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「完璧」よりも「スピード」。年率500%の売上成長を支えるエンジニアチームの流儀

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市場ニーズの変化や多様化が激しい昨今、スタートアップ各社が革新的なサービスの提供を目指してプロダクトの開発に励んでいる。

しかし、生み出されたプロダクトの全てが事業として成功するわけではない。プロダクト完成から事業として売り上げが立つまでの間に立ちはだかる障壁は「死の谷(Valley of Death)」と呼ばれ、これに直面したスタートアップの中には事業撤退や会社をたたむ決断を余儀なくされるケースもある。

では、この死の谷を超えて事業成長を実現している企業では、一体どんな工夫をしているのだろうか。

開発チームの徹底した“スピード重視”の姿勢が、会社の売上成長を支えている

そう語るのは、『2024年注目の日本発スタートアップ100選』(Forbes JAPAN)に選出されるなど、設立から前年比3倍超の売上成長をし続けているX Mileの開発責任者・蝦名 潤さん。同社はノンデスクワーカー向けのHRプラットフォーム・SaaSビジネスを手掛け、前期の売上を500%も上回る成長を記録している。

蝦名さんと、プロダクト統括本部の大久保 維人さんに、同社の組織作りについて聞いた。

プロフィール画像

X Mile株式会社
開発責任者
蝦名 潤さん

スタートアップのエンジニアを経て、2022年3月に一人目のエンジニアとしてX Mileに入社。現在は開発責任者としてプロダクトの開発を担いながら、同社の開発体制をけん引している

プロフィール画像

X Mile株式会社
プロダクト統括本部
大久保 維人さん

筑波大学在学中からフリーランスエンジニアとしてキャリアを開始、インドでの開発会社を立ち上げCTOを経てX Mileに入社。現在は、プロダクト統括本部にて、採用をはじめとしたプロダクト開発組織作りを担っている

会社全員が「最速で最高の結果」を目指す

ーーX Mileはなぜ設立直後から急速な事業成長を継続できているのですか。

蝦名:令和を代表するメガベンチャーを創る」というミッションの下でエンジニアサイドとセールスサイドが一丸となり、クライアントニーズを満たすプロダクトを次々と開発できているからだと思います。

私たちはこれまで、物流・建設・製造などの事業者向けの人材採用システム『X Work(クロスワーク)』や、運送業にまつわる業務のDXプラットフォーム『ロジポケ』など、ノンデスク事業者の人手不足・労働生産性を改善するプロダクトをリリースしてきました。

会社設立からの5年間でリリースしたプロダクトの数はすでに10を超えます。このスピード感が、急速な成長につながっているのです。

蝦名さん

大久保:蝦名が挙げたミッションを実現するために、10個のバリュー(行動指針)を定めているのですが、その中でも特にX Mileらしさが表れているのが「最速で最高の結果を出そう」というもの。このバリューがエンジニアとセールスの双方に浸透しているので、全社員がスピードを最優先に行動できています。

クライアントのニーズを満たすという共通目的のために、優先すべきタスクのすり合わせを綿密に行った上で開発を進めているんです。

ーーエンジニアとセールスの意見の食い違いによって、開発スピードが遅くなってしまうケースを耳にすることがありますが、X Mileの場合はどうでしょうか。

蝦名:意見がぶつかることはもちろんありますが、全員が共通のバリューに沿って行動しているので、議論が無駄に長引くことはありません。

大久保:加えて、X Mileのセールスは、エンジニアの意見を加味しながら商談時のスケジュール調整や機能提案を行うことをスタンダードとしています。一つのチームとして仕事に取り組む姿勢が醸成されているのです。

「スピード重視」の開発組織を作る三つの取り組み

ーースピード感のある開発を実現するために、開発チームで具体的に行っている取り組みはありますか。

大久保:代表的なものが三つあります。

まず一つ目は、会社が掲げるミッションと、エンジニアが日々手掛けている業務のベクトルを揃えること。

具体的には、会社の経営メンバーが考えていることを、社内・社外のパートナー問わず、全エンジニアメンバーに同期するイベントを月に一回行っています。この取り組みによって、会社が向かう具体的な方向と施策が分かり、エンジニアが日々実装しているコードの1PR、1行と、頭の中で結びつけることが可能になります。

自分の仕事が会社のミッションの実現を支えているという実感が持てれば、エンジニアのエンゲージメントが高まりますし、自ずとスピードも加速していきます。

大久保さん

ーー続いて、二つ目の取り組みとは何でしょうか。

蝦名:プロダクトの「クオリティー」の定義について、深く考えることです。

エンジニアにとってのクオリティーと、クライアントにとってのクオリティーは異なるケースがあります。会社としての事業成長を考えた時に、より優先すべきはクライアントにとってのクオリティーです。

ただ、開発段階においてユーザーのニーズを完璧に把握することは困難です。クライアントにとっても、サービスの開発初期段階でニーズを伝えきることは、決して簡単ではありません。

なので、まずは動作するプロダクトを開発し、ユーザーのフィードバックを受けながらアップデートしていくことで、最終的に120点のプロダクトを作ることを目指しています。

