世界で圧倒的なシェアを誇るPHPのフレームワーク『Laravel』。その開発元である米国・Laravel社に在籍する唯一の日本人エンジニアが、濱崎竜太さんだ。
彼は「今、流行っているから」という打算ではなく、ただ直感的に「美しい」と感じたLaravelを約10年間愛し、突き詰めてきた。
一方で、SNSを開けば「〇〇はもうオワコン」「これからは〇〇一択」といった声が日々飛び交っている。「常に新しいものを追いかけ続けないと生き残れない」と、焦燥感を抱えるエンジニアも多いだろう。
そんなトレンド消費の激流において、「一つの技術にこだわること」はリスクなのだろうか。濱崎さんに話を伺うと、「技術トレンドに振り回されない働き方」の可能性が見えてきた。
Laravel Holdings Inc.
Senior Software Engineer
濱崎竜太さん(@avosalmon )
大学を卒業後、SIerでのシステム開発を経て、株式会社クラシコムへ転職。そこでLaravelと出会い、その美しさに魅了される。その後シンガポールの企業へ転職し、現在は米国・Laravel社のコアメンバーとして、公式Observabilityツール「Laravel Nightwatch」の開発に従事。日本と世界のLaravelコミュニティーを繋ぐべく、「Laravel Live Japan 2026」のオーガナイザーも務める
「今流行っているから」という打算は捨てていい
ーー濱崎さんは約10年間にわたってLaravelを愛用し、現在では開発元のコアメンバーとして活躍されています。そもそも、Laravelとの出会いはどのようなものだったのでしょうか。
実は、最初からLaravelを狙っていたわけではないんです。2012年に新卒で入社したSIerの下請け企業では、銀行に常駐しながらJavaでFXのシステムを作っていました。
ただ、もともと「Webをやりたい」と思ってエンジニアになったので、2年半ほどで転職を決意したんです。
独学でRuby on Railsを勉強して実績を作り、『北欧、暮らしの道具店』を運営するクラシコムという会社に、2人目のエンジニアとして拾ってもらいました。1人目のエンジニアがスウェーデン人の方で、彼がLaravelを使っていたんです。
ーー当時はまだ日本でLaravelはそれほど普及していなかったと思いますが、最初の印象はどうでしたか?
正直、当時の私はPHPに関して「WordPressで少し触ったことがある」程度でしかなく、あまり良いイメージも持っていませんでした。
でも、実際にLaravelを見てみたら、公式ドキュメントがかなり綺麗にまとまっていました。提供されているAPIやシンタックスも綺麗で、非常に分かりやすかったです。
PHP自体がJavaのようにオブジェクト指向になっていて見覚えがありましたし、Railsにインスパイアされている部分もあったので、最初からすごく馴染むことができました。
ーーそこから約10年間、Laravelを愛用されていますが、次々と登場する新しい技術に目移りすることはなかったですか?
もちろん、色々な技術を試すことは自分の学びになるので大事です。でも私は「今、これが流行ってるからこれをやるべき」「これはもう古いからやるべきじゃない」みたいな風潮には振り回されたくありません。
プロジェクトの要件に合わせて論理的に技術を選定するのは大前提ですが、それとは別に、エンジニア自身にも「好み」や「肌に合う技術」って絶対にあるはずなんです。
GoやNode.jsなどモダンな技術が次々と出てくる中で、「Laravelをずっとやっているのはダサい」「レガシーなんじゃないか」と感じる人も当然いるでしょう。
でも、自分が本当に好きで、良いと信じられる技術に出会えたのなら、周囲のノイズは気にせず、自信を持ってそれを突き詰めればいいと思います。
一つの軸を持つことで、Web全体が見渡せる
ーーとはいえ、これだけ変化の激しい時代です。一つの技術にこだわるのはリスクにはならないんでしょうか?
私自身、これまでずっとLaravelしか触ってこなかったわけではありません。
Railsで仕事をしていた時期もありますし、フロントエンドでは現在はReactを使うことが多いものの、過去にはAngularやVueも使っていた時期もあります。インフラ面でもDockerやTerraformを使ってAWS環境を構築するなど、必要に応じてさまざまな技術に取り組んできました。
その上で思うのは、一つの技術に軸足を置くことと、視野が狭くなることは必ずしも同じではないということです。
むしろ、しっかりとした軸があるからこそ、変化の激しいWebのエコシステム全体を見渡しやすくなる面があると思っています。
ーーそれは、なぜですか?
