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「頭脳だけで正解を探したら、AIに大敗する」川邊健太郎が旅と“ヒュー!”に見いだすもの

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30年、ネット業界の最前線を走ってきた人は、AI時代にはもう「古い人」なのだろうか。

たぶん、違う。

前LINEヤフー代表の川邊 健太郎さんは今、巨大組織を率いる立場を離れ、AIと自分だけで事業をつくる「AIソロプレナー」として、旅に出ている。

目的は、「次にBetするテーマ」を探すこと。

「もう小手先のアイデアじゃ、ビジネスは生み出せないからね」

次に何をつくるのか。その答えは、川邊さん自身にもまだないという。

それでも面白いのは、30年間ネット産業のど真ん中を走ってきた人が、最先端のAIを使った先で、「頭脳」ではなく、身体や五感、喜怒哀楽の話をしていることだ。

過去の成功体験に答えを求めるのではなく、AIによって前提が変わった世界を、またゼロから見ようとしている。だから、この人はまだ「古い人」にならないのかもしれない。

では、川邊さんは今、何を見ているのか。

その視線を追っていくと、AI時代に人間が持つべき「武器」が少しずつ見えてきた。

プロフィール画像

前LINEヤフー代表取締役会長
川邊 健太郎さん(@dennotai

1974年生まれ。青山学院大学在学中の95年に起業。2000年、ヤフー株式会社に入社し、18年に代表取締役社長CEOに就任。23年よりLINEヤフー株式会社代表取締役会長を務める。26年6月の退任後は、AIソロプレナーとして新たな挑戦を開始。著書に『7つの激変  いかがわしい者たちが主役の「インターネット産業」30年史』(東洋経済新報社)がある

「身近な課題」だけじゃ、もうビジネスにならない?

――川邊さんは最近、「AIは究極の指示待ち」だとよくお話しされていますよね。AIがこれだけ賢くなっても、結局は“指示待ち”なんですか?

そう。AIは究極の「指示待ち」なんですよね。

一方で、指示待ちな人も多いじゃないですか。指示待ち人間と指示待ちAIじゃ、何も始まらないんです。

AIの方は指示待ちしかないので、人間が「これやろうぜ」と指示を出せるようにならなきゃダメですよね。

眼鏡をかけ、紺色のスーツに身を包んだ前LINEヤフー代表取締役会長の川邊健太郎氏が、真剣な表情で前方を見据えるポートレート。記事本文では、AIがどれだけ進化しても究極の「指示待ち」であり、人間の能動的な指示がなければビジネスは始まらないと主張するセクションに配置されている

――AIへの「指示の出し方がうまい人になれ」という話とも、少し違いますよね。

そうですね。AIを使えば分かりますよ。やりたいことがないと、プロンプトの最初が出せないですよね。

AIって、とにかくやりたいことをどんどん実行していってくれる技術です。だから使えば使うほど、「したいことがないと意味がない技術だな」と思います。

簡単な課題だったら、あっという間に解決しちゃいますしね。

――そこは面白いところですね。AIで「できること」が増えるほど、「何をやるか」の方が難しくなる。

特に「ビジネスにするならば」ということです。

自分の生活を便利にするために、よくありがちな課題をAIで解決するのは、当たり前のようにやっていった方がいいと思います。AIを使い慣れる上でも。

でも、それをビジネスにしていこうとすると、ちょっとやそっとの課題なんて、お金を取って提供するまでもなくなる。

自分でAIに「これ解決しよう」と言えば、やってくれちゃう時代になりますから。

――これまでは、「自分が困っていること」はビジネスの種になり得ましたよね。

そうなんですよ。今までは身近なペインを解決して、「他にも同じような悩みを持っている人がいるだろうから、サービスとして提供できますね」とか、「データが集まれば、より性能が良くなりますね」とか、そういうことでサービスが作れたり、発展していったりしたわけです。

