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ロボット研究の第一人者・石黒浩が示す、万博の意義「この時代に生まれた技術者の責務」とは?

ITニュース

ホットな技術トピックが、一夜にして古い情報に……。
ここ最近の、早すぎる技術革新に息を切らしているエンジニアも多いだろう。

そんな中、「毎日新しい技術に追いつくのに精一杯。そんな人にこそ、万博に来てほしい」と語ったのが、ロボット工学の第一人者である石黒浩さんだ。

石黒さん曰く、「一生懸命生きれば、あとは神様が何とかしてくれた時代」は終わり、強力なテクノロジーを手に入れた私たちは「これから先、人間がどう進化するのか。環境をどうしていくべきか、責任を持って未来を設計しなくてはならない」と語った。

インタビューで語られた、エンジニアが知っておくべき「万博の真の意味」「技術者としての責務」には多くの示唆がある。

プロフィール画像

2025年大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー
ロボット学者
石黒浩さん(@hiroshiishiguro

大阪大学大学院基礎工学研究科教授(大阪大学栄誉教授)、ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)、ムーンショット型研究開発制度プロジェクトマネージャー、 AVITA株式会社代表取締役社長。遠隔操作ロボット(アバター)や知能ロボットの研究に従事。人間酷似型ロボット(アンドロイド)研究の第一人者。2011年、大阪文化賞受賞。2015年、文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。2020年、立石賞受賞。2024年、市村学術賞功績賞受賞

万博を開催する意義

━━改めて、石黒さんが考える「万博の意義」をお聞きしたいです。

ロボット工学者_石黒浩さんが取材に答える様子

取材は、まだまだ批判や無関心ムードが強かった開幕前に、オンラインで行われた

かつての万博は科学技術で未来が豊かになると人々に希望を持たせるものでした。

例えば、50年前の大阪万博もそうでしたよね。リニアモーターカーの模型や、大きな携帯電話が展示されていて、それがその後、長い時間をかけて改良され、実生活で利用できるものになってきました。

万博は常に世界の技術開発を先導してきたのです。万博は技術開発のドライビングフォースだったのです。

ただ、最近は技術開発のスピードもどんどん速くなっています。特にAIやロボットの分野に関しては、この万博の期間中にもどんどん新しいものが出てくるでしょう。そういう時代だと、新しい技術に追いつくことだけで精一杯な人が多いと思います。

だからこそ、僕はこの万博へ来て未来を考える必要があると思うのです。

━━どういうことでしょうか。

50年前と今とで大きく変わったのは、われわれは強力なテクノロジーを手にしたことです。

例えば、遺伝子の技術で人間をデザインしたり、エネルギーや環境制御の技術で環境を守ったり破壊したりできるようになりました。われわれはすでにそういう人間や環境を制御できる技術を手に入れているのです。

つまり、その分、われわれは自分達で未来に責任を持たなければいけないのです。

もう現代は、テクノロジーを使って豊かになればいいという時代ではありません。「どんな未来を作るべきなのか」を一人ひとりが自分で考えなければならない時代です。われわれ自身で未来を設計しなければいけない。それが強力なテクノロジーの力を手に入れた人間の責任であり、それを「考える場」がこの大阪・関西万博です。

━━一人ひとりが欲しい未来、あるべき未来を考えるための場、ということですね。

少なくとも私はそんな思いで自分のパビリオンを準備してきました。自分たちは未来に向けてどういう風に進化していけばいいのか。どういうテクノロジーを作って、どういう世の中にすればいいのか。そんなことを考える場としてパビリオンを作らせてもらったつもりです。

開幕前のテストランから今日まで、実際にたくさんの人に体験してもらいました。ほとんどの方が未来の可能性をポジティブに受け止めてくれたと思います。パビリオンの中では50年後の未来の一つの可能性を展示しています。

それを見て「この技術はいいのか、悪いのか」「自分はこういう未来を作りたいのか、そうでないのか」など、いろいろと考えてもらえたはずです。

技術者こそビジョンが必要

大阪万博 石黒館 外観

━━石黒さんのパビリオンでは、「50年後の未来」を描いたとのこと。その未来予測をもとに、これからの50年をどう生きていくのか。自分ならどう考えるかと自問することが求められているわけですね。

そうです。ちなみに、「50年先の未来」と言っているのにも意味があります。100年先だと遠すぎて無責任になる。10年、20年では世の中を大きくは変えられない。でも50年先だと、自分たちの努力次第で変えられる可能性があります。

「こういう未来を作りたい」がしっかりとイメージできれば、これから先の50年で何をどうしていくか責任を持って考え、活動を続けることができます。エンジニアであれば、責任をもって新しい技術を生み出し、正しい方向に世の中を変えていく、正しい方向に人間を進化させていくことができるはずです。

技術は、良い方向にも悪い方向にも使えるものです。世の中をどうしていきたいかというビジョンのないままに、とにかく強力な技術だけ作ればいいという態度で技術と向き合ってしまったら、悪用されるような技術、悪用されやすい技術を作ってしまうかもしれません。

ですからエンジニアであればなおのこと、「どういう未来を作りたいのか」をちゃんと考えることが大切だと思います。

━━石黒さんはプロデューサーを引き受けるかギリギリまで悩んだと聞きました。

引き受けることにしたのは、「万博をなぜやらなければならないのか」という問いに対する、自分なりの理由を見つけたからです。それがすなわち「万博は未来について責任を持って考える場だ」というものです。

先ほども申し上げたように、万博は、単に新しい技術を見るための場ではなくて、「未来についてみんなで考える」場なんだと思います。

なぜみんなが集まらなければならないのか。なぜテクノロジーを展示しなければならないのか。それはみんなで議論して未来を創りたいからだと思います。

万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。未来社会を「デザイン」するのは、私たち一人ひとりなのです。

50年後の未来の暮らし

━━実際に体験するのが楽しみになりました。ですが、パビリオンを作る間にもこれだけAIなどの技術が進化していたわけですから、制作はさぞ大変だったのではないかと思います。

パビリオンのメイン展示では、50年後の未来の社会や暮らしを描いています。ここ数年の最先端技術の進展というより、もっと長いスパンでの技術の進化を捉えて、未来の生活における一つのシナリオを作っています。

シナリオの中には、共創企業と約3年に渡って議論し、考えた「未来のプロダクト」が散りばめられています。人間がアンドロイドと共存し、高度なテクノロジーを用いたさまざまなプロダクトを活用しながらいきいきと暮らす日々を、来館者はシナリオの中に入り込むことによって追体験できます。

ぜひ楽しんでもらい、未来について考えるきっかけにしていただきたいと思います。

文/鈴木陸夫 編集/玉城智子(編集部)

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