佐藤可士和「こと・ものじゃなくて“意味”づくりがしたい」常識の外にいる「なんで君」がイノベーションを起こせる理由
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AIの進化によって、知識や論理的思考、果てはコードの生成までが瞬時に代替される時代が到来した。プロダクトの仕様通りに技術を磨き、正解を提示するだけでは、エンジニアとしての価値を担保し続けることが困難になりつつある。
これからのAI時代、人間にしか生み出せない本当の価値とは何か――
もはや堂々巡りにも思えるこの問いに今回応えてくれたのが、日本を代表するクリエイティブディレクター・佐藤 可士和さん。ユニクロや楽天など、数々のグローバル企業に圧倒的なイノベーションをもたらしてきた佐藤さんの専門領域である「デザイン」も、AIに侵食されつつある領域の一つだ。
佐藤さんは取材を通じて、AIに決して代替されない二つの要素と、それを磨く術を明かしてくれた。
クリエイティブディレクター
佐藤 可士和さん
1965年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、博報堂に入社。2000年に独立し、SAMURAIを設立。ユニクロ、楽天、セブンイレブンなど日本を代表する企業のブランディングを多数手掛ける。『佐藤可士和の超整理術』など著書多数
「整理」こそがクリエイティブ
「クリエイティブ」と聞くと、世の中の人は「見た目が美しく華やかなもの」だと思うかもしれません。けれど、僕にとってのクリエイティブは問題解決のための「力」です。
クライアントが何をしたいのか、根源的な欲望を引き出し、その実現の障壁となっている課題問題を整理して、課題解決のための道筋を考え実行する。中でも「整理」こそがクリエイティブの本質だと考えています。
無数に散らばった情報を、ある一つのコンセプトにそってプライオリティーを決め、整理して組み立てていく。これが、僕が思うクリエイティブです。そこにある情報が同じでも、整理の仕方によってまったく異なるものが生まれ、まだ世の中にない新しい意味がもたらされます。
整理をする上ではコンセプトを定めることが重要ですが、この点において、人間にしかできない視点を持つことが重要です。AIは既存のデータの中から学習し、その組み合わせをもとにコンセプトを設計します。ですが、AIにはまだどうやっても学習できないデータがあります。それが、身体知です。
身体知とは、自分の身体全てで感じられ得る感覚のことを指します。それらは容易にデータ化や言語化ができるものではなく、身体を持たないAIには決して習得できない情報です。この身体知こそが、AI時代に僕たち人間が戦っていくべき領域ではないでしょうか。
「目で見て、頭で考えるだけではなく、体全体で感じることが身体知。生命は脳や心臓よりも先に『腸』からできたという説がある通り、腹落ちする、腹の虫、腑に落ちる……など、腹に関する言葉がたくさんありますよね。なので、脳ではなく腸で考えるといいのかもしれません。ちなみにこれはAIに教えてもらいました(笑)」
こうした身体知は個人的な直感と見なされ、ビジネスの世界においては信頼性を獲得することが難しかった。企業の明日を直感に託すことはできませんからね。そのため、多くのビジネスパーソンは、ロジカルシンキングと言語化力を鍛えてきました。ですが、むしろこれからは左脳型の解決能力より、右脳型の閃きこそがAIには到達できないコンセプトを生み出す力として求められてくるのではないでしょうか。
大事なのは“こと”にとらわれない姿勢
もうひとつ、AIが持たないものがあります。「どうしたいか」という欲望です。プロンプトが与えられて、はじめてAIはアウトプットを行える。指示を出すのは人間の役目であり、そこには人間の欲望がある。つまり、欲望こそが物事を生み出す原動力なのです。
よくクライアントから「どうしたらいいですか」と聞かれるのですが、僕は「どうすればいいかではなく、どうしたいかが重要です」と答えます。正解らしきものは世の中にごまんとありますが、「どうしたいか」がないと本物の正解にはたどり着けませんから。
これまでは、「何をするか(TO DO)」を考えて実行する力が求められてきましたが、これから先、そのフェーズにとらわれているとAIへの代替を余儀なくされます。人間はより「自分の意志でどうしたいか(WILL)」の部分に特化していかなければいけないのです。
とはいえ、自分が本当に何をやりたいのかをはっきり言える人はそう多くありません。まだ「どうしたい」が見つからない人は、とことん自分の内面と向き合ってください。
「先ほど『クリエイティブとは整理することで、そのためにはコンセプトという軸が重要』とお話ししましたが、このコンセプトを決めるときにも『どうしたいか』という欲望を突き詰めていく作業が役立ちます」
大事なのは、「したい“こと”」を考えるのではなく、「どんな感覚が自分が最も好きなのか」に目を向けることです。
例えば、「サッカーがしたい」と思っているとします。けれど、サッカーという「こと」にとらわれていると、そこから先に広がっていきません。試合に勝つのが好きなのか。コツコツと練習をしている時間が好きなのか、チームで何かを成し遂げることが好きなのか。細分化することで、自分の本当の欲望が分かってくるのだと思います。
エンジニアであっても同じように、「スキルを磨きたい」だけでは、なかなかゴールが見えません。スキルを磨いた先で、自分がやりたいことは何なのか。欲望の根源を知ることが、AI時代を生き抜くためには欠かせないと思います。
新しい意味が生まれた先でイノベーションが起きる
僕の欲望は、「新しい意味」を創ることです。例えば、僕は20年にわたってユニクロのクリエイティブディレクターを務めさせていただいています。ニューヨークのグローバル旗艦店のクリエイティブディレクションから始まって、ロゴの刷新などリブランディング全般をプロデュースしてきました。中でも忘れられないのが「LifeWear」というブランドコンセプトの策定です。
当時、ユニクロはすでに多くの人が知るブランドでした。一方で、ユニクロが目指しているものは何なのか、そのコアとなるものがまだ明確に言語化されていなかったんです。
そんな中、創業者の柳井(正)さんとの対話の中で生まれた新しい概念が「LifeWear」。つまり、究極の普段着です。この「LifeWear」というコンセプトをもとに商品から店舗、広告やWebのデザインまで新たに構築していったコンセプトの先に現在のユニクロがあります。
新しい「こと」や「もの」も面白いけど、「意味」の方が深いレイヤーで世の中の価値観を変えられますよね。それを僕たちはイノベーションと呼んでいるのでしょう。
常識の中にいると、新しい意味は設計できない
新しい意味を生み出すためには、前提を疑うことが必要です。僕は小さい頃から「なんで勉強しなければいけないの?」「なんで給食を食べなければいけないの?」といちいち当たり前のことに疑問を持つ「なんで君」でした(笑)。でも、その「なんでくん」の性格が、新しいクリエイティブを生み出す上では非常に重要だったんです。
新しい意味を生み出せないのは、既存の意味の内側から物事を見ているからです。大事なのは、“外”から見ること。ちょっと引いた視点から眺めるだけで、景色はガラッと変わります。
特に近年はSNSのアルゴリズムによって自分と同じ意見や価値観を持った人の声ばかり目に触れるようになっています。そんなエコーチェンバーの中にいたら、どんどん自分の考えていることが正しくて当たり前のように思い込んでしまう。思考が固まることを防ぐためにも、常識とされていることの外から物事を見て、前提を疑う意識が非常に重要です。
取材・文/横川良明 撮影/桑原美樹
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