Laravelは、いわゆる「Batteries Included」なフレームワークです。つまり、Webアプリケーション開発に必要なものが、フレームワークや公式エコシステムの中にかなり広く揃っています。
例えば、データベースであれば『Eloquent』というORMがありますし、認証周りでもセッション認証・トークン認証・OAuth・ソーシャルログイン・2FA・パスキーなど、さまざまな選択肢が公式で提供されています。
その他にも、JSON API・キャッシュ・キュー・通知・課金・WebSocket・フィーチャーフラグ・テストなど、Webアプリケーションを作る上で必要になる領域の多くがLaravelの中に含まれています。
ーーLaravelを使ってアプリケーションを作っているだけでも、Web開発の様々な側面に自然と触れることになると。
Laravelに対して「単なるPHPのバックエンドフレームワーク」という昔ながらのイメージを持っている人もいるかもしれませんが、今のLaravelはかなり広いエコシステムになっています。
フロントエンドでは、ReactやVueといったモダンなフロントエンドとLaravelをシームレスにつなぐ『Inertia.js』があり、これはLaravelチームが開発・提供しているライブラリです。
さらにLaravelのスターターキットを使えば、Vite・Tailwind CSS・shadcn/ui・Inertia.js・React/Vue/Svelteなどが最初から設定された状態で、モダンなフルスタック開発をすぐに始められます。
インフラやデプロイの面では『Laravel Cloud』のような公式プラットフォームがありますし、最近ではAIをアプリケーションに組み込むための『Laravel AI SDK』や『Laravel MCP』などの公式パッケージも提供しているんです。
私が現在開発に関わっている『Laravel Nightwatch』も、今後より重要さを増していくシステムの監視を、Laravelアプリケーションに最適化された形で提供するプロダクトです。
Laravelの進化を追うことは、そのまま「現代のWeb開発の複雑性と、それをどう解決するか」という最前線の課題に向き合うことと同義と言えます。
ーー特定の技術にのめり込むことは、必ずしも視野が狭まることにはならないんですね。
ええ。私にとってLaravelは、単に好きなフレームワークというだけではなく、Web開発全体の変化を見ていくための軸にもなっているんです。
もちろん、軸にする技術はLaravelでなければいけないわけではありません。Railsでも、他の技術でもいいと思います。大事なのは、自分の愛せる技術にしっかりと軸足を置きながら、そのレンズを通して周辺のトレンドも見ていくことです。
こうした軸を持つことは、変化に取り残されることではありません。むしろ、変化を自分なりに理解するための視点を持つことだと思っています。
AI時代は、技術のレールを知り尽くす者が勝つ
ーー特定の技術に軸足を置き、そのエコシステム全体を俯瞰する。その視点は、AIがコードを書く時代にも活きてくるものでしょうか?
間違いなく活きてくると思います。今後は、いかにAIに精度の高いコードを出力させるかが重要になりますが、そのためには、人間側がAIに対して的確なコンテキストや制約を渡してあげる必要があるからです。
例えば「バックグラウンドの非同期処理を作って」とだけAIに指示した場合、世の中に無数にあるライブラリの中からどれを選ぶべきかAIもブレてしまいますし、人間が後から整合性を確認するのも大変になります。
ーー自由度が高すぎると、かえってコントロールが難しくなりますね。
そこで真価を発揮するのが、各種フレームワークが持っている「公式のレール」です。Laravelのように、認証からデータベース接続、キュー処理まで、Web開発に必要な機能が公式で一通り揃っていると、それがそのまま「AIに対する強力なコンテキスト」になります。
何もない更地から作らせるのではなく、「このフレームワークの、この公式機能の作法に従って書いて」と明確な道筋を示すことができる。自分が愛用している技術のレールを知り尽くしていればいるほど、AIという強力なアシスタントを迷いなく使いこなせるようになるんです。
さらに最近では、『Laravel Boost』という公式ツールも提供されています。
これは、Laravel社が公式に提供するAI向けのガイドラインやスキルで、これまで暗黙知として共有されていたLaravelのベストプラクティスを、Laravelチーム監修の公式なコンテキストとしてAIに渡せるようにするものです。
これらの機能により、単にAIへ「この機能を実装して」と指示するだけでなく、「Laravelではどう書くべきか」「現在のバージョンではどの書き方が推奨されるのか」まで含めて伝えられるようになります。
AI時代において、フレームワークのレールや設計思想を知り尽くしていることの価値は、ますます大きくなっていくと思います。
ーー技術の表層的なトレンドを追うより、一つの技術の「型」を深く理解している方が、結果的にAIを上手く乗りこなせると。
さらに言えば、自分が軸足を置く技術が「どういう体制で開発され、どういうビジネスモデルで回っているのか」という裏側の構造まで見ておくことも、キャリアを考える上では大切だと思っています。
Laravelはオープンソースですが、その裏には「Laravel Holdings Inc.」という100名規模の会社組織があり、Next.jsを開発しているVercelと同じVCから資金調達をしています。自社のプラットフォーム等のプロダクトで得た収益を、OSSチームのエンジニア採用に還元するサイクルができあがっているんです。
こうした裏側の構造を知っていれば、「ある日突然、開発が止まってしまうんじゃないか」といったリスクを正しく評価できます。
「今、これが流行っているから」という表面的な情報だけでなく、その技術がどう進化し、どう生き残ろうとしているのか。一つの技術に深く入り込むと、そういうビジネスのリアルな側面まで見えてくる面白さも味わえます。
好きな技術の源流をたどり、憧れの場所へ
ーー特定の技術をより深く知ろうとすると、自ずと情報の取り方も変わってきそうですね。
そうですね。私の場合は、Laravelが英語で発信している公式ドキュメントを誰かが日本語に翻訳してくれるのを待つ時間がもどかしくて、拙い英語力でも自ら一次情報を取りにいってました。
一次情報に触れていると、今度は「このツールを作っている人たちは、普段どんな熱量で議論しているんだろう」と、その裏側にあるコミュニティーそのものに興味が湧いてきたんです。
それで、どうしても現地の空気を感じたくなって、18年にアメリカ・シカゴで開催された『Laracon』というカンファレンスに飛び込みました。
ーー現地の盛り上がりはどうでしたか?
