近年、DX推進やIT技術の進化により、プロジェクトは複雑化の一途をたどっています。そんな状況下で、プロジェクトの管理体制強化や成功率向上を目指す企業にとって、「PMO(Project Management Office)」の重要性が増しています。
PMOは、組織内のプロジェクトマネジメントを横断的にサポートする組織や役割を指します。プロジェクトの開発実務に直接関わる機会は少ないため、「具体的にどんな仕事?」「自分に必要なスキルは?」と感じるエンジニアの方もいるかもしれません。
しかしPMOは、単なる事務作業にとどまらず、複雑化するプロジェクトを円滑に進め、成功に導くための多様な役割を担います。特に、現場に入り込み「手を動かすPMO」は、DX時代のプロジェクト推進に不可欠な存在であり、AI時代でも代替されにくい高い将来性を持っています。
本記事では、『DX時代の最強PMOになる方法』の著者であり、PMOの第一人者である甲州潤さんご本人に、PMOの定義から役割、必要なスキル、将来性、そして「良いPMO」になるための秘訣まで、分かりやすく解説いただきます。
今後のキャリアパスを考える上で注目のPMOについて、その全貌を知り、自身の可能性を広げてみませんか?
【この記事の執筆者】
株式会社office Root(オフィスルート)
代表取締役社長
甲州 潤(@SEntertainer)
国立高専卒業後、ソフトウェア開発企業でSEとして一連の開発業務を経験し、フリーランスに転身。国内大手SI企業の大規模プロジェクトに多数参画し、優秀な人材がいても開発が失敗することに疑問を抱く。PMOとして活動を開始し、多数プロジェクトを成功へ導く。企業との協業も増加し、2020年に法人化。さまざまな企業課題と向き合う日々。著書『DX時代の最強PMOになる方法』(ビジネス教育出版社)
PMOとPMの違い
名前が似ているポジションに「PM(Project Manager)」があります。混同されることが多いPMOとPMですが、明確に役割の違いがあります。
■PMO……プロジェクト全体が円滑に進むようサポートするポジション(複数人でチームを組む場合や組織として位置づける場合もあります)
■PM……プロジェクトの責任者としてさまざまな意思決定をするポジション
つまりPMOのメインミッションは、プロジェクトが円滑に進み、プロジェクトの目標を達成するためのさまざまな取組みを行うこと。PMが本来業務をしやすいようサポートする役目も担っています。
PMOが普及した背景
では、PMOはいつ頃から登場したのでしょうか。それにはITを取り巻く時代背景が関連しています。
世の中のIT化が急激に加速し始めた2000年以降、テクノロジーの進化とともに、IT市場も急拡大。それに伴い、IT企業の業務量は増加し、業務内容も複雑化していきました。それまで一社で完結していたサーバーやネットワークの構築、ソフトウエア開発などの業務は専門企業へ細分化され、一つのプロジェクトを進めるにも複数の企業と関わることが求められるようになったのです。
規模の大きなプロジェクトでは数百人単位のメンバーが関わるケースや、人手不足の中、少人数で回さなければならないケースなど、さまざまなプロジェクトが混在するようになりました。
そこで業務負担が増えたのがPMやPL(Project Leader)です。自身の業務に加えて、多くのメンバーの進捗管理、他社とのやり取りなどまで担わなければならなくなりました。プロジェクトの要となる人たちが本来業務に集中し、プロジェクトを滞りなくスムーズに進めるためには、プロジェクト全体を見つめ、課題解決や必要な仕組みの構築などを行える存在が必要。そんなニーズから生まれたポジションがPMOなのです。
PMOの役割
PMOには大きく分けて五つの役割があります。
①プロジェクト全体の管理と統制
混乱したプロジェクトを冷静に見渡し、課題を発見・解決します。ゴール達成に向けて最適な取捨選択や優先順位を判断・提案します。
