クラウド全盛、そしてAIの台頭。自動化の波が次々と押し寄せるIT業界において、「ネットワークエンジニアの将来性」に漠然とした不安を抱く若手は少なくないだろう。
そんな中、業界歴15年の現役エンジニアであり、ネットワークの設計構築を手がける株式会社プラウドアドバンスの代表を務める村上行隆さんは「むしろ、これからの時代こそネットワークエンジニアの真価が問われる」と語る。
激変するテクノロジーの裏で、決してなくならない絶対的な「需要」の正体とは何か。上流工程へのキャリアアップに悩むエンジニアの現状を打破するヒントと合わせて、村上さんに話を聞いた。
プラウドアドバンス
代表取締役
村上行隆さん(@proudadvance)
高校卒業後、製造業・営業職を経験した後、独学でシスコシステムズのCCNA資格を取得。その後、システム企業でネットワーク設定業務等に従事し、2016年に株式会社エーアイエルに入社。ITインフラ事業本部のエンジニアとして、大手Webサービス企業のグループ企業間ネットワークの運用・開発などに従事。21年にプラウドグロリアへ転職し、24年6月に独立しプラウドアドバンスを設立。経営業と並行し、現役のネットワークエンジニアとしても活動している
AIには代替できない、現場のリアルと責任
ーー単刀直入にお伺いします。村上さんは、これからのネットワークエンジニアの将来性をどのように見ていますか?
結論から言うと、ネットワークエンジニアの需要はなくなりませんし、むしろ需要が伸びていく領域だと考えています。
現場の実態をあまり知らない方だと、「AIに代替されるのでは」と怖い感情を抱くかもしれません。確かに運用保守の現場で、異常が起きた時のログを探してアタリをつけるような「データに基づく情報の整理」はAIの得意分野ですし、そこは任せていいと思います。
しかし、それはネットワークエンジニアの仕事のコアではありません。
ーーネットワークエンジニアの「コアとなる役割」とは?
インフラが絶対に動くことを担保し、その責任を負うことです。インフラは「あって当たり前、できて当たり前」のもので、使えなくなることは絶対に許されません。
だからこそ、机上の空論だけで構築を進めるのは非常に危険です。仮にAIが最適な設計図を弾き出してくれたとしても、それだけではダメ。AIが出す答えやメーカーのカタログスペックが、現場でそのまま通用するとは限りません。
例えば過去に、機器のスペック上は十分な性能があるはずなのに、実際は目に見えないライセンスの制約があって通信が伸びなかったり、特定の条件下でOSのバグが起きて通信が止まってしまったりしたことがありました。そういった、机上では見えない落とし穴が無数にあるんです。
AIの答えを鵜呑みにするのではなく、自ら実機を使って検証し、「なぜこの構成なら間違いなく動くのか」という根拠を泥臭く作らなければならない。この「実証データをもとに品質を担保する力」こそが「人が責任を持つ」ということの真意であり、AIには決して代替できないネットワークエンジニアのコアバリューです。
ーー単なる精神論ではなく、実機検証に基づいた裏付けを取ることが大事だと。
それに加えて、ネットワークエンジニアは「物理的なモノ」を扱うという点も大きいです。
例えば、設計上は完璧でも、いざ現場に行くと「資料上は余裕があるはずなのに、既存のケーブルが複雑に絡み合っていて、これを撤去しないと新しい構築ができない」といった事態は日常茶飯事です。
他にも「ケーブルの長さが足りない」とか、「大量のケーブルの中から特定の1本に挿さなきゃいけないのに手が入らない」とか(笑)。そういう予期せぬ物理的なトラブルが起きた時に、冷や汗をかきながらも現場で想像力を働かせてなんとかする。これはデジタル空間にいるAIには突破できない、フィジカルな力です。
ーーですが、システムのクラウド化についてはどうでしょうか? 物理的な機器を持たない企業が増えれば、需要は減るのではないですか?
