株式会社システム・リノベイト
ソリューション事業部 事業部長
近藤正樹さん
会社設立から立ち上げメンバーとして参画。GW事業の所属長として従事した後、事業副部長へ昇格。東京オフィスの開発責任者として活躍中。2026年、サイボウズ株式会社が主催する「CYBOZU AWARD(サイボウズ・アワード)」にて、約500社のパートナー企業間における協業推進や、お互いの強みを生かした体制構築への貢献が評価され、個人賞を受賞。現在は同社の若手エンジニア育成にも注力している
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かつて若手エンジニアが「手を動かしながら現場の空気を学び仕事を覚える」ために用意されていた成長機会が今、急速に失われつつある。
コードを書く経験が相対的に減っていくAI時代において、若手エンジニアをどう育成していけばいいのだろうか。
業界全体が直面するこの切実な課題に対し、一つの解決策を見出している企業がある。DX導入支援やWebシステム開発を手掛ける株式会社システム・リノベイトだ。
同社は、AI活用を前提とした「仕様駆動開発」を単なる最新の開発手法として終わらせず、「若手エンジニアの新たな成長機会」として捉え、戦略的に現場へ投入しているという。
なぜ、仕様駆動開発が若手エンジニアの成長機会につながるのか。事業部長を務める近藤正樹さんに話を聞いた。
株式会社システム・リノベイト
ソリューション事業部 事業部長
近藤正樹さん
会社設立から立ち上げメンバーとして参画。GW事業の所属長として従事した後、事業副部長へ昇格。東京オフィスの開発責任者として活躍中。2026年、サイボウズ株式会社が主催する「CYBOZU AWARD(サイボウズ・アワード)」にて、約500社のパートナー企業間における協業推進や、お互いの強みを生かした体制構築への貢献が評価され、個人賞を受賞。現在は同社の若手エンジニア育成にも注力している
ーー昨今、AIの浸透によって若手エンジニアの成長機会が失われつつあります。システム・リノベイトの現場では、人材育成の面でどのような課題感が出てきていますか?
「作業を通じて仕事を覚える」という、これまでの育成ステップが成り立たなくなってきているのが最大の課題です。
例えば、昔は先輩の打ち合わせに若手を同行させて「とりあえず議事録を書いておいて」と任せることがありました。若手は議事録を書きながら、「仕事ってこういう風に進めるんだな」「お客さんはこういうところを気にするんだな」と現場の空気を肌で学ぶことができたわけです。
しかし今は、議事録の作成すらAIが自動でやってくれます。そうなると、打ち合わせに参加するのは「実際にお客さまと対面で会話や交渉ができる人材」だけでよくなってしまう。
若手からすれば、実装にせよ議事録にせよ、経験を積むためのチャンス自体がどんどん減ってしまっていますね。
ーーかつてのような成長機会が失われつつある中で、会社として若手の経験不足をどのように補っていけば良いのでしょうか。
機会の総量が減っている以上、一つ一つの経験の「密度」を上げていく必要があると思っています。
以前は入社からある程度経験を積んだ後に任せていたような、「システムの一つの機能についてお客さまに説明する」といった役割を、もっと早いタイミングから経験させる。今までなら詳細設計の段階で話していた内容を、基本設計の段階から若手に話してもらうなど、一段階上の役割を早めに任せていくイメージです。
一昔前であれば、「まだ若手で分からないので」と言い訳をして逃げたい気持ちもあったかもしれませんが、これからはそこを担っていかないと、エンジニアとして生き残っていくのが難しくなります。
ーーとはいえ、経験の浅い若手をいきなり上流工程に関わらせるのは簡単ではないですよね。
そこで私たちは、AIを活用した「仕様駆動開発」を積極的に取り入れています。これは簡単に言えば、プログラムを書くことよりも、その前段階にある「仕様を明確にすること」を中心に据えた開発手法です。
当社の仕様駆動開発では、これまでのような上流・下流といった「工程単位」の分業ではなく、「機能単位」で担当を持ちます。
若手エンジニアに一つの機能を任せ、お客さまと直接話しながら「何のために必要なのか」「どんな条件ならどう動くべきなのか」と仕様を詰め、AIが正しく実装できる形まで落とし込んでもらいます。
ーーいきなりシステム全体の要件定義を任せるわけではないと。
はい。システム全体を見ながら要件を整理するとなれば、当然かなりの経験が必要です。でも、「この機能をどうするか」という単位まで仕事を切り分ければ、若手にも責任を持って考えてもらうことができます。
従来であれば、若手は先輩が作った設計書を受け取り、それを実装するところからスタートしていました。
それが仕様駆動開発では、一つの機能という限られた範囲ではありますが、若手自身がお客さまと話し、「何を作るのか」を決めるところから関われる。実装を経験してから徐々に上流へ進むのではなく、早い段階から仕様を作る側に回れるわけです。
ーー若手の仕事が「決められたものを作る」から「何を作るかを考える」に変わると。
そうですね。当然、若手エンジニアに求められるスキルや素養も変わってきます。
お客さまから「こういう機能が欲しい」と言われた要望をそのまま受け取るだけでは、正しい仕様は作れません。「なぜその機能が必要なのか」「本当に解決したいことは何なのか」と踏み込んで考え、自分から確認したり提案したりする必要があります。
チームの中でも同じです。若手だからと受け身になるのではなく、分からないことがあれば自分から聞く。「自分はこう考えたのですが、どうでしょうか」と意見を出すことも重要です。
明確になった仕様をそのままコードに落とすだけであれば、もはやAIがやってくれる。だからこそ、これからのエンジニアは人と向き合いながら「何を作るべきか」を考える力が必要になります。
「機械マニア」よりも、相手の気持ちを想像できる「人間マニア」の方が、エンジニアとして重宝される時代になるのではないでしょうか。
ーー相手の業務や気持ちを想像する力が必要とのことですが、仕様駆動開発において若手がつまずきやすいポイントなどはありますか?
