「プロジェクトの途中でトラブルがよく起こる」「自分の説明が伝わっていない気がする」そんな“技術以外”の課題の背景にあるのは、ひょっとして「コミュニケーション」の問題かもしれない。プレゼンの神・澤円が自身の経験やノウハウをもとに、仕事がスムーズに進むコミュニケーションのヒントを伝授!

スキルの陳腐化とサンクコストに嘆く必要なし? 澤円が「成功体験を手放せたのは幸運だった」と語るワケ

株式会社圓窓 代表取締役
澤 円(@madoka510)
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフトに転職、2020年8月に退職し、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。武蔵野大学専任教員。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。 著書:『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)/『「疑う」から始める。これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(アスコム社)/『「やめる」という選択』(日経BP社) Voicyチャンネル:澤円の深夜の福音ラジオ オンラインサロン:自分コンテンツ化 プロジェクトルーム
皆さんこんにちは、澤です。
すさまじいAIの進化で、せっかく覚えたスキルがあっという間に陳腐化した~~って経験がある方、少なくないでしょうね。
いわゆるサンクコストを嘆く声が以前にも増して聞こえるのも、そのためかもしれません。
こんなXも見かけました。
ITエンジニアのサンクコスト、どれくらい捨ててきたか振り返ってみた
・6歳 BASICに出会う
・10歳 MSX BASIC
・13-15 金がないからマシン語直打ち
・17 親を説得してx68k basic
・18 gnu cとかってあるらしい
・19 – 大学の演習で色々
・19 – バイト先でMac、Director Lingo
続く— ak2i (@ak2i) March 29, 2025
サンクコストについて改めておさらいしておくと、
「サンクコスト(Sunk Cost)とは、日本語で「埋没費用」と訳される経済・経営学用語で、すでに支払ってしまい、取り戻すことができない費用のことを指します」(ChatGPT 4o による回答)
ちなみに、ChatGPT先生が出してくれた例に、こんなシーンがあります。
映画チケットの例
1,800円の映画チケットを買ったが、30分でつまらないと感じた。本来は「今すぐ帰った方が有益かどうか」で判断すべきなのに、 「せっかく1,800円払ったから最後まで見よう」と思ってしまう。 → この1,800円がサンクコストです。
わかりやすい!
澤円の「過去に身に付けた、もう使えないスキル」とは?
たしかに、自分が過去に身に付けたスキルをサンクコスト的にとらえる人もいらっしゃるかもしれません。
ボクの場合も、過去に身に付けたスキルがそのまんま今でも使えるのかというと、実はそうでもありません。
ボクがプレーヤーとして一番「仕事がうまくいっている!」と実感できたのは、Lotus Notesというソフトウェアをお使いのユーザーさんにアプローチをして、Microsoftのプラットフォームに移行するプロジェクトをやっていた時でした。
Microsoftに入る前にたまたまLotus Notesに触れていた経験を生かして、以降プロジェクトに片っ端から入っていました。
おかげで、大規模な成功事例として紹介されたり、社内で褒賞されたり、いい体験をたくさんさせてもらいました。

その仕事を深くやっていたのは、1998年くらいから2006年くらいまでの間だったと記憶しています。
「Lotus Notesの移行ならとりあえず澤に聞け」という雰囲気ができていたと実感していました。
この仕事そのものは、社内ではその後もずっとあったようなのですが、ボク自身はなんとなく次のステップに進んでしまいました。
マネージャーに役割を変えたのです。
#なぜ、積み上げた経験や成功体験を捨てられたのか?
Microsoftをはじめとする外資系企業は、マネージャーになることと昇格とは必ずしも一致しません。
マネージャー、つまりチームを持つことになるのは、あくまでも役割の変更でしかなかったのです。
では、プレーヤーとしての成功を続けるのをやめてマネージャーになったのはなぜなのでしょうか?
一つは、社内では一番いいとされている賞である「Chairman’s Award」をもらったことです。
当時、世界で10万人弱ほどいた社員の中で12人だけ選ばれる賞をもらえたのは、大きな自信になりました。
そこで、一区切りついた、という気持ちになったんですよね。
そして、この賞を受けたのは、ボクにとっては「与えられたもの」であって「自分で獲得したものではない」というのが偽らざる気持ちでした。
ボクの直属のマネージャー、そのまた上のマネージャー、さらに上の役員・・・そういった方たちが推薦してくれたからこそ、ボクが受賞できたのですから。
だからこそ「今度は誰かに機会を提供できる側になろう」って自然と思えたんですよね。

もう一つが、「マネージャーの体験はキャリアの選択肢を増やす」という直感があったからです。
マネージャーの仕事は結構面倒なものではあるのですが、社内の他の部署との調整や、BS/PLに対する感度アップなど、得られるものがめちゃくちゃ多いのも事実です。
仕事を通じて学べる分量がとにかく多いことを、いろんなマネージャーや役員を観察して知っていたので、自分もその体験をしてみようと思えたのです。
この時、本当に全然迷いがなかったのは自分で思い返してみても意外でした。
ちょっとくらい迷いそうなものなのに、すぐに方向転換できたのは、ボクがあんまり自己評価が高くないせいかもしれませんね(苦笑)
とはいえ、結果的にこの判断はのちのキャリアに大きなプラスをもたらしてくれました。
あの時、固執していたら今の自分はなかった
あの時、もし「自分だけの成功」に固執をしていたら、今の自分は決してありませんでした。
今のボクを形作っているものは、ほとんどがマネージャー時代の経験によるものです。
エンジニアとしてはポンコツだったボクが、どうにか仕事を続けることができ、栄誉とされる賞もゲットできたのは、非常にいい経験でした。
この条件だけをみたら、ひたすら自分の成功体験にかじりつく可能性だってあったはずです。
ただ、それを手放すことが自然とできたことは、ホントに幸運だったなと思います。
ちょっとでもそこでサンクコストを感じて、変化を拒んでいたらどうなっていたんでしょうね。
これはボクの性格的なものもあると思います。
自分の成功体験に対して、もともとあまり価値を見出さないというか、すぐに脳内の思い出ボックスにしまいこんでそのまま出さないって思考パターンなんですよね。
だからこそ、今でもいろんなことにすぐ飛びつけるし、好奇心ドリブンで仕事もできているんだと思います。
エンジニアとして培った経験は、無価値にならない
別にボクの生き方が最高だとか、エンジニアは全員真似しろとか、そんなことを言うつもりは一ミクロンもございません。
あくまで一つのサンプルにすぎないです。
ただ、もしも「今まで培ってきた経験を捨てると、とんでもない不幸が訪れるのでは・・・?」と思っている方がいるとしたら、「そーでもないっすよ」と言いたいですね。

今、世の中生成AIによって大変革が起きようとしています。
そんな時代に、ちょっとでもエンジニアの経験があったのであれば、圧倒的に優位なポジションだと認識したほうがいいでしょう。
NVIDIAのファンCEOの言葉を借りるなら、「IT部門はAIエージェントをまとめる人事部になる」とのこと。
エージェントを使いこなせる可能性が高いのは、エンジニアであることは疑いの余地はありません。
そこに、ちょっと新しいエッセンスを加えれば、生成AIをパートナーにした超つよつよビジネスパーソンになれる可能性大です。
過去のことはいったん思い出ボックスに入れて、前向いていきましょっ!

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