むしろ逆ですね。クラウド化が進むことで、システムはインターネットを経由するようになり、目的地までの経路(ルーティング)が無数に存在するようになりました。
昔のLAN環境のような閉じたネットワークであれば、1対1の静的なルーティングで済むことも多かったのですが、今は違います。無数にある道の中から、「どの道が最適な経路なのか」をちゃんと設計してあげないと、最短ルートで目的地までたどり着けません。
ネットワークは経路や冗長構成が増えるほど柔軟性は上がりますが、その反面、制御は一気に複雑になります。だからこそ、障害時も含めて通信を安定させるための設計や経路制御が重要になる。「確実に動く」ことを担保できるエンジニアの需要は、昔も今も、そしてこれからも変わらず求められ続けるんです。
また、生成AIの普及によって、データセンター間やサーバー間でやり取りされるトラフィック量は過去とは比較にならないほど爆増しています。膨大なデータを学習・処理させるためには、パケットロスや遅延が致命傷になる。
つまり、AIが賢くなればなるほど、その裏側を支えるネットワークには「より高度で複雑な設計とチューニング」が求められるようになります。そういった意味でも、ネットワークエンジニアの需要は高まっていくでしょうね。
「つまらない運用保守」は存在しない
ーー若手のうちは上流の設計工程ではなく、運用保守からキャリアをスタートすることが一般的です。「下流業務しか経験できていない」と不安になる方も多いのではないでしょうか。
そうですね。ですが、だからといって「運用保守=価値が低い」と腐ってしまうのは非常にもったいない。
一見すると、単なるマニュアル通りの運用保守の作業に見えても、その案件の「裏側」に何があるのかを想像できるかどうかが鍵なんです。
例えば、若手が「ただの保守案件だからスキルが伸びない」と思い込んでいる現場があったとします。でも、今のシステムはほぼクラウドとつながっていますよね。
ということは、その保守対象のネットワークの先には、先ほどお話ししたような「動的ルーティング(自動的な経路選定)」の技術が必ずどこかで絡んでいるはずなんです。
ーー表面上は運用保守でも、システムの全体像を見れば、最先端の技術領域につながっている場合もあると。
「言われた通りにログを調べました」で終わるのか、それとも「このシステムはクラウドとつながっているから、こういう動的ルーティングのアプローチもできるはずだ」と因数分解して捉えられるか。
この視点を持てないと、AIに代替される「作業者」のまま留まってしまいます。自分の目の前の作業が、技術トレンドのどこに紐づいているのかを見抜く解像度があるかどうか。これが、今後頭打ちになる人と伸びる人の分かれ道になると思います。
ーー解像度を高めた上で、自分なりの価値をどう出していくのかが重要なんですね。
ネットワークやインフラの世界って、ゼロから何かを生み出す開発業務とは違って、世界中のどこかに必ず答えがあるんですよ。同じようなエラーや問題に直面している人は、世界中にいっぱいいます。
だからこそ「調べる力」と、それを実機で「検証する力」が重要になる。ネットで調べて出てきた答えやAIの回答をコピペして終わりではなく、実際に自分の手を動かして検証し、「あ、確かにそうだ。こういう構成だから大丈夫なんだ」と、自分で意思決定できる根拠を作ること。
どんな現場、どんな案件であっても、このプロセスを通じて自分で責任を取りに行く姿勢を持てる人が、上流のポジションへステップアップしていけます。
上流工程を勝ち取るのは「仕様の裏側」を問う姿勢
ーーでは上流工程へステップアップしていくために、若手エンジニアはどのようなアクションを起こしていけば良いのでしょうか。
まずは自分から「言葉にする」ことですね。運用保守の現場であっても、社内には上流工程をやっている人や、案件のステークホルダーになる人が必ずいます。そういった方に、「自分はこういう設計をやってみたい」と直接話すこと。
その上で重要になるのが、日々の業務における「問う力」です。エンジニアにとって一番大事なスキルは、単に人と仲良くするコミュニケーション能力ではなく、技術的な根拠を明確にするためのコミュニケーション能力だと思います。
ーーそれは、なぜでしょうか。
「マニュアル通りに対応しました」で終わらせず、「この障害の根本原因を潰すには、現場のこのデータを見る限り、上流のアーキテクチャをこう変えるべきではないか?」と問う。そのアクションの差が、エンジニアとしての価値に直結するからです。
例えば、今、私が手がけている案件で一緒に成長している若手エンジニアがいるのですが、彼はまさに解像度を自ら上げにいける人材です。
先日、物理的なケーブル2本を論理的に1つに束ねるネットワーク設定をお願いした時のことでした。システム上は一つの設定として固めるのですが、彼はその設定書を見た時に「この『論理的なID番号』と、物理的な2本を識別するための番号は、なぜ同じ値じゃないと動作しない仕様なんですか?」と聞いてきたんです。
「言われた通りに入力すれば動く」で終わらせず、「なぜこの設計思想になっているのか?」と、上流が引いた設計の意図を因数分解しようとした。これは単なる質問ではなく、技術的根拠を突き詰めて自ら責任を持とうとする、エンジニアとしての執念です。
運用保守の現場にいながらでも、こうして目の前の仕様に疑問を持ち、有識者に仮説をぶつけることはできる。このコミュニケーションこそが、上流の意思決定者へと引き上げられるための強力な武器になるんです。
ーー「システム全体のアーキテクチャへの好奇心」を持つことが大事だと。
ええ。キャリアは待っていても降ってくるものではなく、自分から取りに行くものです。もし今の現場が運用保守だとしても、目の前の仕様に疑問を持ち、自分なりの仮説をぶつけ続けてください。
プラウドアドバンスでも、そうした「問う力」を持った若手が現場でメキメキと頭角を現しています。もし今の環境が「問うこと」すら許されない現場なのだとしたら、その時は迷わず外の世界を見るべきです。
自ら意味を見出し、責任を取りにいく姿勢さえあれば、AI時代でも必ず必要とされるエンジニアになれます。
株式会社プラウドアドバンスの求人情報はこちら
撮影/赤松洋太 取材・文/今中康達