②コミュニケーションの橋渡し役
メンバー、部署、クライアント企業など垣根を越えて横断し、意思疎通を円滑にします。異なる職種・立場の関係者の背景を理解し、対立が生じた場合は、解決のための「中立な仲介者」としての役割を果たします。
③業務効率化の仕組みづくり
各チームの進捗管理や報告業務を効率化するためのツール導入・仕組み構築を行い、メンバーの負担を軽減し、本来の業務に集中できる環境を整備します。
④四つ目は経営判断への提言
現場の進捗状況や負荷具合などを精査し、過剰なプロジェクト受注を抑制する役割を担います。必要に応じて「やらない」決断をトップに提案し、全体最適を図ります。
⑤細やかな運用調整
報告フォーマットの統一など、日々の業務に直結する細部の調整を行い、文書のバラつきを防ぎ、作業効率と集約性を高めます。
これらの仕事をこなすため、PMOには、企画力や実行力、コミュニケーションスキル、マネジメントスキルなど幅広いスキルが求められます。
PMO 四つのスキルレベル
PMOの仕事は多岐にわたるため、プロジェクトの規模・人数・難易度・プロジェクトメンバーの経験値によってPMOに求められる機能が異なってきます。
例えば、プロジェクトメンバー全員がプロジェクトマネジメントを熟知して立ち振る舞える場合であれば、PMOのスキルレベルは低くても問題ありません。
しかし、チームで仕事をすることに不慣れなメンバーばかりのプロジェクトでは、PMOが積極的にプロジェクトを推進していく必要があります。
代表例として、以下の四つに分けられます。
PMOオペレーター(事務局型)
PMOオペレーターは、プロジェクトに関する社内プロセスを円滑に進める役割を持ちます。
PMO事務とも呼ばれるこのポジションは、例えば「メンバーへタスクの期日をリマインドする」「次の会議に向けた場所の確保、オンラインミーティングURLの発行、参加者招集、アジェンダ・会議資料などの準備」「プロジェクト内で使用するチャットツールのアカウント管理」といった機械的な事務作業が中心です。しかし、これらの業務は将来的にAIに代替される可能性が高いと考えられます。
主な業務内容例
・プロジェクトデータの収集・更新
・プロジェクトの情報共有・リマインド
・会議のコーディネート
・ドキュメント作成
・経理処理
・プロジェクトメンバーの勤怠管理 など
PMOサポーター(管理型)
PMOサポーターは、プロジェクトの環境整備やルールの策定、標準化など、PMOオペレータ―よりも専門性の高い業務を担当します。例えば、事前に決められたプロセスに沿ってプロジェクトを進行管理する、予定から遅延が見込まれるタスクについて代替案を掲示する、会議のゴール設定と運営などがあります。
PMBOKをはじめとするプロジェクトマネジメントの体系を理解し、プロジェクト成功のための原則を自ら推進できる状態でなければなりません。PMOサポーターの業務も将来はAIが担う可能性があります。
主な業務内容例
・プロジェクトマネジメントの体系に沿ったプロジェクト運営
・プロジェクトや社内プロセスの策定・改善・標準化
・情報収集・状況の可視化・各種分析・改善施策の策定・実行
・プロジェクトツール類の導入・定着化
・ステークホルダーとの連携 など
PMOファシリテーター(推進型)
四つの中でも重要な役割であり、本来のPMOの仕事を担うともいうべきなのがこのPMOファシリテーターです。
プロジェクトマネジメントの体系通りにプロジェクトを進めても、予定通りに行かない……そんなとき、現在プロジェクトにどのような課題があるのか、これからどんなリスクが発生するかなどを考え、状況に合わせた解決策を提案し、プロジェクトの推進役を担います。
さらには、プロジェクトを進めながら、手順書・ナレッジをまとめ、仕組み化し、次フェーズの進め方を改良するなどの活動も同時に行うことができればプロジェクト運営そのものが向上していきます。
