できるPMOは何が違う?
勝てるvs崩壊チーム「個人の力」を「組織の成果」へ。 数々のプロジェクトを支えてきた甲州潤氏が、PMOの視点から「勝てるチーム」の作り方を明かします。崩壊するチームとの比較を通じて、現場で求められる振る舞いや具体的なマネジメント手法を紹介。プロジェクトを成功へ導く、PMOの新常識をお届けします。
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できるPMOは何が違う?
勝てるvs崩壊チーム「個人の力」を「組織の成果」へ。 数々のプロジェクトを支えてきた甲州潤氏が、PMOの視点から「勝てるチーム」の作り方を明かします。崩壊するチームとの比較を通じて、現場で求められる振る舞いや具体的なマネジメント手法を紹介。プロジェクトを成功へ導く、PMOの新常識をお届けします。
「あのチームはいつも楽しそう。それに業務もスムーズで成果もしっかり出している」
「それに比べて、うちのチームは雰囲気も悪いし成果も出ない……なぜ?」
そんなふうに感じたことはありませんか?
これまで、PMO(Project Management Office)として数々のプロジェクトの現場を見てきた経験からお話しすると、こうした言わば「勝てるチーム」と「崩壊するチーム」は多くのプロジェクトに存在します。
なぜこのような違いが生まれるのか? その要因は、個人のスキルレベルではなく、チーム・組織が機能するための「前提条件」が整っているかどうか、に集約されていると感じます。
これから数回にわたり、その「前提条件」をPMOの視点で紐解いていこうと思います。ぜひ、ご自身のチームを思い返しながら読んでいただけたら幸いです。
今回取り上げるのは、成果をしっかり出せるチームの土台とも言える「心理的安全性」についてです。
チーム内において、自分の意見や疑問が否定されることがなく、安心して発言できる。簡単に言えば、これが心理的安全性の保たれた状態です。
心理的安全性が保たれていない「崩壊チーム」では、どのようなことが起こるのか。
そして、心理的安全性を保ち「勝てるチーム」へと変化させるには、PMOとしてどのようなことを意識すればよいのか。私が普段から実践している方法を交えながら紹介していきます。
株式会社office Root(オフィスルート)
代表取締役社長
甲州 潤(こうしゅうじゅん)
国立高専卒業後、ソフトウェア開発企業でSEとして一連の開発業務を経験し、フリーランスに転身。国内大手SI企業の大規模プロジェクトに多数参画し、優秀な人材がいても開発が失敗することに疑問を抱く。PMOとして活動を開始し、多数プロジェクトを成功へ導く。企業との協業も増加し、2020年に法人化。さまざまな企業課題と向き合う日々。著書『DX時代の最強PMOになる方法』(ビジネス教育出版社)
目次
「心理的安全性が低い」チームというと、例えば、誰の発言に対しても反応がない「沈黙の多い会議をしがち」といったイメージがあるかもしれません。
しかし、実際はそうした誰の目にも明らかな兆候があるケースだけではないのです。議論が活発に行われているように見えても、内側から機能不全を起こしているケースは数多く存在します。以下に、二つの事例を紹介しましょう。
「プロジェクトは順調?」というリーダーからの問いかけに対し、メンバーが「予定通り終わります、大丈夫です」と答えるものの、その根拠や詳細な説明がないため、話が発展しない。こうしたチームは心理的安全性が低い可能性があります。
心理的安全性が低いチームのメンバーは、「余計なことを言ったら、別の仕事が降ってくるのではないか」「揚げ足を取られて詰められるのではないか」と考えています。
結果として、最低限の義務を果たすことがミッションとなり、それ以上の情報開示や提言はリスクとみなし、「聞かれたことだけに答える」という受け身のコミュニケーションに終始するようになるのです。
一見、活発に見える議論も、単なる意見のぶつけ合いや形式的なやり取りばかりで「本質的な対話」になっていなければ、それは心理的安全性が低くなっている現れです。
例えば、以下のような会話が典型的です。
納品日を一週間ずらしてほしいです。
どうしたいの?
作業が遅れているので。
分かった…でも、最終期限の12月末には間に合うの?