大久保:とはいえ、最低限のクオリティーが担保できていなければ、技術的負債が生じ、将来的な改修コストが膨れてしまいます。そのため、プロジェクトのスタート時点では、将来的に発生し得る課題について考えるようにしています。

例えば、開発していくプロダクトのユーザー数が100倍になった際にインフラが耐えられるかどうか、プロジェクトを始める時に協議しておくといったイメージですね。

ーーでは、三つ目の取り組みについて教えてください。

蝦名:60点のクオリティーでまずは出す」ことです。

スタートアップの有名な格言として、”If You’re Not Embarrassed By The First Version Of Your Product, You’ve Launched Too Late” があります。「最初のバージョンの製品が恥ずかしくなければ、世に出すのが遅すぎた」という意味の言葉です。

私たちも「最速で最高の結果を出そう」というバリューに則って、製品として完璧な状態にまで作り込むことに固執せず、最低限のニーズを実現できるプロトタイプでいいので、まずは形にすることを意識しています。

時間を掛けて優れたプログラムを作り上げても、市場に出した際に全く需要がないという可能性は十分に考えられます。そのため、理想を追い求めるよりも、開発スピードを優先し、多少の妥協をしてでもとにかく早く市場に出して実際の価値を検証することを優先しています。

スピード感のある環境で、成功体験を積み重ねる

ーー蝦名さんは一人目のエンジニアとして入社されたそうですが、X Mileのスピード重視の文化に対して、戸惑いはありませんでしたか。

蝦名:正直に言うと、入社した頃は少なからず戸惑いました。

エンジニアとしては、技術的負債やプロダクトのクオリティーなどを考慮すると、どうしても百点満点の状態でプロダクトをリリースしたいと考えてしまうので。

蝦名さん

ーーその文化を受け入れられるようになった理由は何ですか。

蝦名:私が入社したのは、物流・建設・製造業などに従事する方向けのHRサービスが軌道に乗り始め、第二の主幹事業であるノンデスクワーカー向けのSaaSを立ち上げようとしていたタイミングでした。まさに、X Mileの掲げる「令和を代表するメガベンチャーを創る」というミッションの下に、次のフェーズに向かうといった段階です。

そうした状況であれば、エンジニアが理想を追うことにこだわり過ぎて商機を逸する方がリスクだと思います。スピード重視でプロダクトを開発し、クライアントのフィードバックによって機能の実装を進めた方が合理的だと感じたんです。

また、開発スピードの速さによる成功体験も、スピード重視を受け入れられた理由につながっています。入社して3カ月が経った頃、自分的には「このクオリティーで本当に成約できるのかな」と不安になるレベルのプロトタイプだったにも関わらず、CEOが実際に契約を取ってきたんです(笑)

もともとセールスが強い会社とは思っていましたが、「本当に受注できるんだ……!」と驚き、スピード感のある開発の重要性を改めて学びました。

大久保:エンジニアの中には「スピード優先」に抵抗感を持つ人もいると思います。ただ私は、エンジニアはプロダクトのクオリティーだけでなく、スピードでも事業に貢献できると考えています。

多くのプロダクトを開発して、そのプロダクトを使用するユーザーを増やした方が、結果的により多くのユーザーの業務効率化や課題解決につなげられる。開発のスピードを優先することで、社会に対して大きなインパクトを与えられると思っています。

蝦名さん 大久保さん

ーースピード重視とはいえ、最低限のクオリティーを担保することも欠かせないと思います。この「譲れないライン」を見極める視点は、どのように養えば良いのでしょうか。

蝦名:業界知識とクライアントビジネスの理解を深めることだと思います。エンジニアのキャリアでは技術力を高めることにフォーカスされがちですが、自身の携わるプロダクトの業界やクライアントのビジネスモデルを理解することの重要性も忘れてはいけません。

ユーザーニーズをしっかり理解できれば、自分の書くコードの1行1行に至るまで、確実な意味を持たせられるようになる。そうなれば、どの機能まで作り込むべきか、どのレベルまで実装すべきかを適切に見極められるかと思います。

ーー会社が成長していくにつれて、開発スタイルも変化するかと思いますが、当面の間はスピーディーな開発スタイルを維持していくのでしょうか?

蝦名:そうですね。会社の競争力を保つためにも、クライアントのニーズを満たす機能の実装を最速で進めていきたいです。もちろん、UI・UXデザイナーの方に入っていただき、顧客価値に対しての磨き込みは日々実施していますが、スピード重視でプロジェクトに取り組んでいくことになるでしょう。

その上で、エンジニアならではのアイデアで組織の業務効率化を進めながら、開発チームをより強化していければと思います。

大久保:設立以来、一心不乱に開発フェーズを駆け抜けてきたので、蝦名が話したように、今後は組織マネジメントにも注力していきたいです。

エンジニア組織が掲げる目標というのは、具体的であれば具体的であるほど良い。そのためまずは、現状の課題を抽象化して、一つのステートメントとしてまとめようとしています。

X Mileはさまざまなプロダクトを開発してきましたが、それぞれ全く違うフェーズに位置している。プロダクトごとに解消していかなければならない課題がバラバラなので、エンジニアが走る方向のベクトルを揃えていきたいですね。

蝦名さん 大久保さん

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取材・文/中たんぺい 写真/桑原美樹 編集/今中康達(編集部)

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