PMOに依存しなくてもプロジェクトが機能する、進む状態に持って行くのがPMOファシリテーターです。想定外のトラブルに臨機応変な対応を行うなど、柔軟性の高い判断力が求められるため、AIによる代替は難しいといえるでしょう。
主な業務内容例
・PM、チームリーダーの相談役
・プロジェクト計画の推進・見直し・改善
・ステークホルダーの満足度向上および維持
・プロジェクトメンバーの育成・人材開発
・プロジェクトパフォーマンスの安定化
・プロジェクト実行に関するナレッジ管理 など
PMOコンサルタント(参謀型)
PMOファシリテーター同様重要な役割であるPMOコンサルタント。PMの参謀として将来を見越した計画、経営層向けレポート、組織間調整、プロジェクトマネジメント人財育成等を行います。
PMOコンサルタントは、ファシリテーターの発展型といえる仕事です。
現在の課題解決策はもちろんのこと、将来のタスク実行可能性や起こりうるリスクを予測し、会社の事業やビジョン、メンバー特性などを深く理解した上で、メンバーのアサインやコスト削減といったコンサルタント的な提案を行います。
AIによる代替は難しいだけでなく、PMOの中でもコンサルタントを担えるスキルまで持ち合わせている人は、まだまだ少ないのが現状です。
主な業務内容例
・将来を見越したプロジェクト計画の実行と見直し・改善
・経営層向けレポート
・組織間調整
・PM、PLの人材育成
・社内におけるプロジェクト推進人材の育成
・プロジェクト推進のための社内ナレッジ蓄積・標準化
・PMO機能の内製化施策推進 など
PMOの種類
前項では、PMOのスキルレベルごとの役割をご紹介しましたが、担当するプロジェクトの種類、領域によって、さらにいくつかの種類に分類されます。
【引用】甲州潤 著『DX時代の最強PMOになる方法』
プロジェクト内PMO
プロジェクト内PMOとは、事業部内の一つのプロジェクトを管理・支援するPMOのことです。日本におけるPMOはプロジェクト内PMOを指すケースが多く、作業状況の把握や進捗報告書の作成、スケジュール・品質・リスク・コストの管理、関係者対応などを担当します。PMのサポート役としてマネジメントの徹底と生産性向上に貢献する役割を果たします。
必要なスキルは、さまざまなメンバーと会話できるコミュニケーション能力、基本的なPCや管理ツールの活用スキル、会議を運営するファシリテーション力などです。
部門PMO
部門PMOとは、事業部長の直下に位置し、個別プロジェクトだけではなく、事業部全体のスケジュール、売上、コスト、品質の管理、進行方向の標準化、他部門との連携まで広く担う役割です。
例えば、新商品の開発と店舗改装といった異なるプロジェクトを横断的に把握し、相乗効果を生み出すような進行、調整を行います。また、メンバーが本来の業務に集中できる環境を整えることも重要な役割です。
必要なスキルは、PM力、分かりやすい報告書作成などドキュメンテーションスキル、作成した資料の浸透など現場の巻き込み力などです。
コーポレートPMO
コーポレートPMOとは、複数のプロジェクトや関連事業の統括、部門間の連携強化などを通じて、企業全体のマネジメントをサポートする役割を担います。
経営層直下に組織され、エンタープライズPMOと呼ばれることもあります。具体的には、ガバナンス、標準化、教育、リスク管理、予算管理のほか、戦略策定や人材育成が主な業務です。
例えば、経営層の迅速な経営判断のために情報の一元化を図る、役員向けの報告書を自動作成できる仕組みをつくるといった業務が挙げられます。また、経営企画的な視点で全体最適を推進し、組織全体のガバナンス強化や戦略策定支援なども行います。コーポレートPMOには、経営学、財務諸表の理解、人材育成能力、などのスキルが求められます。
第三者評価PMO
第三者評価PMOとは、経営層や事業部、プロジェクトから独立した完全に第三者的なポジションであり、これまでの三種類とは毛色が異なります。第三者の目線で、会社やプロジェクトの運営が適切に行われているかを評価・監査する役割を担い、多くの場合、外部から一時的に派遣されたPMOが担当します。企業の在り方や業界知識、法規制など広範な知見が求められ、内部監査部やリスク管理部のような役割を果たすこともあります。
