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テクノロジーが発達しても、リアルの場が大事な理由「暗闇ボクシング b-monster」急成長までの失敗と苦悩

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    TECH::CAMP、TECH::EXPERTを運営する株式会社div 代表取締役 真子就有(まこゆきなり)さんが、テクノロジー時代のキーパーソンに話を聞く連載TECH::LEADERS(テックリーダーズ)。

    今回の対談ゲストは、b-monster株式会社 代表取締役の塚田美樹さんです。「暗闇ボクシング」で一挙話題となったb-monster。2016年の創業から2年で売上18億円を達成し、b-monsterはフィットネス界に旋風を巻き起こしています。

    若手女性起業家としても注目を集める塚田さんは、2015年にTECH::CAMPを受講した経験も持っています。

    TECH::CAMP代表の真子さんと、b-monster代表の塚田さんの対談をお届けします。b-monsterの急成長の裏側に迫ります!

    「1件あたり500円の利益のマッチングサービス」をバカにされて挫折。就職活動も大苦戦

    真子:塚田さんにTECH::CAMPをご受講いただいたのは、2015年でしたよね。

    塚田:はい。大学2年か、3年の頃ですね。夏休みに通っていました。当時、アマチュアカメラマンと旅行者のマッチングサービスを作ろうとしていたんです。

    真子:その頃はまだ、b-monsterの創業前ですよね。

    塚田:前です。TECH::CAMPでプログラミングを学んだ後、大学3年生のときに「アマチュアカメラマンと旅行者のマッチングサービス」はリリースしました。

    真子:実際にリリースしたのですね!カメラマンと旅行者のマッチングは自動化しましたか?

    塚田:いえ、手動です。ですが、その時は親にバカにされましたね。

    手動でアマチュアカメラマンと旅行者をつなげ、15件ほどマッチングに成功したのですが、1件当たりの利益は500円でした。親には「それはビジネスとは言えない」と言われて……。一生懸命やっていたのに、そういったことを言われるととてもショックでした。

    ですが、親のいうことにも一理ありました。父も母も経営者ですから、そういう立場の人に「それはビジネスではない」と言われると何も言えません。

    どうせ起業するなら、友達よりも稼ぎたいのは当然ですよね。でも「1件あたり500円の利益として、月に何件マッチングさせたら友人の月収を超えるか」と考えると道は険しいです。現実的に、超えるのは不可能でした。そこでマッチングサイトの規模を大きくすることは、諦めました。

    次に悩んだのは、これから何をするかです。親の会社を継ぐことも考えましたが、私の親が手がける事業は「私のやりたいこと」とは必ずしもマッチしていないので、一層悩んでしまって……。

    真子:なるほど。

    塚田:就活もしたのですが、うまく進まなくて。エントリーシートを書く時、自分が嘘ばかり書いてる気がしたんですよ。

    志望動機を書く時、その企業を志望する理由が「モテそうだから」だとしても正直な理由を書くわけにはいかないですよね。「お客様にサービスを提供する事で〜」と真っ当な理由を書かないといけないです。

    でも本心ではないことを志望動機に書くと、どこかのタイミングで見破られるものなんですよね。それで選考が進まなくて。当時は悩みの時期でした。

    その後2016年に、大学卒業と同時に「b-monster」を立ち上げました。きっかけはニューヨーク旅行で暗闇ボクシングと出会ったことでした。

    b-monsterの原点「暗闇ボクシング」との出会い

    真子:暗闇ボクシングとの出会いを詳しく聞きたいです。普通、旅行してても暗闇ボクシングとは出会わないですよね?(笑)

    塚田:うちの家族では、毎年年始に目標を立てるんです。その年、私は「ボクシングで4キロ痩せる」という目標を立てていて。理由はダイエットだけでなく、純粋にボクシングをやりたかったからなんですけど(笑)。

    でも家の近くのボクシングジムに行ったら、面白くなかったんですよ。ジムではボクシングの型から習うんですけど、それがつまらなくて。当然、型から習うので最初のうちは運動量も少なくて。最初のレッスンは汗もかかないくらいだったのを覚えています。

    そのことが不満だったので、アメリカに留学している友達に話をしてみたんです。そうしたら、ニューヨークで流行っている最新のボクシングの話を聞いて。それが「暗闇ボクシング」でした。