でも今は、自分たちのペインを個別にAIに発注して、解決できるようになってきていますよね。

この数カ月AIを使って、「身近な課題じゃ金にならないんだろうな」と僕もよく分かったんです。

――ネット黎明期から30年、数々のサービスや事業をつくってきた川邊さんでも、「じゃあ次は何をやる?」は簡単には見つからないんですね。

それはそうですよ。ただ、AIと自分だけで何か事業を作ることはできるだろうなとは思っています。それで売上を発生させて、黒字化させたい。

でも、誰かからお金を取ってビジネスにするには、もうちょっといろいろ考えないといけないでしょうね。

「何を作る?」を探すため、僕は旅に出た

――それで今、「テーマを探すために旅に出ている」んですね。

そういう側面がありますね。

身近なことや趣味のことなら、やりたいことはいくらでもあるんですよ。それを日々、その日暮らし的にAIに言って解決してもらっています。

でも、ビジネスとしてやるなら、もっと大きめの課題じゃないとなかなか難しいんじゃないかという感じはしています。

だから、そのテーマを探しているところです。

――「AIソロプレナーになる」と聞くと、何を作るかまで決めて独立したのかと思ってしまいます。

いや、全然(笑)。AIソロプレナーになったばかりですから、この時代の生き抜き方が分かっているわけでもないですよ。

AIと自分だけで何か事業を作ることはできるだろうなと思ったので、それで「じゃあ、やってみようか」という感じですね。

――一人でやること自体にも、これまでとは違う面白さを感じていますか?

ありますね。

僕はネット企業の経営を30年やってきました。簡単に言えば、デジタル化された情報を集約して、何かをマッチングするようなサービスをソフトウェア的に作って提供してきたわけですよね。

そういったサービスはエンジニアが作ってきた。

だから、「いかに優秀なエンジニアを雇って、それをマネジメントして、その人たちの才能と情熱を解き放っていいサービスを作る」ということでやってきたわけです。

それはそれで楽しかったですけど、人が多くなればなるほど、当然マネジメントは大変になります。

でも、それしか手段がなかったんですよね。

眼鏡をかけた前LINEヤフー代表取締役会長の川邊健太郎氏が、思考を巡らせるような強い視線で上を見つめる接写ポートレート。30年間のネット企業経営を通じて「組織やエンジニアのマネジメントが不可欠だった時代」を振り返り、AIやバイブコーディングの登場によって個人が直接プロダクトを作れる時代へと変化した構造的ギャップを語る場面に配置されている

――作りたいものがあれば、まず人を集めて組織をつくる必要があった。

そうそう。

しかも、個人がやりたいと思っているものが、組織的にやると変わっていっちゃいますから。

もちろん、変わることで良い方向に行くこともいくらでもありますよ。

でも、いろんな経験を重ねて、「こういうものを作りたい」というのが明確になればなるほど、そういう望まない変化は必要ないんですよね。

今はAIのバイブコーディングみたいなものが出てきたので、何かをしたいと着想するのは相変わらず人間が必要ですけど、それを実装するのは別に人じゃなくてもできるようになってきた。

――「一人でやった方が、いいものを作れる」ということですか?

いや、そこまでの確信は別にないですよ。

「一人でできちゃうじゃん。じゃあやってみようか」という感じです。

「一人でやった方が面白いものができる」とまでは思ってないです。

ただ、自分が「こういうものを作りたい」と思ったものを、以前よりずっと直接的に形にできるようになった。それは面白いですよね。

頭脳だけで「正解」を探したら、AIに圧敗する

――でも、ここまで「何をやりたいか」が重要になると、今度はどうやって“やりたいこと”を見つけるのかが難しくなりませんか?