第三者評価PMOには、評価軸となる業界やサービスなどの知識、法律やガイドラインなどの読解力、評価基準に達しないプロジェクトへの最適な提案力などが求められます。
各種類の中に、前述したスキルレベルのPMOが存在すると考えてください。例えば、同じPMOオペレーターであっても、プロジェクト内PMOと部門PMOでは担う業務が異なる場合があります。
PMO導入によるメリット
では、企業にとってPMOを導入するメリットはどんなところにあるのでしょうか。具体的に解説します。
客観的な立場でプロジェクト運営をサポートできる
PMOは実際に開発業務に関わることがあまりないため、客観的な立場でプロジェクト全体を俯瞰できます。それによって中立な立場で意見や提案をすることができるため、クライアント、PM、開発メンバーなど各ステークホルダーの調整役として円滑なコミュニケーションを可能にします。顧客満足度の向上や維持にも一役買うでしょう。
またPMOの活躍により、PMの意思決定が迅速かつ正確に行えるようになり、より利益を追求したプロジェクト運営が実現するメリットもあります。
PMやメンバーが本来業務に集中できて負荷が軽減する
PMOはこれまで開発メンバーやPMが行っていたドキュメント作成や情報収集、各種管理業務をサポートします。
例えば、プロジェクトメンバーの報告書の作成業務や会議への出席に対して、改善、仕組み化をすることで、プロジェクトメンバーの負荷を軽減させ、生産性を向上させます。
プロジェクト成功率の向上
PMOを設置したプロジェクトでは、進行に伴う様々な管理業務が効率化されるほか、メンバーやクライアント企業とのコミュニケーションが円滑化し、リソースの最適化、適切なリスク管理などが行われます。
タスクが滞ったり、プロジェクトの遅延が発生したりしたときに対策を打つのではなく、進捗遅延の傾向を早期に検知し、問題になる前に対策が打てるため、決められた期限や予算の範囲内でプロジェクト達成を実現できるようになります。
プロジェクト関係者の精神的な余裕の創出
PMOは、PMや他のメンバーに対して本来業務に集中できる環境を整えるとともに、精神的な「余裕」や「余白」を作り出します。
こうした「余白」は、メンバーの高いパフォーマンスを引き出すだけでなく、新しいアイデアを生み出したり、想定外のトラブルに柔軟に対応できたりといった効果も期待できます。
PMOは、プロジェクト内だけでなく、クライアント企業、外部ベンダー、その他取引先企業などプロジェクトに関わる様々なステークホルダーの橋渡し役としても機能するため、プロジェクト関係者の「心理的安全性」にも寄与できます。
PMO導入によるデメリット
一方で、PMO導入によるデメリットはあるのでしょうか。
本来求められている力を発揮できれば、PMO導入のデメリットはありません。しかし、PMOがうまく機能していないプロジェクトにおいては以下のようなデメリットが考えられます。
導入コストがかかる
PMOを導入するということは、当然ながら人件費としてコストが上乗せされます。
ですので、一定規模以上の予算が捻出できるプロジェクトに配置するのが望ましいです。
PMOが正しく機能していないプロジェクトを経験した人は、「PMOは必要ないのでは?」「PMOに人件費を割くのは無駄」といった認識をもつ方も中にはいるかもしれません。
プロジェクトが遅延して、問題に対応するためのコストを支払う可能性があるのであれば、PMOを導入してリスクを回避するために費用をかけるという考え方もあります。
また、リスク回避だけの考え方だけでなく、PMO導入で、プロジェクトの最適化(ナレッジ化、標準化)、人材育成も同時にできると考えた場合、PMOに費用をかける価値があると判断することも必要です。
小規模プロジェクトでは効果が薄い場合がある
