2026年2月、『イシューからはじめよ』の著者として知られる安宅和人さんは、自身のブログ で次の様な“見立て”を示した。
「AIによって仕事の中間工程が自動化される時代、人間に残るのは『ディレクション』と『ダメ出し』だけになる 」
この考えに同意しながら、エンジニアにとって重要なもう一つの能力を挙げる人物がいる。『転職2.0』著者の村上臣さんだ。現在はスマートニュースのVP of Consumer Productで、安宅さんとはヤフー時代の同僚でもある。
村上さんが着目するのは「例外処理」だ。
なぜAI時代にそのスキルが重要になるのか。そして、それがエンジニアならではの強みになる理由とは。村上さんに詳しく聞いた。
『転職2.0』著者
村上 臣さん(@phreaky )
青山学院大学理工学部物理学科卒業。大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。2000年8月、株式会社ピー・アイ・エムとヤフー株式会社の合併に伴い、ヤフー株式会社に入社。11年に一旦の退職を経て、12年4月に再びヤフーに入社、執行役員兼CMOとしてモバイル事業の企画戦略を担当。17年11月にビジネス特化型ネットワークのLinkedIn(リンクトイン)日本代表に就任。同社の日本語版プロダクトの改善やユーザー増加に貢献し22年4月退任。同月、グーグル合同会社入社。日本における検索の開発責任者として日本独自機能の開発や生成AI活用などに貢献。24年11月スマートニュース株式会社にVP of Consumer Productとして入社。株式会社ポピンズ 及び株式会社ランサーズの社外取締役ほか複数のスタートアップの戦略・技術顧問も務める。主な著書に『転職2.0』『稼ぎ方2.0』(SBクリエイティブ)『Notionで実現する新クリエイティブ仕事術』(インプレス)がある
AI時代、エンジニアの強みは“例外”にある
ーー安宅和人さんが挙げた「ディレクション」「ダメ出し」に加えて、村上さんは「例外処理」も重要だと考えているそうですね。
まず、安宅さんが言う「ディレクション」と「ダメ出し」については、僕も同感です。ただ、そこにもう一つ加えたいのが「例外処理」なんですよね。
例外処理とは、端的に言えば、何か想定外のことが起きたときにどう対処するか、という話です。
例えば、自動運転を考えてみてください。車が正常に走っているときの動きは想像しやすいですが、事故が起きそうになったときにどう判断するのか。実際に事故が起きた場合にはどう対処するのか。こうしたことまで考えなければいけませんよね。
つまり、正常系の動きは誰でもある程度想像できるんです。でも、どこにエラーが潜んでいるのか、どんな想定外の事態が起こり得るのかを、細かく洗い出すのは簡単ではありません。
ーーですが、なぜ「例外処理」がエンジニアならではの強みになるのでしょうか?
エンジニアって、普段からコードを書く中でエラーハンドリングをしているじゃないですか。だから、どういうところでエラーが起きるのか、結構洗い出せるんですよ。
例えば、セキュリティー上の穴がないか、エラーが起きたときにどう対応するのか。そのエラーは致命的なものなのか、それともそこまで深刻ではないのか。
そうした問題を一つ一つ洗い出して、重要度に応じてトリアージし、対処方法を考えて実装する。こういうことは、エンジニアが日常的にやっている仕事ですよね。
ーー他の職種の方だと、そうもいかない?
ビジネス職の人に「考えられる例外やエラーを細かく全部洗い出してください」とお願いすると、結構みんな手が止まってしまいがちですね。
これは能力の優劣というより、普段からそういうことを考えているかどうか、思考の癖の違いなのだと思います。
AIによって、これまでエンジニアしかできなかったコーディングが、他の職種でもできるようになってきました。それでも、起こり得る例外を想定し、その対処を考えるというのは、エンジニアがこれまで培ってきた強みです。
だからこそ、AI時代においても「例外処理」は、エンジニアが価値を発揮できる重要な仕事だと思っています。
もはやPRDだけでは企画を通さない
ーー安宅さんが挙げた「ディレクション」と「ダメ出し」についても、村上さんは同意されているんですよね。この二つの能力については、どのように捉えていますか?
まず、ディレクションについてですが、その本質は「意志」だと考えています。AIはさまざまな選択肢を提示してくれますが、基本的には自分の意志を持っているわけではありません。
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撮影/赤松洋太 取材・文/今中康達(編集部)