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【佐渡島庸平】「キャリアは自分で決めない方がいい」AI時代、“意思決定を手放す”という選択

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最前線でコードを書き、価値を創造してきたエンジニアであればあるほど「身に付けてきた技術は無価値なのか」「これから何に情熱を注げばいいのか」という虚無感を抱えているのではないだろうか。

情熱の行き場を失い、自力でキャリアをコントロールすることすら困難に思えるこのAI時代、私たちはどのようにして仕事への熱量を取り戻せばいいのか。

そんな問いに『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』(ともに講談社)など数々のヒット作を世に送り出してきた編集者であり、クリエイターのエージェント会社であるコルクを運営する佐渡島 庸平さんは、一見矛盾するような解を提示する。

それは、自らの意志やこだわりに執着するのをあえてやめることだ。

現代のエンジニアが直面する情熱の危機を乗り越え、自身のプロフェッショナリズムを極限まで引き出すための思考法を佐渡島さんの言葉から探ろう。

プロフィール画像

株式会社コルク
代表取締役社長CEO
佐渡島 庸平さん(@sadycork

東京大学文学部を卒業後、講談社に入社し、『モーニング』編集部で井上雄彦『バガボンド』、安野モヨコ『さくらん』のサブ担当を務める。2003年に三田紀房『ドラゴン桜』を立ち上げ。小山宙哉『宇宙兄弟』もTVアニメ化、映画実写化を実現。伊坂幸太郎『モダンタイムス』、平野啓一郎『空白を満たしなさい』など小説も担当。12年10月、講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社・コルクを創業

「情熱」は主体的に持つものではない

「Passion」という言葉に「情熱」以外の意味があることを知っていますか? 実は、「受難」という意味も持っているんです。つまり、受け取った課題がやる気の湧くものであれば情熱になるけれど、あまりにも険しいと受難になるわけですね。

人は「情熱を持つ」ことを能動的な行為だと思いがちだけど、実際には自分の内側から湧き上がってくるものじゃない。人との出会い、置かれた環境など、さまざまな外的要因が重なった結果、自分の能動性は引き出されます。

つまり、情熱は周りのおかげ。自分自身のコントロールさえ難しいということです。だから、僕はもう何かをコントロールできると考えるのはやめにしました。

取材に応じる株式会社コルクの代表取締役社長CEO・佐渡島庸平さん

実は、今日(2026年7月22日)は『宇宙兄弟』(講談社)の最終巻の発売日です。僕にとって『宇宙兄弟』は、情熱的に取り組んだ作品だと思っていましたし、その情熱は僕の意思であり、努力の結果だと思っていました。ですが今思えば、小山宙哉先生や講談社の皆さん、当時の先輩、そして読者の方々の力があって、僕は情熱を持てたんだと分かります。

若い頃からいろいろと取材を受けたけど、「こうやって頑張ったおかげだ」なんていうのは自分の勘違いでしかないんですよね。そんな勘違いをしつつも、みんなが真実だと信じられるような成功を手にした幸運な人が登場するのがメディアだから(笑)

こういうことに気付けるようになったのは、歳をとった証拠かもしれませんね。とはいえ、今だってまだ見えていないものがあるだろうし、「僕も変わったな」なんて感覚でさえ思いこみにすぎないんだろうなと思います。

意思決定を手放すと、予想外の道が開ける

もし「自分には情熱がない」と感じている人がいるのだとしたら、それは今いる場所が情熱を持てる環境ではないから、という可能性もあります。そう考えると、自分の進む道を己の価値観だけで選ぶこと自体、本当に正しいのか怪しく思えてきませんか? 何でもかんでも自分で選んでいると、どんどん思考がタコつぼ化してしまう。だから、いっそのこと意思決定を手放してみるのも一つの手です。

例えば食事に行ったとき、自分で決めるといつも同じメニューを頼んでしまいがちですよね。人は、つい自分が好きなものや得意なもの、安心できるものばかり選んでしまいますから。でも、「今日はあなたが選んで」と友達にメニューを渡すと、自分では絶対に注文しないような料理に出会えるじゃないですか。

笑顔で取材に応じる株式会社コルクの代表取締役社長CEO・佐渡島庸平さん

これは、仕事やキャリア選択においても同じことが言えると思うんです。たまには、判断を他者に委ねてみる。そうすると、思ってもみなかった場所に行けたり、意外なチャンスをつかめたりするものです。自分の軸さえしっかりあれば、あえて周りに流されてみるのもキャリアを広げていくきっかけになるかもしれませんよ。

AIは未知の世界の水先案内人

AIが発達し、よりスピーディーに正解を得られるようになった今こそ、自分の価値観では選ばない選択ができるかどうかが、その後のキャリアを大きく変えます。なぜなら、人は自分が知っていることや想像できることの範囲でしか、AIに問い掛けられないから。そうなると、AIが出してくれる回答も、自分の知識や関心の範囲内に縛られてしまいます。

だから僕は、AIは答えを教えてくれる存在ではなく、未知の世界に一歩足を踏み入れるための「水先案内人」だと捉えているんです。うまく質問すれば、まだ見ぬ世界へと連れていってくれます。

とはいえ、使う本人の見聞が狭ければ、いくらAIの力を借りても得られる知識や情報は限られているのも事実です。だから、会ったことのないような人と出会ったり、話を聞いたりして、未知の世界との接点を増やすことが必要だと思います。

専門領域のプロ中のプロは、AIを味方につける

一方で、すでに一定の知見を持っている領域でAIを味方につけることで、過去のどんなプロフェッショナルにでも勝てる成果が出せるようになるでしょう。

僕は長く編集者として活動してきましたが、既存の編集者が担ってきた行為のほとんどは、もうAIで十分だなと感じています。実際、原稿に対してAIに意見を出してもらって、それをもとに考えを深めていく……という過程を踏むと、より良いフィードバックができますしね。ただ、これは僕に編集者としての基礎があるからです。

取材に応じる株式会社コルクの代表取締役社長CEO・佐渡島庸平さん

AIは既存の情報から物事を組み立てるので、突飛なアドバイスはくれません。でも、プロがAIを使えば、アウトプットの質をぐっと引き上げることができます。

つまり、AIは仕事を代替するものではなく、プロの力を最大限以上に発揮させてくれるもの。将棋や囲碁も、練習にAIが取り入れられるようになったことで、アマチュアの方がどんどん強くなっていますよね。でも、プロの方が何倍も強くなり続けているから、今後もトップオブトップは更新されていくと思います。

それなりのものなら誰でも作れるし、AIに任せきりにできるようになりました。自分の領域でのトッププレーヤーであるために、AIと手を組んでいきましょう。

取材/横川良明 文/横川良明・秋元 祐香里(編集部) 撮影/竹井俊晴 

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