小規模プロジェクトでは、多少滞るタスクがあっても「根性論」や「力技」で解決できるケースがあります。
そして、管理業務やメンバーも少ない場合、各人が余力で管理したりカバーできたりすることでプロジェクトが滞りなく進むことが多いです。
小規模プロジェクトの場合は、1プロジェクトにPMOを配置するのではなく、複数の小規模プロジェクトを横断的に見る部門PMOのような位置づけで配置したほうが効果的な場合があります。
現場ニーズに合わないルール設定はプロジェクト進行を妨げる可能性がある
PMOはプロジェクトマネジメントに深く精通しています。PMBOKをはじめとするプロジェクト管理の体系をよく理解するがゆえに、理想的なルールやプロセスを導入・適用することがあります。
しかし、現場の状況やニーズを十分に理解しないまま、画一的なルールやプロセスを導入・適用しようとすると、かえって現場の負担が増加しプロジェクトの進行を妨げる可能性があります。
これによりメンバーの自由な動きを阻害して新しいアイデアが出にくくなったり不満が出たりする可能性もあります。
プロジェクトに入る際は、事前調査や現場のヒアリングなどで、雰囲気や求められていることを知っておくこと、参画後も定期的に状況を見直すことが大切です。
PMOに必要なスキル・知識
PMOにはプロジェクトやポジションに応じてさまざまなスキルや経験が求められます。前述した四つのスキルレベルも踏まえながら、解説していきます。
事務スキル& ITリテラシー
パソコン操作、ITリテラシーは基本中の基本です。
「使える」という状態ではなく「使いこなせる」レベルを目指しましょう。
「現在はAIを使うため、資料作成や議事録作成の能力を身につける必要はない。」という声もありますが、「AIに作らせる」「AIが作ったものを仕上げる」ためのスキルが必要です。
そのためには、事務処理の基本的な流れ、ツールの使い方、ITそのものの基本的な知識は最低限必要となります。
プロジェクト管理に関する知識
チームで仕事をすることに関するプロフェッショナルであるPMOはプロジェクト管理に関して十分に熟知しておく必要があります。
どのようにしたらプロジェクトは成功するのか? また、どのようにしたらプロジェクトは失敗するのか? を理解しておきましょう。
システム開発・導入に関わるプロジェクトにおいてプロジェクト管理は定着していますが、ITに関連するプロジェクトでも、プロジェクト管理に関する知識は必要だと思っています。
情報システムが関連しないプロジェクトであっても、多くの関係者が存在し、予算が割り当てられ、期限が設定され、一定の目標を達成していく仕事はたくさん存在しています。
PMOの基本として身に付けておきましょう。
語学力
近年では国内と海外の二拠点で開発を行うプロジェクトも増えており、英語力があるPMOは非常に重宝されます。特にグローバルなプロジェクトでは専門的なコミュニケーションが必要となるため、ビジネスレベル以上の英語力が求められます。
「語学力を身に付けるのは無理」という場合でも、「世の中にあるリアルタイム翻訳を、業務で使えるレベルにまで落とし込んで、使いこなせる」のであれば、それはそれで需要があります。
語学力というスキルを持っているのは強みになりますが、持っていない場合は、「語学力をスキルにできるような方法」を身に付けることを考えるのも一つの手です。
論理的思考
PMOはプロジェクトを成功に導くために、各部門がどのように動くべきかを論理的に考える必要があります。論理的思考力があると、複雑な情報を体系化し、関係者に分かりやすく説明できるだけではなく、曖昧さのない報告書や計画書の作成が可能になります。
多くの部門と関わりながら調整・説明を行うPMOにとって、論理的思考は不可欠なスキルといえるでしょう。
特に、ファシリテーターやコンサルタントを中心とするPMOにとって論理的思考は必要不可欠です。
コミュニケーションスキル
