アンプティサッカー日本代表と研究開発職を両立する25歳が語る「二つの顔を持って働く」がキャリアに与える意外な相乗効果【Sansan 金子慶也】
2022年4月にSansanの研究開発部に入社した金子慶也さん。片足の長さが短い先天性の身体障害を持って生まれた彼は、Sansanのリサーチャーとして働く傍ら、アンプティサッカーの日本代表選手としても活躍する異色の経歴の持ち主だ。
アンプティサッカー(amputee soccer = 切断者サッカー)とは、主に上肢または下肢の切断障がいを持った人々により行われるサッカーのこと。金子さんはこの10月にトルコで開催されたワールドカップに出場し、24チーム中11位という成績を残した。今は、4年後の次回大会での優勝を目指している。
研究開発職として働きながら、スポーツの世界でトップを目指す金子さんに、なぜ「二つの顔」を持って働くことを選んだのか、その理由を聞いてみた。
アンプティサッカーとの出会いから、わずか1年半で日本代表へ
ーー金子さんは、何がきっかけでアンプティサッカーを始めたのですか?
アンプティサッカーとの出会いは今から3年前です。大学時代に知人を通じて存在を知り、本格的に練習するようになりました。
この競技をやってみたいと思ったのは、もともとサッカーが好きだったからですね。自分は大好きな兄がサッカーをしていた影響で、幼稚園の頃から義足をつけてサッカーをしていました。父がコーチを勤めていた地元のクラブチームに入り、公式戦にも出場させてもらっていたんです。
ところが中学生の時に一度右膝を脱臼してから、義足をしている方の足が脱臼しやすくなってしまいました。それからしばらくはサッカーから離れていたのですが、大学時代に障がい者スポーツに打ち込む人たちのコミュニティーに顔を出したことがきっかけで、アンプティサッカーに出会ったんです。
ーー初めてアンプティサッカーを体験した時はどのような感想を抱きましたか?
本当に難しいなと思いました。アンプティサッカーは松葉づえのように両腕でつえをつき、障がいのない方の足でボールを蹴るスポーツです。
同じサッカーなのに体の使い方が全然違うので、初めて体験した日の翌日は筋肉痛で体がバキバキになりました(笑)
でもアンプティサッカーをしている時は、義足をつけている方の(脱臼しやすい)足をほとんど使わないので、けがを気にすることなくプレーできたんです。
中学以来、サッカーをするときは脱臼しないように恐る恐るやるしかなかったのに、アンプティサッカーなら思い切りできると分かったときはすごくうれしかったですね。
ーーそれからどのぐらいの期間を経てワールドカップの代表選手候補になったのですか?
競技を始めて2年半ぐらいです。
ーーすごい早さですね!
もともとサッカーのバックグラウンドがあったことと、選手としての強みがはっきりしていたのが良かったんだと思います。
自分はスピードとスタミナが持ち味なので、その強みを伸ばすような練習をしてきましたし、試合を通じて積極的にアピールしてきました。
ーーまさにアンプティサッカー選手として頭角を現し始めてきた時期に、就職活動が始まったのでしょうか?
そうですね。そのため競技と仕事を両立できることは、就職先を選ぶ際の譲れない条件でした。
また、大学ではコンピューターサイエンスも扱う研究をしていたので、その経験を生かせる会社で働きたいとも考えていました。
その点、Sansanは働きながら自分の時間を確保できる環境がありましたし、事業内容も魅力的でした。
特に『Bill One』というインボイス管理サービスはこれから急成長するフェーズにあったので、世の中を大きく変えるサービスが劇的に変化していく過程に携われたら、すごく面白そうだなと思ったんです。
ーーそして今年の4月にSansanに入社しました。現在はどのような仕事をしているのですか?
研究開発部のリサーチャーとして、『Bill One』のオペレーションを自動化する研究をしています。
『Bill One』では請求書をデータ化する際に、AIやOCRに加え人力オペレーターによるチェックを行っているのですが、それをより省力化するために、自分たちはプロダクト開発チームと連携しながら、処理を効率化する方法の研究開発に取り組んでいます。
研究開発部には約30人が所属していて、仕事とは別に論文を書いている人も多いです。優秀な同僚と働けるのは、もっと成長しようという気持ちにもつながるので本当にありがたいです。
サッカーで培った「粘り強くアプローチ」する姿勢が、もう一方の本業も後押し
ーー競技生活と仕事の両立はどのように行っているのでしょうか?
アンプティサッカーに関しては、チームで集まって練習をするのは基本的に週1回なので、それ以外の時間は体力を落とさないように個人で活動をしています。
朝プールで泳いでから出勤したり、仕事が終わったらジムで筋トレをしたり。どんなに忙しくても、週4、5日は体を動かすようにしています。
それに加えて、ボールを蹴る練習をするために、社会人のフットサルチームの練習にも参加させてもらっています。
ーーそれは、健常者が集まっているフットサルチームですか?
