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憂鬱な発表におさらば! プレゼン上達のコツは「ニーズ」と「順番」【連載Vol.4】

「開発現場の難所」突破のコツ

『DX時代の最強PMOになる方法』著者・甲州潤が教える

エンジニア時代に知りたかった「開発現場の難所」突破のコツ

「キャリアアップをしたいエンジニアはPMOという選択肢もアリ」と著書『DX時代の最強PMOになる方法』で伝える甲州潤さん。エンジニアからキャリアをスタートし、現在ではPMOとして多くのIT利活用や経営相談をこなす甲州さんが「今だから言える、エンジニア時代こうしていればよかった」と思うスキルや考え方、プロジェクトの進め方を実体験をもとに紹介していきます!

これまでプロジェクトを進めてきたみなさんなら、何らかの「プレゼンテーション」を行う機会があったことでしょう。プレゼンと聞くと大勢の前で話すことをイメージしてしまうかもしれませんが、1対1や少人数での打ち合わせでもプレゼンする場面は多いはずです。

しかしこのプレゼン、エンジニアのほぼ8割が「苦手意識」を持っていると感じています。
その理由の多くが、相手に理解してもらえないといった”失敗パターン”を何回も経験していることにあります。そして、

・「自分がしゃべるといつも微妙な空気なんだよな」と感じてしまう。
・「先輩がプレゼンするとうまくいくのに」と他者と比較してしまう。
・相手に変なリアクションをとられると、余計に緊張して冷や汗が出てしまう。

このようなサイクルに陥り、苦手になってしまうのです。
私も新人時代、プレゼンが憂鬱だった時期があります。
しかし、回数を重ねるにつれてそう思う根本的な原因が、

・聞き手と、ゴールのイメージが一致していない
・聞き手と自分が持っている情報量に差がある
・自分の持っている情報を1~10まで説明しても話が通じない

という三つに大別できると気づきました。逆に言えば、この三つを克服できれば、どんなプレゼンが来てもまったく恐れることはないことも次第に分かってきました。

そこで本記事ではプレゼンで陥りがちな失敗パターンと、そうならないためにどんな点に気を付けるといいのかについて新人エンジニアのみなさんにお伝えしていきます。

プロフィール画像

株式会社office Root(オフィスルート)
代表取締役社長
甲州 潤(こうしゅうじゅん)

国立高専卒業後、ソフトウェア開発企業でSEとして一連の開発業務を経験し、フリーランスに転身。国内大手SI企業の大規模プロジェクトに多数参画し、優秀な人材がいても開発が失敗することに疑問を抱く。PMOとして活動を開始し、多数プロジェクトを成功へ導く。企業との協業も増加し、2020年に法人化。さまざまな企業課題と向き合う日々。著書『DX時代の最強PMOになる方法』(‎ビジネス教育出版社)

エンジニアがプレゼンテーションを行う場面とは

そもそもプレゼンが発生するシーンはどんなときでしょうか。エンジニアのみなさんがよく遭遇する場面としてイメージしやすい三つの場面を紹介します。

◆1 受注のための提案

「弊社では○○のシステム開発が可能なので、御社の問題が解決できます」という受注のためのプレゼンです。これは会社にとってかなり重要なプレゼンで、営業担当が中心となって進めます。エンジニアは「この技術開発が本当に可能かどうか」という確認要員として入ることが多く、新人であればまず関わることはありません。

◆2 課題の解決方法の提示

すでにシステムが導入され業務が回っている企業であっても、業務上の都合上、あるいはシステム上の不具合が発生するなどして、その解決方法を提案する場面です。

よくある提案例としては、以下のようにいくつかの選択肢を提示し、お客様にいずれかを選択してもらうためのプレゼンがあります。

【1】修正期間、工数(作業時間)はかかるが、システムを完全に自動化できる
【2】修正期間、工数(作業時間)はかからないが、定期的にでエンジニアの工数(週○回のメンテナンス作業など)がかかる
【3】修正期間、工数(作業時間)はかからないが、定期的にクライアント側での作業が(週○回の入力作業など)がかかる

◆3 システム障害によるトラブル説明

システムの不具合や障害などトラブルが発生する場合もまた、プレゼンの機会があります。

例えば、ECサイトで商品を販売する事業会社のシステムを外部のシステムベンダーに委託している状態で、あなたがシステムベンダーの運用担当者として仕事をしている場合を想像してみてください。

あるとき、クライアントから、「自社商品がネットニュースで取り上げられアクセスが集中し、サーバーダウンして商品を購入できない」と告げられました。
そんな時、あなたはクライアントに状況と解決方法の説明を行うため、緊急でプレゼンを行わなくてはなりません。