プロジェクトを円滑に進めるには、メンバーとのコミュニケーションが必要不可欠です。
さらにスケジュールの管理やメンタリング、会議のコーディネートやステークホルダーとの打ち合わせなど、さまざまなポジションの人との対話も求められるため、PMOにはコミュニケーションスキルが欠かせません。どのスキルレベルであっても、最低限身に付けておきたいスキルです。
臨機応変さ・柔軟性
プロジェクトマネジメントは体系化され、理想とされる管理の状態が確率しています。
しかし、現実のプロジェクトでは、それらすべてを適用したとしても想定外のトラブルが発生します。
スケジュールが遅延しそう、体調不良者がいて人材が足りない、データが不足していた……など、あらゆるトラブルに対して臨機応変に対応する柔軟性が必要です。また、トラブルが起きないように常に状況を把握し、仮にトラブルが起きても被害が最小限に済むよう事前にリスクヘッジしておくことも大切です。
PMOになるために有利な資格
PMOとして働く上で資格は必須ではありません。しかし、資格を取得しておくとスキルレベルや適性がアピールできるため、転職や新規プロジェクト参画時に有利になります。
PMOに関連する代表的な資格を紹介します。
プロジェクトマネジメント・アソシエイト認定資格(NPMO認定PJM-A)
プロジェクトマネジメント・アソシエイト認定資格は、一般社団法人日本PMO協会が運営する資格です。プロジェクトの現場業務における基本的な知識や技術レベルを問われる試験です。 幅広い知識が求められるため、転職市場で有利になる資格ともいえそうです。これからPMOを目指す人は取得を目指してみると良いと思います。
PMOスペシャリスト認定資格(NPMO認定PMO-S)
PMOスペシャリスト認定資格も一般社団法人日本PMO協会が運営する資格です。受験するにはプロジェクトマネジメント・アソシエイト認定資格などの関連資格の取得が必須です。 PMOスペシャリスト認定資格は、プロジェクトマネジメントの基礎を携えていることが前提で、さらに実践的な知識が求められます。この資格にはランクアップ制度があり、2024年7月現在では「PMOスペシャリスト(★)」「PMOスペシャリスト(★★)」の二つのランクが存在します。また、「PMOスペシャリスト(★★★)」が現在策定中のようです。
PMP®資格(Project Management Professional)
PMP資格は、Project Management Institute(PMI)が運営する国際資格です。 試験は、予測型プロジェクトマネジメント・アプローチに関するものと、アジャイル・アプローチまたはハイブリッド・アプローチに関するもので構成されています。 プロジェクトマネジメントに関する資格のデファクト・スタンダードとして広く認知されており、プロジェクトマネジメント・スキルの評価基準として、IT・建設をはじめとする多くの業界から注目されています。 PMP® は、試験に合格して資格保有者となった後も、プロジェクトマネジメントに従事するプロとして、継続的な教育および職務能力の育成のために、CCR(Continuing Certification Requirements Program)と呼ばれるプログラムに従事する必要があります。 CCRサイクル(3年間)毎に、資格更新手続きが必要となります。
プロジェクトマネージャ試験
プロジェクトマネージャ試験は、独立行政法人情報処理推進機構IPAが運営する国家資格です。その名の通りプロジェクトマネジメントに関するスキルが問われます。 2022年度の試験では合格率14.1%であり、情報処理技術者試験制度の中では高難度です。ゆくゆくはPMにもチャレンジしたいと考えている人におすすめです。 IT業界においては、広く認知されており、基本恃報技術者試験、応用情報技術者試験を経て、資格取得に臨む場合が多いです。
P2M資格
