技術書だけがエンジニアの教科書じゃない。ナル先生、よんてんごP、からあげが選んだ「時代を超えて役に立つ」3冊
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エンジニアに役立つ本と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは技術書かもしれない。
しかし、一見するとエンジニアリングとは縁遠い本にも、日々の仕事に活かせるヒントが数多く詰まっている。コードの書き方や設計手法を学ぶだけが、エンジニアとして成長するための読書ではない。
今回は、連載『プロフェッショナルたちの読書感想文』から、ナル先生、よんてんごPさん、からあげさんが推薦する3冊をピックアップ。
第一線で活躍するエンジニアたちは、技術書以外の本から何を学び、仕事にどう活かしているのか。その推薦理由とともに紹介していく。
目次
『「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た日』 (講談社)
東京ディズニーランドは、いかにして日本に誕生したのか。
本書は、まだ「エンターテインメント」という言葉すら一般的ではなかった昭和の日本で、東京ディズニーランドの誘致に奔走した人々の姿を描くノンフィクションだ。
物語の中心となるのは、日本のエンタメ産業の礎を築いた小谷正一、東京ディズニーランド誘致を実現させた堀貞一郎、そしてウォルト・ディズニー。彼らがいかにして人々を巻き込み、それまで存在しなかった新しい価値を生み出したのか。その舞台裏が描かれている。
この一冊を「AI時代のエンジニアにこそ読んでほしい」と薦めるのが、日本におけるVR普及の立役者として知られるナル先生だ。
自身も2014年、VRの可能性に魅了され、米Oculusの創業者パルマー・ラッキーに接触。相手の関心事を徹底的に調べ、何度も渡米して信頼関係を築いた経験を持つ。その行動の原点にあったのが、本書で描かれた人々の熱量と行動力だったという。
「ん? エンジニアにディズニーの誘致? 1ミリも関係ないじゃん!」と思ったそこのアナタ。ブラウザのタブを閉じるのはちょっと待ってください。
これこそが、AI時代にコードしか書けないエンジニアが真っ先に駆逐される理由であり、逆にこの本のエッセンスを理解できれば、一生食いっぱぐれない最強の武器が手に入るからです。
エンジニアもプログラマも、基本は人と人の繋がりやコミュニケーション、プレゼン力がモノを言います。
いくらコードが綺麗でも、アーキテクチャが美しくても、結局は人間という最高にレガシーで不条理なシステムを揺さぶり、動かす必要があります。ここを突破できなければ、どんな優れた技術も社会実装されることはありません。
14歳の時にディズニーランドを拒絶して「ネットの世界(GORO-NET)」に引きこもった私は、大人になって、ソフトウェアやハードウェア、VRのプロダクトを開発する中でこの壁にぶち当たりました。
「なぜ、こんなに素晴らしい技術なのに伝わらないんだ?」と。
その時、この本が教えてくれたのです。「世界を動かしたいなら、コードを叩くだけじゃダメだ。人間という不確実な相手に対して、徹底的にリスペクトともてなしの精神を持って向き合うんだ」と。
■今、なぜ読むべきか?
