AI×個人によるコンテンツ飽和時代、ヒット短命化を打ち破る「強いIP」の条件とは【MIXIフェロー・竹野太一】
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かつて、世をにぎわすコンテンツは一握りの選ばれし者が振るう「魔法」という名のセンスやスキルで生み出されるとされてきた。しかし、AIという名の新たな知性によって、その魔法の杖は全ての人々の手に渡ろうとしている。
誰もがクリエーターとなり、高品質なコンテンツが星の数ほど生み落とされるようになった今、今日SNSをにぎわせたコンテンツが明日、三日後、来週まで話題を保てるとは限らない。あまりにも流れが速い時代において、IPビジネスを展開する企業が「一大ヒットコンテンツ」を生み出す難易度は高まっていると言えそうだ。
この「コンテンツ飽和時代」に、企業はどう戦えばいいのか。ウォルト・ディズニー・ジャパンでエグゼクティブ・ディレクターを務め、2026年春にはMIXIのフェローに就任した竹野太一さんに、その突破口を聞いた。
MIXI
フェロー
竹野太一さん
ウォルト・ディズニー・ジャパンにて、14年にわたりゲーム事業やデジタルコンテンツビジネスを牽引し、『ディズニー ツムツム』『ディズニー ツイステッドワンダーランド』の立ち上げに携わる。エグゼクティブ・ディレクターとして同部門の責任者を務め、2025年に独立。2026年4月よりMIXIへ入社、現職
曖昧になる個人と企業の境界線
歴史を振り返ってみれば、新たなテクノロジーの登場は既存のビジネスのあり方を幾度となく揺さぶり、変化を促してきた。しかし、AIの登場による変化は過去のそれとは一線を画すと竹野さんは語る。
「長くIPビジネスに携わる中で、近年でいうとブロックチェーンやNFT、メタバースといった技術トレンドの誕生も目の当たりにしてきました。ですが、それらはあくまでもエンジニアやトレンドに敏感な世代の間での熱狂に留まっていた印象で、企業の経営層から生活者に至るまで、実感を伴ってすごさを理解したケースは多くなかったように思います。
それに比べて、AIがもたらしたインパクトは間違いなく過去最大です。視覚的なアウトプットに優れているので、誰もがその価値を直感的に理解できる。業務の効率化やクオリティー向上につながるポジティブなイメージが持ちやすいですからね」
AIの進歩は、竹野さんが主戦場としてきたIPビジネスの最前線にも影響をもたらしている。高品質なコンテンツが個人の手によって量産される時代となったことで、クリエーティブの民主化が加速し続けているのだ。
個人の力が強まっていくとすれば、それはIPビジネスを展開する企業にとっては市場のパイを奪う脅威になるのではなかろうか。この考えを、竹野さんは決して否定しなかった。
「AIによってコンテンツを生み出しやすくなるということは、未来のクリエーター発掘という観点から見れば、大きな可能性を秘めているとも言えます。一方で、企業が作るコンテンツにはより高い完成度や独自性が求められるようになる。さらには、『個人でもこれだけ高いクオリティーが出せるのだから』と予算縮小につながりかねないという課題も兼ね備えているのです。個人と企業の境界線はどんどん曖昧になってきていると感じますね」
「バズ=ヒット」が抱える罠
個人のコンテンツビジネスへの参入が進み、“供給”は増える一方だ。しかし、ユーザーの可処分時間は変わらない。一つ一つのコンテンツが注目を集める難易度は確実に上がっている。
「例えば『この作家の新作だから注目されるはずだ』『この枠で放送されるアニメだから当たるだろう』というヒットの方程式は通用しなくなりつつありますね。
加えて、ヒットの定義も変わってきています。SNSの普及によりユーザーの反応がリアルタイムで可視化され、今や『バズる=ヒット』と捉えられるようになりました。
『特定の動画が何万回再生された』『この投稿にどれだけ反応があった』。そんな瞬間的な熱狂が評価の軸となったことで、あらゆる現場で『バズ』を目指したコンテンツが作られるようになっています。
その結果、話題になるスピードが劇的に加速した反面、消費者に飽きられるのも速くなってしまった。昨今のヒットが短命化している背景には、こうした構造の変化があるのかもしれません」
「息の長い資産」へと育てる必須条件
とはいえ、ヒットが継続しにくくなっている中でも、長く愛され続けているIPは確かに存在する。それらの共通点として竹野さんは「拡張性」と「世界観とキャラクターの強さ」の二つを挙げた。
「ビジネスである以上、そのコンテンツで収益を生み出し続けることが必要です。単発のヒットで終わるのではなく、メディアミックスやグッズ発売などを重ねて継続的かつ多角的に収益を上げていく拡張性が欠かせません。
私の経験上、優れたクリエーターは制作の段階である程度の『広がり』を予測しています。『このキャラクターは今後こういうジャンルで展開ができそうだ』『こんなグッズが作れるだろう』といった想像力を働かせながら制作しているケースが多いんです。
だからこそ、企業はクリエーターの『こだわり』をないがしろにしてはいけません。ビジネスの論理を押し付けるのではなく、クリエーターとの対話を重ね、彼らの思いを汲み取りながら拡大のプロセスを歩む。このコミュニケーションこそが、IPの寿命を左右すると言っても過言ではありません」
