ロボットクリエーター 高橋智隆さん(@robogarage)
1975年生まれ。京都大学工学部在学中よりロボット開発を始め、2003年の卒業と同時にロボ・ガレージを創業。代表作にロボットスマホ『ロボホン』、デアゴスティーニ『週刊ロビ』など
「自分は何のために働くのか、なぜ働くのか」と聞かれて、すぐに答えられる人は多くない。しかし自分にとっての「働く」を考えることは、良いキャリアをつくる上で不可欠のはずだ。
そこで本記事では、2021年11月1日に発売予定の学生向け情報誌『type就活』より、ロボットクリエーター高橋智隆さんのインタビューを紹介したい。
高橋さんが学生向けに語った「働くこと」の本質は、すべてのクリエーターたちにとっての道しるべとなるだろう。
ロボットクリエーター 高橋智隆さん(@robogarage)
1975年生まれ。京都大学工学部在学中よりロボット開発を始め、2003年の卒業と同時にロボ・ガレージを創業。代表作にロボットスマホ『ロボホン』、デアゴスティーニ『週刊ロビ』など
私の大学進学時はバブル景気真っ只中。卒業後はそれなりの仕事に就けると思い込んでいたので、特に考えもなく文系学部を選びました。ところが在学中にバブルが弾け、就職氷河期が到来。第一志望だった釣り具メーカーから内定をもらえず、それなら自分が憧れていたエンジニアの道を目指そうと思ったのです。
私はもともとクルマいじりや機械工作など、「メカ」が大好きで、釣り具メーカーを志望したのも、釣りそのものではなく歯車で動くリールに興味があったから。その原点は子どもの頃に読んだ『鉄腕アトム』でした。
その後1年間勉強し、京大に再入学してからは独学で二足歩行ロボットを作り始めましたが、それでも当時はまだ「卒業後はロボット開発を手掛ける企業へ」と思っていました。ただ、一度就活を経験してみて、入社後に希望する職種や部署に配属されるとは限らないことも分かっていた。それなら既存の組織に入るのではなく、起業することが好きなロボットを作り続けるための最善策なのかもしれないと考えて、「やってみて失敗したら、その時は就職すればいいや」くらいの生半可な気持ちで起業を決めたんです。
ですから野心に溢れていたわけでも、会社を大きくしてビリオネアになろうと思ったわけでもありません。
起業した私は、ロボットクリエーターとして、研究開発から設計・デザイン、試作機の制作、製品のプロモーションまで一人で手掛けています。これまでにロボット電話『ロボホン』、デアゴスティーニ『週刊ロビ』、ロボット宇宙飛行士『キロボ』などを世に送り出してきました。
中でも印象的だったのが、単三乾電池で動くロボット『エボルタくん』による、電池のパワーと長持ち実証実験CMのプロジェクト。動力源が乾電池2本なので、機能を絞らざるを得ません。なので「ロボットというより、おもちゃじゃないか」という世間の批判を懸念していましたが、実際にそんな声は一切なかった。多くの人が乾電池で健気に動くエボルタくんの一生懸命さに感情移入し、チャレンジを応援してくれました。その後も人気の企画として、グランドキャニオン登頂やルマン24時間耐久走行、トライアスロン挑戦などさまざまな挑戦を成功させてきました。私自身にとって、「機械なのに生命を感じる」ことがロボット最大の魅力です。世の中の人たちも、私と同様、感情を動かされたことに大きな手応えを感じた瞬間でした。
振り返ると、私は「働く」といっても、ただひたすら自分が好きなことをやってきただけ。普段から自動車をいじったり、釣り具を自作したりしますが、それがロボットになると「仕事」と呼ばれるだけで、自分の中では趣味や遊びと差がないんです。
もちろんロボットクリエーターを名乗る以上は、プロフェッショナルでなければいけない。だから仕事のクオリティーや納期については一切妥協しないし、プロとして完璧を期すべきだと考えています。私にとって「完璧」とは、「自分の美学を追求する」ということかも知れません。納得のいく完成度でないと、気が済まないんです。
私生活でも完璧主義なところがあって、妥協はしたくない。家具や家電などでもこだわりすぎて、改造したり、色を塗り替えたりも日常茶飯事です。ものづくりをする人間は、それが仕事だろうと趣味だろうと、こだわりが強いのは仕方ないのでしょう。
そのこだわりがどこから生まれるかと考えると、やはり「好き」という感情なのだと思います。私は、好きなものに対する知的好奇心や純粋な興味こそ、ピュアで尊いと思っています。仕事には「困っている人を助けたい」「社会の役に立ちたい」といった高尚な目的がなければいけないと思っている人もいますが、そんな重たいことを考えるほど偽善的になり、むしろミスマッチで役に立たないものができてしまいがちです。逆に、自分の好きなことを突き詰めた結果、それが回り回って結果的に人の役に立つ、というパターンの方が多いのです。
例えばわれわれは「大雨で電車が止まっている」などの情報をTwitterから知ります。しかしTwitterは、災害情報掲示板として作られたわけではありませんし、そもそもそんな物だったならば普及していないでしょう。くだらない思い付きを手軽に発信するツールがあれば面白そうだと作ってみたら、支持を集めた。つまりスタートは遊びだったわけです。
それがユーザーによって自然発生的に、災害時の情報共有という新たな用途を生み出し、結果的に役に立つものになった。これは、FacebookでもYouTubeでも同じで、もし開発者が生真面目に「社会課題を解決したい」などと考えていたら、こうしたイノベーションは生まれなかったでしょう。
皆さんも、「自分が好きなこと」に立ち返ってみることをおすすめします。本当に好きなことは、流行や社会問題とも無縁の、自分ならではのユニークな想いのはずです。ロボットやAIが活躍する近未来、人間最大の価値はこの「ユニークなクリエーティビティー」です。
同調圧力の強い日本で教育を受けてきたわれわれにとって、急に「ユニークさ」を求められても困惑するかも知れません。それなら日頃コツコツ「ユニークな選択」を意識するといいでしょう。
人生はいくつかの候補から一つを選ぶ、選択の連続です。学校選び、選択教科、そして就職、どこに住むか、誰と結婚するか、買い物や食事だって、選択をして決めています。その際に多くの人が無難なもの、人と同じものを選びがちです。そこであえてユニークでリスキーなものを選んでみる。
例えるなら「悪友がすすめそうなもの」を選ぶと面白いでしょう。悪友も「本当はこっちが面白そうだけど、自分では怖いから、お前がやってみろよ」的な思考なので、自分の事を客観視して、他人事のように決めてみるんです。
リスクがあるものを選択するのだから当然苦労もしますが、だからこそ他の人が得られない学びや発見もたくさんあります。それを続けていけば、きっとユニークでイノベーティブな、豊かな人生が描けるのではないでしょうか。
取材・文/塚田有香 撮影/竹井俊晴
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