どれほど優れた技術やプロダクトを生み出しても、それを世の中に広め、使ってもらうためには人の力が欠かせない。
新しい技術を社内に導入する、開発予算を獲得する、仲間を集めてプロジェクトを立ち上げる。そうした場面で求められるのは、技術的な正しさだけでなく、人の心を動かし、周囲を巻き込む力だ。
技術の知識が目まぐるしく更新される時代だからこそ、時代を超えて通用する「何かを実現するための力」を学べる一冊と言えるだろう。
『ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告』(日系BP)
2021年2月から約1年間で、計11回ものシステム障害を引き起こしたみずほ銀行。過去にも大規模障害を経験し、巨額の費用と長い年月をかけて勘定系システムを刷新したにもかかわらず、なぜトラブルは繰り返されたのか。
本書は、日経コンピュータの記者が綿密な取材を通じて、障害の原因や背景を検証した一冊だ。
データベースの不具合といった技術的な問題から、初動対応の遅れ、組織間の連携不足、リスクの見落としまで、さまざまな要因が複雑に絡み合い、深刻な障害へと発展していく過程が描かれている。
本書を推薦するのは、現役エンジニアとして活動しながら、Xで数多くの反響を集める『情シス女子の社内バトル漫画』作者のよんてんごPさんだ。
金融庁による業務改善命令の中で、「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢」という震え上がるようなワードが使われていたことが、当時ネットでも大いに、良くない方向で話題になってしまいました。
過去の経験に学んで作られたシステムだったにも関わらず、なぜここまでの大きなインシデントが立て続けに発生し、ついには金融庁からもド怒りのコメントを出されるに至ったのでしょうか。
本書を読んでいくにつれてその原因が明らかになっていくのですが、ゾッとするのは、それらの原因がどこの現場でもあり得る、恐ろしく身近な内容に起因しているという点にあります。
何も、みずほ銀行やその周りのベンダーの担当者が手を抜いていたとか、世間一般に比べて能力が低かったということではありません。なんなら、大銀行の中枢の人間たちなのだから、相当優秀で有能な人々が多いはずです。
私たちの会社、現場、チームでも往々にして起きるような「まあ、このくらいは……」という話が、最終的にとてつもないシステムトラブルに繋がっていく。
そんな、最悪のピタゴラスイッチみたいな話が次々と登場してくるのです。
■今、なぜ読むべきか?
2026年9月のSalesforceの大規模障害、10月のSBI証券での誤った強制決済など、システム障害が企業活動や利用者に深刻な影響を与える事態は、今も後を絶たない。
こうした障害は、技術的な問題だけで生じるとは限らない。小さな判断ミスや組織の連携不足が、重大な事故につながることもある。
みずほ銀行の失敗を徹底検証した本書は、システムを安定して稼働させるために何が必要なのか、改めて考えるきっかけを与えてくれる一冊だ。
『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』(ほぼ日刊イトイ新聞)
『星のカービィ』『大乱闘スマッシュブラザーズ』『ニンテンドーDS』『Wii』など、数々のヒット作に携わった任天堂元社長・岩田 聡さん。
彼が生前に語った言葉を、インタビューや対談などから抜粋・再構成した一冊だ。経営者としての考え方はもちろん、プログラマーとしての経験に根差した、ものづくりや問題解決の哲学に触れることができる。
松尾研究所のデータサイエンティスト・からあげさんは、「ものづくりをするエンジニアであれば、ジャンルを超えて学べるものがある」として、本書を推薦してくれた。
書籍を通じて岩田さんから語られることの一つに、仕事の「ボトルネック」を意識して、そこにフォーカスすることの重要性があります。
それ自体は当たり前のことかもしれませんが、岩田さんの凄いところは、まず覚悟を決めて一番重要なところに徹底的に取り組むところです。そのためには、炎上している現場に飛び込むこともいとわない、むしろ喜んで飛び込んでいたというので驚きます。
炎上している現場を一度でも経験している人は、なかなかそう覚悟を決められないのではないかと思います。
また、本書には「好きか嫌いかではなく、これは自分でやるのが一番合理的だと思えたら、覚悟はすぐに決まる」という話が出てきます。具体的に言うと、岩田さんはその考えに従い、会社を代表して大勢の前のステージで、決して好きでも得意でもないプレゼンをしていたそうです。
私自身も、実は好きでも得意でもないプレゼンをすることが多くなっています。プレゼンが多くなると「そんなに得意じゃないし、もうやめようかな」と思うことが頻繁にあります。
ただ本書を読んでからは「自分がプレゼンするのは、それなりに合理的かもしれないな」と考えるようになり、「人から求められる以上は続けよう」と、少しだけ思えるようになりました。
■今、なぜ読むべきか?
生成AIの進化によって、エンジニアができることは飛躍的に増えた。しかし、できることが増えたからこそ、「本当に取り組むべきことは何か」を見極める力が、これまで以上に重要になっているのではないだろうか。
岩田さんが教えてくれるのは、目の前の仕事をただこなすのではなく、最も重要な課題を見抜き、覚悟を決めてそこに全力を注ぐ姿勢だ。
技術が進化し、仕事の進め方が大きく変わる今だからこそ、何に時間と情熱を注ぐべきなのか。エンジニアとしての仕事の向き合い方を、改めて考えさせてくれる一冊だ。
編集/今中康達(編集部)
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