近年、DX推進やIT技術の進化により、プロジェクトは複雑化の一途をたどっています。そんな状況下で、プロジェクトの管理体制強化や成功率向上を目指す企業にとって、「PMO(Project Management Office)」の重要性が増しています。
PMOは、組織内のプロジェクトマネジメントを横断的にサポートする組織や役割を指します。プロジェクトの開発実務に直接関わる機会は少ないため、「具体的にどんな仕事?」「自分に必要なスキルは?」と感じるエンジニアの方もいるかもしれません。
しかしPMOは、単なる事務作業にとどまらず、複雑化するプロジェクトを円滑に進め、成功に導くための多様な役割を担います。特に、現場に入り込み「手を動かすPMO」は、DX時代のプロジェクト推進に不可欠な存在であり、AI時代でも代替されにくい高い将来性を持っています。
本記事では、『DX時代の最強PMOになる方法』の著者であり、PMOの第一人者である甲州潤さんご本人に、PMOの定義から役割、必要なスキル、将来性、そして「良いPMO」になるための秘訣まで、分かりやすく解説いただきます。
今後のキャリアパスを考える上で注目のPMOについて、その全貌を知り、自身の可能性を広げてみませんか?
【この記事の執筆者】
株式会社office Root(オフィスルート)
代表取締役社長
甲州 潤(@SEntertainer)
国立高専卒業後、ソフトウェア開発企業でSEとして一連の開発業務を経験し、フリーランスに転身。国内大手SI企業の大規模プロジェクトに多数参画し、優秀な人材がいても開発が失敗することに疑問を抱く。PMOとして活動を開始し、多数プロジェクトを成功へ導く。企業との協業も増加し、2020年に法人化。さまざまな企業課題と向き合う日々。著書『DX時代の最強PMOになる方法』(ビジネス教育出版社)
●目次
【1】PMOとPMの違い
【2】PMOが普及した背景
【3】PMOの役割
【4】PMO 四つのスキルレベル
【5】PMOの種類
【6】PMO導入によるメリット
【7】PMO導入によるデメリット
【8】PMOに必要なスキル・知識
【9】PMOになるために有利な資格
【10】良いPMOとは
【11】PMOの需要と将来性
【12】PMOの導入が進まない理由
【13】PMOの将来性
【14】まとめ:PMOはプロジェクト成功のキーパーソン
PMOとPMの違い
名前が似ているポジションに「PM(Project Manager)」があります。混同されることが多いPMOとPMですが、明確に役割の違いがあります。
■PMO……プロジェクト全体が円滑に進むようサポートするポジション(複数人でチームを組む場合や組織として位置づける場合もあります)
■PM……プロジェクトの責任者としてさまざまな意思決定をするポジション
つまりPMOのメインミッションは、プロジェクトが円滑に進み、プロジェクトの目標を達成するためのさまざまな取組みを行うこと。PMが本来業務をしやすいようサポートする役目も担っています。
PMOが普及した背景
では、PMOはいつ頃から登場したのでしょうか。それにはITを取り巻く時代背景が関連しています。
世の中のIT化が急激に加速し始めた2000年以降、テクノロジーの進化とともに、IT市場も急拡大。それに伴い、IT企業の業務量は増加し、業務内容も複雑化していきました。それまで一社で完結していたサーバーやネットワークの構築、ソフトウエア開発などの業務は専門企業へ細分化され、一つのプロジェクトを進めるにも複数の企業と関わることが求められるようになったのです。
規模の大きなプロジェクトでは数百人単位のメンバーが関わるケースや、人手不足の中、少人数で回さなければならないケースなど、さまざまなプロジェクトが混在するようになりました。
そこで業務負担が増えたのがPMやPL(Project Leader)です。自身の業務に加えて、多くのメンバーの進捗管理、他社とのやり取りなどまで担わなければならなくなりました。プロジェクトの要となる人たちが本来業務に集中し、プロジェクトを滞りなくスムーズに進めるためには、プロジェクト全体を見つめ、課題解決や必要な仕組みの構築などを行える存在が必要。そんなニーズから生まれたポジションがPMOなのです。
PMOの役割
PMOには大きく分けて五つの役割があります。
①プロジェクト全体の管理と統制
混乱したプロジェクトを冷静に見渡し、課題を発見・解決します。ゴール達成に向けて最適な取捨選択や優先順位を判断・提案します。
②コミュニケーションの橋渡し役
メンバー、部署、クライアント企業など垣根を越えて横断し、意思疎通を円滑にします。異なる職種・立場の関係者の背景を理解し、対立が生じた場合は、解決のための「中立な仲介者」としての役割を果たします。