この拡張性は、マーケティング手法だけで生み出せるものではない。竹野さんは、IPが長きにわたって生命力を維持するための、より本質的な土壌の重要性について言及した。
「拡張性に優れたコンテンツの根底には、緻密に設計された世界観と、そこに生きるキャラクターの存在があります。これがIPビジネスの成否を分ける最大のポイントです。
例えば、キャラクターが100人いても、『いるだけ』では意味がありません。時代に合わせて新しいキャラクターを軸に物語が展開され、時代やストーリーに合わせて新たなキャラクターが登場し、常に世界が広がっていく。そうした厚みがあってこそ、多角的なビジネス展開が可能となり、時を経ても色褪せない『息の長い資産』になり得るのだと思います」
フェローとして担う、IPビジネス加速
竹野さんはかつてウォルト・ディズニー・ジャパンでゲーム事業やデジタルコンテンツビジネスに携わってきた経歴を持つ。自身が立ち上げを牽引したスマートフォン向けゲーム『ディズニー ツイステッドワンダーランド』は、ディズニー作品に登場するヴィランズにインスパイアされたキャラクターが数々登場する学園アドベンチャーとして熱狂を生み、グッズ展開のみならず漫画、小説、アニメ、ライブイベントなど幅広い展開を見せた。
そんなIPビジネスのプロとも言える竹野さんは、2026年4月よりMIXIにジョイン。新職位である「フェロー」に就任した。フェローとは、卓越した知見・実績を持つ人材が担う経営層に匹敵する重要ポジション。特定の部門に閉じることなく、全社的な価値創出を求められるという。
「MIXIは豊富なIPを保有する企業です。その代表である『モンスターストライク』は、他社やクリエーターが保有するIPとのコラボレーション実績も豊富。すでに120回以上のコラボを実施しており、業界内でのポジションを確立してきました。その他、スポーツ領域では千葉ジェッツやFC東京といった強いアセットも保有しています。
こういった資産を活かし、他社とのさらなるアライアンス推進や海外展開などを通じて、MIXIのIPビジネスをより加速していくことが私のミッションです。既存の枠にとらわれることなく、業界内でのMIXIの存在感をより確かなものにしていきたいですね」
企業が持つべきIP戦略の三原則
竹野さんが担う「IPビジネスを加速させる」というミッションは、決して容易なものではない。企業がIPビジネスで優位性を築くためには、どんな戦略が必要なのか。
最後の疑問に、竹野さんは三つのポイントに分けて解説してくれた。
「まずは前提として、『権利』に敏感でなければなりません。IPに対してどこまで決定権を持つのか、何が良くて何がダメなのか。契約は全ての基礎になります。
100%自社に権利があればコントロールしやすいですが、リスクも全て負うことになります。だからといって、リスク分散のためにステークホルダーを増やし過ぎると多くの調整が必要になり、意思決定が複雑化してしまう。企業としてIPで戦っていくのであれば、その権利を確保し、守っていく知見と覚悟が不可欠です」
権利という土台を固めた上で、次に必要となるのが育て方の戦略だ。竹野さんは二つ目のポイントとして、「フランチャイズ化のノウハウ」を挙げた。
「長期的なヒットを実現するためには拡張性が必要だと説明しましたよね。自社のIPをゲームからグッズ、イベント、アニメへと展開していくためには、バリューチェーンを組み立てる必要があります。
それが可能なケイパビリティーを持つ企業は、実は一握りです。どこまで自社で担い、どの領域で外部と組むのか。国内に軸足を置くのか、海外展開まで見据えるのか。緻密に設計していかなければなりません」
法務的な権利と、ビジネス的な拡張性。この二つの盤石な基盤を築いてこそ、収益最大化への道筋が見えてくる。しかし、論理的な戦略だけで勝ち進める世界ではない。
竹野さんは、IPビジネスの核心に触れる最後の一点をこう締めくくった。
「先ほど、クリエーターのこだわりをないがしろにしてはいけないと言いましたが、ファンに対しても同じ姿勢を持つ必要があります。
IPビジネスはクリエーターの思いとファンの支持によって成り立つものなので、短絡的な利益を優先するあまり、そこをないがしろにしてはいけません。クリエーターとファンからの信頼にそむいた意思決定は、ブランドの価値を損なう結果を招きます。
『あの会社はコンテンツを理解して、丁寧に育ててくれる』と評価されるかどうかが、企業の競争力を分けるでしょう」
テクノロジーが個人の創造力をブーストし、情報の濁流がヒットを瞬時に過去のものへと押し流すーーそんな、かつてないほどに難易度の上がったマーケットにおいて、IPビジネスの生命線となるのは、意外にも「信頼」という普遍的な価値だった。
「AI時代」という言葉に踊らされることなく、コンテンツの核心を丁寧に見つめ続ける。その愚直なまでの誠実さこそが、激動の時代において、色褪せない資産を築くためのヒントなのかもしれない。
取材・文/福永太郎 撮影/桑原美樹 編集/秋元 祐香里(編集部)
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