間に合うよう調整しています。
この場合、形式的には会話が成り立っていますが、納期をずらす具体的な背景や理由が一切語られていないため、リーダーや関係各所のチームメンバーにとっては腑に落ちません。こうした状況から、「正直に理由を話せないチーム環境」が透けて見えてきます。
二つの例に共通しているのは「情報がチーム内で適切に循環していない」状態であり、メンバーが個人的な情報だけをベースに行動していることです。本質的な対話が交わされず、形式的なやり取りだけが積み重なると、チーム内の心理的安全性はさらに崩壊していくのです。
前述した情報不全が起こる原因は、私の経験上、以下のように「プロジェクトの始め方」に加えて「チームメンバーの意識」に起因することが多い印象です。
プロジェクト立ち上げ当初から、チーム内に「余計な情報は不要」という空気が存在する場合、当たり前ですが、メンバーは情報を積極的に開示する気になりません。これは、新しい環境で「失敗したくない」「責任を負いたくない」という人間の自然な自己防衛本能からくるものです。
ですが、この最初の空気感がメンバー間に見えない壁を作り、情報の循環を妨げるようになります。その壁は一度できると厚くなりやすく、やがてメンバーは「最低限の義務を果たすこと」だけをプロジェクトのミッションだと理解していくでしょう。
これは先の原因1からくる連鎖反応とも言えますが、メンバーが自分のタスク達成にのみ集中し、「他のメンバーやチーム全体がどうなっているか」という視点が欠落している状況です。この状況に陥ると、形式的な進捗報告はあっても、本質的な課題(例えば、自分の遅れが他のチームに与える影響など)についての会話は起こりません。
最終的には自分のタスクがプロジェクト全体にどう影響するか、他のタスクとどう関連するかという「連帯意識」が圧倒的に低くなります。
チームの心理的安全性を構築するため、PMOができること。それはメンバーが「こんなことを言ってもいいんだ」「発言は歓迎されるんだ」と感じ、心を開けるようにチーム内のコミュニケーションそのものをデザインすることです。
ここからは、私が実際にPMOとして意識して取り組んでいることを紹介していきます。
私は、プロジェクトに参加する際に必ず行なっていることがあります。それは、自己紹介時に私自身のコミュニケーションスタンスを明確に開示することです。具体的には、以下のような内容を伝えるようにしています。
・オープンマインドで、本質的な情報交換を重要視して対話する
・本質的な情報とは、プロジェクトを円滑に進めるために必要な情報のこと
・気になることや話しづらいことがあれば、直接の会話やDMもウェルカム!
こうしたスタンスを明言することで、表面的な会話に終始していたチームの会話の質が劇的に変わったという経験もしました。
PMO自らが情報をどんどん開示し、オープンに関わっていくことで、チーム内の心理的安全性を保つ土台が作られると実感しています。
どんなプロジェクトでも、進行の過程ではメンバーから不満が生まれるもの。そんなとき、PMOである私自身がまず「不満の受け皿」となるようにしています。これは、「不満を言っても大丈夫」という心理的安全性を高めるのにとても効果的です。
具体的には、会議の場でメンバーからネガティブな発言が出た際、その発言へ私自身が介入し、以下のように具体的な不満ポイントを掘り下げるようにしています。
・不満を感じているのは誰(どのチーム)なのか
・不満を起こしている具体的なポイントはどこか
・なぜそのポイントに対して不満が生じるのか
「誰が・どこに・なぜ」という点をチームメンバー全員の前で分析し、どうすればこの不満を解決できそうか、関係する他のメンバーにも問いかけながら解決策を探ります。つまり、プロセスをオープンに展開するわけです。
すると「え、そんなことで不満だったんですか? この方法ですぐ対処できますよ」「これくらいであれば、どんどん言ってくださいね」といった声が他のメンバーから上がり、個人に重くのしかかっていた不満がものの数分で解決する、ということも実はよくあります。
さらには、不満の介入・分析プロセスを繰り返しオープンに行うことで、メンバーは問題解決の流れを理解し、やがてPMOの私を介さずにメンバー間で分析→解決というコミュニケーションが取れるようになるのです。
ここまでくると、心理的安全性が高いチームになっていると言えるでしょう。
PMOの介入によって土壌ができた後、次に意識したいのは、メンバーが自律的に本質的な会話ができるようになる具体的な「会話の型」です。
多くの人が議論の場で発言をためらうのは、何を、どの順番で話せばいいか分からないからだと思います。
私は自分の発言を意識的にパターン化し、チームメンバーに「話の型」を伝えることを意識しています。
発言のフレームワークは、以下の通りです。
1.事実・現象:起こっている事実や現象を、定量的・定性的な情報を含んだ結果として伝える。
2.背景・原因:その事実が起こった背景・原因を説明する。
3.考え・予想:最後に自分の意見や、これから先に起こりうる事象の予想を述べる。
なぜこの順番なのか?