③業務効率化の仕組みづくり
各チームの進捗管理や報告業務を効率化するためのツール導入・仕組み構築を行い、メンバーの負担を軽減し、本来の業務に集中できる環境を整備します。
④四つ目は経営判断への提言
現場の進捗状況や負荷具合などを精査し、過剰なプロジェクト受注を抑制する役割を担います。必要に応じて「やらない」決断をトップに提案し、全体最適を図ります。
⑤細やかな運用調整
報告フォーマットの統一など、日々の業務に直結する細部の調整を行い、文書のバラつきを防ぎ、作業効率と集約性を高めます。
これらの仕事をこなすため、PMOには、企画力や実行力、コミュニケーションスキル、マネジメントスキルなど幅広いスキルが求められます。
PMO 四つのスキルレベル
PMOの仕事は多岐にわたるため、プロジェクトの規模・人数・難易度・プロジェクトメンバーの経験値によってPMOに求められる機能が異なってきます。
例えば、プロジェクトメンバー全員がプロジェクトマネジメントを熟知して立ち振る舞える場合であれば、PMOのスキルレベルは低くても問題ありません。
しかし、チームで仕事をすることに不慣れなメンバーばかりのプロジェクトでは、PMOが積極的にプロジェクトを推進していく必要があります。
代表例として、以下の四つに分けられます。
PMOオペレーター(事務局型)
PMOオペレーターは、プロジェクトに関する社内プロセスを円滑に進める役割を持ちます。
PMO事務とも呼ばれるこのポジションは、例えば「メンバーへタスクの期日をリマインドする」「次の会議に向けた場所の確保、オンラインミーティングURLの発行、参加者招集、アジェンダ・会議資料などの準備」「プロジェクト内で使用するチャットツールのアカウント管理」といった機械的な事務作業が中心です。しかし、これらの業務は将来的にAIに代替される可能性が高いと考えられます。
主な業務内容例
・プロジェクトデータの収集・更新
・プロジェクトの情報共有・リマインド
・会議のコーディネート
・ドキュメント作成
・経理処理
・プロジェクトメンバーの勤怠管理 など
PMOサポーター(管理型)
PMOサポーターは、プロジェクトの環境整備やルールの策定、標準化など、PMOオペレータ―よりも専門性の高い業務を担当します。例えば、事前に決められたプロセスに沿ってプロジェクトを進行管理する、予定から遅延が見込まれるタスクについて代替案を掲示する、会議のゴール設定と運営などがあります。
PMBOKをはじめとするプロジェクトマネジメントの体系を理解し、プロジェクト成功のための原則を自ら推進できる状態でなければなりません。PMOサポーターの業務も将来はAIが担う可能性があります。
主な業務内容例
・プロジェクトマネジメントの体系に沿ったプロジェクト運営
・プロジェクトや社内プロセスの策定・改善・標準化
・情報収集・状況の可視化・各種分析・改善施策の策定・実行
・プロジェクトツール類の導入・定着化
・ステークホルダーとの連携 など
PMOファシリテーター(推進型)
四つの中でも重要な役割であり、本来のPMOの仕事を担うともいうべきなのがこのPMOファシリテーターです。
プロジェクトマネジメントの体系通りにプロジェクトを進めても、予定通りに行かない……そんなとき、現在プロジェクトにどのような課題があるのか、これからどんなリスクが発生するかなどを考え、状況に合わせた解決策を提案し、プロジェクトの推進役を担います。
さらには、プロジェクトを進めながら、手順書・ナレッジをまとめ、仕組み化し、次フェーズの進め方を改良するなどの活動も同時に行うことができればプロジェクト運営そのものが向上していきます。
PMOに依存しなくてもプロジェクトが機能する、進む状態に持って行くのがPMOファシリテーターです。想定外のトラブルに臨機応変な対応を行うなど、柔軟性の高い判断力が求められるため、AIによる代替は難しいといえるでしょう。
主な業務内容例
・PM、チームリーダーの相談役
・プロジェクト計画の推進・見直し・改善
・ステークホルダーの満足度向上および維持
・プロジェクトメンバーの育成・人材開発
・プロジェクトパフォーマンスの安定化
・プロジェクト実行に関するナレッジ管理 など
PMOコンサルタント(参謀型)
PMOファシリテーター同様重要な役割であるPMOコンサルタント。PMの参謀として将来を見越した計画、経営層向けレポート、組織間調整、プロジェクトマネジメント人財育成等を行います。
PMOコンサルタントは、ファシリテーターの発展型といえる仕事です。
現在の課題解決策はもちろんのこと、将来のタスク実行可能性や起こりうるリスクを予測し、会社の事業やビジョン、メンバー特性などを深く理解した上で、メンバーのアサインやコスト削減といったコンサルタント的な提案を行います。
