メディアアーティスト
落合陽一さん(@ochyai)
1987年生まれ、2010年ごろより作家活動を始める。境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開。筑波大学教授、東京大学准教授。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサーを務めた
NEW! スキル
2026年、ほとんどの知的作業はAIに置き換わるーーかつて彼が放った予言は、いまや恐ろしいほどの精度で現実のものとなった。
計算機と自然が融合する未来「デジタルネイチャー」を提唱し、時代の最前線を走り続けるメディアアーティスト・落合陽一さん。デジタルと自然の融合に取り組み続けてきた落合さんは、AIがもたらす恩恵と残酷な現実をその目で見てきた。
生成AIの民主化が進み、AIエージェントが自律的にタスクをこなしていく今、何度目とも知れない「人間に残される価値」という問いが私たちには突きつけられている。
今回、落合さんが示したのは、かつてエンジニアの武器とされていた「ロジカルさ」を脱ぎ捨てた先にある、新たな武器の存在だった。
メディアアーティスト
落合陽一さん(@ochyai)
1987年生まれ、2010年ごろより作家活動を始める。境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開。筑波大学教授、東京大学准教授。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサーを務めた
2年前にも取材を受けましたが、その時僕は「2026年にはほとんどの知的作業がAIに置き換わるだろう」と予測しました。ホワイトカラー、特にエンジニアリングにまつわる仕事に関して言えば、概ね間違っていなかったという実感です。想像できる未来は全て起こったし、起こると言ってもいいほどではないでしょうか。
もちろん、人間の手やハードウエアが必要な場面は少なくありませんが、メールの返信やSlackでのやり取り、コーディングや表計算、CADによる設計、映像編集、原稿執筆など、コンピュータを使う作業は、ほぼ全てAIがやってくれるようになりました。
現在、大阪・関西万博でプロデュースしたシグネチャーパビリオン『null²(ヌルヌル)』を、常設ミュージアムシアター『null²ⁿ(ヌルヌルネクサス)』として公開する準備を進めているのですが、その予約システムは僕を含む二人で開発したんです。以前なら1000万円くらいかけて業者に発注していたところ、約3万円程度で作れてしまいました。劇的に安く、スピードも速い。AIを使うことによって、僕の生産性は150倍くらいになったと言っても過言ではありません。
今日も300~400ページある新刊の校正作業を瞬く間に終わらせてくれましたし、こうして取材を受けている裏でも新しい3D映像作品のプログラムを書き進めてくれています。毎日、AIエージェントを50体くらい同時に走らせながらタスクをこなしているので、もはやAIなくして仕事は成り立たないと思うほどですね。
この先さらに大きな変化を引き起こしそうなのが、「自動研究」の領域です。特にコンピュータサイエンスにまつわる研究が自動化されれば、新しいLLMが誕生するスピードも一気に上がるでしょう。
ですが、優秀なモデルが安く出回るほど、僕らの生活は便利になる反面、AIに代替される仕事はますます増えます。今まで見過ごされていた未知の問題もどんどん増えることになるはずです。
こうした状況においても、最終的なジャッジは人間に残された大事な仕事だと言われています。ただ、いつまで人間のジャッジが必要なのかは正直疑問です。
「ハルシネーションが怖いから、最後は人が見てチェックすべき」とはよく言われますし、今は僕もそう思うのですが、人間が確認すべき範囲は年々小さくなってきています。サイバーセキュリティーのような間違いや対応漏れが許されない領域では、人間よりAIに任せる方が確実とされる日も近いかもしれません。
AIの進化に関連して、僕はある種の残酷さを感じています。それは、これほどまでにAIが普及しても、質の高いものを作れる人がそれほど増えていないという現実です。
歌声合成技術である「VOCALOID(ボーカロイド)」が生まれた時は、ハイクオリティーな楽曲を作るクリエイターがどんどん出てきました。Photoshopがリリースされた時も、PCを使って音楽制作を行うDTM(デスクトップミュージック)が普及した時も、高品質な作品が多く生み出されたはずです。
ですが今回の生成AIでは、同じような現象があまり起きていないように思えます。デザインや動画など、誰でもそれなりのものが手軽に作れるようになった結果、作り手となる人の数は多少増えたかもしれません。ただ、簡単にものが作れるようになることと、質の高い作品に仕上げることの間には、大きな溝があるということでしょう。
こうした状況を受けて、僕が最も大事だと思っているスキルは、ロジカルシンキングでも、未来を見通す力でもありません。根拠が不確かな「直感」と、それに基づく「行動」です。
今やロジカルシンキングはAIが得意とする最たる分野。だとするなら、人間がやるべきは、筋道を立てて未来を予測することではなく、直感に従って行動を起こし、興味がある領域に飛び込むことではないでしょうか。直感ですらAIに投げれば、ロジカルに組み立て直してくれる便利な時代ですからね。
今後、どの業界でもベテラン層とジュニア層の二極化が進みます。経験を持つ人はAIを使って何十倍、何百倍もの仕事をこなせるようになりますが、若者が経験を培う機会はどんどん失われていくでしょう。それは、新人を育てるより、AIにタスクを割り当てた方が確実に成果が上がるからです。そう考えると、なおさら若手は直感と行動を意識してほしいですね。
僕は、不安や葛藤を原動力に創作活動をしたことはありませんし、作りたいもの、生み出したいものが他者の意見で左右されることもない。周囲の評判や炎上によって萎縮した経験もありません。モチベーションになっているのは、いつだって「見たことがないものが見たい」という好奇心です。
ですが、不安や葛藤を抱える人の気持ちは理解できます。この先どんな選択をすべきか分からず、暗い気持ちになってしまう人も多いでしょう。
できることがあるとしたら、思い切った場所に飛び込む勇気を持つことです。興味が持てる領域なら何でも構いません。そして、知識だけ得て満足するのではなく、そこで使える道具を実際に作ってみてください。遊びで作ったお試しツールではなく、仕事で使えるレベルの「本物」を目指しましょう。
挑戦した人が全員成功するわけではありませんが、成功も失敗も、結局は確率の問題です。挑戦しなければ成功の可能性すら手にできないのだとしたら、やった方がいいじゃないですか。
どれだけ能力があっても不安は残るでしょうし、判断に迷う場面があって当然です。だからといって立ちすくんだり、頭を抱えていたりするだけでは、何も始まりません。
遠い未来の正解探しに右往左往するのはやめて、自分の直感を信じて手を動かしてみる。当たり前の話に聞こえるかもしれませんが、この予測不能な時代を面白がりながら生き抜くための、一番確かなやり方だと僕は思っています。
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影(2026年3月)/桑原美樹
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