2025年1月、米国ビッグテックの開発現場で目の当たりにした厳しい実力主義の実態をnoteにつづり、大きな反響を呼んだ福原たまねぎさん。
それから2年近く。シアトルで働く福原さんが目の当たりにしているのは、さらに残酷な現実だ。
仕事ができる。実績もある。周囲からも尊敬されている。
そんなエンジニアであっても、ある日突然、居場所を失ってしまう。
米国テック企業で働く人々の知られざるリアルを、本人につづってもらった。
福原たまねぎさん(@fukutamanegi)
外資系IT米国本社のシニアプロダクトマネジャー。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後、渋谷のベンチャー企業を経て、2016年、外資系IT企業の日本支社に入社。Webプロデューサー、プロダクトマネジャーを務め、22年、米国本社に転籍。テクノロジーの現場から働き方、思考法、文化の違いなどを観察し、その成果をnoteで発表している。25年に投稿した「'仕事のできるエンジニアしかいらない'という怖い世界」が「note創作大賞2025」に入選し、話題になった。著書『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)『その仕事、 スケールするの?』(ダイヤモンド社)
「あと3日しかない」レイオフされた同僚から届いた悲痛な叫び
今のアメリカは、もはや「仕事のできるエンジニアもいらない」世界になっている。それを痛感する出来事があった。
ぼくが以前一緒に仕事をした、かぼちゃさん(仮名)というエンジニアの話だ。
かぼちゃさんは30代前半くらいのインド人エンジニア。きびきびとした口調でてきぱきと仕事をこなす彼は、チーム内外から一目置かれていた。
ぼくが彼と仕事をしたのは、ある新しい課金の仕組みを立ち上げるプロジェクトだ。その仕組みと連携させる必要があった別のシステムの担当エンジニアが、かぼちゃさんだった。
彼と一緒に働く中で、まず最初に驚いたのが「コミュニケーションの速さ」だった。
分かったこと、困っていること、誰かに判断してほしいこと。そうした情報を次々とスレッドに書き込み、報告・連絡・相談を高速で回していく。
しかも、こちらのエンジニア3〜4人に対して、向こうはかぼちゃさん一人。彼は全員からの質問に次々と答えながら、必要なテストケースを網羅的に洗い出し、システム統合までの手順を誰が見ても分かる形に整理してくれた。
特に印象的な出来事がある。あるとき、ぼくらのチームのシニアエンジニア、じゃがいもさん(仮名)が、スレッドにこう書き込んだ。
「これ、全部ドキュメントにまとめておいてね」
すると、その直後にかぼちゃさんから返信が来た。
「こちらです」
なんと、手順書はすでにできあがっていたのだ。
コードレビューも、システムへのマージも、とにかく速い。かといって、こちらの要望を何でも引き受けるわけではない。
「それは未対応の機能だから、まだ使えない」
「今、そのテストは必要ない」
必要がないと思えば、はっきりと反対意見も伝える。
しかも、こうしたやり取りを、100人以上の関係者がいるスレッドの中で臆することなく進めていく。気づけば、プロジェクトの交通整理役は彼になっていた。
同僚のエンジニアが、ぼそっと「彼はできるよね」と言っていたのを今でも覚えている。ぼくも、全く同じことを思っていた。
そんなかぼちゃさんが、あるとき別のチームに異動した。新しくやりたいことを見つけ、さらなるキャリアアップを目指しての異動だったと聞いている。
それから3ヶ月後。
ぼくらのプロジェクトは大成功し、新しいプロジェクトに取り組み始めていた頃、ぼくのSlackに一つの通知が届いた。「やあ、元気?」というお決まりの短いフレーズの後に、その言葉は続いた。
「I was impacted.」
アメリカのテック企業では、レイオフされたことを直接的に言わず、「インパクトを受けた」という間接的な表現を使うことがある。そのメッセージの送り主が、かぼちゃさんだった。
「社内のネットワークにはあと3日しかアクセスできない。その間に社内で私を採用してくれるチームを探しているんだ。君のチームは採用していないかな? あと履歴書に載せるために、私たちが一緒にやったプロジェクトの成果がほしいんだ」
ぼくは最初、なんと返事をしたらいいのか分からなかったが、まずは短く「本当に残念だ」と伝えた。そして、チーム内に採用できるポジションがないか確認することを約束し、以前のプロジェクトで彼が残した成果をまとめたサマリーを共有した。
「もし空きがあったらすぐに連絡するよ」
そう伝えて、知り合いのエンジニアリングマネジャーたちに相談することにした。ぼくはかぼちゃさんとのSlackのやり取りをスクリーンショットに撮り、エンジニアリングマネジャーたちとのグループチャットに共有した。
「ぼくらのチームでエンジニアを採用できないかな?」
返事はなかった。
そこで、先に登場したじゃがいもさんも、そのスレッドに加えた。アメリカのテック業界で20年以上活躍してきたベテランで、かぼちゃさんと密に仕事をしていた人物だ。彼も、短くこう書き込んだ。
「かぼちゃさんが仕事のできるエンジニアであることは、私が保証するよ」
それでも、返事はなかった。結局、ぼくはかぼちゃさんに、受け入れ先が見つかったという知らせを届けることができなかった。
それからかぼちゃさんとは、連絡を取れていない。今どこで何をしているのかも分からないし、うかつに聞くこともできない。彼が最後に口にしていた言葉が、今も印象に残っている。
「I was in the wrong place at the wrong time.」(悪いタイミングで、悪い場所にいただけ)
もし元のチームに残っていたら、レイオフされずに済んだかもしれない。でも、新しいことに挑戦しようと異動した先で、突然職を失ってしまった。
今は仕事のできるエンジニアですら、組織の都合で簡単にいらなくなってしまう。そんな世界になっている。こうした話をシアトルやシリコンバレーで働く仲間からよく耳にする。
「優秀なら元に戻せばいい」は通用しない
それほど優秀なエンジニアなら、元のチームに戻せばよかったのではないか。あるいは、別のチームに移せばよかったのではないか。
そう思う人もいるだろう。ただ、そう簡単にはいかない事情がある。
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文/福原たまねぎ 編集/今中康達(編集部)
書籍紹介
『その仕事、 スケールするの?』(ダイヤモンド社)
★★★GAFAMをはじめ世界を動かすトップ企業のアメリカ本社で活躍してきた社員が実践する「圧倒的生産性」の秘密★★★
★★★ 米国テック発の最新・仕事術! ★★★
Google、Microsoftのように、世界中にデータセンターを張り巡らせ、需要が増えれば一気にシステムを拡張できる企業を、米国テック業界では「ハイパースケーラー」と呼びます。そして、OpenAIやAnthropicが牽引する急激なAIの進化を支えているのが「スケーリング則(スケーリング・ロー)」です。
なぜ、そこで働く人たちは、同じ24時間を過ごしながら、世界規模の成果を出し続けられるのでしょうか?
その秘密が「スケール思考」です。現場の社員から、イーロン・マスク、サム・アルトマン、ナヴァル・ラヴィカントらトップまで、その考え方に深く根付く思想を紐解きます。
外資系IT企業の米国本社でシニア・プロダクト・マネージャーとして働く著者が、世界一流の同僚から学んだ、無理をせずに成果を上げる思考法を伝授します。いま世界の中心にある”スケール”という考え方を、自分の仕事に活かす。新時代のビジネス書です。