    真子:フィットネス業界では「暗闇」が1つのムーブメントになっていますよね。日本でもフィールサイクル(暗闇バイクフィットネス)は早くからブームが起きていました。

    塚田:クラブ感覚でフィットネスするのが、ニューヨークで流行っているんですよ。暗闇サイクルの店舗数は約200店舗と聞いてます。

    ニューヨークの暗闇サイクルの最大手はソールサイクルという企業です。ソールサイクルや他の類似企業も含めると、ニューヨークの暗闇サイクルの店舗数は膨大です。

    暗闇ボクシングは暗闇サイクルよりも新しくて、私がニューヨーク旅行に行った時点ではまだ出たてでした。実際にニューヨーク旅行で、暗闇ボクシングを体験すると本当に楽しくて。そこでb-monsterの起業を決意しました。

    b-monster1号店が銀座で圧倒的な大成功を収めた理由。出店3ヶ月でパンク

    画像出典:b-monster 公式ウェブサイト

    真子:b-monsterは、いま3年目ですよね。3年前に描いていたイメージと、現状の違いをどう考えていますか。b-monsterは僕の周りでは知らない人がいないくらいですし「かなりうまくいっている」という手応えがあるんじゃないかと思いますが。

    塚田:いまの形は、想像より上です。

    真子:成功の要因は何でしょう。やはり、1店舗目の成功は大きかったですか?

    塚田:1店舗目はオープンから3ヶ月でパンクしたんです。次から次にお客さんがやってきてあっという間に満席になり、受け入れきれなくなって。

    その時点ですぐ新店舗を出すと決め、6ヶ月目にはもう2号店の青山店をオープンしました。「オープンから3ヶ月でパンク」は理想といえば理想ですが、ここまでスピードが早いとは想定外でしたね。

    真子:なんで満席になったんですか?

    塚田:出店の場所が良かったのだと思います。1店舗目の立地は、とにかく銀座にこだわりました。銀座に集中的に出店するフィットネススタジオは多いです。フィールサイクルも2店舗、銀座に出店しています。

    真子:新規に出店しても勝ち目が薄いだろうとは思わなかったですか?客の立場からすれば、どのフィットネスも得られる成果が似ていますよね。「それでも勝てる」と考えた理由は何ですか。

    塚田:たとえ銀座がジム飽和状態だったとしても、b-monsterのブランディングや店舗の内装、プログラム、エンターテイメント性を総合すると「直接的な競合」は少ないと考えました。

    銀座にジムがたくさん存在するのは事実ですが、十分に差別化できるであろうと思ったんです。

    真子:店舗型ビジネスって、多額の先行投資がかかりますよね。1店舗1億円はかかると思います。最初の資本金は出資してもらったと思うのですが、起業してすぐの時期は「1億円の使い道」を考えるだけでも怖いですよね。

    塚田:そういうリスクへの想像力に欠けていたから、逆にできたのかもしれません(笑)。1号店は銀座で100坪借りました。

    真子:1号店で、銀座で100坪ですか!

    塚田:これでも一番最初の店舗なので、規模的にはミニマムです。いまだと99人同時でレッスンできる巨大スタジオもあります。

    真子:ちなみにb-monsterを立ち上げる際、ご両親の反応はどうでしたか?

    塚田:応援してくれました。きっと「成功するだろう」と思っていたのだと思います。実際、父はスタジオにお客さんとして来ています。

    真子:店舗運営についてアドバイスを受けることもありますか?

    塚田:はい。細々としたアドバイスを、プログラムを受けた後のタイミングでもらうことがあります。その内容は、店舗運営の改善の参考にもしています。

    苦戦したのは「28歳〜35歳の店長候補」との信頼関係構築

    真子:いま、塚田さんは「他人に任せられることは、他人に任せる」というスタンスで経営をしていますよね。「人の問題」は起きていますか?