だからこそ、関心のあることを突き詰めたらいいんじゃないですか。

僕は昔から、興味を持ったことをWikipediaでずっと調べていました。Wikipediaってハイパーリンク構造になっているから、一つのことに興味を持ったら、そこからどんどんリンクをたどって深みにハマっていけるじゃないですか。

昔だったら百科事典を見て終わりだったものが、無制限に広がっていく。

なるべく仕事をしないでWikipediaを見ていました(笑)

眼鏡をかけた前LINEヤフー代表取締役会長の川邊健太郎氏が、親しみやすい笑顔で斜め上を向くポートレート。記事本文では、AI時代に重要な「やりたいこと」の見つけ方として、自身のWikipediaでの経験を例に、ハイパーリンク構造を通じて無制限に広がる人間の好奇心と意思の重要性を語る場面に配置されている

――そうやって好奇心の赴くままに、関心を広げてきた。

そうですね。好奇心と意思ですよね。

何にでも興味を持つことと、「こうしたい」「こういうことをやってみたい」と思いついたら、それをやり抜くこと。その二つですよね。

それと、これからはもっと人間らしく振る舞ったらいいんじゃないですか。怒ったり、泣いたりしたらいいんじゃないですかね。

――それは、AIが人間の仕事を代替していくからこそ?

この30年間で、人間は機械っぽく仕事をたくさんやってきたわけですよね。だけど、もっとすごい機械が出てきちゃったんだから、そっちへ行ってもしょうがない。

もっと「エモく」なった方がいい気がしますけどね。

それをビジネスや人材用語っぽく言うと、「共感力を上げる」とか「コミュニケーション力を上げる」ということなんでしょうけど、もっとプリミティブに喜怒哀楽をはっきりさせた方がいいんじゃないでしょうか。

エンジニア文脈で言い換えるなら「プロンプトの初期条件(起点)を、AIが再現できない人間の『違和感』や『衝動』に置く」ということに近いかもしれません。合理的な最適解はAIに出させればいい。人間にしか出せないのは「なぜかこれがやりたい」「ここに違和感がある」という非論理的な喜怒哀楽だけですから。

会議っぽいから、もっと「ヒュー!」とか言いませんか?

――「もっと人間らしく」「エモく」というのは、具体的にはどういうことでしょう?

最近、ハロプロの推し活を始めたんですよ。それでハロヲタの人たちと集まって、ご飯を食べたんです。

一人一人に「どういう経緯で好きになったんですか?」「推しは誰なんですか?」と聞いていたら、僕の仕切りが仕事っぽかったんでしょうね。

「会議っぽいから、もっと『ヒュー!』とか言いませんか?」って言われて。確かにコンサート中は「ヒュー!」って言うわけじゃないですか。なかなかいいこと言うなと思って。

だから、「ヒュー!」とか言えるようになった方がいいんじゃないですかね。

眼鏡を掛けた前LINEヤフー代表取締役会長の川邊健太郎氏が、手を広げながら生き生きとした表情で身振り手振りを交えて語るポートレート。推し活での体験談を引き合いに出し、合理性やデータ分析を重視するAI時代だからこそ、人間は頭脳だけに頼らず「ヒュー!」と歓声を上げるような喜怒哀楽や感情、五感を前面に出して振る舞うこと(人間ドリブン)の重要性を説く文脈に配置されている

――これは単に「感情を表に出そう」というだけではないんですよね。

感情や五感、身体というものを総動員する方に行った方がいいでしょうね。頭脳だけで、ましてや正解を探すみたいなのって、AIに圧敗しますから。「そこじゃないでしょ」という感じですよね。

データドリブンで合理的に何かを見て変えていくというのは、AIの方が絶対に強いです。

だから、そうじゃない何かを考えたり着想したりするには、そうじゃない何かを用いながら考えるしかないでしょうね。

人間の五感で議論をするようになった方が、発想も「人間ドリブン」になると思うんですよ。

「ヒュー!」と言うのと、山頂でポカリを飲むのは同じ

――「五感を使って考える」という話で、川邊さんが印象に残っているエピソードはありますか?