そうです。とにかくいろいろなフットサルチームに知り合いのつてを使ってあちこちに声をかけ、受け入れてくれるチームを探しました。
障がいがあるので「けがをされたら困る」とか「アンプティサッカーの金属製の杖が怖い」といった理由で断られましたが、いくつかのチームが参加を認めてくれました。
最初のうちは「義足ならいいよ」と受け入れてくれたチームが、練習を重ねるうちに理解が進み「練習だけなら杖でもいいよ」と言ってもらえた時は、真に仲間として受け入れられたようでうれしかったです。
どうしても最初は障がい者、義足ユーザーということで遠慮されたり距離を置かれがちです。
ただ、周りのレベルに追いつこうと一生懸命やる、誰よりも楽しむことを意識することで競技者として徐々に認めてもらえたと思います。
また、自分のキャラを少しオーバー気味に出したり、ピッチ外でも自分から話しかけたり質問することで人間性の部分でも理解してもらえたと感じます。
相手に理解され、受け入れてもらうためには、まずは相手が理解しやすい行動をとることが大事だと思います。
ーー20代前半から半ばくらいの世代だと、職場で仕事を覚えるだけで精いっぱいな人も多いと思います。そんな中、金子さんはサッカー選手と研究者という「二つの顔」を持っている。全く違う領域の仕事を両立しているからこそ得られたものはありますか?
相乗効果を感じることはたくさんありますね。
例えば、先ほどお話しした、練習環境をつくるためにフットサルチームに粘り強くアプローチしてきた経験は、Sansanでの仕事にも生きています。
日々の業務では自動化エンジンのコーディングをしたり、APIを作ったりとコーディングに集中する日もある一方で、スキャン業務の現場を直接見に行くこともよくあります。
「ここはもう少し自動化できそうだね」「こんな業務フローにしたらうまくいくのでは」と現場担当者と話しながら、改善策を一緒に考えるようなこともやっています。
関係者と自ら積極的にコミュニケーションを取りながら、課題を抽出すること。しかも、長期にわたってトライアルアンドエラーを繰り返し、サービスを良くしていくような場面が多い研究開発だからこそ、サッカーで培った行動力や粘り強さが生きていると感じます。
また、Sansanでは勉強会が頻繁に開催されているんですが、学ぶ側として参加することはもちろん、自分で志願して「主催する側」に立つ経験もさせてもらっています。入社1年目からそんなふうに前のめりに仕事に取り組めているのは、アンプティサッカーで得た成功体験があるからだと思うんですよね。
あと、サッカーでは自分の強みをアピールしたり、さらに強化したりしていくことを意識的にやっているのですが、研究開発の現場でも同じだと感じます。
僕自身は「まだこれから」の段階ではありますが「このドメインは金子が一番詳しい」「金子に任せたら大丈夫」みたいな部分を、早い段階で確立できれば、研究開発者として一回り成長できるんじゃないかなと思います。
あとは、打ち込めるものが二つあることによって、生活のリズムが取りやすくなる効果があると思います。切り替えのスイッチがあることによって仕事もサッカーもメリハリをもって取り組む意識が出ますし、心をニュートラルに保ちやすいですね。
自分への言い訳はNG。それぞれの世界で目標を持つことが大切
ーー「二つの顔」を持って働いていく上で、心掛けていることはありますか?
自分に対する言い訳はしないようにしています。
「アンプティサッカーの試合が近いから仕事はこの位にしておこう」とか「今日は仕事で疲れたからトレーニングはやめておこう」などと考えてしまうと、結局どちらも中途半端になってしまうからです。
そうならないためには、両方の世界できちんと目標を持つことが大切だと思います。
僕が目標を見失わないために意識してきたのは、尊敬できる人たちの中に身を置き、自分のロールモデルとなりうるような人をたくさん見つけることです。
アンプティサッカー選手としては、自分よりも数段上のレベルの社会人フットサルチームに参加させてもらっていますが、そこでは年上で自分より忙しい人でも言い訳せず真剣に競技に向き合っていますし、Sansanを選んだ時は優秀な先輩たちがモチベーション高く仕事をしていることが決め手の一つになりました。
特に仕事は、完全な勝ち負けがない世界なので、スポーツと違って明確な目標を持ちづらいかもしれません。そういうときこそ、自分に刺激を与えてくれる周りの人たちの存在が大切なんじゃないかなと思います。
ーー最後に、金子さんの今後の目標を教えてください。
アンプティサッカー選手としては、2026年ワールドカップでの優勝を目指しています。今大会は悔いが残る内容だったので、次は目標を達成できるように、個人としてもチームとしてももっと強くなりたい。そして自分たちの活躍を通じて、アンプティサッカーそのものも盛り上げていけたらうれしいですね。
研究開発としての仕事に関しては、ありがたいことに自分のやりたい事業で大きな裁量を持たせてもらっているので、先ほども触れたように今後は「○○を任せるなら金子がベスト」だと周囲に認知してもらえるように、自分の得意や強みとなる軸を見つけ、成果を上げていけたらと思っています。
取材・文/一本麻衣 撮影/桑原美樹 編集/玉城智子(編集部)
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