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語るべきは「コスト」ではなく「人の知」へ。AI時代の日本が急ぐべき“外向き”体質への改善と、デジタルスキルの変化【さくらインターネット・田中邦裕】

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AIという武器を手にした先進諸国は、人間の能力を拡張させる新たなフェーズでしのぎを削っている。では、日本はどうか。

「外注費の圧縮」「作業時間の削減」……聞こえてくるのは、そんな「コスト」を主語とした事例たち。果たして、このままで世界との差は縮まるのだろうか。

日本のDXを真に意味ある変革へと導く道筋はどこにあり、その激流の中心で求められる人材の資質とは何か。日本を代表するクラウドコンピューティングサービス企業であるさくらインターネットの代表取締役社長・田中邦裕さんが語った。

プロフィール画像

さくらインターネット株式会社
代表取締役社長
田中邦裕さん(@kunihirotanaka

1996年、舞鶴高専在学中の18歳の時にさくらインターネットを起業。2005年に東証マザーズに上場し、現在はプライム市場。自らの起業経験などを生かし、多数のスタートアップ企業のメンタリングやエンジェル出資を行うほか、IPA未踏のプロジェクトマネジャーや神山まるごと高専の理事として、若手起業家や学生エンジニアの育成にも携わる。また、アイモバイルやi-plug、ABEJA等の社外取締役を務めるほか、ソフトウェア協会(SAJ)会長、日本データセンター協会(JDCC)理事長、日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)副会長、関西経済同友会常任幹事などとして業界発展のためにも尽力。最近では、AI戦略会議構成員なども担う。現在は、沖縄に移住し、自ら率先して新しい働き方を実践中

※本記事は2026年5月18日に開催された『さくらのIT教育カンファレンス2026春』の基調講演の一部を書き起こしたものです。文意を明確にするために編集・要約を行っております

日本に求められる「外向きのDX」への転換

現状のDXの動向について一言で申し上げますと、「ビジネスを大きくするのか」「コストダウンに使うのか」という二つの側面がある中で、日本のDXはコストダウンを目的としたケースが多く見られます。

企業の利益を拡大するためには、売上を上げるか、コストを下げるかの二択となり、バブル崩壊以降の日本ではコストを下げる経営が中心となってきました。その中で、デジタルの利活用もコスト削減に直結するものが多いのが現状です。

しかし、データを利活用して売上を増加させ、新ビジネスを拡大していくことも非常に重要です。「ビジネスを大きくする」という方向のDXがなされていくことが望ましいのは言うまでもありません。加えて、人材の確保という意味でもデジタルの活用が必要になっています。採用や働き方改革、あるいは仕事のやりやすさを向上させることが、人材の離脱を防ぐためには欠かせません。

したがって、業務最適化やコスト削減といった「内向きのDX」だけでなく、現場の判断や知見をデータ化し、さらにはAIを利活用して売上を増加させビジネスを拡大させる「外向きのDX」へと移り変わってきていると言えるでしょう。

ここで、日本は生成AIを利活用できているのかという点に焦点を当てたいのですが、残念ながらなかなか進んでいないのが現状です。一方先進諸国では、ビジネスの拡大や新たな顧客獲得のためにAIを利活用することが非常に進んでいます。

さくらインターネット作成の生成AI活用状況に関する比較グラフ(令和7年版情報通信白書ベース)「生成AIの活用による効果・影響」を国別に見ると、中国や米国は「ビジネスの拡大や新たな顧客獲得」が大部分を占めているのに対し、日本は「業務効率化や人員不足の解消」が突出している。

「生成AIの活用による効果・影響」を国別に見ると、中国や米国は「ビジネスの拡大や新たな顧客獲得(グラフ内オレンジ)」が大部分を占めているのに対し、日本は「業務効率化や人員不足の解消(グラフ内ピンク)」が突出している
(出典:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112220.html

令和7年度の情報通信白書にあるグラフを見ても、日本がITをコストダウンのためにしか使えていない実態が挙げられています。そのためAIに関しても、日本では要約や電話対応の簡略化といったコストダウンの側面で使いがちです。ですが海外においては、変革や新規価値の創出という「武器」として使われています。

判断の解像度を変える「知」の拡張

では、DXを成功させている国や企業は、AIを活用して何をしているのでしょうか。

一言で言えば、人の知に向き合っている。単なるコストダウンではなく「人間の能力拡張」です。人間が行えることをAIに置き換えるのではなく、人間にしかできないことに対してAIがその能力を拡張していく、という考え方をしています。

そのためには、まずは「人間とAIの協働」が必要です。人間の業務を単に置き換えるのではなく、業務プロセスを形式化し、AIがそれを利活用できるようにすることです。データ活用について言えば、AIを導入してもデータが整備されていなければ十分に利活用できません。現在のファウンデーションモデル(基盤モデル)と呼ばれるAIは、世界中のWeb上のデータなどを収集し、莫大なコストをかけて形式化・学習されています。つまり、AIが使えるようにデータを加工していくことが望ましいのです。

企業内には、会話ログ、試行錯誤の履歴、設計図、業務日報など、多くのデータが蓄積されています。これらをいかにAIが扱える粒度に分解し、利活用できるようにするかが鍵となります。