僕が好きな話に、ポカリスエットの開発エピソードがあります。

研究室では糖質濃度の濃い試作品の方が好評だったのに、研究員たちが山に登って汗をかいた後に飲み比べると、今度は薄い方が「飲みやすい」と評価されたそうなんです。

頭だけで考えている時と、実際に身体を動かして感じる時とでは、出てくる答えが違う。

「会議中に『ヒュー!』と言いましょう」というのと、「山に登った後に飲みましょう」というのは、僕の中ではほとんど同じ話なんです。

データを見て合理的に判断するなら、AIの方が圧倒的に強い。だからこそ人間は、実際に動いて、見て、聞いて、触れて、感情を動かす。そうすれば、発想そのものが「人間ドリブン」になっていくと思います。

――そう考えると、川邊さんが今「テーマを探すために旅に出ている」という話とも、どこかつながっているように感じます。

まあ、テーマを探しているというのはそうですね。

何にでも興味を持って、「こうしたい」「こういうことをやってみたい」というものを見つけていく。AIは、それを思いつけばどんどん実行してくれるわけですから。

「AIを使ってます」で終わらず、使えるソフトウエアを一つ作ってみる

――一方で、「これからは人間らしさが大事」という話だけを聞くと、「じゃあ技術はAIに任せて、人間は感性を磨けばいい」とも受け取れてしまいます。

いや、まずAIは使った方がいいですよ。使わない限り、分からないですから。

しかも、ここで言っている「使う」は、ChatGPTに何か調べ物をさせるとか、資料を作らせるとか、そういう話ではないです。

やっぱりバイブコーディングをして、何かソフトウェアを自分で作るというのを体験してほしいです。

眼鏡をかけた前LINEヤフー代表取締役会長の川邊健太郎氏が、横顔で真剣に訴えかけるポートレート。感性だけに頼るのではなく、まずは自身でバイブコーディングを行い実際に使えるソフトウェアを作る体験をしなければAIの真の可能性や自分の「やりたいこと」は見えてこないと、AI活用の核心を強調する場面に配置されている

――そこまでやらないと分からないものがある?

ありますよ。「自分のビックリマンシールを作りました」とかじゃダメで。使えるソフトウェアを作ってみるということですね。そうすると、「何でもできちゃうんだ」ということが分かります。

少なくとも、ネット産業がやってきたようなことは、ほぼ全部できてしまう。「こんな何でもできてしまうものが手元に来た時に、自分はどう変わればいいんだろう」と、初めてそこでちゃんと考えますよね。

――川邊さん自身も、それを実感した?

しましたね。去年、若手ベンチャーの経営者が、複数のAIエージェントを使ってライブコーディングしているのを見たんです。画面の中だけでいろんな仕様の相談やプログラミングが行われている。

それを見て、「ああ、これはすごいな」と。リアルでわれわれがやっていたことが、もうクラウドの中だけで行われているんだという衝撃がありました。それで自分でもバイブコーディングをやってみた。

例えば今「KKJJ」という会社を作りましたけど、その会社のホームページもバイブコーディングで30分で作りました。あれを人間とやりとりして作っていたら、軽く1カ月はかかりますよね。

――30年間ネット企業を経営してきた川邊さんでも、それほどの衝撃だった。

特にマネジメントで苦労した僕みたいな経営者は、より経営的に「これはとんでもないことになるな」と思いますよね。スピードが違う時に、人は変化を感じるので。

だから、AIについて外からいろいろ聞いているだけじゃなくて、まず使ってみた方がいい。

使って、自分のペインを解決して、できれば実際に使えるものを作ってみる。そうしたら「こんなことまでできるんだ」と分かる。その時に初めて、「じゃあ、自分は何をやりたいんだ?」という話になるんじゃないですかね。

撮影/桑原美樹 取材・文・編集/玉城智子(編集部)

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