P2M資格は、特定非営利活動法人日本プロジェクトマネジメント協会が運営する資格です。P2Mは「Project & Program Management」の略で、プロジェクトマネジメントやプロジェクトマネジメントの知識・スキルを問われる試験です。 難易度や試験範囲に応じてPMC、PMS、PMR、PMAの四つのレベルに分かれています。PMSの難易度は、経済産業省が策定するIT人材のスキル体系「ITSS(ITスキル標準)」の7段階においてプロジェクトマネージャ試験と同等のレベル4に該当します。
良いPMOとは
ここまで、PMOに必要なスキルや資質、さらには導入のメリットなどをお伝えしてまいりました。
では、いったい「良いPMO」とはどんな条件があるのでしょうか。
その鍵となるのが、「プロジェクト内の円滑なコミュニケーション」です。
そのため「良いPMO」とは、プロジェクト進行に関する知識や業界の専門性、最新の技術トレンドを把握しているといったことに加え、多くの人たちが関わるプロジェクトでスムーズなコミュニケーションのために手を動かせる人だといえます。
一方で、「悪いPMO」の例としては、誰かにタスクを依頼する際、「〇〇さん、これやっといてください」などと口頭伝達のみに頼る、言うなれば「口だけPMO」の人です。
このような人は、「あれ? これはやらなくていいと思っていました」といったお互いの認識の齟齬や方向性のズレ、「一週間経っても依頼した資料が届かない」など業務が遅延などを招きがちです。「口だけPMO」の言い分としては「いちいち説明するのが大変」「言語化が苦手で……」などあると思いますが、その結果、プロジェクトは失敗に陥りやすくなるのです。
「口だけPMO」のように齟齬やズレが発生しないように何か手を打てば、自然と「手を動かすPMO」となってくるはずです。
これが、「良いPMO」といえるでしょう。
以下に、「良いPMO」を目指す上で求められることを記載いたします。
①記録と共有の徹底
会議や会話の内容や決定事項、タスクなどを正確に記録し、口頭だけではなくメールやチャット、タスク管理ツールでメンバーに確実に共有します。
②背景と重要性の伝達
「なぜそのタスクが必要なのか」プロジェクト全体における位置づけや重要性を具体的に伝え、メンバーに理解してもらうようにします。
③三つ目は先読みと仕組み化
現在だけでなく起こりうる問題を想定して先手を打ち、メンバーや部署の状況に合わせて最適なコミュニケーション手段や業務フローを構築・提案します。
④主体性と行動力
積極的にメンバーや取引先とコミュニケーションを取り、時には現場に出向いて状況を把握し、課題解決のために主体的に行動します。
⑤スキル向上への意欲
必要なPCスキル、文章力、各種ツールの活用能力などを継続的に磨いていくほか、「このスキルがあればもっと顧客に喜んでもらえる」といったスキル向上に対して前向きな気持ちを持っています。
このような「手を動かすPMO」は、プロジェクトに対して当事者意識を持ち、常に「よりよいコミュニケーションをするには?」を考えています。だからこそ、メンバーとの信頼関係を築き、それぞれの能力を最大限に引き出しながら、プロジェクト全体を正しいゴールへと導くことができるのです。
水面下でメンバーが働きやすい環境を整え、使いやすい仕組みを構築する。
決して目立つ存在ではありませんが、着実にプロジェクトをよりよくしている「縁の下の力持ち」であることは間違いなく、そんなPMOはどこの企業からも引く手数多。市場価値が非常に高いといえるでしょう。
PMOの需要と将来性
PMOは近年需要が高まっているポジションの一つです。
その理由は、IoTやAIの進化、DX関連のプロジェクトが多く発生し、プロジェクトが複雑化していること、また一つのプロジェクトに多くのメンバーや外部企業などが関わるようになってコミュニケーションに課題が出てきたことなどが挙げられます。
また2012年に大手外資ベンダーと銀行間で行われた裁判では、「PM義務違反があった」と74億円の巨額賠償を命じる判決が出ました。このことからベンダー側・ユーザー側共にプロジェクトマネジメントにおける知識やスキルを保持した人材が必要だという認識が浸透したこともPMOのニーズ向上を後押ししたといえます。
