事情通・久松剛がいち早く考察
最近HOTな「あの話」の実態〝流しのEM〟として、複数企業の採用・組織・制度づくりに関わる久松 剛さんが、エンジニアの採用やキャリア、働き方に関するHOTなトピックスについて、独自の考察をもとに解説。仕事観やキャリア観のアップデートにつながるヒントをお届けしていきます!
事情通・久松剛がいち早く考察
最近HOTな「あの話」の実態〝流しのEM〟として、複数企業の採用・組織・制度づくりに関わる久松 剛さんが、エンジニアの採用やキャリア、働き方に関するHOTなトピックスについて、独自の考察をもとに解説。仕事観やキャリア観のアップデートにつながるヒントをお届けしていきます!
仕事柄、IT企業や事業会社の経営陣や採用担当者とお会いする機会が多く、エンジニアからキャリア相談を受けることも少なくありません。
そして、この1〜2年を振り返ると、「AI」の話題が出なかった日はほとんどなかったように思います。
生成AIの注目度が高まる一方で、その向き合い方には大きな隔たりがあります。
「AIなくして開発は成り立たない」と語る人もいれば、「自分の領域ではまだ使えない」と距離を置く人もいる。
AIをどう使うかよりも、AIとどう付き合うかで働く姿勢がくっきり分かれてきた印象です。
なぜ、AIはここまで人によって受け止め方が違うのでしょうか。
その違いには、各人の「働く覚悟」の違いも見えてきます。
今回は、AIが映し出す「地域」「世代」「組織」のリアルから、その違いを探っていきます。
目次
東京をはじめとする主要都市では、AIへの期待が非常に高く、「AIを導入していないと時代遅れ」というムードが漂っています。
特にスタートアップやSaaS企業では「AIをどう活かしているか」が投資家や採用候補者へのアピール材料になるため、AI活用をネガティブに捉える声は影を潜めます。AIの導入は単なる業務効率化ではなく、企業の将来性や存在意義を確かめる物差しになっているようです。
一方、地方ではその熱量がやや異なります。
人材流動が少なく、少子化による労働力不足が顕著な地域ほど、AIを「人手不足を補う救世主」として歓迎してもおかしくないはずですが、現実には慎重な企業が少なくありません。
背景には、情報・ノウハウの不足もあるでしょうが、地方企業には元々の設立背景として地方自治体との「雇用創出」という約束があります。
地元の雇用を支える立場からすれば、AIは「効率を上げる技術」であると同時に、「人の雇用を奪う技術」にも映るのです。
さらに、柔軟性を欠いた報酬体系もAI導入を阻む壁になっています。
新卒優秀層獲得を背景にした初任給見直し、物価高を背景にした給与の見直しですが、地方の老舗大手企業では給与制度の見直しは困難を極めます。見直しが必要なことを理解している経営層もいるのですが、先輩社員とのバランスを理由に見送りされることが多いです。
都内企業を中心に黒字企業による早期退職制度が始まっていますが、ここでも雇用がより守られる傾向のある地方部では難しい取り組みです。
人件費を部分的に見直したいという場合に引き合いに出されるのがジョブ型採用です。しかし、地方に限らず多くの企業では給与制度が30年にわたって硬直。エンジニアバブルを経て大きく上振れたITエンジニアの希望給与には、見合わない場合が少なくありません。
CDOが市場相応の年収でオファーをしても、人事で給与が丸められることで大幅ダウンするために採用できないケースはあります。
AIに纏わることに限らず、コンサルやSIerへの外注費が問題となり弊社にご相談を頂くケースが有るのですが、デジタル子会社を作って別子会社を作るようなことをしない限りは打破できないのではないかと感じています。
AIに対する反応を見ていると、世代ごとの「距離の取り方」も見えてきます。
同じエンジニアでも、何を守りたいのか、何を信じて働いているのかによって、AIとの関係は全く異なるのです。
50代でAI活用に消極的なエンジニアに理由を聞くと、「自分でプログラムした方が速いし確実だから」と答える人が少なくありません。プログラミング能力や経験は申し分ない人材であっても、保守的な回答が返ってくる場合があります。
実際、バイブコーディングも万能なわけではないので、ある一面では頷けます。長寿なサービスであれば、これまでの仕様変更や歴史的背景をAIに学習させる手間がどの程度なのか、見積もりするのも大変だという気持ちも理解できます。
一方で、AIを第一線で使いこなすにはそれなりに学習コストがかかるため、「AIの力量不足」を口実に、これまで築いた人脈とスキルで定年まで逃げ切ろうという思惑も見えます。
チームをリードする人材がこのような姿勢であれば、全社的にAI導入に否定的な開発組織ができあがります。
AIを積極的にAIを使いこなそうとする層と、AIに淘汰される可能性が少ない領域で生き残ろうとする層の二手に分かれるのが10代~20代といえます。
前者は向学心があるので、AI活用の本丸を担うエンジニアとして活躍が見込めますが、用意された座席の数はそれほど多くありません。
また、AIにベットするだけの自信がない未経験・微経験層は、情シスやカスタマーサクセスといったプログラマーからのキャリアチェンジをされるかたも見られるようになりました。また、介護・看護・ドライバーなどの未経験歓迎職種に転身される方もおられます。
先日、慶應義塾大学データビジネス創造コンソーシアム第42回勉強会にて、デジタル人材の今後のキャリアについてお話させて頂く機会がありました。普段のこのコンソーシアム参加者は大学生、大学院生が主流とのことですが、この回では7割程度が高校生という驚きの結果となりました。AIの進化が予想を上回るスピードで進む中、進学先や学び方も含め、デジタル人材のキャリア不安が非常に大きいことが伺えた一日でした。
そして最も葛藤が深いのが、30、40代のミドル層です。
上からは「AIを現場に浸透させろ」とうるさくいわれ、下からは「どうやれば分かりません」と頼られる。AIが出力したプログラミング結果を未検証で貼り付けてくる部下に悩む上長の相談もよくいただきます。
そして自分自身もプレイヤーとして手を動かしつつ、組織マネジメントや事業へのコミットメントが求められる中、AIを腰を据えて学ぶ時間は限られています。
結果、確信が持てないまま導入を進めたり、判断を先送りしたりするケースも少なくありません。AI時代の板挟み…それは、技術よりも「人としてどう関わるか」を問われている構図でもあります。
世代が違えば、働く意味の感じ方も違う。そしてAIは、その違いを浮かび上がらせる鏡のような存在になっているのです。
AI活用に対して悩みを抱えているのは、開発現場だけではありません。経営層もまた、AIをどう扱うべきか模索しています。
多くの企業で「高額なライセンスを購入し、社員に配布したのに利用率が上がらなかった」という話は枚挙に暇がありません。
その背景にあるのは、AI導入を「道具の導入」としか捉えていない経営の姿勢です。
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博士(慶應SFC、IT)
合同会社エンジニアリングマネージメント社長
久松 剛さん(@makaibito)
2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。12年に予算都合で高学歴ワーキングプアとなり、ネットマーケティングに入社し、Omiai SRE・リクルーター・情シス部長などを担当。18年レバレジーズ入社。開発部長、レバテック技術顧問としてキャリアアドバイザー・エージェント教育を担当する。20年、受託開発企業に参画。22年2月より独立。レンタルEMとして日系大手企業、自社サービス、SIer、スタートアップ、人材系事業会社といった複数企業の採用・組織づくり・制度づくりなどに関わる
構成・執筆/武田敏則 編集/玉城智子(編集部)
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