    塚田:ないと言ったら嘘になります。特に立ち上げのときは店長候補がほしくて、店長候補に特化した求人を出しました。すると、主に集まってきたのは28歳から35歳の方でした。

    真子:数年から10年程度の経験を積んだ人が、応募してきたのですね。

    塚田:はい。ところが、私は就職することなく事業を立ち上げたので、社会常識を知らなくて。社会保険に関することなど、28歳から35歳の人には常識のことが何も分からなかったんですよ。何を質問されても「ちょっと確認します」としか言えなくて。そういう調子だったので、とにかく最初の信頼関係を築くのが大変でした。

    いまは私自身も色々と学びましたし、労務関係に詳しいスタッフも加わったので安心感があります。

    ロンドンの最先端フィットネスは「全然新しくなかった」。b-monster代表が考える「最先端」とは

    真子:b-monsterは、店舗へのテクノロジー導入に積極的ですよね。

    塚田:事業を手掛けるからには最先端の存在で居続けたいですし、そのためにはテクノロジーが重要だと考えてます。

    画像出典:b-monster 公式ウェブサイト

    真子:テクノロジー活用で、重視していることは何ですか?

    塚田:色々ありますが、1つはチェックインやアフターフォローにテクノロジーを使うことですね。

    たとえば、b-monsterのチェックインはカードを使ったタッチ式です。入店時に紙にペンで名前を書いたり、店員とカウンターで話す必要はないです。またチェックインに使うカードでお水も買えるので、店内では財布要らずです。全てカードでピッとすれば完了できます。

    真子:チェックインをそれほど重視する理由は何でしょう?

    塚田:今年の9月、最先端の暗闇フィットネスがロンドンにあると聞いて、ロンドンまで行ってやってみたんです。でもやってみた結果、どこが最先端なのか私には分からなくて。確かに新しいプログラムを導入しているのかもしれないですが、内実はすごくオーソドックスな自転車フィットネスだとしか思えなかったんですよね。

    ロンドン視察の結果を踏まえて「最先端とは何か」を、私なりにじっくり考えました。そして、私が考える最先端はチェックインやアフターフォローにテクノロジーを駆使することだという結論に至りました。

    もちろん、プログラムにテクノロジーを使うことも大事ですが「プログラムだけ」ではダメなんです。同じくらい、チェックインもアフターも大事です。

    テクノロジーが発達しても、なおリアルの場が大事な理由

    真子:テクノロジーを導入し、思うようにいかなかった例はありますか?

    塚田:あえて言えば「STREAM MONSTER」です。スマホやパソコン、タブレットでb-monsterのプログラムを体験できるよう配信をしているのですが、ここまでは「店舗で暗闇ボクシングをしたい」というニーズを置き換えるには至っていません。やっぱり、皆「お店に行ってやりたい」んですよね。

    真子:TECH::CAMP、TECH::EXPERTも同じです。経営のことだけを考えれば、お客様がオンラインで満足してくれるならそれに越したことはないです。教室の維持費用が掛からなくなりますからね。

    ですが、それでは皆満足しないんです。やはり「教室で仲間と切磋琢磨したい」「分からないことがあればメンターに質問したい」というニーズが圧倒的です。

    リアルの場があるからこそ、受講生に提供できる価値というのは本当に大きいのだと実感しますね。

    塚田:キーワードは「臨場感」だと思います。やはりリアルなジムと、ストリーミングでは臨場感に差が出てきます。

    私がいま、関心を持っているのはVRです。VRはリアルに近い臨場感が得られる体験ですよね。VRでSTREAM MONSTERのコンテンツを配信できれば、満足度の高い体験を提供できるかもしれないなと思います。

    リアル店舗が「最高の場所」であり続けるために大事なこと

    真子:b-monsterのリアル店舗がとても充実した場所だからこそ、ストリーミングに人が流れないという面もあるかもしれないですね。プログラムや設備には、どのようにテクノロジーを活かしていますか?

    塚田:ジムの演出の一環として、プロジェクションマッピングを導入しています。

    真子:導入のきっかけは何ですか?

    塚田:アリアナ・グランデのMVを観て(笑)

    真子:反響はどうですか?

    塚田:一長一短ですね。暗闇を求める人の中にはいまいちという意見もありますが、エンターテイメント性を求める人には好評です。

    真子:店舗運営って本当に難しいですよね。お客様の意見は本当に人それぞれですし、何が正解なのかも見えづらい。「品質」が落ちやすい業態の1つだと思います。b-monsterでは、そうした店舗運営の難しさとどう向き合っていますか?