よくあるのが、AIが出してきた「完璧なコード」を鵜呑みにしてしまうケースです。
例えば、「受注入力画面を作って」とAIに指示すれば、単体テストも通るような綺麗なコードを出力してくれます。若手はそれを見て「想定通りできました」と満足しがちですが、システム全体を通してみると業務が回らないということも起こり得ます。
これは大体の場合、他の機能との連携が抜け落ちてしまうパターンが主な原因です。単一の機能としては正解でも、業務フロー全体から見ると仕様が破綻しているといったことは、よくありがちですよね。
ーーそうした「それっぽい仕様」を防ぐために、どのようにサポートすれば良いのでしょうか。
先輩が手を出してコードを直接直すのではなく、レビューの観点を「その仕様が顧客の意図や業務フローを正しく満たしているか」に向けることが重要です。
若手が持ってきた仕様に対し、「これを実際に使う営業担当者は、どういう状況でこのボタンを押すと思う?」「そもそも、お客さんがこの機能で解決したかった課題は何だったっけ?」と、そもそもの背景を問いかけます。
そこで仮に若手が「AIはこれがベストプラクティスだと言っています」と答えたとしても、「それはAIにとっての正解であって、お客さまの業務にとっての正解じゃないよね」とハッキリ伝えることが重要です。
AIの出力を疑い、顧客の業務全体にとっての正解を考え続ける。若手には「自分は単なるAIのオペレーターではなく、お客さまのビジネスを理解するエンジニアなんだ」という意識を持たせていくことが大切だと思っています。
ーーそうした「人間力」や自ら考えて動く「主体性」は、一朝一夕で身につくものではありません。システム・リノベイトの育成では、どのようなアプローチを取っていますか?
基礎研修の段階から、あえて手厚すぎるサポートをやめました。ここ1年半ほどで、いわゆる「おもてなし研修」からの脱却を図っています。
最近は若手人材の採用が難しくなっている背景もあり、研修で進捗が遅れている若手に対して、講師が手取り足取りフォローして教え込むようなケースがよくありました。
もちろん、受講者を置いていかないようにケアするのは講師として正しいのですが、私は育成におけるアプローチの「順番」が違うと考えたんです。
ーーアプローチの順番というと?
どこが間違っているのかをすぐに教えるのではなく、遅れてしまったときに「自分に何が足りないのか」「どうすれば取り返せるか」を、まずは本人に考えさせるということです。
例えば、「自分はデータベースの基礎理解が足りていないので、週末に復習します。その代わり月曜日に少し質問の時間をもらえませんか」といった、本人なりの打開策を出してもらう。残業や無理を強いるわけではなく、どうやったら状況を好転させられるかを自分で考える経験が重要なんです。
最初から手厚くサポートしてお膳立てしてしまうと、自ら考えて行動する「主体性」や「人間力」は育たなくなってしまいますから。
ーーAIを活用する仕様駆動開発の現場でも、まずは自ら考える「主体性」が問われる。だからこそ、基礎研修の段階からその姿勢を求めているのですね。
そうですね。ただ、AI時代ならではのベースラインとして、AIの適切な使い方や機密情報の扱い方といったセキュリティーやモラルに関するリテラシー教育は、研修の中にしっかりと組み込まれています。一昔前にあった、SNSの利用に対するモラル教育に近いかもしれませんね。
当社の経営理念の中には「謙虚な姿勢でやること」という言葉があります。謙虚であるからこそ、お客さまの意図を汲み取ろうと真摯に耳を傾けられますし、分からないことを自分から学ぶ主体性にもつながっていきます。
AIという強力なツールが普及し、実装のハードルが下がったからこそ、技術力だけではない人間的な根本の部分が今まで以上に問われるようになります。私たちも、そうした「人間力」にフォーカスして、若手エンジニアの育成に注力していきたいと考えています。
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撮影/桑原美樹 取材・編集/今中康達(編集部)
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