音楽フェスに行ったみたいな衝撃でした(笑)。世界中からエンジニアが集まっていて、自分が毎日使っているツールの作者たちが目の前で熱く語っている。それまでは「作っている人がどこかにいる」とは頭で分かっていても、実感としてありませんでした。
でも現地で彼らと直接話し、グローバルなコミュニティーの存在を肌で感じたとき、「好きな技術の最前線にいたい」「自分もグローバルな環境で働いてみたい」という憧れが明確な目標に変わったんです。
そこから英語で技術ブログを書き始め、19年の『Laracon EU』に登壇する機会を得て、それを機にシンガポールの会社へ転職しました。海外就職なんて初めてだったので、30社ぐらい応募して連戦連敗の末にようやくもらったオファーでした。
多国籍なチームで、最初は英語のアクセントも聞き取れず「何回も聞き返すけどよろしく」と周りにお願いするような状態からのスタートでしたね。
ーー行動力が凄いですね。そこからどうやって、Laravel本社へ?
シンガポールで数年働いていた24年に、Laravelがエンジニアを募集しているのを見かけたんです。Laravelはずっと少数精鋭でやってきたので、パブリックにエンジニアを募集していること自体が驚きでした。
実際に面接で話を聞いていくと、資金調達を行いLaravelがプロダクト開発にも本格的に力を入れていくフェーズにあることを知りました。「Laravelの次のステージを一緒につくれるかもしれない」と感じ、迷わず入社を決めたんです。
シンガポールでのグローバルな環境での泥臭い経験があったからこそ、最終的にLaravel社の扉を叩くことができたんだと思います。
ーー「一つの技術にこだわること」が、結果的に世界への扉を開いてくれたのですね。
日本はPHPのコミュニティーがすごく盛り上がっていますが、どうしても国内に閉じがちな側面もあります。でも、技術には本来、国境なんてありません。
一つの技術にのめり込み、一次情報を追い、コミュニティーへ自分から手を伸ばしてみる。そのプロセス自体が、エンジニアとしてのキャリアプランをクリアにしてくれるんだと思います。
「あれもこれもやらなきゃ」とトレンドを追いかけ回すよりも、まずは打算を捨てて、自分が心から良いと思える技術を一つ見つけてみてください。そして、周辺のトレンドや裏側の構造を覗いてみてほしいです。
自分の中に確固たる「軸」があれば、どんなに技術が変化しても、ブレずにエンジニアという仕事を楽しめるはずですから。
写真/赤松洋太 取材・文/今中康達(編集部)
Laravel Live Japan 2026
日本で初開催される公式のLaravelコミュニティカンファレンス。日本国内はもちろん、海外のエンジニア、Laravelフレームワークおよび周辺エコシステムを作っているエンジニアたちが東京に集まり、ともに学び、交流し、つながる2日間。急速に進化を続けるLaravelエコシステムの今とこれからを肌で感じ、世界のコミュニティーと繋がれる場所。それがLaravel Live Japanです。
【開催概要】
■日時
2026年5月26日 (火) 〜 27日 (水)
■会場
立川ステージガーデン
(東京都立川市緑町3-3 N1)
【関連リンク】
公式サイト
公式X
イベントコンセプト
【Laravel Live Japanオーザナイザー・濱崎竜太からのメッセージ】
今回、Laravel社からのサポートを受け、日本で初となるLaravelのカンファレンス開催に踏み切りました。コンセプトの軸にしたのは、私自身が2018年のLaracon USで体感した衝撃です。
だからこそ、会場は通常のカンファレンスホールではなく、普段は音楽ライブが行われる「立川ステージガーデン」を選び、MCが場を盛り上げるシングルトラック形式を採用しました。
当日は世界最前線で活躍するエンジニアたちが集結します。Laravel作者のTaylor Otwell(@taylorotwell )によるキーノートをはじめ、フロントエンド界隈で注目を集めるVoidZeroのDevRelエンジニア、Alexander Lichter(@TheAlexLichter )など、豪華スピーカー陣が登壇予定です。
Laravelのイベントですが、Laravel/PHPのトークだけでなく、フロントエンド・モバイルアプリ・AI・データベース・キャリアなど、フレームワークの枠を超えた幅広いテーマを扱います。全セッションで日英のライブ翻訳を提供し、参加者同士のコミュニケーションを助ける翻訳ツールも用意しています。
ぜひ、世界レベルの熱気を共に味わいましょう。このイベントが、皆さんのキャリアを変える体験になれば幸いです。