの経験は学びになるし、もしかしたらうまくいって、新しい価値を生み出す可能性だってある。それを周囲が「絶対に失敗する」とやる前に止めてしまったら、イノベーションが起きなくなってしまいますよね。

だから、間違っているかもしれないけど、突き進む人に対して早い段階でブレーキをかけないようにしたいと思うんです。

エンジニア起業家が生まれない要因は、リスクを取る必要性の欠如?

ばんくし:今の話を聞いて、記事の中で起業の話と並列して書かれていた理由が分かった気がします。起業するときも「それ大企業がやったら負けるじゃん」とやる前からブレーキをかけられることが多いですもんね。

大体のスタートアップが失敗するけど、そこから芽が出たサービスが世界を変えていく。それがまさにソンムーさんのいう「ハッカー文化」ということなんですね。

ソンムー:そう。0→1でビジネスを生み出すのは起業家だけの権利ではないんですよ。もともとシリコンバレーとか西海岸の方では起業家とエンジニアの境目はなくて、エンジニアが自ら起業することも多かったわけですから。

ばんくし:日本でエンジニアが起業するパターンが少ない理由として、私は二つの原因があると思っているんですよ。

一つ目は、日本は起業するときに「ビジネスとして成功するかしないか」という目線が重視されるケースが多くて、技術に投資する文化がないから。

二つ目は、私たちエンジニアがギーク文化とかハッカー文化から遠ざかっているから。

ソンムーさんはどう思いますか?

ソンムー:一番大きい要因は、エンジニアがリスクを取る必要がなくなったからだと思います。

昔は今よりも生きるためにリスクを取らないといけない状況に追い込まれている人が多かったけど、今はリスクを取らなくてもある程度お金がもらえちゃうじゃないですか。それは良いことでもあるんだけど、エンジニアの「リスクを取ってでも社会課題を解決したい」「世の中に影響を及ぼしたい」とイノベーションを生み出す気持ちを阻害している原因なんじゃないかなって。

正直、僕自身もリスクを取らなくなってきているし、それに対してどうすればいいか模索している部分はあります。

聴くエンジニアtype

ばんくし:資本があるぶん、現状に満足してしまっているということですね。

ソンムー:一先のステップにはなるけど、バーンとお金持ちになった人が「世の中に影響を及ぼしたいから起業する」みたいなパターンも増えてくるといいなとは感じますね。

ばんくし:たしかにそうですね。私も「挑戦する心を忘れないようにしよう」と改めて思いました。

次回も引き続き松木雅幸(ソンムー)さんをお迎えし、お話を伺います。お楽しみに!

文/赤池沙希

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