その理由は、人間は頭を使う順番が自然な流れになると話しやすくなると言われているからです。
「事実・現象」はただ起こったことを説明すればいいため、頭を使わなくて済みます。次に「背景・原因」を説明し、最も頭を使う「考え・予想」を最後にすることで、意見がまとまりやすくなり、発言への心理的なハードルを下げることができるのです。
上記フレームワークを利用した発言の簡単な例として、雨の日に傘を持参したことについて発言する場面をイメージしてみてください。
1.今日は傘を持ってきた(事実) 雨が降っていたから(背景・原因)
2.濡れずに済んだので、傘を持ってきて良かった。
3.傘を持ってきていなかった他の同僚は濡れていて、風邪をひかないかと心配になった(考え・予想)
ここで、冒頭で紹介した「本質的な情報」が抜け落ちていた形式的な会話を振り返ってみましょう。発言のフレームワークが定着している場合、メンバーの発言は以下のようになるはずです。
メンバー:
1.作業が遅れているので、納品日を一週間ずらしてほしいです(事実・現象)。
2.思っていたよりもタスクが複雑で、全体像を理解するまでに時間がかかってしまいました(背景)。
3.最終期限の12月末までには間に合いますが、納期を一週間遅らせることで、他のチームにかかる負担はありますか?(考え・予想)
この発言であれば、関係者同士でリスケジュールを行なった際の具体的な進め方について話し合うことができますし、リーダーはどの部分の理解が難しかったのか、問題点の改善に努めることもできます。
発言のフレームワーク化は、オープンかつ本質的な会話を交わすために非常に効果的です。
質問をする際にも、心理的安全性を構築できる型があります。
「どう思ってますか?」といった抽象的な質問は、回答のハードルが高く、発言を躊躇させてしまいます。例えば、以下のような質問です。
・NG例:このタスクについて、ご意見ありますか?
代わりに、二者択一式(イエス・ノー)で答えられる質問を意識的に投げかけると会話が発展しやすくなります。
・OK例:私の考えはAですが、Bという考えも合っているか合っていないかで言ったら、どちらよりですか?
・OK例:完全に丸ではないと思いますが、この進め方は「マル」と「バツ」で言ったら、どっちよりですか?
このように、相手が答えやすくなる質問を意識することで、対話を促進し、本質からずれることなく議論を深めることができるようになります。
PMOは、これまで紹介してきたような、
・コミュニケーションスタンスの明確化
・問題の解決プロセスをオープンに行う
・発言のフレームワーク化
・二者択一式の質問を意識
といった方法で、心理的安全性の高いコミュニケーション環境をデザインできます。
しかしながら、結局は「人と人との関わり合い」。
人間ですから、どうしても馬が合わないメンバーはいるでしょう。また、PMOの心理的安全性構築に対する熱意を重苦しく感じるメンバーもいると思います。
そんなとき、必ずしも全ての人と仲良くなる必要はありません。
PMOは、「プロジェクトの推進」という本質的な目的に焦点を当て、ときには「仕事が遂行すれば問題ない」とドライに気持ちを切り替える必要がある場面も出てきます。
また、メンバーから極端に感情的な反応があり、ビジネス上の理由では説明がつかない場合は、個人的に話す場(プライベートな話を含んで)を設けることも、一つの手です。
心理的安全性が高いチームとは、ただ「仲が良い」「居心地の良い」チームではありません。言うなれば、「必要な情報が必要なときに出てくるチーム」なのです。
チームにおける問題や違和感が早く言葉にされて明らかになれば、プロジェクトの失敗を未然に防ぐことにつながります。判断がスピーディーになり、プロジェクトの円滑化にも寄与します。
もし、ご自身のチームで心理的安全性に不安がある場合、今回紹介した考え方やテクニックを参考にしつつ、チームの状況やメンバーの性格なども考えながら柔軟に調整していきましょう。
『DX時代の最強PMOになる方法』
著:甲州潤
▼こんなエンジニアはぜひお読みください。
・今の仕事に不満を持っていて、現状を変えたいと思っている
・給料をアップしたい
・エンジニアとしての将来が不安だ
・キャリアアップをしたいが、何をしたらいいかわからない
・PMOに興味がある
・PMOとして仕事をしたい
【目次】
第1章 一番稼げるIT人材は誰か
第2章 これからはPMOが1プロジェクトに1人必要
第3章 SEとPMOの仕事は何が違うか
第4章 稼ぐPMOになる7つのステップ
第5章 優秀なPMOとダメなPMOの見抜き方
第6章 PMOが最低限押さえておきたいシステム知識とスキル
第7章 システムは言われた通りに作ってはいけない
第8章 どんな時代でも生き残れる実力をつけよう
>>>詳細はこちら
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