あらゆるデータがAIに接続しているイメージ図

そして、これを単にコストダウンに使うのはあまりにももったいない。作業コストを下げるだけでなく、新たな価値を創造するために使うことが理想です。例えば、これまで現場では判断できなかったことでも、経営データまで含めたAIが作られれば、まるで経営者のような解像度でその場で判断ができるようになります。逆に経営者も、現場の細かいデータまでAIに学習させていれば、報告を待つのではなく自ら経営判断に活かしていくことが可能です。

AIの導入が進めば、組織形態までもが変わってきます。極端な例を言えば、経営者がいなくても会社が回り、経営者の本質的な価値は何か、というテーマに向き合わなければならなくなる。こういった状況すら起こり得ます。

デジタルスキルの変化ーー求められるのは、ビジネスを再定義する変革人材

最新の「デジタルスキル標準」が、本年4月にアップデートされました。これまでの5類型に加え、「データマネジメント」が増えたことが挙げられます。

現在、システム開発を含め、IT業界は大きく変革しようとしています。これまでは専門のエンジニアがソフトウエアを作り、自社で抱えられない場合は外注し、さらに下請け、孫請けという「多重請け負い」の形をとることが一般的でした。これがコスト増や付加価値の低下を招いてきた側面もあります。

しかし最近では、生成AIによって自動でソフトウエアを作れるようになってきています。そうなると、ソフト開発そのものに差別化があるのではなく、中に入っているデータや、ビジネスを分解してどのようなシステムを作るべきかを分析できる人に専門性が移っていくでしょう。

かつては外注コストを抑えるためにSaaSやPaaSを利用するケースが多かったのですが、現在は自社の業務プロセスに合わせたシステムを自分たちで簡単に作れる時代になりました。これも生成AIによる恩恵です。したがって、ビジネスを分解・デザインでき、かつデータを適切にマネジメントできる人材が求められています。これまでの「デジタルスキル」が大きく変わろうとしているのです。

もう一点申し上げたいのは、すでに顕在化しているデータだけでなく、組織が持つ「強み」をいかに染み込ませていくかです。ディープラーニングの発展により、人の頭の中にあった「暗黙知」をデータ化できるようになってきました。設計図や作業ログをAIに学習させることで、「なぜこのパイプは故障しやすいのか」といった問いに対し、過去の製造工程の事象に基づいた回答を得ることが可能になります。営業担当者が顧客先で設計の意図を問われた際、その場でAIに確認して回答するといった活用も考えられるでしょう。

「暗黙知」のデジタル化によるDXの本質を解説する図解。車の運転のように個人の感覚に頼る「暗黙知」と、マニュアル化され誰でも理解できる「形式知」の違いを比較

ChatGPTやGeminiをそのまま使うだけでは、社内の独自情報は当然出てきません。独自の学習をさせるか、一からAIを構築しなければ、自社の暗黙知を形式知として使うことはできない。その組織が持つデータをいかにAI化していくかが極めて重要です。

そしてそれを、単にコストダウンにとどめず、それを次の強みに変えていくことが必要となる。現場を知り、それを経営や営業に直結させていけるような「変革人材」が求められているのです。

「作れる人材」が日本の底力を底上げする

先ほども申し上げたように、システムの開発フェーズは生成AIで容易になりました。ですが、そのシステムを動かしAIに学習させるためには計算機リソースが必要になります。この計算資源を提供することがわれわれのビジネスです。創業時は個人向けのレンタルサーバーから始まり、その後はSNSやブログを運営する企業を支える専用サーバーを提供してきました。現在はAI分野に注力しており、GPUリソースを提供する『高火力シリーズ』というサービスや、より手軽に利用できる『さくらのAI Engine』を提供しています。

私は、AIは利活用するだけでなく、「開発」ができることが重要だと考えています。自分たちでAIを作り、利活用することで付加価値を高めていく。そのために、よりAIのことを深く理解し、AI自体を作れる人材を増やしていく支援として、『さくらのクラウド検定』や『さくらのAI検定』といった取り組みを行っているのです。それ以外にも、ガバメントクラウドへの正式採択を受けて、自治体様向けのIT人材育成支援や、子ども向けプログラミング教室、高専生へのサービス提供など、教育への取り組みを多角的に行っています。

さくらインターネットのDX・AI教育への取り組み一覧。検定資格(さくらのクラウド検定・AI検定)、高専支援プロジェクト(KOSENとの包括連携)、学生向け「みらいサーバー」、自治体向け勉強会、経産省Reスキル認定「クラウドエンジニア養成講座」、子ども向け「Kids Venture」などを紹介。インターネットサービス事業者として教育を推進し、日本の国力・開発力を高め、全業界の活性化に寄与する方針を示している

さくらインターネットのサービスを使いこなし、クラウドやAIを利活用できる人材が増えることは、長期的には我々のビジネスの拡大にもつながりますが、何より5年後、10年後の日本のDXを支える方を増やしたいという思いがあります。

さくらインターネットとしては、AIを使って組織や会社の底力をいかに高められるかを大事にしたいと考えています。コストダウンは入り口として分かりやすいですが、やはり「これまでできなかったことができるようになる」ことこそが大きな変化。われわれはサービスの提供のみならず、人材育成や資格制度を通じて、DX・AIの時代をさらに伸ばしていきたいと考えているのです。

文・編集/秋元 祐香里(編集部)

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