プレゼンテーション

この場合、
 1. トラブルの発生経緯を説明し、事実を共有
 2. 直接的な原因の説明と、暫定的な対応方法の提示
 3. 根本的な原因説明と、再発防止策の提示

という3段構えが、正しいプレゼンの方法になります。

新人や若手エンジニアのみなさんが遭遇するのは2番と3番のケースだと思いますので、対応力をしっかり身につけておきたいところです。

この二つのケースに共通して言える大事なことは、「相手にこちらの意図を正しく伝える」ことです。内容を正しく伝えて、相手が明確に理解できれば、課題解決など物事が進むスピードは一気に速くなります。

では、正しく伝えるためのポイントを二つ紹介しましょう。

ポイント1:「クライアントは何を知りたいのか」を理解し、端的に伝える

真面目なエンジニアほどやってしまいがちなのが、トラブルが起こった際「自分の持っている情報を1から10まで順番にすべて伝える」ことです。

例えば、前項のプレゼンが発生するシーン3番で取り上げたようなサーバーダウンが起こった場合、エンジニアはしばしばこんな風に説明しがちです。

「システムに障害が起きたのは●月●日。△△のような状況が発生しました。これはネットワーク切断による障害があって、そのネットワークはそもそも◆◆で構成されていて……」

このように、障害が起こった経緯からテクニカルな話まで全て話そうとしてしまうのです。

この理由はいろいろ考えられますが、一つには「自分の知っている情報は全て出した方がいい」「情報を全て伝えれば相手は理解してくれる」という思い込みがあります。

しかし、いくら伝えても理解してくれることはないでしょう。
次の図を見てください。

甲州潤さん PMO連載4回目 作図部分

自分が行おうとしている1〜10の説明がA、クライアントが本当に知りたい情報はAとBの両方を合わせた全ての情報とします。すると、Aの説明だけではBの大半をカバーできていないのです。

エンジニアの話すテクニカルな話は、課題やトラブル全体の中の一部に過ぎず、クライアントからすれば必要性をあまり感じない情報でもあります。

では、クライアントはどのような情報を欲しているかというと、以下のような「クライアント寄りの話」が挙げられるでしょう。

・サーバーダウンにより、何人のお客様が商品を購入できなかったのか
・お客様に迷惑をかけたのは何分間なのか?
・どれくらいの期間で復旧するのか?
・損失を被ったお客様はいるのか?

問題点やトラブルの全体像を把握した上で、「クライアント側は何を知りたいのか」というニーズを考えつつ端的にプレゼンする。それができないと、「Aの説明はいいけどBの説明は?」と双方の認識のズレが生じてしまうのです。

このズレをもう少しかみくだいてご説明しましょう。

みなさん、『桃太郎』の物語はよくご存じだと思います。
仲間を引きつれた桃太郎が鬼退治をする話ですが、この物語を誰かに説明するとしたらどんな風に話すでしょうか?

例えば、冒頭でいきなり何の説明もなく「キジは鬼の目を狙いました。犬は赤鬼に噛みついて攻撃しました」と話し始めたら、聞き手は「何のこと?」「どうして鬼を攻撃しているの?」「結局、今はもう大丈夫なの?」などと疑問だらけになってしまうでしょう。

つまり、「キジが……犬は……」の話は、「ネットワークが……データテーブルのデータが……」といった「実際、トラブルに対してエンジニアは何をしたのか?」というB(テクニカル)の話にあたるのです。クライアント側が知りたいのは、それだけではないですよね。エンジニアにとっては重要度の高い話でも、クライアントにとっては「局所的な話」であることを認識しておかなければなりません。

桃太郎 物語イメージイラスト

ポイント2:順番を間違えずにストーリーで語る

もう一つのポイントは、「話す順番を間違えない」ことです。

例えばサーバーダウンのトラブルの場合、クライアントは「B」の情報を知りたがっています。それなのに「A」から話し始め、打ち合わせの終盤になって「B」の話が出てくるとクライアントには「分かりづらいプレゼン」という印象を持たれてしまいます。

桃太郎の物語なら、いきなり「鬼を退治しました!」から話し始めるようなものです。しかし、課題解決をする上で相手が最も知りたいのは、「なぜ鬼退治をする必要があったのか?」です。それを先に伝えることで、納得感がグッと増すのです。

もし私が鬼退治のことを伝えるとするならば……

「昨今発生していた金品を奪う強盗や、傷害事件は鬼の仕業でした」(問題と原因の説明)
「そのため、桃太郎が鬼を退治しました。この悲しみはもう起きません」(解決した結果の伝達と納得感を与える)
「そもそもなぜ鬼が金品を奪っていくかというと、○○という理由がありました」(問題が起こった背景の説明)
「しかし、強い桃太郎という男の子が来てくれたおかげで、鬼退治できたのです」(結論)

そして最後に付け加えるのならば、ここにテクニカルな内容を入れます。
「具体的な退治方法としては、一人で退治したのではなく何名かの仲間の力を借りました。キジは青鬼の目を狙い、犬は赤鬼に噛みついて攻撃しました」