    塚田:常に「変化」を作ることを心がけてます。先にも述べたプロジェクションマッピングの導入はその一環ですし、1つ1つのスタジオ照明にもこだわっています。スタジオ照明って決して安くはないんですけど、増やすべきだと思ったら増やしてます。

    ポラール(POLAR)(※心拍計を搭載したスポーツウォッチ)の導入も「変化」の1つです。b-monsterは当初、エンターテイメント性を最重要視して45分のプログラムを組んでいました。ですがあくまでフィットネスですから、45分のトレーニングは効率的であるに越したことは無いですよね。

    ポラールは心拍数やトレーニングの負荷の大きさを正確に把握できるので、アスリートにも愛用されています。ポラールを導入することで、b-monsterのプログラムは「楽しむ」だけでなく「効率的にフィットネスできる時間」へとアップデートされました。

    あと当たり前のことではありますが、新たなプログラムの提供も積極的にしています。b-monsterではパフォーマー(※b-monsterのインストラクター)が新しい曲やプログラムを出すのが「スペシャル」なことなんです。

    パフォーマーによっても使う曲は違いますし、時期によっては映画とコラボすることもあります。画一的にずっと同じプログラムを続けるわけではなくて、どんどん新しいことに挑戦していきます。b-monsterの新たなプログラムの考案や、コラボレーション企画を推し進めるのは私の役割でもあります。

    真子:塚田さんは本当にそういった企画が得意ですよね。

    塚田:両親の影響は大きいと思います。新しいことを始めるのに抵抗がないですし、私自身が飽き性なのでどんどん新しいのを考えるのが楽しいんです。

    「1人でやったほうが早い」から「他人に任せる」へ。テクノロジーを学んで得た気づき

    真子:2015年の時点でTECH::CAMPに興味を持ち、受講してくれていた方は貴重な存在だったのだと改めて感じます。

    塚田:当時と今では、TECH::CAMPの受講生の層は変わりましたか?

    真子:大きく変わりました。2018年現在、弊社(株式会社div)のメイン事業はテクノロジースクール「TECH::CAMP」と未経験からエンジニア転職を実現する「TECH::EXPERT」です。売上ではTECH::EXPERTがメインです。

    2015年時点では、TECH::CAMPがメイン事業でした。当時は「人生を変える1ヶ月」というキャッチコピーのもと、未経験から1ヶ月でサービスを作れるようになるというのが売りで。当時はスパルタ形式でした。

    塚田:その頃のTECH::CAMPは、短期集中でしたよね。

    真子:いまのTECH::CAMPは敷居を下げて、スパルタではなく「教養としてテクノロジーを学ぶこと」に重点を置いてます。

    と言うのも、高額な費用を払ってでも1ヶ月間集中的にプログラミングを学びたい人というのは、その時点ですでにものすごく高い学習意欲を持っています。そして、そうした方は決して数が多いわけではないんです。塚田さんはとても珍しい方だと思いますよ。

    塚田:当時、受講を決めたのは「他人の力を借りず、自分1人でやり切るのが正義だ」と思ってたからなんです(笑)。両親は2人共起業していますが、やっぱり人の部分で苦労しています。

    そういう姿を見ていると「マネジメントで苦労するぐらいなら、1人でやったほうが楽だし早い」と思って。だからこそ開発の勉強をしようと、TECH::CAMPの受講を決めました。

    真子:プログラミングをやってみた感想を教えてください。

    塚田:自分としてはカリキュラムを頑張って進めたつもりだったのですが、やっぱりどうしても敵わない人はいました。

    TECH::CAMPでの経験を踏まえて、人には得意・不得意があるし、他の人が得意なことはその人に任せて自分は別のことに専念する方が良いということに気づきました。

    真子:プログラミングは実際にやってみると「これはこれで難しい」と思う人も多いですよね。コマンドラインを少し使うだけでも、はじめは1時間近くかかることもありますし。

    塚田:それでも楽しかったですよ!本当に学んで良かったと心から思います。

    プログラミングは「絶対に学んでおいて損はない」

    真子:最後にプログラミングを始めようと思っている方に、アドバイスをお願いします。

    塚田:私はいま、開発を人に任せています。ですが、自分でできるのであればそれに越したことはないと思います。プログラミングは絶対に学んでおいて損はない技術ですし、少しでも興味があるなら学習を始めるのがおすすめです!

    真子:今日はありがとうございました。b-monsterは弊社にもファンが多いので、今後のさらなる拡大に期待してます。

    塚田:こちらこそ、ありがとうございました!

    ※こちらの記事は、『TECH::NOTE』コンテンツから転載をしております。
    >>元記事はこちら

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