AIによる代替は難しいだけでなく、PMOの中でもコンサルタントを担えるスキルまで持ち合わせている人は、まだまだ少ないのが現状です。
主な業務内容例
・将来を見越したプロジェクト計画の実行と見直し・改善
・経営層向けレポート
・組織間調整
・PM、PLの人材育成
・社内におけるプロジェクト推進人材の育成
・プロジェクト推進のための社内ナレッジ蓄積・標準化
・PMO機能の内製化施策推進 など
PMOの種類
前項では、PMOのスキルレベルごとの役割をご紹介しましたが、担当するプロジェクトの種類、領域によって、さらにいくつかの種類に分類されます。
【引用】甲州潤 著『DX時代の最強PMOになる方法』
プロジェクト内PMO
プロジェクト内PMOとは、事業部内の一つのプロジェクトを管理・支援するPMOのことです。日本におけるPMOはプロジェクト内PMOを指すケースが多く、作業状況の把握や進捗報告書の作成、スケジュール・品質・リスク・コストの管理、関係者対応などを担当します。PMのサポート役としてマネジメントの徹底と生産性向上に貢献する役割を果たします。
必要なスキルは、さまざまなメンバーと会話できるコミュニケーション能力、基本的なPCや管理ツールの活用スキル、会議を運営するファシリテーション力などです。
部門PMO
部門PMOとは、事業部長の直下に位置し、個別プロジェクトだけではなく、事業部全体のスケジュール、売上、コスト、品質の管理、進行方向の標準化、他部門との連携まで広く担う役割です。
例えば、新商品の開発と店舗改装といった異なるプロジェクトを横断的に把握し、相乗効果を生み出すような進行、調整を行います。また、メンバーが本来の業務に集中できる環境を整えることも重要な役割です。
必要なスキルは、PM力、分かりやすい報告書作成などドキュメンテーションスキル、作成した資料の浸透など現場の巻き込み力などです。
コーポレートPMO
コーポレートPMOとは、複数のプロジェクトや関連事業の統括、部門間の連携強化などを通じて、企業全体のマネジメントをサポートする役割を担います。
経営層直下に組織され、エンタープライズPMOと呼ばれることもあります。具体的には、ガバナンス、標準化、教育、リスク管理、予算管理のほか、戦略策定や人材育成が主な業務です。
例えば、経営層の迅速な経営判断のために情報の一元化を図る、役員向けの報告書を自動作成できる仕組みをつくるといった業務が挙げられます。また、経営企画的な視点で全体最適を推進し、組織全体のガバナンス強化や戦略策定支援なども行います。コーポレートPMOには、経営学、財務諸表の理解、人材育成能力、などのスキルが求められます。
第三者評価PMO
第三者評価PMOとは、経営層や事業部、プロジェクトから独立した完全に第三者的なポジションであり、これまでの三種類とは毛色が異なります。第三者の目線で、会社やプロジェクトの運営が適切に行われているかを評価・監査する役割を担い、多くの場合、外部から一時的に派遣されたPMOが担当します。企業の在り方や業界知識、法規制など広範な知見が求められ、内部監査部やリスク管理部のような役割を果たすこともあります。
第三者評価PMOには、評価軸となる業界やサービスなどの知識、法律やガイドラインなどの読解力、評価基準に達しないプロジェクトへの最適な提案力などが求められます。
各種類の中に、前述したスキルレベルのPMOが存在すると考えてください。例えば、同じPMOオペレーターであっても、プロジェクト内PMOと部門PMOでは担う業務が異なる場合があります。
PMO導入によるメリット
では、企業にとってPMOを導入するメリットはどんなところにあるのでしょうか。具体的に解説します。
客観的な立場でプロジェクト運営をサポートできる
PMOは実際に開発業務に関わることがあまりないため、客観的な立場でプロジェクト全体を俯瞰できます。それによって中立な立場で意見や提案をすることができるため、クライアント、PM、開発メンバーなど各ステークホルダーの調整役として円滑なコミュニケーションを可能にします。顧客満足度の向上や維持にも一役買うでしょう。
またPMOの活躍により、PMの意思決定が迅速かつ正確に行えるようになり、より利益を追求したプロジェクト運営が実現するメリットもあります。
PMやメンバーが本来業務に集中できて負荷が軽減する
PMOはこれまで開発メンバーやPMが行っていたドキュメント作成や情報収集、各種管理業務をサポートします。
例えば、プロジェクトメンバーの報告書の作成業務や会議への出席に対して、改善、仕組み化をすることで、プロジェクトメンバーの負荷を軽減させ、生産性を向上させます。
プロジェクト成功率の向上
