「プロダクトマネジャーって、このAI時代に必要かな?」
米ビッグテックでシニアプロダクトマネジャーとして働く福原たまねぎさんは、最近、現地の同僚たちとそんな話を交わしているという。
エンジニアの仕事がAIに奪われるという話は、最近よく話題に上がる。その裏で、開発をリードするプロダクトマネジャーの仕事についても将来を不安視する見方があるようだ。
プロダクトマネジャーという職種は、本当に消滅してしまうのか。米テック業界の最前線で見える組織構造の変化と、これからの時代に求められる「新たな存在意義」について福原さんに話を聞いた。
福原たまねぎさん(@fukutamanegi)
外資系IT米国本社のシニアプロダクトマネジャー。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後、渋谷のベンチャー企業を経て、2016年、外資系IT企業の日本支社に入社。Webプロデューサー、プロダクトマネジャーを務め、22年、米国本社に転籍。テクノロジーの現場から働き方、思考法、文化の違いなどを観察し、その成果をnoteで発表している。25年に投稿した「'仕事のできるエンジニアしかいらない'という怖い世界」が「note創作大賞2025」に入選し、話題になった。著書『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)
1カ月かけていた仕事が、今は2〜3日で終わる
ーー福原さんは最近、周囲の同僚と「プロダクトマネジャー不要論」をについて話しているそうですね。アメリカでは、もうその話題でもちきりなんですか?
いえ、全員が全員そういった危機感を持っているわけではないです。正直、かなり楽観的な人もいますよ。
ですが、AIに対する感度が高くて「この先、仕事がどう変わるのか」を真剣に考えている人たちと話すと、高い確率でこの話になります。
先日、シアトルのテック業界で長年活躍してきた先輩とお話しした際、「プロダクトマネジャーって、もう必要なくないですか?」と投げかけたんです。そうしたら、食い気味に「僕も要らないと思います」とおっしゃってました。
僕自身も、危ういポジションに立たされていると感じています。
ーーなぜ、そこまで急速に立場が危うくなっているのでしょうか。
アメリカのソフトウエア開発は、プロセスの標準化が徹底されているんです。
まずビジョンを作る。次にBRD(Business Requirement Document)を作成して要件を整理する。それを開発ロードマップに落として、スプリントで回していく。そのサイクルの中で、要件の甘いところを詰めていく。
つまり「どの段階で何を考え、何をアウトプットするのか」がかなり明確なんです。だから、その一つ一つの工程をAIに任せやすい。
ーー福原さん自身、仕事量が減った実感はありますか?
ものすごくありますね。これまで1カ月くらいかけて書いていたドキュメントが、2~3日で出来ちゃう時代です。
アメリカのテック企業って、ビジョンドキュメントをはじめとして、とにかくドキュメントを重視する文化なんですよ。これまではみんなで何度も推敲を繰り返していました。非ネイティブの僕が、アメリカ人の同僚が書いた英語を修正していたほどです。
でも今は、「ユーザーのペインポイント」「裏付けとなる定量データ」「ボトルネックとなっている箇所」などの材料をAIに渡せば、ビジョンドキュメントのたたき台をかなりの精度で作ってくれます。
プロダクトマネジャーが完全にゼロになるというのは極論だとしても、人数が減っていくと見ています。一つ一つの工程にかかる時間がこれだけ減れば、一人のプロダクトマネジャーが複数のプロダクトを担当できるようになりますから。
経営者とエンジニア、両翼から侵食されるポジション
ーーAIによる業務効率化は他職種でも起きていますが、なぜ特にプロダクトマネジャーが危機的なのでしょう?
プロダクトマネジャー自体が「組織の肥大化」によって生まれたポジションだからです。
ソフトウエアを作るために不可欠なのは、「やりたいことがある人」と「実際に作る人」。つまり、事業やプロダクトの方向性を決める経営者とエンジニアですね。エンジニア自身に「これを作りたい」というものがあるなら、一人でもビジネスは成立します。
ですが組織が大きくなって、経営とエンジニアリングの間にたくさんの人が入り、調整しなければいけないことが増えた。そこで、その間をつなぐ役割としてプロダクトマネジャーが必要になったんです。
ーーところが今、その「間」をつなぐハブの役割を、AIが直接果たすようになるということですね。
ええ。経営者が「こういう顧客課題を解決したい」と考えたとき、これまでは、プロダクトマネジャーが要件に落とし込んでエンジニアにつないでいました。でもAIを使えば、経営者自身がそこまで踏み込めるようになります。
また、エンジニア側からの侵食も進んでいます。
これまでは仕様通りに「作る」ことが求められていたエンジニアも、AIによって実装時間が大幅に圧縮された結果、「なぜこれを作るのか」「どんなユーザー体験になるか」という要件定義からプロトタイピングまで一人で完結できるようになりつつあるからです。
ーープロダクトマネジャーの仕事がAIに奪われるというより、職種そのものの消滅が現実味を帯びている?
僕はそう思います。
ファイナンスなら決算の数値責任、メディアなら記事内容への編集責任があるように、最終責任を負う役割は残ります。でもプロダクトマネジメントの場合、「何を作るか」は経営者が、「どう作るか」はエンジニアが責任を負える。
その間の調整までAIができるようになったら、独立した職種としてプロダクトマネジャーを置く理由は何なのかという話になってくる。
AIに代替されないためにはどうするかではなく、もっと根本的に、プロダクトマネジャーというポジションの意義は何かを考えた方がいいですね。
「AIを使いこなせる」だけでは生き残れない
ーー今プロダクトマネジャーとして働いている人は、今後どこに活路を見いだせばいいのでしょうか。
道は大きく二つあります。経営側に寄るか、技術側へ深く踏み込むかです。両側から領域を侵食されるのであれば、プロダクトマネジャーもどちらかへ飛び込むほかありません。
経営側に寄る場合は、誰かが決めた方針を要件に落とすのではなく、「何を作るべきか」を自分で決めて、その結果に責任を持つ立場に近づくことが求められます。
単に目の前のプロダクトに機能を追加するだけでなく、「市場全体を見渡し、事業を次のステージへ進めるために何が必要か」という一段高い視座を持つことです。
ーー技術側に寄る場合は、プロダクトマネジャーもコードを書くべきですか?
エンジニアと同じレベルで実装できる必要はないでしょう。
ただ、例えばAPIの設計を理解したり、ハイレベルなシステムデザインを把握したり、プロトタイプを自作できるレベルの技術的な知識は必要になっていくでしょうね。
そういう意味で言うと、アメリカのテック企業にはもともとエンジニアリングへの理解が深いプロダクトマネジャーも多いです。「技術はエンジニアに任せる」というスタンスでは、かなり厳しいですね。
ーーもはや「AIをいかに使いこなすか」といったレベルの話ではないわけですね。
AIを使えること自体は、そのうち特別なスキルではなくなります。
昔は「インターネットプロダクトマネジャー」という言葉がありましたが、今はそんな呼び方はしませんよね。インターネットの仕組みを理解していることが、プロダクトマネジャーとして当たり前になったからです。
AIも同じで、今はまだ「AIを使えるプロダクトマネジャー」が重宝されるかもしれません。でもいずれ、それすらもできて当然になる。
AIによって自分の仕事が減った時に、その分どこまで役割を広げられるか。自分の存在意義を見つめ直して再定義していくことが、これからのプロダクトマネジャーには求められるでしょう。
※本記事は個人の見解であり、所属企業・団体を代表するものではありません
撮影/赤松洋太 取材・文/今中康達(編集部)