ただしこの部分は、前項でお伝えしたように局所的な話になるので、補足程度にとどめます。詳しい説明は、クライアントから求められたときに行えばよいでしょう。資料にまとめるのであれば、最後の参考資料程度に留めておくのが良いかもしれません。

いかがでしょうか? 
二つのポイントを押さえれば、読み手が知りたい内容を分かりやすく伝えられると思います。「伝わるプレゼン」をするには、何よりクライアントのことをよく理解し「何に困っているのか?」を知ることが大事です。

これを心得ていなければ、プレゼン内容も順番もすべてズレてしまい、”失敗パターン”に陥ってしまいます。まずは「自分が持ってる情報を話す=伝わる」という意識を捨て、相手を知ることに注力してほしいと思います。

相手を知るカギは「自分が実際に体験してみること」

では、あなたがエンジニアで、システムを導入していただいているお客様先の企業内容を知るためには具体的にどうすればよいのでしょうか。

もし、toC向けの企業であれば「自分がその消費者になってみる」のがよいでしょう。飲食店なら実際にお店に足を運んでみる。メニューの料理を自分で食べてみる。

そうすれば、席についてタブレットのUIの使い勝手や、スタッフの動きなどが分かるでしょう。「スタッフがスムーズにいかないのはこのシステムのせいだな」と仮説を立てることもできると思います。入店からサービス提供を受け、支払いをして退店する。この一連の流れを体験するだけで理解はグッと深まります。

飲食店 イメージ

一方 toB向けの企業であれば、「クライアントとの接点を増やす」のが正解です。
不明なことや気になることなどは、担当者の方にいろいろ聞いてみるとよいでしょう。その際、業界紙などで情報を集め、商習慣などを知っておくこともとても大切です。

新人や若い世代の場合、会社というものがどのような構造になっているのかまだよく分からない人も多いと思います。いろいろなクライアント企業を知ることで、会社にはどんな組織があり、どんな動きをしているのかを理解できるでしょう。

例えば、3月は決算期の企業が多いことがわかると、
「3月で忙しい企業が多いですが、御社はどうですか?」
「うちは決算期が9月だから、あまり関係ないんだよ」

現場の担当者とこのような会話ができ、「この企業の決算期は9月」といった新たな情報を引き出すことができます。こうしたことの積み重ねで、会社の体制やシステムはどうなっているのか、など情報取得の横展開ができるはずです。相手のニーズもさらに見やすくなるでしょう。

お客様企業の理解に関しては、先に述べたような行動で理解を深めることができるはずです。加えて、「IT業界」「情報処理の知識」「ソフトウエア工学」といったITに関する知識も同時に身につけていかなければなりません。
自社で勉強会や研修が充実している場合は、積極的に受講して知識や理解を深めましょう。

勉強会や研修

もし、自社でそのような環境が整っていない場合は、情報処理に関する資格取得のための勉強をすることで、システム開発の流れや情報処理そのものの知識を高めることができます。
そこで得た知識を元に、お客様との会話をしながら現場感を身に付けていきましょう。

本記事ではプレゼン術についてお伝えしてきました。言うまでもないことですが、正しいプレゼン、分かりやすいプレゼンは、聞き手の理解度を高めることによってスムーズな仕事のやりとりにつながります。

少なくとも、相手に伝わらない事態や変な空気にはなりません。それでも自信が持てなければ、周りの同僚や家族などにプレゼンを見てもらい、客観的な評価をしてもらいながら場数や練習量を増やしていきましょう。

徐々に手応えを感じられるようになれば、プレゼンへの苦手意識もなくなっていくはずです。周りに誰も教えてくれる人、フィードバックしてくれる人がいなくても諦めることはありません。プレゼンテーションに関して書かれた多くの書籍を手に取ることもできますし、資料や情報にアクセスすることも可能です。実際あなたは、この記事を自分の成長のためを思って読んでいるはずです。

本記事が、みなさんの効果的なプレゼン力向上の一助になればとてもうれしいです。

書籍紹介

『DX時代の最強PMOになる方法』
著:甲州潤

書影 最強PMOになる方法

▼こんなエンジニアはぜひお読みください。
・今の仕事に不満を持っていて、現状を変えたいと思っている
・給料をアップしたい
・エンジニアとしての将来が不安だ
・キャリアアップをしたいが、何をしたらいいかわからない
・PMOに興味がある
・PMOとして仕事をしたい

【目次】
第1章 一番稼げるIT人材は誰か
第2章 これからはPMOが1プロジェクトに1人必要
第3章 SEとPMOの仕事は何が違うか
第4章 稼ぐPMOになる7つのステップ
第5章 優秀なPMOとダメなPMOの見抜き方
第6章 PMOが最低限押さえておきたいシステム知識とスキル
第7章 システムは言われた通りに作ってはいけない
第8章 どんな時代でも生き残れる実力をつけよう

>>>詳細はこちら

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