もともと日本のプロジェクト成功率はかなり低く、2003年ごろはわずか26.7%でした。この成功率の低さを改善する取り組みの中で、PMOの重要性が認識されるようになり、PMOのニーズは高止まりとなっています。
PMOの導入が進まない理由
PMOのニーズが高まる一方で、「自社には必要ない」「興味はあるがメリットが分からない」などと導入を渋る企業も一定数存在します。その理由は、「PMO導入によるデメリット」でも述べたように、PMOが本来の役割を発揮していないケースに遭遇したり、「自社でもそうなってしまうのでは」という懸念があったりするからです。
また世の中にさまざまなプロジェクト管理ツールが流通していることも、PMOの導入が進まない要因の一つ。「これらのツールを上手く使えば、PMOを導入するまでもないのでは?」と思われるケースがあるようです。
PMOの将来性
とはいえ、今後さらなる技術革新などにより、プロジェクトの複雑化はもっと加速することが見込まれます。そのためPMOの重要性がもっと認知されれば、需要は右肩上がりになっていくでしょう。
いくらAIが発達しても、多様な人間の意見を整理しながら、目指すゴールに向かってプロジェクトを具現化していく高度なテクニックは、当面人間しか担えないからです。
PMOを担うことで培われる調整力、課題解決力、コミュニケーション能力などは、特定の仕事に限定されず、将来どのようなキャリアに進むとしても非常に役立つ「ポータブルスキル」と言えます。
エンジニアの中には、「将来、自分がどうしたいのかわからない」といったキャリアパスで悩むプログラマーやエンジニアが多くいます。
例えば「PMとしてプロジェクトを直接動かしてみたい」「将来自分で事業を立ち上げる」あるいは「再びエンジニアとして現場に戻りたい」など、現時点で将来のキャリアパスが明確でない人にとっても、PMOは将来性のあるポジションなのです。そしてPMOとしての経験はキャリアの選択肢を広げ、あらゆる業界でスキルを活かせるはずです。この先、本当にやりたいことが見つかったときにも、PMOのスキルはどんな場面でも役立つことでしょう。
まとめ:PMOはプロジェクト成功のキーパーソン
IoT・AIの進化やDX推進により、プロジェクトのスタイルは多様化かつ複雑化しています。プロジェクトの難易度が高くなり、PMやメンバーにかかる負担が増大する中、キーパーソンとして期待されるのがPMOの存在です。
PMOは、単なる作業要員ではありません。多くの人や企業が関わるプロジェクトをスムーズに動かし、目指すゴールに到達するまでの最適で最短のルートを導き出せる可能性を持ち合わせているのです。
技術力・ヒューマンスキルの両方が求められるため、誰もが簡単になれるわけではありませんが、需要は年々高まっており、将来性は抜群。ぜひ今後のキャリアの選択肢に入れてみてはいかがでしょうか?
書籍紹介
『DX時代の最強PMOになる方法』
著:甲州潤
▼こんなエンジニアはぜひお読みください。
・今の仕事に不満を持っていて、現状を変えたいと思っている
・給料をアップしたい
・エンジニアとしての将来が不安だ
・キャリアアップをしたいが、何をしたらいいかわからない
・PMOに興味がある
・PMOとして仕事をしたい
【目次】
第1章 一番稼げるIT人材は誰か
第2章 これからはPMOが1プロジェクトに1人必要
第3章 SEとPMOの仕事は何が違うか
第4章 稼ぐPMOになる7つのステップ
第5章 優秀なPMOとダメなPMOの見抜き方
第6章 PMOが最低限押さえておきたいシステム知識とスキル
第7章 システムは言われた通りに作ってはいけない
第8章 どんな時代でも生き残れる実力をつけよう
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文/甲州 潤