PMOを設置したプロジェクトでは、進行に伴う様々な管理業務が効率化されるほか、メンバーやクライアント企業とのコミュニケーションが円滑化し、リソースの最適化、適切なリスク管理などが行われます。
タスクが滞ったり、プロジェクトの遅延が発生したりしたときに対策を打つのではなく、進捗遅延の傾向を早期に検知し、問題になる前に対策が打てるため、決められた期限や予算の範囲内でプロジェクト達成を実現できるようになります。
プロジェクト関係者の精神的な余裕の創出
PMOは、PMや他のメンバーに対して本来業務に集中できる環境を整えるとともに、精神的な「余裕」や「余白」を作り出します。
こうした「余白」は、メンバーの高いパフォーマンスを引き出すだけでなく、新しいアイデアを生み出したり、想定外のトラブルに柔軟に対応できたりといった効果も期待できます。
PMOは、プロジェクト内だけでなく、クライアント企業、外部ベンダー、その他取引先企業などプロジェクトに関わる様々なステークホルダーの橋渡し役としても機能するため、プロジェクト関係者の「心理的安全性」にも寄与できます。
PMO導入によるデメリット
一方で、PMO導入によるデメリットはあるのでしょうか。
本来求められている力を発揮できれば、PMO導入のデメリットはありません。しかし、PMOがうまく機能していないプロジェクトにおいては以下のようなデメリットが考えられます。
導入コストがかかる
PMOを導入するということは、当然ながら人件費としてコストが上乗せされます。
ですので、一定規模以上の予算が捻出できるプロジェクトに配置するのが望ましいです。
PMOが正しく機能していないプロジェクトを経験した人は、「PMOは必要ないのでは?」「PMOに人件費を割くのは無駄」といった認識をもつ方も中にはいるかもしれません。
プロジェクトが遅延して、問題に対応するためのコストを支払う可能性があるのであれば、PMOを導入してリスクを回避するために費用をかけるという考え方もあります。
また、リスク回避だけの考え方だけでなく、PMO導入で、プロジェクトの最適化(ナレッジ化、標準化)、人材育成も同時にできると考えた場合、PMOに費用をかける価値があると判断することも必要です。
小規模プロジェクトでは効果が薄い場合がある
小規模プロジェクトでは、多少滞るタスクがあっても「根性論」や「力技」で解決できるケースがあります。
そして、管理業務やメンバーも少ない場合、各人が余力で管理したりカバーできたりすることでプロジェクトが滞りなく進むことが多いです。
小規模プロジェクトの場合は、1プロジェクトにPMOを配置するのではなく、複数の小規模プロジェクトを横断的に見る部門PMOのような位置づけで配置したほうが効果的な場合があります。
現場ニーズに合わないルール設定はプロジェクト進行を妨げる可能性がある
PMOはプロジェクトマネジメントに深く精通しています。PMBOKをはじめとするプロジェクト管理の体系をよく理解するがゆえに、理想的なルールやプロセスを導入・適用することがあります。
しかし、現場の状況やニーズを十分に理解しないまま、画一的なルールやプロセスを導入・適用しようとすると、かえって現場の負担が増加しプロジェクトの進行を妨げる可能性があります。
これによりメンバーの自由な動きを阻害して新しいアイデアが出にくくなったり不満が出たりする可能性もあります。
プロジェクトに入る際は、事前調査や現場のヒアリングなどで、雰囲気や求められていることを知っておくこと、参画後も定期的に状況を見直すことが大切です。
PMOに必要なスキル・知識
PMOにはプロジェクトやポジションに応じてさまざまなスキルや経験が求められます。前述した四つのスキルレベルも踏まえながら、解説していきます。
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書籍紹介
『DX時代の最強PMOになる方法』
著:甲州潤
▼こんなエンジニアはぜひお読みください。
・今の仕事に不満を持っていて、現状を変えたいと思っている
・給料をアップしたい
・エンジニアとしての将来が不安だ
・キャリアアップをしたいが、何をしたらいいかわからない
・PMOに興味がある
・PMOとして仕事をしたい
【目次】
第1章 一番稼げるIT人材は誰か
第2章 これからはPMOが1プロジェクトに1人必要
第3章 SEとPMOの仕事は何が違うか
第4章 稼ぐPMOになる7つのステップ
第5章 優秀なPMOとダメなPMOの見抜き方
第6章 PMOが最低限押さえておきたいシステム知識とスキル
第7章 システムは言われた通りに作ってはいけない
第8章 どんな時代でも生き残れる実力をつけよう
>>>詳細はこちら
文/甲州 潤